未来予知
「……着いたか」
奏慈は気が付くと、真っ白な空間に立っていた。
もう三回目になる力を受け取ってきた空間だ。
周囲にはまだ誰も居ないが、人の気配を感じる。
間もなく、奏慈の前に異世界人が現れるだろう。
「待っていました」
その予想は当たり、茶髪の青年が奏慈の前に現れた。
青年は手に光の玉を持っており、笑顔を見せている。
「お待たせしました。
貴方がこの神殿に眠る異世界人ですね?」
「はい、そうです。これを受け取って下さい」
青年は早速、奏慈に向かって光の玉を飛ばす。
今まで通りなら、それが未来予知なのだろう。
玉は吸い込まれるように、奏慈の身体に入っていく。
「ふう、ありがとうございます」
「いえ、当然の事をしたまでですよ」
何の問題も無く、玉は奏慈の身体に収まった。
三回目にもなると、流石に慣れてくるものだ。
奏慈は全身に駆け巡る力を確かめ、頭を下げる。
これで未来予知を使えるようになったのだろう。
「さて、私の役目は終わりました。この辺で……」
「ちょっと待って下さい。ここを去る前に一つ、聞きたい事があります。
良いでしょうか?」
「……答えられる範囲なら良いですよ」
「ありがとうございます。
どうして、貴方達は私に感謝するんですか?
私は感謝されるような事を何もしてませんよ?」
目的を達成し、あとは帰るだけ。
そんな中で、奏慈は青年に疑問をぶつける。
初対面の筈なのに、奏慈は感謝されてきた。
感謝されて悪い気はしない。でも、謎は残る。
彼らは一体、何に感謝しているのだろうか?
「……残念ながら、それに答える事はできません」
「そうですか……」
予想はしていたが、答えてくれなかった。
謎は謎のままのようだ。
「でも、いずれ分かります。
皆、貴方に感謝しているんですよ」
「僕に……感謝を」
「……では、この辺で失礼します。
ありがとうございました」
青年はそう言って頭を下げると、霞のように消える。
空間には奏慈だけが残され、再び一人になった。
いずれ分かる……その時は果たして訪れるのだろうか?
分からない。今はただ、前に進むしかないようだ。
「――あれ、ここは」
「あっ、気が付きましたわ!」
「やれやれ、世話が焼ける……」
「よ、良かった……全く、いい加減にしろ!」
どれくらい経ったのだろう。
奏慈は気付くと、藍の膝の上で眠っていた。
傍にはフラン達も居り、心配そうに見つめている。
「す、すみません……そんなに長く眠ってたんですか?」
「ええ、寝てましたわ。大体、一時間くらいは」
「い、一時間!? ほ、本当にすみません……」
数秒だった今までと違い、今回は長く眠っていたようだ。
心配するのも無理は無い……フラン達には悪い事をした。
「まあ、ボク達は問題ない。問題は……」
「……藍、そろそろ起きてもいいかな?」
「駄目。もう少し、横になってろ」
「アイさんですわね。しばらく、離してくれませんわよ」
そんな奏慈を一番心配していたのが藍だ。
藍は奏慈が倒れているのを確認すると、真っ先に駆け出す。
そして、そのまま膝枕し、癒し続けた。
有難い反面、とてつもない愛情を感じる……少し怖い位だ。
「それで力の方はどうなの? 使えそうな感じ?」
「……わ、分からない。どうやったら使えるんだろう」
そうして拘束される中、望結は未来予知について尋ねる。
得てしまった以上、使う事に関しては反対しないようだ。
「前も思いましたが、どうしてやり方を聞かないんですか?
ぶっつけ本番で使うには危険ですよ」
「え、えっと……聞くの忘れてたというか」
「はあ、困ったものですわね」
「ああ」
どんな力を得ても、使い方が分からなければ意味は無い。
奏慈のポンコツさにフラン達は呆れる。だが、同時に安心もしていた。
力を得た人間はその力に溺れ、人格を歪めていくものだ。
それは聖人であっても変わらず、自分であり続ける事はとても難しい。
「ううん……そうだ、ルフさん!
ルフさんなら、何かやり方を知ってるかもしれない!!
ここに未来予知があると知ってたし!」
「確かに知ってそうですわね」
しかし、奏慈は変わらなかった。自分を維持し続けている。
これで力を得るのは三回目になるが、これからも変わらないだろう。
「ふむ、未来予知についてか……」
「はい、やり方を教えて欲しいんです!」
「成程のう……残念じゃが、わらわもやり方は知らん」
「えっ」
だが、ルフもそのやり方を知らなかった。もうどうしようもない。
「じゃあ、どこで未来予知の事を知ったんですか?
調べて知ったのなら、やり方も多少知ってるでしょう」
ボーアの言う事は最もだ。未来予知と聞けば、誰しも詳細が気になる。
寝る間を惜しんで調べるのが普通だろう。
しかし、ルフは違った。この神殿にあるという事だけを知っている。
つまり、本か何かで知った訳ではないという事だ。
「そうじゃのう……良い機会じゃ、話すとするか」
ルフは逡巡するも、石棺の前に座り、話し始めた。
その内容は奏慈達に衝撃を与える事になる。
「まず、何故未来予知について知っていたか?
