1話 悪い家族の次男に転生しました。
俺の名は来栖正義、16歳。
個人的に自分の事はわりと良い奴だとは思っている。
嘘もつかないし、他人の物は盗まない。
人なんて殺したいと思った事もない。
それに加えて困ってる知り合いは助けたいと思う。
しかも住んでる家は教会の隣。
そんな感じの良い奴風味漂う俺。
その程度の良い奴。
自分で自分の事を良い奴だと思う時点で、良い奴ではないのかもしれないが……。
でも俺は俺の事を良い奴だとは思っている。
そして、そんな良い奴の俺は死んだ。
良い奴は早く死んでしまうのである……。
簡単にあっさり後腐れなく死んでしまった。
できればもう少し、長く生きていたかった。
次は悪い奴に生まれ変わったら、長生きできるのだろうか?
そんな俺に転機が訪れた。
異世界転生である。
神か悪魔か分からない、最高に高貴な存在が俺にこう言った。
「君を魔法がある異世界に転生する」と。
それと「オマケで特殊な召喚魔法」をあげると言われた。
そして俺は異世界に転生した。
転生した先は悪党一家だった……。
父ちゃん悪党。
母ちゃんも悪党。
兄ちゃんも姉ちゃんも悪党。
じいちゃんも悪党、そのまたじいちゃんも悪党……。
何処まで遡っても全員悪党……。
そして、当然ながら俺もそうなる運命である。
まさに悪党になるために生まれた、悪党の血統と言えるだろう。
いや……。
悪党というのはあまりに聞こえが悪い。
正確には人を殺して貴重な物を奪う。
そういう高貴な一族なんだ。
まあ、どうあれ人類側からみたら純度100%の、極悪非道な存在である。
それでも俺は父ちゃん母ちゃんが大好きだ。
兄や姉も大好きだ!
家族全員大好きなのだ。
俺が飯を旨そうに食べるだけで喜ぶ母。
俺が言葉を覚えて喋るだけで、感動して泣いてしまう父。
何でも質問に答えてくれて、良く遊んでくれる聡明な兄。
色々な場所に遊びに連れて行ってくれる、アクティブな姉。
父ちゃんも母ちゃんも兄も姉も家族には優しい。
特に俺には激甘だ。
その優しさを少しだけでも、人間に分け与えることは出来ないのだろうかと。
そう悩む日もあるが……。
だが、残念ながらそうはならないようだ。
家族のみんなは今日も人間を見つけて狩っている。
「死にたくなかったら金を出せ!」
そんな気の効いた事も言わない。
コミニケーションゼロ。
問答無用で殺して奪う。
最初から殺すのが目的で、物を奪うのはオマケに近い……慈悲の欠片すら見当たらない。
ここが人権意識の低い、異世界ファンタジー世界だとしてもやりすぎだ。
日本の基準で言えば連続強盗殺人一家、とでも言えば良いのだろうか……。
とにかくこんな事してたらいずれは報復されて、俺の家族全員が殺されてもおかしくないのだが……。
今のところはそうはなっていない。
何故なら父ちゃんも母ちゃんも兄も姉も最強だからである。
俺の家族はかなり便利で特殊で最強な召喚魔法が使える。
まあ、そういう一族なんだ……。
『全てを無効化するシールド』
『全ての癒しの力を持つ召喚獣』
『空を自由自在に飛ぶ白銀の翼』
『次元を移動する扉』
『ドラッグ(即死カプセル)』
『あらゆる物を切断する光の刃』
『神槍グングニル』
家の者は7歳になるまでに、必ずこの7つの召喚魔法全てが使えるようになる。
その後、7歳から10歳になるまでに、固有のオリジナル召喚魔法も使用可能となる……。
俺の固有の召喚魔法はこれだった。
『46センチ91式徹甲弾』
『偵察用熱光学迷彩ドローン』
『チョコ菓子』
そして10歳になると共に殺人衝動に目覚める。
俺は10歳になって身に沁みて分かった。
人を見ると殺したくなる……。
そういう殺人衝動が心の奥底から、熱くボコボコと湧いてくる……。
『神槍グングニル』を使って人を突き殺したくなる。
『あらゆる物を切断する光の刃』で人を切り刻んでみたくなる。
更には人に向けて『46センチ91式徹甲弾』をぶっ放してみたくなる……。
何故そんな事をしたくなるのかというと、そういう気持ちになるとしか言いようがない。
本能に近い感覚だろう。
感覚的な事を説明するのは難しいのだが……。
あえて例えるなら、
お腹が減ってる時に飯が食いたくなる。
更に腹が減っていくと何でもいいから食いたくなる。
そういう感覚に近い。
つまり誰でも良いから殺したくなるのだ。
そんなわけで、家族のみんなは日常的に人を殺している。
几帳面にスケジュール通りに人を殺して、毎日すぐ家に帰ってくる兄メビウス。
人を殺しにふらふらと遊びに出かけて、ふらふらと外で遊んでから家に帰ってくる姉ケイト。
夫婦仲良く旅にでかけて人を殺している父、マルボロとその妻メンソール。
そして「うわーん! 僕には人なんて殺せないよー!」と泣き叫んで、家族を困らせているのが俺。
名前はホープ。
グングニル家の次男である。
良い奴の俺は人なんて、とてもじゃないが殺せない……。
だが、俺は明日も人を殺すために、頑張らなければならないのだ……。