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最高の瞬間

「――二人共、こんな所に居たのか」

「奏慈……」


ボーアとの会話を終え、奏慈は次に望結の元に向かう事にする。

望結は村を離れ、先の神殿でイカリと共に休んでいた。

恐らく、村の中に居たくないのだろう。奏慈は察する。

そして、今は誰にも会いたくない筈だ……特に奏慈には。

それでも会いに行った。望結にはどうしても伝えたい事がある。


「何の用ですか? まだ夜ご飯はできていないんでしょう?」

「ええ、できていません。ここには話しに来ました」

「……話?」


当然、奏慈の来訪は歓迎されていない。

二人共、奏慈の事を横目で見ている。


「いや、お礼と言った方が正しいかもしれない。

 本当に世話をかけた……」

「……別に」


奏慈は創造神にして、裁く者……自由など無い。

世界を支える柱として、一生を尽くすのが仕事だ。

望結はそんな奏慈を救うべく、嘘を吐く事にした。

人間のままなら自由がある。誰にも縛られない。

奏慈を覚醒させない為、望結は悪人になったのだ。

それで皆から疑われ、責められても……気にしない振りをして。


「すまなかった……本当に」


奏慈は頭を下げる。望結は本当に辛かっただろう。

奏慈からも疑われ、責められて……それでも耐えた。

全て奏慈の為……そう言い聞かせ、耐えてきたのだ。

だから、伝えたかった。もう無理しなくていいと。


「……なによ、すまなかったって。

 まるで奏慈が悪いみたいじゃない……」

「悪いだろ……だって、僕のせいで」

「奏慈は悪くない!!」

「うっ!?」


望結がそこまでしたのは、恩返しの意味もあったのだろう。

望結は自殺した。世界に絶望し、奏慈の手を振り切って。

そんな人間が再び生を受け、歌手になる夢を叶える事ができた。

それは全て、奏慈の御蔭……奏慈がこの世界に導いてくれた御蔭だ。

望結は思った。今度こそ、恩を返してみせると。


「……望結、君の気持ちは分かっているつもりだ。

 だけどね、恩だとか贖罪だとか、そんな事は思わなくていい」

「思わなくていい……どうして?」

「それは僕が代償を求めて、助けた訳じゃないからだ。

 僕は助けたいから助けた……人間の時も創造神の時も。

 だから、望結は気にせず、今度こそ伸び伸びと生きて欲しい」

「伸び伸びと……」


しかし、それが重みになっているのなら本末転倒だ。

奏慈の願いは皆の幸せ……何かを貰う事ではない。

もし恩を返してくれるにしても、それは幸せな姿を見せて貰う事だ。


「まあ、この世界に望結を導いたのは僕ではなく、未来の僕だけどね……」

「……ふふ、それを言ったらおしまいですわ」

「ふっ、だな」


二人は笑う。今の奏慈は創造神としても、裁く者としても不完全。

ソフィアを倒し、世界を取り戻さなければ、全ての力を使えない。

つまり、望結を導くのはまだまだ先の話。一年後くらいになるだろう。

そう考えると、まるで自分が助けたような言い方は適切とは言えない。


「とにかく、ありがとう……責めてしまって、すまなかった」

「いいのよ、奏慈の為だから……」


二人はお互いに微笑む。わだかまりは消えた。


「なら、次は自分の番ですね」

「えっ、イカリ!?」

「……イカリさん」


だが、イカリにはまだある。奏慈は望結を縛り、苦しめた張本人。

例え創造神でも、望結が許したとしても、許せる訳がなかった。


「イカリ、私の事はもういいの! もう終わった話なのよ!」

「いいえ、終わっていません!! カンナギが全ての元凶です!

 カンナギがしっかりしてれば、ミユが苦しむ事はなかった!!」

「それは言いがかりよ! 誰でも間違える事はある!!

 第一、奏慈があの世界に来てくれなかったら、私はここに居ないわ!」

「くっ、ミユ……」


望結は必死になって弁護する……それが火に油を注ぐ事とは知らずに。

イカリがそこまで怒るのは、奏慈に対する嫉妬もあった。

自分と会う前から望結の事を知っていて、慕われている。

親のような存在だと聞かされても、これは嫉妬せざるを得ないだろう。

なのに、当の本人はそれに感謝しない……それどころか、逆に責めるときた。

イカリが嫉妬し、怒りを抱くのも当然だ。


「……じゃあ、イカリさんは何を僕に求めるんですか?」

「奏慈? 何を言って……」

「自分の望みは貴方に勝って、懺悔させる事です!

 さあ、剣を構えて下さい!!」


なら、やる事は一つ……戦いだ。

イカリは杖を出現させ、構える。


「イカリ、止めて! 奏慈も!!」

(望結、少し聞いて欲しい……)

(そ、奏慈!?)


その間に望結は割って入るが、奏慈はすかさず心話で話しかけた。


(分かっていると思うけど、イカリは僕に嫉妬している。

 ちょっと話せば、分かってくれるような状態じゃない)

(それは分かってる! だけど!!)

