何者でもない
「――こ、これって!?」
「一体、どういう事だ……」
大神殿を目指し、銀の扉で一直線に向かう奏慈達。
だが、簡単に進ませるほどソフィアは甘くなかった。
扉の先にあったのは大神殿ではなく、美しい草原。
大神殿は影も形も無く、どこまでも広がっていた。
「どうやら、ここまでみたいね。
ここから先は飛べないようになってる」
「やれやれ、無駄な事を」
ソフィアは空間を捻じ曲げる事で大神殿までの道を閉ざしたようだ。
ここから先は歩いていくしかない……この見晴らしの良い草原を。
「ですが、他に道はありません。行きましょう」
「ああ」
奏慈達は周囲を警戒しながら、足早に進む。
幸いな事にこの草原は大神殿を囲むように存在する緑の絨毯だった。
つまり、距離こそあるものの、歩いていれば大神殿に辿り着ける。
いくらソフィアでも、奏慈達を完全に遠ざける事はできないらしい。
「止まれ! 世界に仇名す者達よ!!」
「早速出たぞ」
「全く、どこまで卑怯なんじゃ……」
それでも消耗させる事はできる。奏慈達の前に千を超える騎士が現れた。
恐らく、ソフィアの命令でここに集まったのだろう。
全員が重装備で、大神殿までの道を閉ざしている……これでは通れない。
「待て、全員武器を降ろせ」
「えっ、プレイト様?」
そんな一触即発の雰囲気の中、一人の騎士が奏慈達の前に歩み出る。
昨日、村を訪れたプレイトだ。プレイトはそのまま奏慈の前に進む。
「失礼を承知で聞かせて下さい……貴方は創造神様ですか?」
そして、消え入りそうな声で聞いた。予想が当たっていない事を祈って。
「そうだ。僕がお前達を創り出した創造神になる」
「……やはり、そうでしたか」
プレイトは奏慈に深く頭を下げる。予想は見事、当たった。
いや、当たってしまった……プレイトは身体を震わせながら、振り返る。
「ぷ、プレイト様!? 一体、何を!」
「……忠義溢れる騎士達よ、聞け! この方に武器を向けてはならない!!
この方こそ我らをお創りになった創造神様だ! 道を開けろ!!」
「なっ!?」
突然の言葉に騎士達は驚く。言ってる意味が分からなかった。
しかし、プレイトの顔は真剣そのもの……嘘を言ってるようには見えない。
騎士達は困惑しながらも武器を仕舞い、道を開け始める。
「……創造神様、度重なる非礼お許し下さい。全て、このプレイトの罪です」
その光景を見ながら、プレイトは再び頭を下げた。部下の罪も全て背負う。
それが言葉と行動から伝わってくる……これが当代最強のエーデルリッター。
「気にするな。お前は民を思い、行動しただけのこと……寧ろ、称賛に値する」
「あ、ありがたきお言葉、感謝致します……」
そんなプレイトに対し、奏慈は威厳をもってそう言う。
柄では無いが、だからといって下手に出てはプレイトが可哀想だ。
部下に示しをつかせる為にも奏慈は精一杯の演技をする。
「それではお通り下さい。我らはここに残り、後ろを守ります」
そうしていると、完全に道が開いた。邪魔する者はもう誰も居ない。
「うむ。これからも仕事に励め」
「はっ!」
こうして、奏慈は騎士達の間を通って歩き始めた。
その後をフラン達も続き、足早に進む。
「……はああ、疲れた」
「全く、寿命が減ったわ……」
間もなく、奏慈達は騎士達の間を抜け、一息吐く……上手くいって良かった。
「お疲れ様ですわ。意外な展開でしたけど、終わり良ければ総て良し!ですわね」
「だな。だが、プレイト様はどうして、ソウジを創造神だと思ったんだ?
