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罪醜業

「――皆さん、ありがとうございます!

 御蔭で助かりました!!」


数十分後、奏慈の体調は無事に良くなった。

元気一杯腕を伸ばし、声を張り上げる。

先程までの咳き込みようが嘘のようだ。


「ふう、一安心ですわね」

「やれやれ、面倒な奴だ」

「ああ……無駄に心配させやがって」


その様子を見て、藍達はそっと胸を撫で下ろす。

数十分もの間、藍達は生きた心地がしなかった。

何度も咳き込み、顔色も悪くなっていく奏慈。

寝かせても、薬を飲ませても良くならなかった。

それでも懸命な治療の結果、奏慈は復活する。

本当に良かった……だが、一つ分からない事がある。


「でも、どうして急に? 直前まで元気だったのに……」

「確かに不思議ですわね」


奏慈は突然咳き込み始め、顔色も悪くなっていった。

その原因が全く分からない……ソフィアの話をしたからか?


「創造神の力がまだ身体に馴染んでいないんですよ。

 創造神の力は強力です……人間の身体に収まる物じゃない」


奏慈は自嘲気味にそう言う。

思い返してみると、奏慈は力を得る度に気絶していた。

あれは創造神の力に身体が耐えられなかったのだろう。

それが今回は体調不良として出たようだ。


「さて、続きを話しましょうか……確かソフィアからでしたね?」

「ああ、頼むぞ」

「分かりました……ソフィアは本当に困った子でしたよ」


奏慈は一呼吸置き、ゆっくりと話し出す。

ソフィアは奏慈と真妃の間に産まれたサラブレッド。

生まれながらに強い力を持ち、容姿にも優れていた。


「そんなソフィアにも欠点があった……嫉妬深いという欠点が」

「嫉妬深い?」

「ええ、なんでも自分が一番じゃないと気が済まないんです。

 後に回されると、怒り狂う」

「そ、それは大変ですわね……」

「はい、大変でした。でも、僕にも問題があったんです。

 ちゃんと、ソフィアの話を聞いていれば……」


奏慈はソフィアが産まれてから少しして、人間の創造を始める。

創ろうとしたのは能力に差があっても、お互いに助け合える強い人間。

罪を犯しても更生できる人間だった。奏慈はその創造に注力し始める。

それがソフィアの機嫌を損ねるとは知らずに。


「あの頃は毎日、ソフィアと喧嘩していました……それこそ何時間も」


ソフィアは人間にばかり手を焼く奏慈に怒りを覚えていた。

力が無く、容姿も特段優れていない生物に何故手を焼くのか?

ソフィアは理解できず、何度も何度も奏慈に文句を言う。

それに対し、奏慈もソフィアの言葉を聞かず、無視し続けた。

奏慈が創ろうとしたのは心優しい人間……優れた者ではない。


「こうして月日は流れ、人間が文明を築き始めた頃……罪醜業ざいしゅうごうが現れました」

「罪醜業?」

「全てを破壊する罪の怪物です。まあ、僕がそう呼んでるだけですけどね」


――罪醜業。それは罪が形を成し、暴れ回る恐ろしい怪物。

罪人が増えると、罪がその宇宙から溢れ出し、集まり始める。

それだけなら脆い塊だが、他の宇宙からも溢れると話は違う。

どんどん大きくなっていき、宇宙を超える程の大きさになるのだ。

そうして最大まで大きくなると、罪醜業になる。

罪醜業は宇宙どころか、全ての宇宙を飲み込む程の大きさだ。


「まさか、邪神というのは!?」

「ええ、罪醜業の事です……出現させてしまったのは僕の怠慢ですね」

「怠慢? どういう事だ?」

「……僕の役割は罪人に罰を与えること。

 それは罪醜業の出現を阻止する為でもあったんです」

「成程、そういう事か……」


奏慈は宇宙の平和を守る為、罪人に罰を与えてきた。

罰を与える事で、罪は消えて無くなる。罪醜業の出現を阻止できるのだ。

しかし、それでも罪醜業は出現した。奏慈は止むを得ず、戦いを挑む事になる。

それが神話で語られる邪神と創造神の戦い……奏慈が疲れた理由だ。


「戦闘後、僕はこの世界に戻り、横になりました。

 そこを……ソフィアに襲われたんです」

「そうだったんですのね……その後、どうなりましたの?」

「僕はバラバラになり、世界に散りました。これは知ってますよね?