(イカリも男だ……愛する女の心を自分の物にしたいと思っている。

 それを理解してあげて欲しい……)

(……分かった)


二人に戦って欲しくない。そう思いながらも、望結は道を開けた。

イカリの気持ちは知っている……痛いくらいに。


「準備できました。いつでも良いですよ」


奏慈はそう言いながらも、何の構えもせず、イカリを手招きした。

ボーアの時と同じく、結果は最初から見えている。

イカリに勝ち目は無い……一方的な戦いになるだろう。


「くっ、舐めないで下さい!」


イカリはそれに対し、激昂しながら氷の針を飛ばした。

牽制だが、当たればただではすまない。


「ふん」

「なっ!?」


しかし、奏慈はそれを腕の一振りで全て弾き返す。


「遅い」

「ぐっ、がは!」


続けて奏慈はイカリの目の前に一瞬で移動すると、腹に一発入れた。

強烈な一撃だ。イカリは思わず、蹲る。

これが奏慈の今の力……人間の次元を超えた力だ。


「舐めるなと……言ったでしょう!!」

「むっ」


それでもイカリは奏慈の腕を掴み、足元を凍らせる。

完全に拘束し、自分ごと凍らせるつもりのようだ。


「……冷静さを失った魔法使いに未来は無い」

「うっ!? がああああ!!」


しかし、それで拘束される奏慈ではない。

難なく腕を振り解くと、自由になった拳でイカリを殴る。

その威力は凄まじく、イカリは殴り飛ばされた。


「イカリ!?」


イカリはそのまま壁に激突する。

それを見て、黙って見ている訳にはいかない。

望結はすぐに駆け寄ると、壁からイカリを降ろす。

こんな戦いを続けて欲しくない……望結はイカリを抱き締める。


「ミユ、すまない……だが、退いてくれ。

 戦いはまだ終わっていないんだ……」

「ば、馬鹿な事を言わないで!!」


イカリはボロボロだった……血は出てないものの、戦える状態ではない。

にも拘らず、イカリは望結を押し退け、ふらふらと立ち上がる。

勝てる戦いでない事はイカリも分かっていた。それでも譲れない物がある。


「良い覚悟です! さあ、次の攻撃を見せて下さい!!」

「はあはあ……ええ、次で終わらせてみせます!」


イカリは力を振り絞り、手招きする奏慈に杖を向けた。次の攻撃で決める。


「もう……もう止めて!!」


望結はそんな二人の間に割って入り、声を荒げた。

もう沢山だ……二人の争う姿を見たくない。望結は覚悟を決める。


「ミユ……そこを退いて下さい! 自分は!!」

「もう貴方の物なのよ! 私の心は!!」

「えっ」


突然の告白にイカリは唖然とした。望結は続けて言う。


「私が貴方にも嘘を吐いて欲しいと言ったのは……貴方に甘えたからよ。

 貴方なら、私の言う事を聞いてくれると思ったから……」

「ミユ、それは……」

「でも、それってズルいわよね……惚れた弱みに漬け込んで。

 とんだ悪女だわ……」


望結は涙を流す……思えば、イカリにはずっと酷い事をしてきた。

思いを知りながらそれに応えず、待たせ続ける日々。

その癖、甘えて言う事を聞かせてきた……嫉妬を煽ったのは自分だ。


「怖かったの……告白を受けても、また死にたくなったら。

 貴方を悲しませたくない……辛い思いをさせたくなかった」

「そう……だったんですね」

「だけど、それはただの逃げ……言い訳だわ。貴方の事を何も考えてない。

 だから、言うわ。ずっと言いたかった言葉を……」


望結は深く息を吐く。もう迷わない……自分の為にも、イカリの為にも。


「私、貴方の事が好き……誰よりも愛してるの!」

「ミユ……」


その言葉を望結は遂に口にした。ずっと言いたかった……言えなかった言葉。

望結は両目から涙をポロポロ落とす。この時を何年も何年も待っていた。

そして、それはイカリも同じ……この時を何年も何年も待っていた。


「自分もです! 自分もミユの事を……愛している!!」

「うん……うん!! ごめん、待たせ過ぎたわね……」

「いいんです、ミユは応えてくれたじゃないですか。

 本当にありがとうございます……」

「い、イカリ!!」


待ちわびていた最高の瞬間……二人は熱い抱擁を交わす。

その間に割って入れる者は誰も居ない。例え、創造神でも。


「やれやれ、世話が焼ける。でも、これでもう大丈夫かな?

 イカリさん、望結の事を頼みます……幸せになれよ」


奏慈はその様子を遠巻きに見つめながら、静かに指を回す。

すると次の瞬間、イカリの怪我は綺麗さっぱり無くなった。

一生に一度の告白だ。ボロボロだと、格好がつかないだろう。


「……次は僕の番だ。行くぞ」


そして、奏慈は歩き出す。抱き締め合う二人に背を向けて。

次に奏慈が向かう場所は決まっている……そう、藍の元だ。


「――ごめん、待たせた」

「いいんだ、気にするな」


藍は部屋で休んでおり、天井を見つめていた。

その表情は無表情で、何を考えているか分からない。

どう話を切り出すべきか……奏慈は迷い、悩む。


「奏慈、別れよう」

「えっ、今……なんて?」

「……別れよう。そう言ったんだ」


そんな奏慈に対し、藍は静かにそう言った。

これから始まるのはただの会話ではない……未来を決める選択だ。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!

感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!

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