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静かな夜

「なんじゃ、もう会っておったのか。

 こやつの名はマガミ! 誇り高きゲンゲツ族じゃ!!」

「げ、ゲンゲツ族のマガミ……」


驚く奏慈達を余所に、ルフは胸を張ってそう言う。

ルフの知り合いは前に奏慈と戦ったマガミだった。

そして、ルフの知り合いという事はマガミ自身も。


「そうよ、マガミも真祖の一人。

 ルフ同様、創造神に仕えているわ」

「こ、この人も創造神に……」


ただ者ではないと思っていたが、真祖とは思わなかった。

明かされていく真実に奏慈達は声を上げる事もできない。


「ですが、驚きました……まさか、ここを訪れるなんて」

「うむ、わらわも驚いたぞ。正に運命じゃな」


運命……確かにその通りだ。偶々ここに飛んで、マガミと再会した。

普段の望結なら、絶対に訪れない。魔力が少なかったからこその出会いだ。

これを運命と言わずして何と言う。


「世間話はいい! どうやってここに戻ったか答えて貰おう!!」

「それに奏慈と戦った理由についても答えて貰いますわ!」


だが、そんな事はどうでもいい。聞きたい事は山程あった。

フランとボーアはマガミに詰め寄り、答えを求める。


「分かりました。しかし、ここで話すには時間がかかります。

 続きは家で答えましょう」

「うむ、その方がいいじゃろう。ここは寒くて敵わんからな」

「……そうですね、ここはお言葉に甘えましょう」

「ちっ、仕方ない」


マガミの案内の元、奏慈達は村の中に入っていく。

信用できるかというと、怪しい所ではあった。

しかし、ここは雪山……立ち話をするには寒すぎる。

凍えて話を聞くよりも、家で聞いた方が身体に良いだろう。

思う所はあるが、マガミの後に続く。


「静かな村ですね。家は一杯あるのに、音一つ聞こえない」


奏慈は歩きながら、周囲を見回した。

遠目では小さく見えた村だが、入ってみるとかなり広い。

村というか町だ。家がいくつも並び、道も舗装されている。


「拙者達は余り騒がない種族ですからね。

 家の構造も相まって、音を出しません」

「じゃが、祭りの時は村総出で騒ぐぞ。

 前に参加した事があるが、とても賑やかじゃった」

「祭り……創造神関連か」


家は店を除き、窓が無く、形も丸かった。

防音性はその作りの御蔭だろう。断熱性も高そうだ。


「着きました。どうぞ、お入り下さい」

「はい、失礼します」


そうして歩くこと数秒後、奏慈達は一軒の家に辿り着く。

その家も他の家と同じ作りで、大きさも変わらなかった。

案内が無ければ、村長の家だと分からなかっただろう。


「わっ、思ったよりも中は広いんですね」

「はい、空間魔法で通常よりも広くしてあります。

 とはいっても、それは他の家も変わりませんが」

「この環境じゃからな。家を建てる土地も限られておる」


ノーブル山は雪や竜巻は勿論、雪崩も非常に多い。

その為、村も雪崩に巻き込まれない位置に存在する。

つまり、遠目で小さく見えたのは間違いではない。

狭い空間を無理矢理広げ、なんとか暮らしている。


「……そんな場所にどうして暮らしているんですか?

 他にもっと暮らし易い場所はあるのに」


奏慈の言う事は最もだ。暮らし易い場所は沢山ある。

わざわざ、過酷な環境に住む必要は無い。

住む理由があるとすれば。


「それは創造神様のお身体を守る為です」


その理由を突如部屋に入ってきた女が答えた。

見る限り、マガミと同じゲンゲツ族のようだ。


「えっと、貴方は?」

「これは失礼しました。マガミの妻のオクリと申します。

 以後、お見知りおきを」

「は、はい、よろしくお願いします」


オクリはそう言うと、奏慈達に頭を下げた。

その立ち振る舞いは優雅で、気品を感じる。

マガミの妻という事は彼女も真祖なのだろうか?

