今更な相手
「――着きました。ここが件の洞窟です」
「成程、この先に……」
それから数十分後、奏慈達は無事に洞窟に辿り着く。
目的地である神殿は洞窟の奥……創造神の身体の傍にあるそうだ。
休んでる暇は無い。奏慈達は一息吐くと、早速洞窟の中に入る。
「うっ、さ、寒いな……それに暗い」
「そ、そうだな……まるで天然の冷蔵庫みたいだ」
洞窟の中は外よりも寒く、一寸先も見えない闇が広がっていた。
一応、明かりはあるものの、これでは真面に進めない。
奏慈達の足は自然とゆっくりになり、周囲を警戒しながら進む。
こんな所で敵に襲われたら、ひとたまりもない。
「見えてきました。あれが神殿です」
「ふう、やっと着きますのね」
「やれやれ、クタクタだ」
だが、そんな心配も余所に、神殿と創造神の身体が見え始めた。
神殿は青い炎に照らされ、その威容を奏慈達に晒す。
対して、創造神の身体は神殿の入口を塞ぐように立っている。
「では、中に入りましょうか」
「えっ、あ、危ないですよ!?」
「うん? どうしてですか?」
オクリは着くと、そのままの勢いで神殿の中に入ろうとした。
奏慈達は慌てて、そんなオクリを引き留める。
「ど、どうしてもなにも、危険だからですよ!
オクリさんも知ってますよね?
神聖魔法は創造神の力……その塊である身体に近付いたら!!」
「……ああ、そういう事ですか。
それなら大丈夫ですよ。創造神様は私達を害したりしません」
神聖魔法は危険な魔法だ。発動すれば、殆どの場合、死に至る。
それもただの死ではなく、存在の消滅という概念の死だ。
そんな力を創造神から借りている……その為、近付くのは危険だった。
「そ、そうなんですか? でも、前に聞いた話だと……」
「……話す時が来たようね」
「望結?」
望結は深く息を吐くと、オクリに代わって喋り始めた。
神聖魔法は創造神から力を借りて発動する……それは本当だ。
しかし、借りている相手はこの世界の創造神ではない。
真妃だ……奏慈が前まで居た世界の創造神から借りている。
「ど、どういう事だ!? そんなの初めて聞いたぞ!」
「同じくですわ! 確かに創造神ではありますけれど……」
「……オクリさん、本当なんですか?」
「ええ、本当です。神聖魔法はマキの力……破壊の魔法です」
「破壊の……魔法」
信じられない話だが、どうやら嘘では無さそうだ。
そして、そういう事なら今まで感じていた違和感も解消される。
優しいと聞くこの世界の創造神が、人々の為に働く聖女を殺す。
それがずっと疑問だったが、これで全て繋がった。
破壊の魔法……創造神である真妃の力が聖女を殺していたのだ。
「……じゃあ、何か? 聖女様達は皆、マキに感謝していたのか?
自分の命を奪う……マキに」
「そうなりますね……」
「ふ、ふざけるな!! 聖女様達が感謝していたのはマキじゃない!
この世界の創造神だ!! なのに、違う奴に感謝していただと?
それは彼女達に対する冒涜だ! 何故、早く言わなかった!!」
同時にそれはボーアの逆鱗に触れ、怒りを爆発させた。
聖女が危険な神聖魔法を発動するのは、強く優しい創造神の力なのもある。
そういう創造神だからこそ、躊躇いなく使い、悔いなく消えれたのだ。
なのに、そうじゃなかった……それがどれほど残酷な事か。
「私も早く言いたかったですよ……でも、言えない理由があった。
それに……言ったとしても、聖女達は使っていたでしょう」
「なに?」
「聖女は自分の命を投げ打ってでも、誰かを救う強き者です。
神聖魔法の正体がマキの力だろうと、使うのに躊躇いはありません。
それが聖女……貴方もそれはよく知っているでしょう?」
「……ああ、知っているとも」
ボーアはそう言うと、イリディの事を思い出す。
イリディなら、神聖魔法の正体を知っていても使っていただろう。
それが聖女……ボーアがよく知る聖女の姿だ。
「話の続きは中に入ってからにしましょう。ここは少し……寒過ぎます」
「そうですね……皆、入ろう」
空気が重くなる中、奏慈達は神殿の中に入る。
オクリの言う通り、創造神の身体に近付いてもなんともなかった。
寧ろ、力が湧いてくるような不思議な感じだ。
ずっと感じていた寒さも和らぎ、自然と身体がポカポカし始める。
「それで言えなかった理由とは?
