降臨
「……そうか、そうだったのか」
「おっ、どうやら終わったようだぞ」
「今回は早かったですわね」
数分後、奏慈は意識を取り戻した。
どうやら、スムーズに進んだらしい。藍達はほっと一息吐く。
なによりも奏慈の無事が一番大事だ。
「……はい、聞く事は何も無かったので」
「そ、奏慈?」
だが、その奏慈の様子がどこかおかしかった。ぼーっと宙を見つめている。
一体、何があったのだろう? 藍は顔を覗き込むも、真意を掴めない。
「さて、カンナギも目覚めたし、次は!」
そんな事など露知らず、フランは元気よく声を出す。
これで復活の手筈は済んだ。あとは銀の扉で創造神の元に向かうだけ。
それだけで、諸々の問題を全て解決する事ができる。
「村に戻りましょう」
「えっ、ええ!?」
しかし、奏慈はここで村に戻る事を提案した。
予想外の言葉にフランだけでなく、藍達も声を上げて驚く。
「な、何故ですの!? 今、村に戻ったら!」
「ボク達は確実に捕まるぞ……ルフ達の犠牲を無駄にする気か?」
二人の言う事は最もだった。今戻ったら、全て台無しになる。
今は戻るよりも、創造神の元に向かい、復活させた方がいい。
それが一番、ルフ達を救う事に繋がる。
「犠牲にはしません。こっちにはこれがあります」
それでも奏慈は折れず、一点を指差す。
そこには気絶しているツヴァイが居た。
「ツヴァイを引き渡せば、彼らも退却せざるを得ません。
身体の元に向かうよりも、そっちの方が早く救えるでしょう」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
「それにツヴァイをここに放っておく訳にはいきません。
どちらにせよ、ツヴァイの処遇を決める必要があります」
「……確かにそうだな」
藍達は考え始める。言われてみれば、確かにその通りだ。
ここでツヴァイを自由にすると、またどこかで暴れる。
今回はあっさり倒したものの、巨人を使役できるのは脅威だ。
だからといって、創造神の元に連れて行く訳にもいかない。
プレイト達にツヴァイを引き渡す……それが一番良さそうだ。
「オクリ、ツヴァイの拘束を頼む。
途中で目覚められたら困るからな」
「了解しました」
「イカリ、お前は念の為、氷の塔を準備を」
「成程、了解です」
「望結、お前は銀の扉を頼む。まだ本調子じゃないんだ」
「……分かったわ」
そうと決まれば、ゆっくりしていられない。
奏慈は的確に指示を出し、望結達を動かし始める。
その姿は堂々としており、まるで王のようだ。
「な、なんだか、いつもと雰囲気が違いますわね……」
「そうだな。新たな加護の力か?」
「奏慈……」
だが、その姿はいつもの奏慈らしくなかった。
奏慈は良い意味でも悪い意味でも、子供のような性格だ。
何か起これば、いちいちリアクションをする。
でも、今の奏慈は大人そのもの……落ち着いていた。
「終わりました」
「こっちもいつでも出せますよ」
「よし。望結、頼むぞ」
「……うん」
そうして準備ができた所で、望結は銀の扉を出現させる。
扉の先はゲンゲツ村だ。
「カンナギ、本当に行くんだな?」
「ええ、行きます。付いて行くのが嫌なら……」
「何言ってますの? アタシ達は仲間ですわ!」
「我が身可愛さに一人で行かせたりしない。
お前の事は気に入らないが、お前は仲間だ」
「……ありがとうございます。
さあ、行きましょう!!」
奏慈達は一息吐いてから、扉の中に入っていく。
思う所はあるが、関係ない……決めたら、それに一直線だ。
間もなく、奏慈達は村に辿り着くのだった。
「――はあはあ、これが当代最強と謳われる騎士の力」
「ふう、強いのは嬉しいが、戦うとなると別じゃのう」
「そうですね……違う時に戦いたかった」
時は少し遡り、ルフ達とプレイト達の戦い。
その戦いはプレイト有利に進み、ルフ達は押されていた。
「まさか、これほどやれるとは……正直、驚いた」
「世界は広いですね。私も驚きましたよ」
プレイトとラティアはそう言うものの、まだ余裕が見える。
戦いが始まってから一時間ちょっと……二人の息は全く乱れていない。
これがエーデルリッターの実力。世界最強の騎士の力なのか。
「……マガミ、出し惜しみするのはここまでじゃ。
そろそろ、本気を出そうぞ」
「本気を? ですが……」
「創造神様の為じゃ。山を崩さん程度にやるぞ」
「……分かりました」
しかし、ルフとマガミもエーデルリッターに負けていない。
二人は全身に力を込めると、空気を震わせ始める。
「むっ、これは……」
「山が……怯えている? あの二人の力で?」
「ほう、これは面白い事になりそうだ」
その震えは大地にも広がり、山すらも揺らし始めた。
一体、何が起こっている? 突然の出来事に周囲に居る騎士達は慌てふためく。
流石のプレイトとラティアもこれには手を止め、様子を見た。
「やれやれ、本気を出すのも一苦労じゃのう」
「仕方ありません。命が無い状態ですから」
「……これは驚いた。とてつもない力を感じる」
数秒後、震えは治まり、山に再び静寂が戻る。
だが、代わりに凄まじい力を持った二人の戦士が誕生した。
二人は全身にオーラを纏わせ、静かに佇む。
その強さは先程の比ではない……遥かに強い力を得ていた。
「マガミ、行くぞ!」
「はい」
「なっ!?」
