気持ちは同じ
「では、早速……」
「そ、村長、大変です! 村の入り口にエーデルリッターが!?」
「なっ、なに!?」
「え、エーデルリッターだって!?」
そうして意気込む奏慈達の元に、恐ろしい知らせが舞い込んだ。
ハンデッドを倒し、ルフを倒す寸前まで追い詰めたエーデルリッター。
そのエーデルリッターがすぐそこまで来ていると言う。
場の空気は一変して重くなり、緊張感が漂い始めた。
「……落ち着いて、詳しく説明しろ。
数は何人だ? まさか、一人で来ている訳でもあるまい?」
「はっ、はい! 数はですね……」
それでもマガミは冷静に、一呼吸置いてから聞く。
村人の話に寄ると、エーデルリッターは二人……プレイトとラティアだ。
二人とも相当な実力者で、特にプレイトは当代最強。
三百年もの間、エーデルリッターを務め、ウルトルクスも破っている。
そして、ラティアも史上最年少でエーデルリッターになった天才だ。
そんな者達がすぐそこに居る。状況はかなり悪い。
「あと、お供と思われる騎士が百人ほど居ました!
既に村は騎士達に包囲されているようです!!」
「成程、準備万端のようだな……」
「ううむ、どうしたものかのう」
だが、状況は想像より悪かった。
村の内部は空間魔法で広くしているものの、規模自体は変わらない。
その為、包囲されると、どこから出ても見つかってしまう。
また、強行突破しようにも、プレイト達を撒く事は不可能だ。
「……となると、あとは銀の扉しかありませんわね」
「そうだな。だが、逃げた所でまた見つかるのがオチだ」
最後の手段である銀の扉もこの状況では大して役に立たない。
勿論、プレイト達を撒く事は可能だ。
しかし、それは一時的な話……すぐに別の追っ手が現れるだろう。
「それにしても何故、ピンポイントで来れたんだ?
オレ達は偶然、ここに辿り着いたのに……」
「……分からない。だけど、この速さは異常だ。
僕の未来予知のように、何かあるんだろうな」
そして、ここまで用意周到だと、ただ逃げるだけでは逃げ切れない。
何か作戦が必要だ……この場を切り抜けるとっておきの作戦が。
「……今から作戦を説明します。聞いて下さい」
そんな作戦を思いついたのか、マガミは静かに語り始める。
内容はこうだ。まず、マガミが村を出て、プレイト達と話す。
プレイト達の意識を少しでも村から離す為だ。
次にフードを被った村人達が一斉に村から飛び出す。
騎士達は当然、この村人達を追うだろう。これがチャンスになる。
奏慈達はこの隙を突いて逃げ出し、神殿に向かうのだ。
「恐らく、この作戦が現状の最善手でしょう」
「うむ、そうじゃな……その作戦でいこう!」
「……駄目です。私達の為に皆さんを巻き込むなんて」
だが、この作戦は実行すれば、多くの人が犠牲になる。
奏慈はそれを許せなかった。もっと良い作戦が他にある筈だ。
「奏慈、もう時間が無いわ。いつまでもプレイト達を待たせられない。
ここはマガミ達の好意に甘えましょう?」
「その通りです。これ以上待たせれば、どちらにしろ」
「だからって、何の関係もない人達を巻き込む訳にはいかないだろ!!
誰かを巻き込むくらいなら……僕一人が村を出て、捕まった方がいい!」
時間が無い事は奏慈も分かっている。それでも曲げるつもりはなかった。
今回の作戦は今までの物とは違う。失敗しても、成功しても、同じだ。
絶対に犠牲が生まれ、逃げ場のない地獄に叩き落とす事になる。
そんな未来を作りたくない……奏慈は村の入り口に向かって歩き始めた。
「カンナギ、待て」
そうして歩き出す奏慈の前にボーアが立ちはだかる。
気持ちは分かるが、奏慈を犠牲にする訳にもいかない。
「ボーアさん、邪魔するつもりなら……ぐっ!?」
「ああ、邪魔させて貰う。しばらく眠っていろ」
「ぼ、ボーア……」
ボーアは有無を言わさず、奏慈の腹に一発入れた。
時は一刻を争う。乱暴な方法だが、これしかなかった。
ボーアは奏慈を気絶させると、そのまま背負う。
「作戦を実行してくれ。お前達の犠牲を無駄にはしない」
「……すまんな。マガミ、行くぞ!」
「うん! オクリ、神殿までの道案内を頼む!!」
「分かりました!」
悲しい事に奏慈が気絶してから、全て回り始めた。
マガミは村の入り口に向かい、ルフは村人達に作戦を説明し始める。
間もなく、村人達は服装を整え、綺麗に整列した。
これで準備完了……後はマガミの合図で、いつでも外に飛び出せる。
「お待たせしました。拙者が村長のマガミです」
「いえ、こちらも突然の訪問で申し訳ない。プレイトです。
こちらは共に働いているラティア卿になります」
そのマガミはというと、無事に村の入り口に辿り着いていた。
村の入り口には報告通り、エーデルリッターが二人居る。
まず、プレイトは大柄なゴブリン族で、言葉に反して威圧的だ。
綺麗に生え揃えた顎髭が風に揺られる以外、石のように動かない。
正に強者の風格だ。今の奏慈達ではとても勝てそうにない。
「どうも、ラティアです。ここにはある情報を元に来ました」
「情報? それは一体?」
対して、ラティアは穏やかな雰囲気を纏いながら言葉を紡ぐ。
ラティアは人族であり、風に揺られて、ゆらゆらと動いている。
あまり強そうに見えないが、内に秘めた魔力は鋭く冷たい。