威厳なんて欠片も無いのに」
「おい。まあ、色々と引っかかる物があったんだろう。
さあ、先を急ぐぞ」
小話もそこそこに奏慈達は走り出す。大神殿はまだまだ先だ。
最大の障害は突破できたものの、次もそう上手くいくか分からない。
次は一体、誰が来るか? 警戒しながら、ただひたすら走る。
「くっ、プレイト卿が負けたのか!?」
「ぜ、全員、戦闘準備! 命に代えてもここを守るぞ!!」
数分後、大神殿が見えた所で奏慈達の前に武装した集団が現れた。
身なりを見るに騎士ではないようだが、一体何者だろう?
「あ、あの制服はエーデル神学校の物だ!?」
「なに!? じゃあ、彼らは学生なのか!」
嫌な予想は色々としたが、ソフィアはその上を行く。
エーデル神学校の生徒……彼らは人々の為に命を尽くす聖男や聖女の卵だ。
ソフィアはそんな彼らも自分の目的の為に利用する。
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ……奏慈達は大神殿を睨みつけた。
「こ、来ないならこっちから行くぞ!?」
「そ、そうだ! 僕達の強さ見せてやる!」
学生達はやる気満々だ。怯えてはいるが、逃げる様子は全く無い。
皆、人々や世界の為、命を散らす覚悟でここに集まってきている。
流石、聖男や聖女の卵だ……奏慈は学生達の強さに感動を覚える。
「創造神様、どういたしましょう……彼らと戦うのは」
「分かっている。少し力を使い、ここを突破するぞ」
だからこそ、戦う訳にはいかない。
なんとしても戦いを回避し、この場を突破する必要がある。
だが、学生達を傷つけずに突破するには時止めしか方法がない。
ソフィアとの戦いが控えてる今、力を余り使いたくないが。
「止まれ……僕の望むがままに」
それでも学生達の未来の為、奏慈は時止めを発動する。
「お待ち下さい!!」
その瞬間だった。奏慈と学生達の間に一人の女性が割り込む。
どこかで見た事がある姿に、聞いた事がある声……彼女は。
「リング!」
「ど、どうして、ここに!?」
「話は後! 今は皆と話さなきゃ!!」
割り込んだのは聖女の一人にして、この世界で出来た藍の親友……フィーだった。
突然の登場にその場に居る全員が驚く。
どうやら学生達を説得する為、ここに駆けつけたらしい。
「そ、そこを退いて下さい!
奴らはウルトルクスと繋がってるんですよ!?」
対する学生達は驚きながらも、すぐにフィーに武器を向けた。
例え、先輩が相手でも決意は揺らがない。邪魔するなら先輩も敵だ。
「皆、落ち着いて聞いて! あの人達は敵じゃない!!
私達の敵はソフィアよ!」
「そ、ソフィア様が敵!? 何を馬鹿な事を!」
「フィー様も敵だ! 皆、やるぞ!!」
「仕方ない……皆、私の瞳を見て」
当然、ただ言っただけでは説得できない。それはフィーも分かっていた。
だから、恋眼を使う……フィーは目隠しを外し、それで学生達を見た。
「洗脳して退かそうなんて思ってない。一応、言っておくけど。
覚悟して、今から皆には映像を見せる……昔あった実際の出来事よ」
フィーはそう言うと、目に魔力を込める。
間もなく、フィーの目は桃色に輝き、その輝きが学生達の目にも灯った。
一体、何が? そう思った瞬間、学生達の目から光が失われる。
「なっ!? フィー、お前一体何をしたんだ!」
「ふう……大丈夫。身体に悪い事は何もしてない」
「で、でも!」
「ほら、目覚めるわ」
「えっ?」
そう言うが早いか学生達の目に光が戻った。
同時に周囲の様子を何度も確認すると、奏慈の前に駆けつける。
「も、申し訳ありませんでした!!」
そして、流れるように奏慈に頭を下げた。この短い間に何が?
