演技
「な、なんという強さだ……たった一人で我々を」
「狼狽えるな! 相手も同じ人間だ!!
いずれ体力も魔力も尽きる!」
「ほっほっほ、それはどうかのう」
同時刻、ルフは騎士団を相手に善勝していた。
奏慈達の心配を余所に、次々に倒していく。
結果、五十人以上居た騎士も十人まで減っていた。
この調子なら全員倒し切るのも時間の問題だろう。
「――来たのは正解だったようですね」
「あ、貴方は!?」
「むっ」
しかし、その予想はあっさりと破られる。
一人の少女がルフと騎士団の前に現れた。
その少女は他でもない……エーデルリッターのマティだ。
「ま、マティ様、何故ここに!?」
「決まっているでしょう……侵入者を捕まえに来たんですよ。
某も騎士の一人として、貴方達に協力します」
「お、おお! ありがとうございます!!
マティ様がいらっしゃれば、勝ったも同然です!」
「よし、立てる者は立て! ここで終わらせるぞ!!」
マティの登場に騎士団は沸き立つ。これほど心強い援軍は居ない。
倒れていた騎士達も立ち上がり、再びルフに武器を向ける。
(マティ、どういうつもりじゃ? 何故、わらわの邪魔をする?)
(……某は法に従ってるだけです。
悪い事は悪い。罰を受けて下さい)
(やれやれ、相変わらず真面目じゃな)
その裏でルフとマティは心話で会話していた。
どうやら二人は知り合いのようで、親し気に話している。
一体、どういう関係なのだろう?
「さあ、行け!!」
「手加減はしませんよ」
「はあ、やるっきゃないのう」
そうこう言ってるうちに、マティと騎士団はルフに向かって走り出した。
ルフは溜め息を吐きながらも、それを迎え撃つ。戦いは始まったばかりだ。
「見込みは当たっていたな……お前はワガハイが斬るに値する」
「はあ、それはどうも」
場面は戻って、奏慈とハンデッドの戦い。二人の戦いは一進一退だった。
ハンデッドの重い一撃を、奏慈は時を止めて躱す。
逆に奏慈の連撃を、ハンデッドは全て受け止めていった。
お互いに本気を出し切っていないとはいえ、攻め手に欠けている。
「まだまだ続けるぞ! お楽しみはこれからだ!!」
「……こっちの気も知らずに」
この戦いを楽しんでいるのはハンデッドだけだ。
奏慈はすぐにでも戦いを終わらせたい。だが、その思いとは裏腹に戦いは続く。
ハンデッドが満足するまで、この戦いは続くだろう。
「次はこの技だ! 剣心!!」
「くっ、遂に使ってきたか」
ここでハンデッドはギアを上げ、剣心を発動する。
無数の剣がハンデッドの周囲に出現した。
「さあ、いけ!」
「これを避けるには……」
その剣がハンデッドの指示で、凄まじい速度で迫ってくる。
あのスピネルでも受け止め切れず、全て破壊する事で攻略した魔法だ。
今の奏慈ではとても耐えられない。すぐに時止めの態勢に入る。
「そうはさせん!!」
「無駄だ! 時は止まる!!」
ハンデッドはそれに対し、力一杯空を斬った。
一体、何を? 奏慈はそう思いながらも、時を止める。
「なっ、時が!?」
しかし、次の瞬間、止まりかけていた時が動き出した。
それも何かが壊れたような音と共に。
一体、何が!? 突然の出来事に奏慈は対応できない。
「何が起こったか分からないようだな?
いいだろう、教えてやる」
時止めは未来に向かって流れていく時を一時的に塞き止める魔法。
その性質上、塞き止めている何かを壊せば、時は再び動き出す。
だが、目に見えないそれを壊すのは至難の業で、現実的ではない。
その為、今までの敵はその方法ではなく、違う方法で攻略していた。
「だから、斬ったのか……時を」
「そうだ! ワガハイの剣は時さえも斬る!!」
それをハンデッドはやってみせたのだ。時を斬る事によって。
「お前の時止めはもう通用しない! これで終わりだ!!」
「くっ!?」
時止めが封じられた今、剣心を止める術は無い。
奏慈は走り出すも、内心諦めかける。
「うっ、これは……」
そんな時だった。奏慈の頭に激痛が走る。
未来予知だ。こんな時に未来の映像が映し出される。
それには次に向かってくる剣の軌跡が全て映っていた。
これを見て、避けろというのか? 無茶振りにも程がある。
「……面白い。やってやるよ」
しかし、奏慈はその無茶振りに応える事にした。
未来予知が見せてきたという事は出来るという事だ。
なら、やってやる。諦めかけていた心に火が付いた。
「よっ! ほっ! おっと!」
奏慈は早速、剣を避けていく。剣の軌跡は未来予知の通り。
速度も目が慣れてきたのか対応できていた。
「どういう事だ? 時止めも使っていないのに何故」
その様子をハンデッドは静かに見つめる。
身体能力で避けていない。何かカラクリがある筈だ。
そう考え、少し離れた位置から剣を操る。
「はっ! てや!!」
避けるのにも慣れてきたのか、奏慈は一本ずつ剣を破壊していく。
これも通常では出来ない事だが、未来予知の御蔭で可能になった。
「そういう事か……ならば、やるべき事は一つ!」
ハンデッドはそれを見て、奏慈に向かって走り出す。
その速度は凄まじく、あっと言う間に奏慈の前まで辿り着いた。
当然、これも見えている。奏慈はすぐに振り返った。
「ふっ、やはり未来が見えているようだな」
「……この数秒で見抜いたか。剣魔の名は伊達じゃないな」
流石と言うべきか、ハンデッドは未来予知も察した。
初見で時止めに気付いた事といい、地頭はかなり良いようだ。
「だが、どうする? 見抜いた所で予知は防げないぞ!」
「どうする……だと? ワガハイの答えは決まっている」
ハンデッドはそう言うと、剣に力を込めた。
すると、剣に眩い光が集まり出し、その刀身を太く長くしていく。
スピネルの時にもやった剣を巨大化させる魔法だ。
「これがワガハイの答えよ!!」
ハンデッドはその剣を振り回しながら、奏慈に迫った。
狭い森の中、至近距離で大木のような剣で斬ってくる。
避けられるなら、避けられないような攻撃をすればいい。
シンプルだが、これを超える答えは存在しないだろう。
「まだ未来は見える……僕は負けてない!」
そんな絶望的な状況でも、奏慈は諦めていなかった。
未来を見ながら、全速力で走る。
地面が悪くても、お構いなしだ。
しかし、それ以上の速さでハンデッドは迫ってくる。
追いつかれるのは時間の問題だろう。
「諦めが悪いのは嫌いではない……でも、何故だ?