分からないが、今は話の続きを聞く。


「創造神の身体がここにもあるんですか?」

「はい、あります。九合目にある洞窟の中に」

「私達は創造神様をお守りする為に、ここに住んでいるんです」


この世界に住む多くの人々は創造神を信仰している。

それでも過酷な環境に身を置いて、その身を守る者は少ない。

どんな人間でも自分の身は可愛い物だ。無理したりしない。

ゲンゲツ族はその数少ない者達の一人なのだろう。

マガミと同じく創造神に仕え、動けない創造神に代わって働く。


「でも、どうしてそこまで?

 ルフさんもそうですが、何で仕えているんですか?」

「ううむ、それを言うと長くなるからのう。

 まずは先の質問から答えていく方が丸い」

「うん。皆さん、こちらへ」


疑問は増え続けるが、全部聞いていたらキリが無い。

マガミに勧められ、奏慈達は椅子に座った。やっと、本題に入れる。


「それでは答えていきます。どうやって、村に戻ったのか?

 これは単純に海を渡って戻りました……この身を使って」

「なっ!? ふ、船を使わずにか!?」

「はい、そうです。海の上を走りました」


マガミがたった四日で村に戻った方法。

常識的に考えたら、銀の扉のような空間魔法がベターだ。

だが、真実は海の上を陸地のように走るという物だった。

信じられない内容だが、嘘を吐いてるようにも見えない。

恐らく、真実なのだろう。奏慈達は啞然とする。


「次に拙者が戦いを挑んだ理由ですね。

 それは……ソウジ様が創造神様の元に向かえるか試す為です」

「試す為……ですか?」

「……はい。この世界にはウルトルクスと呼ばれる者達が居ます。

 その者達に負けないよう、お力を試す必要があったのです」

「もし、簡単に負けるようでは保護しなければならんからのう。

 創造神様に仕える者として、お主の身を案じておったのじゃ」

「……成程」


まさか、ここでもウルトルクスの名を聞くとは思わなかった。

マガミ達から見ても、ウルトルクスは厄介な存在らしい。

いずれ来る創造神復活の時には、対決は避けられないだろう。


「さて、次……と行きたい所じゃが、もういい時間じゃな。

 諸々の疲れも溜まっておる。もう休んだ方がいいじゃろう」

「……そうですね、正直もうクタクタです」

「同じくですわ」


窓が無いから分からないが、既に日は沈み、夜になっていた。

途中で休憩を挟みはしたものの、戦いの連続で疲れてもいる。

実はルフと会ったのも今日が初めてだ。そう考えると、かなり濃い。

もっと話を聞きたいが、ここは言われた通り休むべきだろう。


「それでは、食事の支度を始めます。貴方、手伝って」

「分かった。皆さん、しばらくお待ち下さい」


マガミとオクリは頭を下げると、そのまま奥に引っ込んだ。

長かった一日もようやく終わりを告げる。

奏慈達は晩御飯を楽しみにしながら、静かに待つのだった。


「――望結、今いいか?」

「……ええ、いいわよ」


ラムチョップと芋のスープを平らげ、各々の部屋に向かった奏慈達。

このまま寝ると思いきや、奏慈は望結とイカリの部屋を訪れた。

何の用事かは分かっている。望結は一呼吸置いてから、扉を開けた。

因みに藍はもう眠っている。豪勢な食事に満足し、爆睡中だ。


「イカリは居ないんだな」

「……イカリなら、マガミ達の所に行ってる」

「そうか」


重い空気が場に流れ始める。イカリが居ないのは不幸中の幸いか?

いや、寧ろ居た方が良かったかもしれない……望結の心の為にも。


「望結……お前は何を隠しているんだ?」

「……別に隠してなんて」

「とぼけるな。今日の事も含めて、ちゃんと答えて貰うぞ」

「……うう」


エルフとの戦いで、望結とイカリは奏慈達を危険に晒した。

それは決して許されない行為だ。だが、それは分かっていた筈。

そこまでする理由を奏慈は知りたかった。


「ずっとだ。アールヴに来てからずっと、誰も真実を言ってくれない!