「……フィー、ちゃんと説明してくれ」
「分かってる。一から説明するわ」
フィーは目隠しを付け直しながら、ゆっくりと説明し始める。
まず、何をしたかだが、興奮を抑える為、強制的に落ち着かせた。
これから見せる映像の事を考えると、冷静で居る必要がある。
そして、次にしたのが本命……フィーが体験した事を送った。
「恋眼は対象を洗脳する魔眼だけど、記憶を植え付ける事もできるの。
実際に体験した事が無くても、体験したと思わせる程の記憶をね」
「そ、そんなの初耳だぞ……とんでもないな」
「まあ、普段は使う必要無いからね。でも、こういう時には役に立つ。
百聞は一見に如かず! 口で聞くより、見た方が早いでしょ?」
「それはそうだが」
藍は改めて、フィーとキュバス族が心優しい魔族で安心する。
そんな力があったら、なんでもやりたい放題だ。心優しくて本当に良かった。
「でも、何の記憶を見せたんだ? 突然、頭を下げるなんて」
「……ああ、そうだった。まだ言ってなかったか」
「うん? 何の話だ?」
「私も……真祖なの。創造神様に仕える一人のね」
「し、真祖!?」
その一言で場の空気は一気に凍り付く。フィーが真祖……でも、それだと。
「ま、前にその目隠しをするようになった理由を話してくれたろ?
確か、小さい頃に狂楽鳥の群れに使ったって!」
藍は学生時代、フィーと沢山話をした。楽しい事は勿論、悲しい事も全部。
フィーが真祖なら、その中に嘘が混じる事になる……信じたくなかった。
「ええ、そうよ。身体が成長し切っていない時期に恋眼を使った。
そのせいで真面に物が見えなくなったし、魔力が溢れるようにもなった」
「だ、だったら!」
「でも、それは今の話……アウィンも転生してるなら、分かるでしょう?」
「ま、まさか!?」
「そうよ、私も転生してるの。魔王リングが倒された事は知ってるわよね?
私は……その魔王リングの転生体」
「そ、そんな……」
かつて、サフラー大陸を支配していたとされるキュバス族の祖……魔王リング。
フィーはその魔王リングその人だった。衝撃の事実に藍は開いた口が塞がらない。
歴代聖女の中でも最強と言われるのも当然だ……なにせ、魔王なのだから。
「リング、久しぶりじゃな。こうして会うのは何年ぶりか」
「そうね、創造神様がこの世界から去られた時以来?
そして……創造神様、挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません」
「気にする必要は無い。お前は僕の命令に従い、働いていただけ。
謝るべきは僕の方だ」
(……やっぱり、真祖なんだな)
そう言われても信じられなかった藍だが、三人の会話を聞き、遂に信じる。
フィーは魔王リング……心中複雑だが、フィーがフィーである事に変わりはない。
「創造神様、彼らは私が連れ帰ります。ご安心して下さい」
「分かった。大丈夫だと思うが、気を付けろ」
「はい!」
「よし……さあ、行くぞ!!」
少し話し込んでしまったが、これで一安心だ。奏慈達は再び走り出す。
「藍、ちょっと待って! もう少し……話しましょ」
「あ、ああ……奏慈」
「うん、行ってこい」
「……ありがとう」
だが、藍だけは引き留められた。これ以上、何を話すというのか?
奏慈達はその様子を遠くから見つめる。
「それで……話って?」
「……ごめん、突然過ぎたよね。アウィンには言っても良かったのに」
伏し目がちにフィーはそう言う。話とは、言わずに黙っていた事だった。
魔王リングは大陸を支配し、人々を苦しめていたとされる悪の王。
言えば、関係は確実に変化する……だから、言わなかった。
言うのが怖かったのだ。
「……藍」
「えっ?」
「オレの名前は藍だ! フィーもそう呼んでくれ!!」
「……ふっ、分かった」
しかし、そんな心配をする必要は無かった。二人は拳をぶつけ合う。
フィーが何者でも関係ない……藍にとってフィーはかけがえのない親友だ。
「藍、何があっても負けないで! 貴方は……貴方よ!!」
「分かってる! じゃあ、行ってくるぜ!!」
お互いに元気を貰い、藍は走り出す。もう何も心配は要らないだろう。
「……藍、心を強く持って。私はいつでも、貴方の味方よ」
だが、フィーは知っている……これから起こるであろう残酷な現実を。
本当はその事も藍に伝えたかった。でも、もう時間が無い。
今はただ、藍がその現実に耐えてくれるのは祈るばかりだ。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!
感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!