「『ウルトルクスと繋がりのある者がここに居る』。
ソフィア様からの情報です。先程の知らせ、見られましたよね?」
「もし、村の中にそのような者が居るなら、出頭させて下さい」
「……そういう事か。ソフィアめ、中々やる」
どうやら、この騒ぎもソフィアが原因のようだ。
ソフィアがどうやって知ったかは分からない。
だが、これでただ逃げるだけでは捕まるという事がハッキリした。
創造神に無実である事を証明して貰わなければ、奏慈達に未来は無い。
「それでどうなのですか? 居るなら、早く出した方がいいですよ」
「……残念ですが、その情報は誤りです。
ここに居るのは他人の事を思える強い者ばかり。
自分の事しか考えられない者は一人も居ません」
マガミはそう言い切ると、拳を激しく震わせた。
すると、拳から風が放たれ、村中に広がっていく。
これが合図だ。村人達は一斉に外に飛び出す。
「そうですか……では、中に入らせて頂きます。
そのような者達しか居ないなら、入っても問題ありませんね?」
「ええ、ありません。どうぞ、中にお入り下さい」
マガミは頭を下げて、そう言う。ここまでは順調に進んでいる。
「……それでは失礼します」
だが、何かを感じ取ったのか、プレイトの歩みは遅い。
これはマズイ事になった……このまま、ゆっくり進み続ければ。
「ぷ、プレイト様、報告します! 村の中から一斉に人が!!」
「ふむ……マガミさん、これはどういう事でしょうか?」
「……やはり、思った通りにはいかないな」
嫌な予感は当たり、プレイトの元に騎士が駆けつけてしまった。
入れ違いになるように入らせ、時間を目一杯稼ぐ。
それが理想だったが、こうなってしまっては仕方ない。
マガミは戦闘の構えを取り、プレイト達に相対する。
「庇い立てするつもりですか? 我らを相手にして?」
「はい、拙者はあの方を守ります。例え、誰が相手でも……」
「……なら、手加減はしない。ここで潰れて貰おう」
それに対し、プレイト達も武器を出現させ、構えた。
プレイトは大槌を、ラティアは針の山を出現させる。
一対二……それもエーデルリッターが相手だ。
不利は承知の上とはいえ、その光景は絶望的。
マガミは思わず息を呑み、拳を強く握り締める。
「おっと、わらわを忘れて貰っては困るぞ!」
「ワガハイもな!」
そこにルフとハンデッドが割って入り、マガミの前に立った。
二人は既に武器を出現させており、準備万端だ。
「どうして、貴方達が……」
「どうして? 決まっとるじゃろ、お主を助ける為じゃ!
お主を置いて、逃げれる訳が無い!!」
「それに強い奴と戦うんだろう? なら、戦うしかあるまい!」
「……困った人達だ」
マガミは不敵に笑うと、握り締めていた拳を少し緩める。
余計なお世話だが、今回に限ってはとても頼もしい。
勝てるかどうかはともかく、心の余裕ができた。
「数が増えましたね……どうしますか?」
「……何も変わらない。油断せず、叩き潰せ」
「了解しました」
対するプレイト達も武器を握る手を少し緩める。
相手が何人でも何者でも関係ない。それがエーデルリッターだ。
「――くっ、ここは?」
「あっ、起きた! 奏慈、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫?」
一方その頃、藍達はオクリの案内の元、山を登っていた。
既に七合目は過ぎており、もうすぐ八合目……順調そのものだ。
その途中で奏慈は目を覚まし、周囲を何度も確認する。一体、何が?
「そうだ、僕は確か!」
「ふん、やっと起きたか……いくらなんでも寝過ぎだぞ」
「ぼ、ボーア!!」
奏慈は慌てて藍の背から降りると、そのままボーアを掴み上げた。
言いたい事は山ほどある……奏慈は怒号を上げた。
「お前、一体どういうつもりだ!? 皆を犠牲にするなんて!!」
「……カンナギ、まだ分からないのか?」
「なに? うわ!」
ボーアはそんな奏慈を突き飛ばし、続けて言う。
「ゲンゲツ族は創造神様に忠誠を誓っている一族だ。
そんな一族がお前の犠牲になった……その意味が分かるか?」
「……分からない」
「お前の存在は……創造神様と同じくらい重いんだよ。理由は分からないがな」
「ぼ、僕が創造神と同じ? そんな訳が……」
信じられない話だが、筋は通っている。マガミは何故か、奏慈を敬っていた。
ボーアの言う通り、奏慈は創造神と同じくらい重い存在なのだろう。
「はあ、いいから早く立ち上がれ! ウダウダ言ってる暇は無いぞ!!」
「……分かった」
納得いかない奏慈だったが、ボーアの言う事も一理ある。
ここで殴り合っても、ルフ達の犠牲を無駄にするだけだ。
なら、思う所はあっても前に進んだ方がいい。それがケジメにもなる。
「皆、行こう! 創造神を復活させる為に!!」
奏慈は立ち上がると、力強くそう言う。迷っている暇は無い。
ルフ達を絶対助ける為、進み続ける。
「ふっ、世話が焼ける」
「ああ、言われなくても!」
「アタクシ達の心は一つですわ!」
「……だから、一緒に進みましょう」
「ええ、ひたすら前に」
そして、それは皆も同じ……奏慈達は全速力で神殿に向かうのだった。
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