会話
「――フランさん、ここに居たんですね」
「あっ、カンナギ……」
無事に方針も決め終わり、奏慈達は夜ご飯まで解散する事になった。
明日は決戦の日。ソフィアからこの世界を取り戻す重要な一日だ。
失敗する訳にはいかない……英気を養い、美味しい物を食べ、寝る。
今はその英気を養う時間だ。各々、自由行動を取り、休んでいる。
「す、すみません、お邪魔でしたかね?」
「……いえ、大丈夫ですわ」
では、フランはというと、公園にあるベンチに座っていた。
公園は村の外れにあり、静かで穏やかな空気が流れている。
ここなら落ち着いて、ゆっくり休む事ができそうだ。
「横に座っても?」
「……ええ、いいですわよ」
「ありがとうございます……」
奏慈は頭を下げると、そのままフランの横に座った。
二人で居るのはいつぶりだろう? 奏慈は感傷に浸る。
「それで何の用ですの? アタクシを探していましたわよね?」
それに対し、フランは直球で聞く。用があるなら早く言って欲しい。
「……話しに来ました。フランさんと話したいなと思って」
「話……ですか?」
「はい、話です。何か聞きたい事はありますか?」
奏慈がフランの元を訪れたのは話す為だった。
全体では話したものの、一人一人には話していない。
きっと、あの場で言えなかった事がある筈だ……いや、絶対にある。
ここで話しておかなければ、もうゆっくり話す時間は無いだろう。
奏慈は自由時間の間に皆の元を回り、話す事を決意する。
それに奏慈自身も言いたい事があった……今話さなければ後悔する。
「じゃあ、聞かせて頂きますわ。
……明日、世界は変わりますのよね? なにもかも」
「そうですね……ソフィアに代わり、僕がこの世界の頂点に立つ。
世界は大きく様変わりするでしょう」
「正に変革……ですわね」
今でも信じられないが、奏慈は創造神……人間ではない。
その一挙手一投足で、世界を容易に変える事ができる。
明日、世界はどうなるのだろう? 想像もつかなかった。
「……ふっ、懐かしいですわ」
「えっ、何がですか?」
「思い出しましたの……カンナギと初めて会った時の事を」
「僕と初めて会った時の事を?」
「ええ……」
フランが奏慈と出会ってから、もう半年近くにもなる。
その間、色々な事があった。楽しい事は勿論、悲しい事も一杯。
しかし、その始まりは偶然……気絶していた奏慈を助けた所から始まった。
そこからフランの我儘があり、ウルトルクスとの戦い……序盤から濃すぎる。
「懐かしいですね、僕も思い出しましたよ……フランさんの言動を」
「うっ、それは思い出さなくてもいいですわ!」
「あはは、それは無理ですよ。
いきなり勝負を仕掛けてきたと思ったら、次は勧誘!
脅しも入れてきた……忘れられる訳がありません!!」
フランは最初、退屈しのぎの為に奏慈を利用しようとした。
異世界人に会えば、退屈から解放される……その思いだけで。
実際、フランは退屈から解放された。こんなに充実した日々は今まで無い。
「……本当に申し訳ありませんわ」
「何をですか?」
「全てです。アタクシの我儘のせいで、カンナギは戦いに巻き込まれましたわ。
アタクシが居なければ、もっと穏やかに過ごせたかもしれないのに……」
「フランさん……」
奏慈はフランと出会ってから、楽しい事と同じくらい辛い目にも遭ってきた。
そして、今は創造神として、この世界を背負う事になっている。
退屈から解放されたフランとは対照的に自由では無くなったのだ。
今なら望結の気持ちも分かる……この物語を始めたのは自分だ。
「気にしないで下さい。全て、運命だったんですよ」
「運命……それでも、もっと良い未来はあった筈ですわ!」
「……そうですね。でも、僕はこれが最善の道だったと思います。
フランさんと関わらず、自由に過ごす……それは一見いいかもしれません。
ですが、その裏で誰かが傷つくとしたら? 僕は許せなかったでしょう……」
「カンナギ……」
しかし、フランと出会ったからこそ、人々を救う事ができた。
自分だけが幸せになっても、奏慈は満足しない……この未来こそ望んだ物だ。
「だから、ありがとうございます!
