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予期せぬ遭遇

「き、騎士団だと!? 何を言って!」

「説明は後です! 今は早く逃げないと!!」

「わ、分かりましたわ!」


何が何だか分からないが、時は一刻を争そうようだ。

フラン達は奏慈の指示に従い、走り出す。


「説明しろ。一体、どういう事だ?」


そうして走ること数分後、ボーアは再び奏慈に訊ねた。

少し落ち着いた今なら、話してくれるだろう。そう考えての判断だ。

その考えは当たり、奏慈は少しずつ言葉を紡ぎ始めた。


「それが……自分でもよく分からないんです。

 突然、頭の中に映像が流れ込んできて」

「映像?」

「はい、とても不思議な映像でした」


奏慈はそう言うと、内容を説明し始める。

映像には走る騎士達と神殿が映っていた。

その騎士達は全員女で、手に武器を持っている。

間もなく、騎士達は目的地に辿り着いた……その場所は。


「私達がさっきまで居た石棺前です」

「なに!? ま、まさか、そこには!」

「ええ、私達も居ましたよ」


騎士達は休んでいた奏慈達に武器を向け、拘束していく。

現実感の無い映像だが、作り物にも見えない。

まるで、本当にあった出来事かのようだ。


「この映像を見た時、一瞬なんの事か分かりませんでした。

 でも、気付いたんです……これが未来予知だと」

「未来予知!? じゃあ、見えたのは未来なのか!?」

「僕はそう思う。そうじゃないと、色々と説明がつかない」

「……成程のう」


フラン達は黙り込む。奏慈が見たのは間違いなく未来だ。

それもそう遠くない未来……数分後と言ってもいい。

魔力が回復し切っていない今の状態では戦う事は不可能。

一体、どうする? フラン達は走りながら、考えた。


「望結、銀の扉は使えないのか? あれさえあれば」

「無理よ。まだまだ魔力が足りない。

 この人数を移動させるには、大きな魔力が必要なの」

「銀の扉は扱いが難しいんですよ」

「くっ、そう上手くいかないか……」


絶望感が場を支配し始める。

本格的にどうすればいいのか分からなくなった。

走って逃げるしかないのか?


「――そもそも、どうして騎士団が?

 アタクシ達は結界を突破しましたわよね?」


そんな中、フランは思い出したかのように言う。確かにそうだ。

何故、騎士団はここに向かって来ているのだろう?

通知が無ければ、騎士団がここまで来る事は無い。

無事に結界を突破している以上、通知は無かった筈だ。


「……たぶん、中光だ。アイツが騎士団に通報したんだろう」

「そうね。それ以外、考えられないわ。

 私達がしばらく残ると考えて、通報したのよ」

「ちっ、小さい男だ」


奏慈達は呆れた様子で言う。

当初の目的を果たさず、さっさと逃げた挙句、騎士団に通報。

自分は安全な所から高みの見物と来た。なんと情けない事か。


「いえ、これも計画の内だったんだと思います」

「計画?」


しかし、本当の目的は奏慈達の抹殺だったのかもしれない。

未来予知は奏慈達にとっても欲しい力。見逃す訳にはいかない。

その心理を利用し、ここに留めさせ、一気に潰す。

これは完全に憶測の話だ。何か証拠がある訳でもない。

だが、そう考えると全てが繋がる。素直に帰ったのもそれが理由だろう。


「だとすれば、まんまと引っかかった……という訳か。

 すまなかった。わらわのせいで、お主達を危険な目に」

「いえ、気になされないで下さい。悪いのは中光です。

 ルフさんは何も悪くありませんよ」

「……すまない」


なんにせよ、騎士団が向かってきている事実は変わらない。

奏慈達は気持ちを切り替え、前を向く。間もなく、地上だ。


「どうですか? 周りに誰か居ますか?」

「……分かりません。妨害の影響か探知できない。

 それに……結界が消えている? どういう状況なのでしょう」


息を殺し、周囲を確認しながら、奏慈達はゆっくりと洞の中から出た。

どうやら、まだ騎士団は来ていないようだ。

チャンスは今しかない……足元に気を付けながら、奏慈達は走り出す。


「見つけたぞ!!」

「くっ!?」


しかし、それは騎士団が仕掛けた巧妙な罠だった。

奏慈達はあっと言う間に取り囲まれ、武器を向けられる。


(ううむ、仕方ない。ここはわらわが上手いこと言う。

 お主達はそれに合わせてくれ)

(わ、分かりました)


こうなったら、真面に逃げられない。奏慈達は賭けに出る事にした。


「おお、よく来てくれた!! コイツらが例の不法侵入者じゃ!」

「……貴方は?」

「わらわか? わらわはアンゴル使用人学校の校長よ!

 ちゃんと許可は取っておるからな、確認しておくれ」

「……分かりました」


ルフの言葉を受け、一人の騎士が懐から紙を取り出して確認し始める。

許可を取っているのは本当だ。これで引っかかる事は無い。


「……確かにありました。それで何故彼らと一緒に?」

「ああ、捕まえたんじゃ。森の中をうろついておったからな。

 じゃが、逃げ足が速くてのう……やっと、捕まえた所なんじゃ」

「そ、そうなんです、捕まっちゃって……」

「……成程」


デジャブだ。前にもこういう事があったような気がする。

あの時はあっさりバレたが、今回はどうだろう?

