6話 産まれてから10歳迄の俺
天界で最高神に仕える神槍の一族。
グングニル家の次男。
ホープ・グングニル。
それが今の俺の立場だ。
転生して生まれた時の記憶ではっきりしてるものは何もない。
前世の知識だが、普通の人間は2歳前後くらいまでの記憶しか遡れないらしい。
だからその事はあまり気にならなかった。
転生して特別な赤子だろうが、赤子は赤子である。
その時代の記憶はないのは仕方ない思う。
3歳くらいになって、日本で高校生をやっていたような、記憶が思い出せるようになってきて、どうやら俺は日本で死んで、知らない家族の元に転生なるものをしたのだと感づけた。
家の中を自由に歩けるようになってから初めに気づいたのは、日本に住んでいた家と造りが異なり過ぎているとうことだ。
一言で言えば快適過ぎる空間。
部屋の温度は常に快適な温度に調整されているし、トイレも便利な魔法空間になっており、キレイキレイである。全部屋に高級な絨毯がしかれており部屋にも廊下にも埃や塵はひとつもない清潔な空間。
部屋の数は12部屋くらいあって広さは用途によりまちまちだが、俺の部屋でも学校の普通教室くらいの広さで調度品も格調高い物が置かれている。
ベッドも机もデカイいし豪奢な造りをしている。
天井の壁も気分に合わせて壁画にしたり、ガラスにしたり、無地の壁にしたりもできるし、部屋の灯りも好きに調整できる、更には外界の様子も部屋にある大きな縦鏡から見る事ができる。
自宅は玄関から出て外から見ると、森の中にある少し大きめで立派なログハウスという見た目でしかない。
特徴といえば入口が大きく派手な槍の紋章が刻まれてるだけだ。そして玄関扉は魔法の扉になっており中に入ると自宅への広間に繋がっている。
中に入るとまず大広間があり中央への大きな階段へと続いている。2階へ上がると魔法の扉が5つが並んでいる。左から右へ父、母、兄、姉、俺の部屋に続く扉になっていて全ての部屋には自分専用のトイレとお風呂に繋がる扉もついている。
一階のフロアーにある扉はダイニングキッチン、食料庫、書庫、雑貨部屋、宝物庫、大型の倉庫に繋がる扉がある。
地下に通じる階段もあるのだが扉は魔法でロックされて入ることはできない。
大人にならないと入れない部屋があるようだ。
エッチい扉なのかもしれない。
必要に応じて部屋を拡張したり増やしたりも出来るらしい。
家の中の物は自動修復機能があるようで壊れてもすぐに元に戻る仕様みたいだ。
一度だけ現在の父と母が大喧嘩をして中央階段が半壊したのだが、1時間もすれば壊れた階段は修復されていた。
まったくもって超不思議快適超空間である。
そんな自分の家を見て俺は思ったね!
俺はとんでもない金持ちの家に産まれて、凄い魔法技術が発達した世界に来たのではないかと。
予想は半分あたりで半分外れだった。
天界に住まう一族がこういう快適な空間で生活してるだけで、この地上世界の人間と呼ばれる人やドワーフとかエルフとか獣人の類の連中は中世のヨーロッパの暗黒時代のような生活をしているのだ。
そして、俺の一族の者達は人間の集まりを襲ったり、殺した後に人間が大事そうにしている物品を奪ったりしてコレクションにしたりしている。
今の地上にいる人間は神に対して不敬であると最高神様が判断したからこうなっている。
そのため人間に罰を与えるために神の一族は人を殺す事が業務になっている。
しかし、滅ぼしてはならないらしいから過剰に殺してもいけないらしい。そのあたりの見極めは最高神様がなさるとの事。
満10歳になると殺人衝動が起こるの神の啓示である。生まれてから一人でも人を殺していれば啓示の効果はあまり発揮されない。 最初は見つけたら殺さなくていけない程度には思い、そのうち日課のように自然に殺したくなるらしいとの事。
今の最高神の方針がそういう方向なので今の地上世界は人が殺されまくるのである。
だから神槍の一族も例に漏れず人間を殺す。
人間の中にも勇者や英雄とか言う一握りの強者がいたりもするが、まるで相手にならない。
ガンダムと竹槍で武装した農民が戦うくらいに力の差がある。