 そして、ソフィアの暗躍が始まったです」

「暗躍? 一体、何をしたんだ?」

「では、次はそれを話します」


奏慈が消えた事で、ソフィアは実質この世界の支配者となった。

ソフィアの力は真妃を超えており、真妃ではどうしようもない。

そんな状況でソフィアが最初にした事は新人類の創造……巨人の創造だった。


「巨人!? 巨人はソフィアが創ったんですの!?」

「そうです。神話では邪神の配下でしたが、真実は違います。

 人類を絶滅させる為、ソフィアが創った生物兵器なんです」


ソフィアは自らが望む世界を創る為、巨人を使って世界を破壊し始める。

人間は勿論、動植物も……奏慈が創った物を全て破壊していった。


「僕はその凶行を止めたかった……だけど、できませんでした。

 バラバラになった僕はその場から動けなかったんです」

「その時にルフ達と会ったんだな?」

「ええ、あれは運命でした……」

「運命?」

「創造神様、よろしいでしょうか? わらわが代わりに話しても……」

「ルフ? ああ、構わないよ。代わりに話してくれ」

「ありがとうございます……あの時のわらわは力の無い吸魔鳥じゃった」


ルフはそう言うと、昔を懐かしみながら少しずつ話し出す。

吸魔鳥はその名の通り、魔力を吸って生きる鳥の魔物だ。

種類も多く、巨人が暴れ始める前は世界中に生息していた。


「じゃが、巨人が現れてからは仲間が次々に殺されてのう。

 一年も経たない内にわらわ一人になった……本当に辛かったぞ」

「ひ、酷い……それから、どうしましたの?」

「……飛んだ。少しでも巨人から離れる為に。

 そうして飛び続け、創造神様の元に辿り着いたんじゃ」

「それがカンナギとの出会いか」


それでもルフは巨人に追いつかれ、棍棒を振り下ろされる。ルフは死を覚悟した。

そこに奏慈が割って入り、辛うじて動く触手を使って巨人を撃退する。


「あの時の事は今でも思い出します……本当にありがとうございました」

「気にするな。寧ろ、僕のせいでお前の仲間達は殺されてしまったんだ。

 恨んでくれてもいい」

「そ、創造神様……」

「で、どうやって真祖になったんだ? その時になったんだろう?」

「……そうじゃ。前にも言った通り、創造神様は代わりに動ける者を求められた。

 わらわはそれに立候補し、力を受け取ったんじゃ」


奏慈は何もできない自分に苛つき、身体を震わせていた。

それを見たルフは自ら申し出て、真祖になる決意をする。

そして、そのまま奏慈の魔力を吸い、真祖に変化した。


「全く、無茶をするよ……下手すると、死ぬかもしれないのに」

「構いません。助けられた時から、わらわの命は創造神様の物です」

「はあ、忠誠心が高いのも困りものだな……」


以降、ルフは奏慈の指示を受け、巨人を倒し始める。

奏慈の力を得たルフは無敵……巨人など相手にならなかった。


「さて、わらわは話した……ほれ、次はお主の番じゃぞ」

「拙者ですか? ルフとあまり変わりませんよ?