 どうしてだ? 僕を守る為なら、尚更言ってくれてもいいだろう!!

 そんなに僕の事を……頼りないと思っているのか」

「ち、違う! 頼りないなんて……」

「なら、どうしてだ!? なんで、誰も本当の事を教えてくれない!!」

「うっ、うう……」


望結の目から涙が溢れる。言ってしまえば、全てが変わってしまう。

それが分かっているから望結は言わなかった。でも、これ以上は。


「失礼するぞ」

「えっ、ルフさん?」


そこにルフが割って入った。話を聞いていたのだろう、神妙な面持ちだ。


「そこまでにしておけ。それ以上、虐めてやるな」

「……どうして、庇うんですか? ミユは貴方に!」

「全て、お主を思っての行動じゃ。恨んだりせん。

 真実はいずれ分かる。明かされる時は近い」

「だから、それまで待て……という事ですか?」

「そうじゃ」


ルフは静かにそう言う。どうあっても真実を言うつもりはないようだ。

そこまでして、隠さなければならないのか? 望結を庇ってでも?

もう何も分からない。言いたい事は山程あったが、どうでもよくなった。


「もう寝る。今日の事は後で謝っておけよ」

「……うん、分かった」


奏慈はそう言うと、怒りのまま部屋を後にする。

望結とルフはそんな奏慈を黙って見送った。


「大丈夫じゃ。全て知った時、きっと感謝してくれるじゃろう」

「……ええ、そうあって欲しい」


望結は静かに泣き続け、ルフはその背を優しく擦る。

こうする以外、他に方法は無かった。

夜はさらに更けていく……その静けさを増しながら。


「静かね。こんなに静かなのは久しぶりですわ」

「……そうだな」


同時刻、フランとボーアは横になっていた。

船に揺られ、宿に泊まり、豪邸で眠った日々。

今日が一番静かに眠れそうな日だ。一体、何日ぶりだろう?


「……まだ、イリディ様の事を引き摺ってますの?」

「うるさい……当たり前の事を聞くな」


しかし、その静けさが嫌な事を思い出させた。話は数日前に遡る。


「くっ、ここは?」

「ふう、やっと起きましたわね。パンサスさんの屋敷ですわ。

 今の今まで気絶してましたのよ」

「そうか、ボクはあの後……」


槍戯の副作用で倒れた日。ボーアは夜中に目を覚ました。

フランは早速、イカリから聞いた話をボーアに話す。


「――だから、パンサスさんはそんなに悪い人じゃあ」

「で、それが何だ? ボクに何か関係あるのか?」

「えっ、関係って……あるに決まってますわ!

 そういう出会いがあったから、二人は!!」

「うるさい! ボクはもう寝る……これ以上、何も言うな」

「……ボーア」


それでその日の会話は終わった。だが、その時の話は今でも思い出す。


「イリディ様は幸せだった。理解のある夫に恵まれ、子も産まれて。

 パンサスは決して、イリディ様を利用しなかった……なのに」

「イリディ様は死に、パンサスさんは苦しみに囚われた。

 イカリが普通の子供じゃなかったのが、せめてもの救いですわね」

「……くっ、あの時のボクに力があれば!」

「ボーア……」


ボーアは責任を感じていた。二人の幸せを奪ったのは自分だと。

あの日、フランの目を盗んで抜け出さなければ、悪漢に捕まらなかった。

自分の立場を理解せず、好きにしようとした結果、殺したのだ。


「ボクの罪は重い……本当はボクが死ぬべきだったんだ」

「そんなこと……無いですわ。いつも振り回していたアタクシの方が」


二人の目から涙が溢れる……過去に行けるなら、今すぐにでも行きたかった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!

感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!

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