このまま行けば、逃げるチャンスを作れるかもしれない。


「それでの、わらわは通して欲しいんじゃが……」

「駄目です」

「えっ、今なんて?」

「ルフさん、貴方にも逮捕状が出ています。大人しくして下さい」

「……くっ、失敗か」


しかし、その希望はあっけなく潰える。全て、お見通しのようだ。

ルフは少し息を吐くと、小声で奏慈達に言う。次の作戦はもう決まっている。


「わらわが囮になる。お主達は早く逃げるんじゃ」

「そ、そんな! そんな事したら、ルフさんが!!」

「そうですわ! 誰か一人が犠牲になるなんて……」


当然、それを受け入れる奏慈達ではなかった。

ルフは並みの者では敵わないくらい強い。

騎士の一人や二人なら瞬殺できるだろう。

だが、今周囲に居る騎士の数は十を超えている。

これからもっと増えていく筈だ。そうなったら、どうなるか?

物量に押され、負ける可能性がある。そうさせたくなかった。


「安心せい。この程度の数で負けはせんよ。

 寧ろ、守りながら戦う方が苦手なんじゃ。

 じゃから、さっさと逃げてくれ」

「……分かりました。その思い、無駄にはしません」

「ええ、悔しいですけれど……逃げさせて頂きますわ」

「……すまんな」


それでもルフの覚悟は変わらない。一人で戦うと決めた。

その姿を見て、奏慈達も折れる。奏慈達のやるべき事は一つ。


「おい、さっきから何を……うぐっ!?」

「さあ、行け!」


ルフは目の前に居る騎士を突き飛ばし、道を開いた。

奏慈達は急いでその道を通り、全速力で逃げる。

捕まる訳にはいかない。ルフの為にも必死に逃げる。


「に、逃がすな! 追え!!」


だが、そのまま逃がすほど騎士達も甘くない。

すぐに奏慈達の行く手を阻み、逃げるのを防ぐ。


「くっ!?」


騎士の手が伸びる。やはり、逃げ切れないのか?


「がっ!?」

「うう……」


しかし、次の瞬間、騎士達は次々に膝を突き、倒れていった。

一体、何が起こった? そう思ったのも束の間、声が響く。


「さあさあさあ、お主らの相手はわらわじゃ!

 わらわを倒さん限り、先へは進ませんぞ!!」


ルフは右手に剣、左手に斧を持って、高らかに宣言する。

あの一瞬でルフは五人の騎士を倒してみせた。

なんという強さだ……騎士達は思わず、尻込みする。


「ひ、怯むな! 正義は我らにある!!」

「おっ、おお!!」

(さて、楽しませて貰おうかの)


それでも騎士達は武器を掲げ、ルフに向かっていった。

一対多数の戦いが今、始まる!


「――ルフさん、本当に大丈夫かな」

「今は信じるしかない。それがボク達の役目だ」

「ああ、その通りだぜ」


一方、奏慈達は森の中を全速力で走っていた。

わざと通り難い場所を選び、縫うように進む。

交戦を避けるには、獣道を進むのが一番だ。

その為、躓きながら、傷を増やしながら走る。


「おっと、待って貰おうか」


だが、そんな奏慈達の前に大剣が振り下ろされた。

それでも追いつかれてしまったらしい。


「あっ、貴方は!?」

「お、おじ様!?」

「うん? なんだ、お前達か」


しかし、そこに居たのは騎士ではなく、ハンデッドだった。

予期せぬ遭遇に奏慈達は困惑する。

対するハンデッドはどこか嬉しそうにしながら、剣を仕舞った。


「ど、どうしてここに?」

「どうして? 戦いの匂いがしたからに決まっているだろう?

 ワガハイは常に戦いを求める……そういう性だ」

「はあ、噂以上の戦闘狂ね……」


奏慈達は増々困惑する。今、奏慈達が居る場所は禁呪の森だ。

男子禁制で、許可が無いと王族でさえ入れない場所。

そんな場所に戦いの匂いがするからと、ハンデッドは入った。

奏慈達も無許可で入っているとはいえ、異質過ぎる。


「さて、ここで会ったのも何かの縁だ。

 ワガハイの相手をして貰おうか?」


当然、そんなハンデッドは再び奏慈達に剣を向けた。

こちらの都合など全く考えてくれないようだ。


「お、おじ様、今はそういう事をしている場合じゃ!」

「そうです! 騎士団に捕まったら、一巻の終わりですよ!」

「ほう、騎士団も居るのか」


二人は必死に説得する。だが、ハンデッドは真面に聞いていない。

寧ろ、戦う相手が増えた事に喜んでいるようだ。

このままでは騎士団に追いつかれ、また取り囲まれてしまう。

一体、どうすれば……焦りと不安から考えが纏まらない。


「分かりました。私が相手をしましょう」

「なっ、奏慈!?」


そんな中、奏慈は剣を出現させて、ハンデッドに向けた。

まさか、一人で戦うつもりなのか?


「だ、駄目だ! 戦うなら、オレも一緒に!!」

「いや、僕一人で戦う。

 ここで全員捕まる訳にはいかないだろ?

 僕を置いて、早く逃げろ」

「そ、奏慈……」


その通りだ。なにも全員で戦う必要は無い。

誰か一人がハンデッドと戦い、他は逃げる。

そうすれば、騎士団に追いつかれても犠牲は一人で済む。

そして、今ハンデッドと戦えるのは奏慈だけだ。

フラン達の魔力は回復し切っておらず、体力も戻っていない。

マナを直接使える奏慈しか戦える人物は居ないのだ。


「分かった。でも、無理はするなよ」

「絶対ここに戻ってきますわ!」

「ええ、銀の扉で迎えに来る」

「ですので、安心を」

「……ありがとうございます。さあ、行って下さい!」


別れの挨拶を済ませ、フラン達は走り去っていく。

唯一、藍だけは何も言わなかったが、その瞳は応援していた。


「お待たせしました……早速、始めましょうか」

「ああ、細かい挨拶は無しだ。戦いを楽しもう」


こうして、奏慈とハンデッドの戦いが始まる。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!

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