この状況で何故走れる?」
「ふっ、そういう所は頭が回らないようだな」
永遠に逃げ続けるのは不可能……それは奏慈も分かっている。
それでも逃げるのは時間を稼ぐ為だ。
そもそも、この戦いは藍達を逃がす為に始めた戦い。
例え負けても、目一杯稼げば目的は達成される。
最初から勝つつもりはなかった。
「成程、攻めが緩かったのもそれが理由か」
「だから、萎えて戦いを止めてくれないか?
僕は真面に戦うつもりも無ければ、勝つつもりもない」
「……いや、寧ろ面白くなってきた!
どこまで逃げれるか、ワガハイに見せてみろ!!」
「ちっ、面倒な……」
思ったよりも、奏慈はハンデッドに気に入られているらしい。
この調子では迎えが来るまで逃げ続ける事になる。
「し、しま!?」
「貰った! そこだ!!」
そんな事を考えていると、奏慈は木の根に躓いた。
勿論、これを見逃すハンデッドではない。
剣を振る速度を早め、奏慈に斬りかかる。
「うっ、ぐああああ!!」
奏慈はその剣に当たり、吹き飛ばされた。
もう終わりだ。そのまま地面に叩き落とされ、転がされる。
「良い戦いだった。スピネルには劣るが、素質は十分。
このまま鍛えれば、追いつくか追い越す事も可能だろう」
ハンデッドは勝ちを確信し、奏慈の元に歩き出す。
一撃必殺の剣を真面に受けたのだ。恐らく、気絶している。
例え意識があっても、痛みのせいで動けないだろう。
「も、もう勝ったつもりか?」
「ほう、まだ意識があるか。凄まじい精神力だな。
だが、戦いは終わった。ワガハイの勝ちは揺るがない」
「……それはどうかな? 周りをよく見てみろ」
「なに? それはどういう……こ、これは!?」
奏慈に促されるまま、ハンデッドは周囲を見る。
そして、ようやく気付いた。周囲の木々が無くなっている事に。
「そ、そうか、これは全部!」
「ああ、お前が全て斬ったんだ。
切れ味が良過ぎて、気付かなかったようだな」
狭い森の中で巨大な剣を振り続けたらどうなるか?
そんなの決まっている。途中で引っかかるか、斬れるかだ。
ハンデッドの場合は後者であり、今まで気付かなかった。
奏慈を追うのに夢中だったのもあるだろう。
「だが、それがどうした! 木が無くなった所で……」
「そうだな。問題はその木がどこに行ったかだ」
「ど、どこに行ったか……だと」
その言葉にハンデッドはハッとする。
木を斬ったら、その木は周囲に転がっている筈だ。
だが、周囲にあるのは切り株だけ。
どこにも転がっていない……一体、どこに行った?
木がひとりでに動いた訳でもないだろう
「その答えは……上だ!」
「う、上? なっ!?」
次の瞬間、ハンデッドの上に無数の木が落ちてきた。
それも一本二本ではない。十や二十だ。
大量の木々が降り注ぎ、ハンデッドを下敷きにしていく。
一体、何が起こっているのだろう?
「その木は全部、お前が斬った木だ。
剣の威力があり過ぎて、上空に飛ばしていた。
それが今、降っているに過ぎない」
「だ、だとしても、都合よくワガハイの上に……そうか!」
「ああ、未来予知を有効活用した」
未来を見ていく中で、奏慈は落ちてくる木々も見ていた。
最初は流して見ていたが、ある作戦を思いつく。
それがハンデッドを木の下敷きにし、倒す作戦だった。
「したたかな男だ……木の根に躓いたのも演技だったのか」
「そうだ。全て、お前を倒す為に動いていた。
殺す以外の方法だと、これしかなかったからな」
「……ふっ、ふふふ、面白い! 面白いぞ!
スピネルに続き、なんと面白い戦いだ!!」
騙され、下敷きにされているのに、ハンデッドは笑う。
普通なら怒りそうなものだが、気にしていない。寧ろ、満足していた。
「奏慈!!」
「あっ、望結! もう魔力は回復したのか!?」
「ええ、回復したわ! すぐにでもこの島を離れられる!!」
「そうか……それは良かった!」
そこに望結も合流する。どうやら無事に逃げ切れたらしい。
これで一安心だ。奏慈はほっと一息吐く。
しかし、まだ問題は残っている。奏慈は声を振り絞り言う。
「望結、ハンデッドも連れていこう」
「えっ、ええ!?」
その内容に望結は声を上げて、驚くのだった。
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