フランさんが居たから、ここまで来れました!!」
奏慈はそう言うと、深く頭を下げる。それは奏慈の本心だった。
「ふふ、創造神が簡単に頭を下げちゃ駄目ですわ。
部下に示しがつきませんわよ?」
「いいんです。これが僕ですから」
「……そうですわね」
フランは考えを改める。奏慈は犠牲になんてなっていない。
今も昔も誰かの為なら突っ込んでいく……そういう男だ。
なら、これからもそれに付き合えばいい。仲間なんだから。
「さあ、早く他の所に行った方がいいですわよ?
アタクシ以上に悩んでる仲間が大勢居るんですから!」
「……そうですね。その通りだと思います!
フランさん、行ってきます!!」
「ええ、行ってらっしゃいですわ!!」
こうして、奏慈はフランの元を離れ、次の仲間の元に向かう。
その姿は元気一杯。見ているだけで、疲れが吹き飛びそうだ。
「カンナギ……いえ、ソウジ。本当に感謝致しますわ」
フランはそんな奏慈を静かに見送り、笑みを浮かべるのだった。
「――ボーアさん、今いいですか?」
「カンナギか……別にいいぞ」
それから数分後、奏慈は村の入り口に立つボーアの姿を見つける。
ボーアはそこから山頂を見上げ、静かに佇んでいた。
「ボーアさん、あの……話を」
「単刀直入に言う。ボクと勝負しろ」
「えっ?」
「聞こえなかったのか? ボクと勝負しろ!」
フランの時のように話すつもりだったが、そうはいかないらしい。
ボーアは槍を出現させると、奏慈に向けた。
その瞳には力が籠り、殺意も感じる……どうやら本気のようだ。
「……分かりました。その勝負、受けて立ちましょう」
「ふっ、余裕だな。流石、創造神様だ」
言って、聞いてくれる雰囲気ではない。奏慈も剣を出現させる。
これで準備は整った……あとは時を待つだけ。
「はああああ!!」
「うおおおお!!」
風が二人の間を通り抜ける……それを合図にして、勝負は始まった。
ボーアは頭を狙い、奏慈は足を狙って斬りかかる。
お互いに当たれば、ただではすまない一撃だ。
「は、速い!?」
「ちっ、中々やるな……」
しかし、初撃はお互いの武器がぶつかり合った事で不発に終わった。
奏慈が創造神の力を使わなければ、実力は互角と言ってもいい。
「……ふざけるな! ふざけるな!!」
「くっ!?」
それが気に入らないのだろうか? ボーアは激しく攻め始めた。
一回一回の突きが重く、鋭い。速さも目で追えなくなってきている。
今の所、なんとか防いでいるが、当たるのは時間の問題だろう。
「……はっ!!」
「うっ!? やっと本気を出してきたか……」
だが、負けるつもりはない。奏慈はボーアの槍を弾き飛ばした。
創造神としての記憶を取り戻した今、未来予知はいつでも発動できる。
「……ボーアさん、これ以上の戦いは無意味です」
「なに? どういう意味だ!」
「そのままの意味ですよ。僕は未来を見る事ができます。
それに運命操作で未来も決められる……負ける要素がないんですよ」
奏慈はそう言うと、剣を仕舞った。もうボーアに勝ち目は無い。
「……じゃあ、その力をもっと使わせてやる!」
「やっぱりか……」
当然、ボーアは降参するつもりはなかった。
地面を蹴ると、真っすぐ奏慈の胸元を狙って突きを入れる。
「無駄だ! 今の僕に攻撃は当たらない!!」
奏慈はそれを紙一重で避けた。未来が見える以上、どんな攻撃も避けられる。
「それはどうかな?」
「むっ、これは!?」
だが、それはボーアも分かっていた。当然、対策をしている。
それが風の刃……ボーアは地面を蹴った時に魔法も発動していた。
風の刃は敵を追う。例え避けたとしても、永遠に追い続けるのだ。
これなら当たる。突きを避け、態勢を崩している今の状態なら尚更。
「だが、無意味だ」
「なっ!?」
しかし、奏慈に当たる直前、突風が二人の間を駆け抜ける。
その突風によって、風の刃はかき消された。
奏慈は無傷……傷一つ付いていない。これが創造神の力だった。
「これで分かったでしょう。本気の僕に勝てる者は居ない」
「くっ……」
「だから、そろそろ教えて下さい。勝負を挑んだ理由……本音を」
ボーアとは何度もぶつかってきたが、こうして戦うのは初めてだ。
だから、何か理由があって、勝負を挑んできた筈……それを知りたい。
未来を見たり、運命を操作するのではなく、ボーアの口から。
「いいよ、言ってやる……どうして、どうして今になって帰ってきたんだよ!!