 オクリと共に創造神様に助けられて……」

「貴方、話しましょう? 私達が創造神様と共にある事を証明する為に」

「……そうだな。少し長くなりますが、ご了承下さい」


マガミはそう言うと、奏慈の方を見る。奏慈はそれに頷いて返した。


「拙者とオクリは元々、魔幻狼と呼ばれる狼の魔物でした。

 群れを率い、牛や羊などを狩って暮らしていたんです」

「そんな私達も巨人達には敵わず、群れは壊滅しました。

 そして、逃げるようにこのノーブル山に来たんです……」


魔幻狼は平地に住み、草食動物を狩る魔物だ。

その為、山……特に雪山で暮らすには適していない。

それでもノーブル山に逃げ込んだ……生き残る為に。


「そこでカンナギに会ったのか」

「そうです。創造神様は拙者達を匿ってくれました。

 追っ手の巨人達も撃退してくれたんです」

「だから、私達も立候補しました……創造神様の為に」


マガミとオクリは奏慈の肉を食う事で、真祖に変化した。

ルフ同様、奏慈の力を得たマガミ達は無敵……巨人など相手にならなかった。


「じゃが、わらわ達の快進撃もここまでじゃった。

 ソフィアは最強の巨人を送り出す……」

「最強の巨人?」

「……この話は私がした方が良さそうね」

「望結? まさか、その巨人と戦ったのか!?」

「ええ、戦ったわよ……原初の巨人に」


――原初の巨人。その名の通り、一番最初に創られた巨人だ。

その力は強く、直接攻撃以外では倒す事はできない。

また、傷付けば傷つく程、そこから新たな巨人が生えてくる。

力でも、数でも、勝つ事は不可能……正に最強だ。


「そんな相手にどうやって……」

「藍、忘れたの? 私が使える最強の魔法の事を……」

「最強の魔法……そうか、銀の扉! それを使ったんだな!!」

「そうよ。数が増えるなら、どこかにやればいい。

 簡単な話だわ」


望結は普通に戦い、原初の巨人が生み出す巨人を次々に飛ばした。

飛ばした先はルフ達の元……一般巨人相手にルフ達は遅れを取らない。

結果、望結は原初の巨人に勝利し、世界に平和を取り戻したのだった。


「それでもソフィアは止まらなかった。

 この世界を破壊する為、全ての力を解放する」

「それに対し、創造神様も最後の力を使ったんじゃ。

 自らの存在を引き換えにして……」

「そ、そうなのか!?」

「そうだ。僕は消滅覚悟で、最後の力を解放した。

 結果、身体を残して、この世界から消えたんだ」

「……それで今まで居なかった訳か」


しかし、完全に消えた訳ではない。裁く者である奏慈は不滅の存在。

長い時間をかけて復活する……現にこうして、復活しているのが証拠だ。


「じゃが、ここでマキが動いてしまった。

 創造神様の魂を……自分の創った世界に送ってしまったんじゃ!」

「えっ、という事は?」

「思った通りだよ。僕は人間に転生し、その世界で暮らす事になった。

 ご丁寧に記憶まで封じてね……その御蔭で何年もその世界で過ごしたよ」

「人間になっていたのはそれが理由なのか……」

「そして、当の本人はやって来たソフィアと相打ちになって封印された。

 全く、困ったものです……」


藍達は呆れる。真妃は自分本位な理由で、奏慈を自分の世界に拉致した。

それが世界にどういう影響を齎すか……考えれば、分かる事なのに。

全て無視した。奏慈と長く一緒に居る為、我儘を通したのだ。


「流れは分かった……約束通り、お前を創造神だと認めよう」

「……ありがとうございます」


これで奏慈が何故、人間になったか判明した。

ボーアは複雑な表情をするが、奏慈に頭を下げる。

今まで一緒に居た仲間が創造神だった……その衝撃は計り知れない。

そして、それは藍とフランも同じ……動揺を隠せなかった。


「はあ、カンナギが創造神様だったなんて……まだ信じられませんわ」

「オレもだ。でも、信じるよ……奏慈の言葉だからな」


藍はそう言うと、満面の笑みを浮かべる……だが、その表情は硬かった。

本当は思いっきり叫びたい。それをぐっと飲み込む。


「……それでは改めて、今後の方針を話していきましょうか」


奏慈はそれを一瞥するも、何も言わずに話し始めた。

勿論、言いたい事はある。藍だけでなく、皆にも。

だが、今はその時ではない……奏慈も言葉を飲み込むのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

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