脱出
「はあはあ、中々やるのう」
「それはこっちの……台詞です」
一方、ルフとマティの戦いはまだ続いている。
お互いに息を切らせながらも、終わる気配を見せない。
「じゃが、お供の騎士は全て倒した!
形勢はわらわに傾いておる!!」
対して、騎士達は気絶して倒れている。
頑張ったものの、二人の戦いについてこれなかった。
ルフの言う通り、形勢はマティが不利。
騎士達が居て互角の実力なら、勝ちは決まっている。
「それはどうでしょう?
某の劇はここからが本番です」
だが、マティは余裕の表情を崩さない。
それどころか、この状況で勝ちを確信していた。
マティはそのまま激しく指先を動かす。
「第二幕、傀儡演舞の開演です」
すると、気絶していた筈の騎士達が突然動き出した。
まるでゾンビのように立ち上がり、手に武器を持つ。
「くっ、来たか……相変わらず、悪趣味な技じゃ」
「許可が無ければしませんよ。
さあ、続きを始めましょうか」
マティはそう言うと、再び指先を激しく動かす。
その瞬間、騎士達は一斉にルフに向かって走り出した。
マティは人形だけでなく、人を操る事もできるようだ。
「だとしても、わらわは倒せん!
お主の人形魔法は何度も見ておる!!」
――人形魔法。その名の通り、人形を自由に動かす呪文だ。
この呪文こそ、マティが人形使いと言われる由縁。
マティはこの呪文を使い、エーデルリッターになった。
傀儡演舞も人形魔法の応用の一つに過ぎない。
「なら、試してみましょう。これはどうですか?」
そして、傀儡演舞は一度に複数の人形を操る技だ。
戦いは個の力も重要だが、数による力も侮れない。
傀儡演舞はその数の力をたった一人で生み出せる。
現に今も十人以上の騎士がルフの四方を囲んでいた。
形勢有利に見えたが、ルフの不利は変わっていない。
「何度も見たと言っておろう!
この魔法の弱点は……」
それでもルフは怯まず、武器を斧から弓に変えた。
人形魔法の弱点……それは。
「お主自身じゃ!!」
「むっ!?」
ルフはそう言うと、マティに向かって矢を放った。
その矢は騎士達の合間を縫って、マティに迫っていく。
数の力を生み出せるといっても、それに意思は無い。
操っている本体を倒せば、あっけなく崩れ去る幻だ。
人形魔法の弱点……それは操っている術者その物。
「ぐっ!」
「よし、当たったぞ!」
矢は見事、マティに当たった。マティは痛みから蹲る。
もう戦いは続けられないだろう。長かった戦いも終わりを告げる。
「……ふっ、ふふふ、これで本当に終わったとでも?」
「な、なんじゃと!?」
しかし、マティは何事もなかったかのように立ち上がった。
身体に刺さった矢も抜き取り、余裕の笑みを浮かべる。
立ち上がる事はできても、痛みで笑みを浮かべる事は。
「今度はこっちの番です。大人しくやられて下さい」
「くっ、一体どういう事なんじゃ……」
マティに操られた騎士達がじりじりとルフに近付く。
騎士に攻撃しても、その動きが止まる事は無い。
止めるにはマティに攻撃し、操作を邪魔するしかなかった。
だが、それも護衛の騎士を傍に置き、もう通じない。
このまま、いいようにやられるしかないのか?
「終わりです!」
「……ここまでか」
ルフは覚悟を決めた。騎士達は同時に武器を振るう。
「――ふう、なんとか間に合いましたね」
その時だった。騎士とルフの間に何者かが割って入る。
そして、そのまま騎士の剣を受け止め、ルフを守った。
「お、お主は!」
「すみません、遅くなりました!!」
その正体は奏慈! 銀の扉で駆けつけた奏慈だった!!
奏慈はルフを守るように立つと、剣を構える。
「まさか、貴方が現れるとは……流石に予想外です」
それに対し、マティは全く表情を変えない。
そう言いながらも予想はしていたのだろう。
マティは自身の傍に騎士を集め、次の攻撃に備えた。
「なら、この作戦は成功ですね。
それでどうします? まだ戦いを続けますか?」
この状況、一見するとまだマティが有利なように見える。
しかし、奏慈が助けに来れたのは銀の扉があったからだ。
無ければ、こんな良いタイミングに助けに来れない。
つまり、見えていないだけで近くに藍達が居るのだ。
数の有利はもう存在しない。形勢は逆転した。
「いえ、止めておきます。無理はしない主義なので」
「……分かりました」
それが分からない程、マティも馬鹿ではない。
マティは全身から力を抜き、操っていた騎士達を解放する。
長かった戦いも今度こそ終わりを告げるだろう。
「望結、もう用は済んだ! 頼むぞ!!」
それを確認した奏慈は虚空に向かってそう言う。
すると、奏慈の背後に銀の扉が出現した。
「という訳じゃ、わらわは失礼するぞ!」
「マティさん、また会いましょう!」
そのまま二人は扉の中に飛び込み、姿を消す。
間もなく扉も消え、その場にはマティだけが残された。
「……今回は某の負けです。でも、次はそうはいきませんよ」
誰に聞かせるでもなく、マティは一人そう言う。
その顔は珍しく悔しそうだった。
「やれやれ、助かったわい……ミユ、感謝するぞ」
「……助けに行くと言い出したのは奏慈です。
貴方に感謝される謂われはありません」
「ふっ、そうかそうか」
――場面は変わって、無事に脱出した奏慈達。
ルフは戦いの疲れから、地面の上で横になる。
冷たい雪が身体を癒し、毛布のように包み込む。
「うん、雪? という事は……」
「予想通り、エーデル帝国領のノーブル山よ」
現在、奏慈達が居る場所は世界最高峰のノーブル山。その六合目だった。
ノーブル山はエーデル帝国が誇る山の一つ。
多くの動植物が存在し、独自の生態系を築いている面白い山だ。
しかし、厳しい環境のせいで訪れる者は少ない。
現に今も雪が降り積もり、竜巻のような風が吹いている。
「よ、よりによって、何でこの場所なんじゃ!!」
「そ、そうですわ! 防寒着も無しにこの寒さは……」
当然、そんな場所に突然放り出されたら身体が持たない。
望結とボーア以外、ブルブルと身体を震わせる。
空気も地上と比べると薄い為、息も荒くなり始めた。
何故、こんな場所に飛んだのだろう?
