真相
「――さて、今後の方針を話していこう」
マガミの家に再び集まった奏慈達は一息吐く。
今日は本当に大変な一日だった。
朝から衝撃の連続で、心が休まる時は皆無。
一秒後の自分の姿すら想像できなかった。
その為、もう休みたい所だが、ルフは言う。
「進言させて頂きます。
休む前に今後の方針を決めた方がよろしいかと」
「……ふむ、確かにそうだな。よし、そうしようか」
こうして、話し合いが始まった。
プレイトは退いたとはいえ、それは一時的な話。
明日には戻ってくるかもしれない。
また、第二第三の刺客が送り込まれる可能性もある。
その刺客はプレイトのようにはいかないだろう。
ルフの言う通り、方針を決める必要があった。
「奏慈!」
「藍? どうしたんだ?」
その話し合い中、藍は突然声を荒げる。もう我慢の限界だった。
藍は真剣な表情で奏慈を見つめ、続けて言う。
「奏慈、一体何があったんだ!?
今のお前は……お前らしくない!!」
それは藍の心からの叫びだった。これ以上、何も知らずにいたくない。
仲間として、恋人として、できる事はある筈だ。
その強い思いを言葉に乗せた……それで言ってくれるのを祈って。
「そ、それは……」
奏慈は固く口を結び、俯く。
言わなきゃいけない事は奏慈も分かっていた。
だが、まだ言う勇気が無い。
心の整理がつくまで、黙っていたかった。
「わ、わらわが代わりに!」
「……いや、僕が言う。僕が言わなきゃいけない。
藍、ごめん……黙っていて」
「い、いいんだ、言ってくれるなら……」
それでも奏慈は覚悟を決め、言う事にする。
言う事で、藍達との関係は大きく変わるだろう。
でも、それを恐れていたら、前には進めない。
どういう結果になろうと、覚悟を決めるべきだ。
奏慈は深く息を吐くと、真相を語り始める。
「今回も僕は異世界人に会い、加護を受け取りました。
加護の内容は運命操作……言葉通りの力です」
「運命操作……そんな力を」
「……受け取ったのはそれだけですの? それにしては」
「加護は鍵なんですよ。記憶の扉を開ける為の……」
「記憶の……扉?」
「ええ」
奏慈はそこまで言うと、皆の顔を見た。
怖気付いた訳ではない……ただ、確認したかったのだ。
「でも、その鍵は全て揃えないと使えない。
中途半端な状態じゃ、扉を開けられないんです」
「つまり、今回で全ての鍵が揃ったんですのね?」
「そうです。僕は記憶を取り戻しました……創造神としての」
「……えっ、今なんて?」
「創造神としての記憶を……取り戻したんです」
奏慈のその一言で、場の空気は凍り付く。
一体、何を言っている? 藍達はその言葉の意味を理解できなかった。
奏慈は唇を噛む。今からでも冗談にしたい。
しかし、それは許されなかった……奏慈は声を張り上げ、続ける。
「最後の加護を受け取った瞬間、僕は全て理解しました。
僕はこの世界の創造神です。間違いなく……」
「そ、創造神……奏慈が?」
「う、嘘だろ……」
「な、なんて事ですの……」
その言葉で、藍達もやっと理解した。そして、今までの疑問も解決していく。
奏慈に対するルフ達の態度……それは奏慈が創造神だったからだ。
奏慈が創造神なら、全て解決できる……そう、全てを。
「……奏慈、本当なんだな?」
「ああ、本当だ。藍が会いたかった創造神は近くに居た……こんなにも近くに」
「そう……みたいだな」
こんな事があっていいのか? 藍は怒りから、拳を握り締める。
だが、それは奏慈に対してではない。自分の鈍感さに対してだ。
ヒントは今まで一杯あった……何故、気付けなかったのだろう?
(オレのせいだ……オレの)
いや、本当は気付いていた。気付いてない振りをしていただけ。
藍は涙を流す……奏慈を追い詰めたのは自分だ。
「……成程な。マナを魔力として使えていたのも創造神様だからか。
マナは創造神様の魔力……自分の魔力なら使えて当然だ」
「異世界人から加護を受け取れたのも、創造神様だから。
与えた本人なら、返して貰えるのは当然ですわ……」
落ち込む藍を余所に、答え合わせが済んでいく。
今まで謎だった答えがこんなに簡単な事とは思わなかった。
もしかしたら、無意識の内に答えを選りすぐりしていたのかもしれない。
見て見ぬ振りをしていたのはフラン達も同じだ。
「そして、ミユとイカリは最初からその事を知っていた。
そういう事だな?」
「……ええ、そうよ」
「その通りです」
それに対して、望結とイカリは全て知った上で行動していた。
怪しい言動の理由は全て知っている故だ。
「それなら、お二人に聞きたい事がありますわ。
創造神復活にはカンナギの魂が必要……それは嘘ですわね?
何故、嘘を吐いてでも創造神復活を阻止しようとしましたの?」
「……決まってるでしょう。奏慈を自由にする為よ」
「自由に? どういう事だ?」
そして、今なら何を思い、そんな事を言ったのかも聞ける。
可能性は限りなく低いが、二人がウルトルクスの可能性もあるからだ。
その場合、創造神復活を阻止するのも納得できる。
「……かつて、私は皇帝としてこの世界に君臨した。
それで分かったのよ、上に立つ者には自由が無い。
笑う事も泣く事もできなくなる……それが創造神なら尚更」
「だから、嘘を吐いたのか? そんな事で」
「そんなこと? それがどれほど苦しい事か貴方には分からないの!?