二人はその力を早速発揮し、一直線に走り出す。
その速さは目にも止まらず、あっと言う間にプレイト達の前に辿り着く。
「まずは一発」
「吹き飛べ!」
そのまま二人はプレイトとラティアに攻撃する。
ルフは槍でプレイトを突き、マガミは固く握った拳でラティアを殴った。
何の力も宿していない普通の攻撃だが、この速さで繰り出されれば必殺技だ。
「くっ!?」
「うう!?」
その威力は凄まじく、プレイトとラティアは為す術もなく吹き飛ぶ。
油断していた訳ではない……寧ろ、最大限の警戒をしていた。
それでも食らったのは、二人の強さが想像を超えていたからだろう。
プレイトとラティアは吹き飛びながら、想定の甘さを悔いる。
「ふう、これで終わればいいのじゃが」
「……そうはいかないでしょうね」
プレイトとラティアはその勢いのまま、雪の中に突っ込んだ。
普通の相手なら、これで勝ちは決まりだが、相手はエーデルリッター。
二人は息を飲み、様子を窺う。この程度でやられる相手ではない。
「ううむ、やはりそうなるか」
「第二回戦ですね」
その予想は見事当たり、雪の中から二つの影が飛び出した。
勿論、プレイトとラティアだ。二人は雪を掃いながら、ゆっくりと歩き始める。
「これ程の力を隠していたとは……私もまだまだ青い」
「ですが、油断はここまでです。覚悟して下さい」
プレイトとラティアはオーラを纏いながら、力を込めてそう言う。
ここから先はお互いに本気を出して戦う……そういう事のようだ。
空気が震え、大地が泣く。頂上決戦が始まろうとしていた。
「その戦い、ちょっと待った!」
「えっ?」
「そ、その声は!?」
そこに奏慈が割って入り、二人を守るように立つ。
なんとか、ギリギリで間に合ったようだ。
「……貴方は?」
「旭凪奏慈です。貴方達に話があって来ました」
「話? 今更、話など」
「これを見ても、そう言えますか?」
奏慈はそう言うと、プレイト達の前にツヴァイを突き出す。
「これは……」
「見ての通り、ウルトルクスです。私達が倒し、拘束しました」
「……成程、取り引きか」
「話が早くて助かります。
どうでしょう? これを差し出す代わりに退いてくれませんか?
私達はウルトルクスと何の関係もないんです」
「……ふむ」
これは賊との取り引き……本来聞く必要はないが、プレイトは考え始めた。
プレイト達から見れば、この行動はトカゲの尻尾切りだ。
奏慈達とウルトルクスは仲間……そう聞いている。
つまり、提案を受け入れず、纏めて捕まえるのが最善の手。
(やはり、おかしい……余りにも都合が良過ぎる)
しかし、プレイトはこれまでの流れに疑問を感じていた。
ソフィアがここに犯人が潜んでいると言い、騎士団を向かわせる。
それで向かってみれば、怪しい者達が居た。
明らかに作為を感じる。捕まえてみろと言わんばかりだ。
禁呪の森の一件は昨日……こうも早く潜んでいる場所を掴めるのか?
(ソフィア様の事を疑う……か。なんて罪深い。
だが、直感が告げている。この男を捕まえてはならないと……)
プレイトは静かに息を吐くと、覚悟を決める。
自分の選択が正しいと信じて。
「分かりました。今日の所は退きましょう」
「プ、プレイト卿!? 本気ですか!」
「本気だ。私は彼を信じて、退却する」
「りょ、了解しました……」
プレイトの選択にラティアは勿論、周囲に居る騎士達も困惑する。
賊との取り引きに応じ、一時退却……前代未聞の行動だ。
それでもそれ以上は何も言わず、ツヴァイを連れて退却し始める。
間もなく、ゲンゲツ村の前から全ての騎士が消え去った。
「……はあ、良かった。話の分かる人で」
それを確認すると、奏慈は膝を突いて項垂れる。
本当に良かった……出てもいない汗を腕で拭う。
「ほんとですわ。プレイト卿以外だったら、捕まってましたわよ!」
「全く、相変わらず悪運の強い男だ」
「は、ははは、本当にすみません……」
「でも、良かったよ……これで一件落着だな」
そんな奏慈を労うように藍達は声をかけていく。
そうして労われる奏慈の姿はいつもと変わらなかった。
考え過ぎだったか? 藍達は一瞬、そう思う。
「申し訳ありません……お手数をおかけしました」
「気にするな。返す貸しなら、まだまだ一杯ある」
「そ、それを返されるのは心苦しいと申しますか」
「はい、とても心苦しいです」
「はあ、面倒臭い奴らだな」
だが、すぐにいつもと違う奏慈の姿が現れる。
まるで、人でも変わったかのようだ。
「……やっぱり、変ですわ。
カンナギはアタシが言っても、さん付けを止めなかった人。
なのに、今はルフさん達に上から目線で話してる」
「そうだな。ボクもそれは不思議に思う……だが」
「オレ達には前のままだ。一体、どうしたんだろう……」
いつもの奏慈と、今まで見た事がない奏慈。
強いて言うなら、藍と望結に話す時の奏慈に似ているが。
しかし、それは交流がある故だ……ルフ達には何故?
「皆、またマガミが泊めてくれるらしい!
今日の所はもう休もう!!」
「わ、分かりましたわ! 行きましょう!!」
「う、うむ」
「奏慈……」
疑問が残る中、藍達は奏慈の元に向かう。
その真相が明かされる事を信じて。
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