お前が居ない間に何人の人が苦しんだ! 何人の聖女が犠牲になった!?
カンナギ、答えてみろ!!」
「ボーアさん……」
ボーアは槍を投げ捨て、声を震わせる。それがボーアの本音だった。
「……それを言ったら、ボーアさんは満足ですか?」
「なに?」
「違いますよね? ボーアさんの望んでる事はそんな事じゃない筈だ!!」
奏慈はそれを受け止めた上で、力強くそう言う。
ボーアの望みは復讐でも無ければ、償いでもない。
創造神である奏慈にしかできない……奇跡を求めている。
「……できるのか? 本当に?」
「できます。僕に不可能はありません」
「なら、頼みたい……聖女を! イリディ様を生き返らせてくれ!!」
ボーアは声を荒げ、深く頭を下げた。望みはあの時から変わらない。
自分のせいで消えてしまった聖女……イリディが生きている世界。
それが叶うなら、自分の命も惜しくなかった。
勝負を挑んだのも、その為だ……勝った対価として願うつもりだった。
「分かりました。でも、すぐにはできません。
ソフィアが居る今、迂闊に力を使えば、邪魔されるリスクがあります。
なので、ソフィア撃破後でも良いでしょうか?」
「ああ、構わない。イリディ様が戻ってくるなら……」
「了解しました……約束は絶対に守ります」
「……ありがとう」
その言葉を聞き、ボーアは柔らかな笑みを浮かべ、その場に倒れる。
もう悔いは無い。あとは奏慈に任せれば、全て上手くいく……そう、全て。
「……では、今度はこっちの番ですね」
「うん? 何の事だ?」
「決まってるでしょう……勝負です! 僕と勝負して下さい!!」
「な、なんだと!? どういつもりだ!」
そんなボーアに対し、奏慈は突然勝負を挑んだ。ボーアは困惑する。
「サフラーで殴られた借りを返す為ですよ! さあ、勝負だ!!」
「サフラー? なんで、今更……そうか、お前」
ボーアは察した。奏慈が勝負を挑んだ理由は借りを返す為ではない。
ボーアの胸の内に巣食うモヤモヤとした気持ち……それを晴らす為だ。
奏慈に対して思う所が全く無くなった訳ではない。だが、奏慈は創造神。
前のように殴ったり、暴言を吐く事はもうできない。失礼に当たる。
「……お前は本当にムカつく奴だな。どこまでお人好しなんだ」
「なら、その怒りに任せて殴ればいいじゃないですか!
僕はどんな拳でも受け止めますよ!!」
奏慈はその機会を自ら与えた。せめてもの償いのつもりなのだろう。
ただ、謝るのではなく、身体を張る……奏慈らしい選択だ。
勝負を中断させたお詫びもあるのかもしれない。
「いいだろう……お望み通り、やってやる!」
ボーアはそれに応え、再び槍を出現させた。
これから始まる戦いに遠慮は要らない。
「さあ、かかって来い!!」
「ええ、第二回戦の始まりです!!」
二人は同時に走り出し、激突する……奏慈とボーアの会話は長く続くのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!
感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!