奏慈は人間よ……創造神の記憶を取り戻したら、どれだけ!」
「望結、もういい。これ以上、無理をするな」
「うっ、うう……」
「ミユ……」
望結は堰を切ったように泣き始めた。その姿に嘘は無い。
本心から奏慈を思い、思った故に嘘を吐いたのだ。
例え、その本人から責められても……本当に辛かっただろう。
ルフはそんな望結を強く抱き締め、慰める。
「それでアンタらはボク達を騙していた……そういう事だな?」
「まあ、そういう事になるかのう……真実を敢えて、伏せておったからな」
「ぼ、ボーア、ルフ達は!」
「お前は黙っていろ! お前にも言いたい事は山程ある!!
だが、その話は後だ!」
「……分かった」
次に全て知りながら、創造神復活に誘導していたルフ達。
悪いか?と言われると、黙っていたこと以外悪くない。
だが、気に入らなかった。掌で転がされる事ほど、ムカつく事は無い。
「ボク達にとっても、創造神様は敬うべき対象だ。
だからこそ、都合の良いように動かされていたのは気に入らない。
どうして黙っていたんだ?」
「……言い訳になるが、ミユの為じゃ。
ミユがどれだけ、創造神様を思って行動していたか。
その思いを……無駄にしたくなかった」
「……つまり、みんなみんな他人を思った故の行動でしたのね。
なんというか、皮肉ですわ」
「だな」
フランとボーアは呆れたような苦笑い混じりの溜め息を吐く。
長く続いた思わせぶりな会話の真相はこういう事だったのだ。
「さあ、最後だ。カンナギ、話して貰うぞ……全てをな」
「……ああ、全部言うよ」
そうして、遂に奏慈の番が回ってきた。
言いたい事は勿論、聞きたい事も山程ある。
創造神である奏慈なら、全ての真相を知っているだろう。
頭の中を整理しながら、ボーアは一つずつ聞いていく事にする。
「まず、どうして人間になっていたんだ?
それが分からないと、心では……創造神だと認められない」
「……その話をするには始まりから話す必要があります。
少し長くなるので、楽な態勢で聞いて下さい」
「分かった」
その言葉を受け、ボーアは椅子にもたれかかり、息を吐いた。
同様にフラン達も楽な態勢を取り、奏慈の次の言葉を待つ。
「……いいみたいですね? では、話していきます。
僕はこの世界を創った創造神です。それは間違いありません。
ですが、世界を創り、運営していくのは本来の役割ではないんです」
「えっ、じゃあ、何の神様なんですの?」
「神ではありません。裁く者です。
罪を犯した者に罰を与える……それが僕の役割」
警察や裁判官が居るように、宇宙にも同じような役割を持つ者が存在する。
それが裁く者。たった一人で全ての宇宙を監視し、罪人に罰を与える。
その権限は強く、罰を与える過程で罪を犯しても、罪には問われない。
また、裁く者はただ一人。罰を与える権限を持つのは奏慈だけなのだ。
「そんな僕はいつも通り、ある者に罰を与えました。
そして、そのまま別の宇宙に行こうとしたんです……ですが」
「何があったんだ?」
「……罰を与えた相手に引き留められました。そう、真妃に」
「真妃に!?」
真妃は奏慈に一目惚れし、なんとしても傍に居させようと画策し始めた。
そうして、思いついた方法は。
「真妃は言いました。一緒に暮らしてくれるなら、もう罪は犯さないと……」
「そ、そんな事を……でも、奏慈の仕事は」
「確かに僕の仕事は罰を与える事だ。だけど、その本質は罪人を減らすため。
一緒に暮らすだけで罪を犯さなくなるなら、万々歳だ」
「成程、上手く利用された訳か」
こうして、奏慈と真妃の不思議な共同生活が始まった。
真妃は奏慈にべったりで、奏慈の行く場所に全て付いていく。
それを奏慈は鬱陶しく思いながらも、文句は言わない。
自分が我慢するだけで罪人が減る……それに勝る物は無かった。
「そんな時でした……真妃が僕に世界を創造する事を勧めたのは。
今思えば、それも僕と一緒に居る為の作戦だったんでしょうね」
「それで世界を創ったんですのね……ううん、なんだか複雑ですわ」
「あはは、そうですよね……話を戻します。
僕は動物や植物は勿論、人間も創りました。
そして、同時期に真妃との間に娘……ソフィアが産まれたんです」
「そ、ソフィアが!?」
ここに来て、衝撃の真実。あのソフィアが奏慈の娘だった。
創造神の娘と言えば、弱ってる創造神を襲ったという卑劣な存在。
その娘がソフィアだった……という事は今の状況も。
「ソフィアは……うっ!?」
「そ、創造神様!?」
「奏慈、どうしたんだ!?」
それを話そうとした所で、奏慈は突然咳き込み始める。
藍は慌てて奏慈に駆け寄り、その背を擦った。
「た、大した事じゃない。大丈夫、すぐに続きを……ごほごほ」
奏慈はそう言うものの、明らかに様子がおかしい。本当に大丈夫か?
「……はあ、仕方ない。十分ほど休もう。
ボク達も話を整理したかった所だ」
「ほ、本当にごめん……ごほごほ」
「む、無理をするな、この馬鹿!」
「オクリ、薬を!」
「は、はい!」
「わ、わらわも行くぞ!」
「私も! すぐに持ってくる!!」
なんとも微妙な所だが、一旦話を中断する事になった。
藍は奏慈を寝かせ、他の皆は慌ただしく動き始める。
今はただ、良くなる事を祈るだけだ。
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