創造神に仕える貴方達の言葉なら、皆さん信じると思うのですが……」
「……それがそうもいかないのですよ」
そうして気分も明るくなり始めた所で、奏慈は改めて質問した。
オクリ達の発言を止める者など、この世には存在しないように思えるが。
「私達は自分達の存在を世間に公表していません。
それに神聖魔法はソフィアが広めた魔法です。
故に、真実を伝えるには証拠が必要になります」
「でも、証拠は無い。オクリ達にしか分からない感覚の問題だからね。
私もオクリ達に言われて、やっと気付いたレベル」
「……また、ソフィアか」
ここでもソフィアだ。一体、どこまで絡んでいるのか。
「それでソフィアはどうして嘘を? それとも知らずに?」
「……恐らく、力を削る為でしょう。ソフィアはマキの事を嫌っていますから」
「嫌って? どういう事ですか?」
「……その話をすると、長くなると思われます。この辺にしておきましょう。
もうすぐ目的地です」
そうこう話してる内に、かなり奥まで来たようだ。
奏慈達はオクリの後に続き、無言で歩く。
間もなく、奥に明かりが見え、その先に突入した。
「ここが神殿の最奥部……」
「禁呪の森の神殿とよく似てますわね」
奏慈達は周囲を見回しながら、奥に進む。
辿り着いたのは前にも見た事がある広い部屋。
青い炎に照らされた石棺が中央の高台に安置されている。
前と同じなら、あれに触れれば、加護を得られる筈だ。
「――っと、そうはいかないよ!」
「な、なに!?」
そう思った矢先、部屋中に女の声が響いた。
奏慈達はすぐに声のした方を見る。
「久しぶりだね! ここに来ると思っていたよ!!」
「ツヴァイ!」
「くっ、面倒な……」
そこに居たのは魔物使いのツヴァイだった。
ツヴァイは石棺の上に座り、楽しそうに鞭を振り回す。
戦いがあるのは予想していたが、ツヴァイは予想外だ。
禁呪の森の時のように加護狙いで来たのか?
「一応言っておくけど、今回の狙いはアンタ達だよ!
弱り目に祟り目! ここで潰させて貰う!!」
ツヴァイはそう言うと、鞭を地面に叩きつけた。
ソフィアの放送を見て、これ幸いと来たらしい。
しかし、今更な相手だ……フランとボーアはニヤリと笑う。
「ふっ、貴方の手の内は全て知ってますわ!
一人で一体、何ができますの?」
「ああ、お前の出番はもう終わっている!
そこを退いて貰おうか!!」
二人はそう言い切ると、同時に武器を構えた。
ツヴァイと戦うのはこれで三回目だ。
大ダコも入れたら、四回目にもなる。
何か新しい手を用意していたとしても、負ける気はしなかった。
「ふふふ、前までのワタシと思わない事だね!
さあ、出て来なさい!!」
「うっ!? この感じは!」
ツヴァイは高笑いしながら、更に鞭を振るった。
すると、ツヴァイの背後に何かが出現し始める。
「かつて、世界中を荒らし回ったという巨人達!
その力を味わえ!!」
「あっ、ああ……」
それは天井まで届かんばかりの巨人達だった。
その数は十……いや、百を超えている。
圧倒的な質量と物量を前に、奏慈達は息を飲んだ。
「驚いて、声も出ないようだね……まあ、巨人が相手なら仕方ないか」
――巨人。それは動物や魔物……人間でもない全く別の生物だ。
邪神の配下で自分達以外の全ての存在を敵だとみなし、巨大な肉体で暴れ回る。
その為、巨人は世界の敵であり、ある時期を境にして積極的に討伐され始めた。
結果、世界から巨人は居なくなったのだが……どういう訳か、今目の前に居る。
「ふふふ……じゃあ、死ね」
ツヴァイのその一言と共に、巨人達は動き出す。
体格差は言うまでもなく、数でも負けている。
奏慈達に勝つ方法はあるのだろうか?
そんな当の奏慈達はというと……ただ、突っ立っていた。
まさか、諦めたのか? それも無理はないが。
「……ふっ、なあんちゃって! 起爆!!」
「なっ!?」
しかし、次の瞬間、巨人達は爆発四散して吹き飛んだ。
それも全ての巨人が同時にである。
突然の出来事にツヴァイは目を丸くし、現実を受け入れられない。
「何が起こったのか分からない……そういう顔ですわね」
「くっ、な、何をしたの!?」
「見た通りだ。爆発したんだよ……お前の巨人は全部」
「こっちは未来が見えるからな」
「未来? ま、まさか!?」
「そう、そのまさか……未来予知よ」
余裕たっぷりに鞭を振るい、巨人を出現させたツヴァイ。
しかし、その行動は全て、未来予知で見えていた光景だった。
「最初は驚いたわ。巨人なんて、全て倒したと思っていたから」
「ですが、未来予知で見た光景に嘘はありません。
自分達は早速、作戦を練る事にしました」
「その作戦が巨人爆発四散ですわ」
雪山を登りながら、練った作戦……それはシンプルだった。
フランが予め、奏慈の剣に付与魔法で爆発の概念を付与する。
次に奏慈が時を止めて、全ての巨人を斬っていくのだ。
これで巨人にも爆発の概念が付与された……あとは起爆するだけ。
「そして、結果は見ての通り……楽な仕事でしたわ」
「私は大変でしたけどね……」
つまり、奏慈達は未来通りになるよう演技していたのだ。
ツヴァイはそれに乗せられ、まんまと巨人を召喚した事になる。
「こ、小娘が!!」
「起爆」
「ぐっ、うあああああ!」
当然、斬った中にはツヴァイも含まれていた。
油断していたのか、今までと違い、時止め対策もザル。
これなら負ける理由は無い……勝つべくして勝った戦いだ。
「カンナギ、今の内ですわ! 早く石棺に!!」
「また呼び出されると面倒だぞ!」
「分かった!」
皆に背中を押され、奏慈は勢いよく階段を駆け上がると、石棺に触れる。
その瞬間、石棺から眩い光が放たれ始めた……前の時と同じだ。
「さあ、僕を導いてくれ!!」
奏慈はその光に身を委ね、ゆっくりと目を閉じる……これで最後だ。
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