7話 悪い家族は良い家族になりました。
「だったらホープが殺しても良いと思うくらいのゲロカス人間を殺せばよいみたいなー」
パーラがそう言うとメビウスは疑問の顔を浮かべる。
「人間なんてどれも同じではないか?」
「ホープは人間に対して善悪の感情があるから、どれも同じゃないみたいなー」
「そうなのかホープ?」
「ホープ君は変わってるでありますなー」
「10歳越える迄に人を殺さないとそうなるのかもしれないわね」
そう言われるとそうな気がする。
悪人を斬る!
それなら俺も殺れそうな気もするな。
「しかし、そう都合良くゲロカス人間とやらがそこらにいるでありますか?」
悪い奴なんて何処にでもいる気もするが、いざ探しに行くとなると難しい気もするから不思議だ。
奴隷商人や盗賊、強姦魔、殺人鬼のような人間基準で悪い人間を、俺も悪だとは思うが、どこか差別化出来ていない気がする……。
多分、自分の周りがあまりにあっさりと人を殺してしまうので、そういう善悪の基準がぶっ飛んでしまっているのだ。
とりあえず人を殺したいと思うのだが、敵意を抱くのが難しい。向こうから向かって来てくれたらいいのに!
それだ!
「僕に敵意を抱いて殺しに来てくれる人間とかいないかな?」
「こんな愛くるしいホープに敵意を抱ける人間等いるわけながい!」
メビウス兄さんは相変わらずブレない。
「それなら良い場所があるわよ」
「姉ちゃんそれはどこ?」
「ダンジョンの階層ボスとしてホープが出現すればよいのよ! それにダンジョンは人を殺して栄養にするから一石二鳥になるわ!」
というわけで俺はダンジョンの階層ボスをやる事になった。
姉ケイトにダンジョン破壊すんぞゴラァと、脅された魔の森のダンジョンマスターには悪いが俺はダンジョンの階層ボスの部屋をかりて冒険者を待つことにした。
階層ボスとしてダンジョンにいると不思議な気持ちになる……。
まるでダンジョンの意識と共有している感覚だ。
ダンジョンと意識を共有すると不思議な気持ちになる。これは思わぬ効果だった……。
なんだか簡単に人が殺せる気持ちになってきた。
俺のいる部屋にやって来た冒険者はとても弱く儚くちっぽけな存在だった。
それでも冒険者は何かを叫びながら俺に向かってきてくれる。
その時、何故か俺には迷いなくなっていた。
そして、俺は『あらゆる物を切断する光の刃』をだして冒険者を切り刻んだ……。
細切れになった冒険者達はあっさり死んだ……。
その瞬間、俺から人間を殺したい気持ちは嘘のように消え失せた。
そして、人間に対して何んの感情がもてなくなった……。なる程な。人間を殺したくないなんて感情があったなんて、自分でも信じられないくらいである。
俺はダンジョンの階層ボスとして人間を切り刻んで殺す事に成功した。
推測するに俺はダンジョンと意識を共有する事で、人を殺す忌避感が、かなり軽減されていたっぽい。
偶然の産物にしては出来好きだが……。
それから何日たったのか、何人殺したのか分からないくらいの年月がたった……。
気がつけば人類が滅びそうになっていた。
そこで最高神様の方針が変わった。
【人類を救済し繁栄させよ!】
最高神の決定は絶対である。
人類の救済は決定した。
天界で人類救済の方針を巡って大論争になったが……。
大陸の管理者一族毎の、自由裁量となる事で大幅な合意を得た。
そして、現在は俺も俺の家族も人類の救済活動をしている。
人間を殺しまくっていた家族が、今度は人間を助けて導いてる。
神の一族は、最高神様の操り人形である。
しかし、天意に沿う生き方とは実に楽で楽しいものだ。なんせ迷いなくストレスがない!
それはそれで幸せである。
今はそう思う。