「まあ、言ってしまうと魔力不足のせいよ」
「ま、魔力不足?」
「そうよ。場所を指定して飛ぶのは魔力を使うの。
ここに飛ぶのも、結構ギリギリだったんだから」
「ぎ、銀の扉も万能じゃねえんだな……」
「そ、そんな事はどうでもいい! これからどうするんだ!?」
真相は分かったものの、危険な状況なのは変わりない。
戦いの疲れが残っている奏慈とルフは特に危険だ。
「取り合えず、五合目を目指しましょう。確か村があった筈です」
「村……あやつの村か。今は頼らせて貰うしかないのう」
ルフは肩を貸され、奏慈は藍に背負われて歩き出す。
雪山を何の装備も無しに歩くのは自殺行為だ。
しかし、これ以外に助かる道は無い。黙々と下っていく。
「大の大人が震えながら下山か。中々笑える光景だ」
「……それで、この者はなんでここに居る?」
「奏慈のせいです。奏慈が連れていくと言うので」
「ふむ、成程のう」
そうして下るメンバーの中にはハンデッドの姿もあった。
ルフ同様、奏慈の提案で救出される。
「おじ様を助けてくれたのは感謝しますわ。
でも、どうして?」
「……放っておけなかったからです。
一応、大ダコ退治を手伝ってくれた恩人でもありますし」
「そう、一応ね」
望結の迎えが来た時点で、奏慈はすぐに逃げる事もできた。
ルフはともかく、ハンデッドを見捨てても誰も文句を言わない。
寧ろ、助ける方が色々と言われるだろう……そういう男だ。
だが、奏慈は見捨てなかった。望結に頼み込み、救出する。
結果、魔力不足になり、この状況を招いてしまったが、後悔は無い。
助けたいから助けた。その思いに藍達もなんだかんだ応える。
「おっ、明かりが見えてきたぞ! あれが村なのか?」
「うむ、ゲンゲツ村じゃ」
「ゲンゲツ? という事はゲンゲツ族が住んでますの?」
「そうよ、ゲンゲツ族の村」
――ゲンゲツ族。魔族の一種で 暗闇でも見える目と尻尾を持つ。
圧倒的な体力で獲物を追い詰め、素早い動きで逃がさない。
生粋の狩猟民族だが、一度定めた場所から住処を移さず、住み続ける。
「分かり易く言うと、イメージは狼ね。戦闘能力はかなり高いわ」
「……そんな村に連絡もなく入ってもいいのか?
正直、ボコボコにされそうなんだが」
「大丈夫です。きっと、歓迎してくれますよ」
「そ、そうなんですか? なら、大丈夫か……」
嫌な想像が脳裏を過るが、奏慈はその言葉を信じる事にした。
それから数分後、奏慈達は村の入り口に辿り着く。
「わらわが先に入ろう。実は知り合いが住んでおるんじゃ」
「ああ、そうなんですね。気を付けて、行ってきて下さい」
「うむ」
ルフは頷くと、軽い足取りで村の中に入っていった。
偶然辿り着いた場所に知り合いが居るとは、なんとも運が良い。
不安はあるが、ルフの強さなら大丈夫だろう。奏慈達は待つ事にする。
「あっ、戻ってきましたわ!」
「横に誰か居るな……村長か?」
「……あの姿、どこかで見たような」
そうして待つこと数秒後、ルフは黒装束の男と共に戻ってきた。
男の身なりは良く、どこか賢そうだ。ルフのように校長なのだろうか?
「あっ、ああ! あの時の男!!」
「そ、そうですわ! 渦の洞窟の時の!!」
しかし、これが初対面ではなかった。男とは一度会っている。
リュウ救出の時に突然現れた男だ。奏慈を追い詰め、倒しかけた。
何故、ここに居るのだろう? 奏慈達はすぐに駆け寄る。
「ど、どうして、ここに?」
奏慈は藍の背から慌てて降り、男に聞く。
あの戦いから四日は経っているが、地理的にここに居るのは可笑しい。
サフラーからアールヴに行くのに船で五十日以上かかる。
そして、エーデル帝国から行くのも同じだけの時間がかかるだろう。
どう考えても、四日でここに戻るのは不可能だ。
「そうですよね、混乱なさるでしょう。
一つずつ答えます……まず、拙者はゲンゲツ村の村長です」
「……えっ、ええ!?」
だが、そんな事はどうでもよくなる位の発言が男から飛び出す。
積もり続けていく雪のように、謎は深まるばかりだ。
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