ガンダムニウム合金を竹槍でいくらつついても無駄なんだが人間は意味がないと分かっても無駄な抵抗をする。 その気持ちは転生者の俺には少しわかる……。
____
5歳迄は家の中が快適過ぎるのと兄と遊んでばかりいたのであまり外のことに興味が持てなかった。
6歳になり召喚魔法がわりと使えるようになって、外に出ることが増えた。学校は? 何それ? そんな場所は天界にはありませんです、はい。
学校にもいかず、両親や姉や兄に召喚魔法の使い方を教わりそれなりに使いこなせるようになって行った。
初めて両親に連れられて、外界に降りた時に、人間を殺害してるいるところを目撃して、少しビックリしたがそこまで気に留めなかった。
何故かその頃は両親がどれだけ人間に酷い事をしようが、またやってるなーという認識だった。
7歳になりケイト姉さんについて行く事が多くなった。 ケイト姉さんはその頃冒険者狩りにハマっていて色々な冒険者を見つけては、殺してゾンビにしたり、適当に切り刻んで魔物の餌にして遊んでいた。
「ホープもやってみる?」と笑顔で聞かれたりしたが遠慮しておいた。
メビウス兄さんが人を殺すとこにもついて行った事はある。メビウス兄さんは各地で修業している人間を見つけて瞬殺して武具を取り上げてコレクションにしていた。予め目星をつけていて現場に行ってサクッと殺して武具を奪ってすぐに家に帰り、武具を宝物庫で整理してを繰り返している。
メビウス兄さんからも「試しにやってみるか?」と誘われたがそれも遠慮しておいた。
その頃の俺はどういうわけか人を殺したいとも思わないし、家族がやっている事にも忌避感は感じなかった。
8歳になった頃から1人で出かける事も多くなった。
見た目は小さくとも召喚魔法が使えれば危険はないと判断したのか、家族も俺に好きにさせてくれていた。
そんなある日、魔の森の近くで梟に似た大きな魔物に襲われている荷馬車を見つけた。俺がその荷馬車に近づくと梟の魔物は逃げて去って行った。
荷馬車に中にはドワーフの親子が生きており、俺に対して膝をついて頭を下げて何やら祈りだした。
外には生き残りの怪我しているドワーフもいたので『全ての癒しの力を持つ召喚獣』を使って治してあげた。
ドワーフ達が何を言ってるのか、分からなかったが俺に対して凄く感謝しているのは分かった。
何故かは分からないがドワーフ達が俺に感謝をする姿を見て俺は嬉しくなった。
それから俺の趣味は魔物に襲われている者達を助ける事になった。
魔の森の近くを飛んで、魔物に襲われている者がいればとりあえず助けた。
助ける度に感謝された。
魔の森の近くで魔物に襲われてる者がいない場合は違う森や土地に移動して魔物に襲われている者を助けた。
俺は魔物に襲われている人を助けて完全にいい気になっていた。
俺の家族は相変わらず人を殺しているようだが、俺は家族に黙って人助けをしていた。家族に黙っていたのは、家族とは逆の事をしている自分が、なんとなく後ろめたい感じがしたからである。反抗期か俺?
俺が魔物の近くに行けば、魔物はすぐに逃げ去り、そして魔物に襲われていた人は助かる。 そういう簡単な仕事だったが人間は俺にとても感謝していた。人間チョロい!
お腹が空いてる子供に『チョコ菓子』をあげたりもしていた。子供はめちゃくちゃ喜んで飛び回っていた。『チョコ菓子』は美味いから仕方ないな。
俺は一族の中でも異端かもしれない……。
そう思いながらも10歳になるまで人、ドワーフ、エルフ、獣人、亜人、区別なく差別せず魔物から救い続けた……。
人間の言葉は今だによくわからないが、救われた者達は俺にとても感謝して敬いだした。
そのうち俺の像が色々な街に建てられて毎日その像に祈りが捧げられるようになった。
しかし、10歳の誕生日を境に俺は人が殺したくて殺したくて堪らなくなった。
だが、それと同じくらい人を殺したくないと思えるようにもなっていた。前世の記憶の影響もあるかもしれない。
矛盾した気持ちを抱えながら、人を殺したくないという気持ちを抑え込み、何度か人を殺すのに挑むのだが尽く失敗に終わった……。
しかし、今日ようやく初めて俺が人を殺せる条件が整った。