それは簡単な話じゃ。この神殿の建設に関わっていたからよ」
「か、関わった!? それは本当ですか!」
「うむ、本当じゃ。じゃから、その異世界人と交流があった。
未来予知の事もその時に聞いたのよ」
思いもかけない内容に、奏慈達は開いた口が塞がらない。
確かに建設に関わっていたのなら、様々な疑問が解消される。
石棺の前まで案内できたのも、建設に関わっていたからだ。
「という事は一体、何歳ですの?
ヴァンプ族はそんなに長く生きれない筈ですわ」
「うむ、そうじゃのう。じゃが、わらわは通常のヴァンプ族とは違う。
具体的な数字は言わんが、千は軽く超えておるよ」
「千を超えている? エルフ族より長生きじゃないか……」
同時に新たな疑問が生まれた。それはルフの年齢についてだ。
人は百年、エルフは千年、ヴァンプは五百の時を生きる。
人族と比べると十分長いが、エルフ族の半分しかない。
最長で五百年の為、どう頑張っても千を超える事は不可能な筈だ。
「さっき言ったように、わらわは通常のヴァンプ族とは違う。
なにせ、真祖じゃからな」
「なっ、真祖だと!?」
その疑問の答えが真祖だった。ルフは静かに語り出す。
真祖。それは一番最初に産まれた者であり、その種族の始まり。
最も強い力を持ち、寿命も通常より長いとされている。
しかし、半ば伝説の存在で今まで確認された事は無い。
あくまで文献の中に出てくる不思議な存在でしかないのだ。
「真祖が本当に居たなんて……素晴らしいですわ!!
表向きは校長なのも、良いですわね!」
「お、おう?」
そんな存在が目の前に居た。フランは興奮を抑え切れない。
「気にしないで下さい。いつもの事なので」
「わ、分かった」
興奮するフランを置いておいて、これで疑問は全て解決した。
ルフの言ってる事が本当なのかどうかは分からない。
だが、わざわざこんな突飛な嘘を吐く必要も無いだろう。
ルフは本当の事を言っている。そう思っていい筈だ。
「最後にもう一つ言っておこうか。
わらわは創造神様に仕える六人の内の一人よ」
「創造神に仕える一人? どういう事ですか?」
「そんなの初めて聞いたぞ」
「まあ、初めて言うからのう。
動けない創造神様に代わって動く。それがわらわ達の仕事じゃ」
ここに来て、また知らない情報が出てきた。
奏慈は勿論、フラン達も聞いた事が無い存在だ。
どうして今になって、言おうと思ったのだろう?
「いや待てよ、六人……という事は、まさか!?」
「そうじゃ、マキも創造神様に仕える一人。
思う所はあるが、一緒に働いておる」
そして、明かされる衝撃の真実。
思い返せば、真妃はこの世界の創造神の為に動いていた。
ルフもその仲間なら、神殿の建設に関わっているのは当然のこと。
今やっと、全てが繋がっていく。
「奏慈、言ったでしょう……そいつは敵なのよ!
真妃と共に貴方を苦しめる敵!!」
そして、ここぞとばかりに望結は責め立てる。
確かに望結が言った事が本当なら、ルフは敵になるだろう。
「ルフさん、創造神の事をもっと教えてくれませんか?」
「なっ!? そ、奏慈!」
「……分かった。わらわの知ってる範囲で答えよう」
しかし、奏慈は知っている。望結の言葉には嘘があると。
なら、今は望結の言葉より、ルフの言葉を聞きたい。
真実を知る為にも、今は情報が欲しかった。
「では、話していくぞ。創造神様と邪神の戦いは知っておるな?
創造神様は邪神に勝ったが、代償として眠りに就く事になった。
それは嘘ではないが、真実でもない」
「どういう事ですか?」
「娘じゃ。自身の子に襲われ、バラバラにされたのよ。
邪神との戦いで弱ってる所を狙われてな」
「……中々、卑劣な事をしますね」
六千年以上前にあった創造神と邪神の戦い。
その裏で事件が起こっていたようだ……娘は何故、父親を襲ったのだろう?
「ま、待て! 娘が居たなんて、オレ初めて聞いたぞ!?」
「同じくですわ! どういう事ですの!?」
「どういう事も何も隠されてきたからじゃ。
知られると、困る者が居るからのう」
ルフは意味ありげにそう言う。娘が誰か知っているのか?
「まあ、今はそんな話どうでもいいんじゃ。本題はこの後よ。
創造神様は動けない自分に代わり、動ける者を求めた。
それが我らなのじゃ! 真祖もこの時に多く産まれた!」
「それじゃあ、ルフさんも?」
「うむ、わらわもこの時に産まれた」
明かされていく真実に、奏慈達は驚くばかり。
娘の存在、眠った真相、真祖が産まれた理由。
どれも歴史がひっくり返るレベルの話ばかりだ。
にも拘わらず、まだまだ話せる事があるという。
奏慈達は思わず、前のめりになって話を聞く。
「うっ、これは……」
そんな時だった。奏慈の頭に激痛が走り、映像が飛び込んでくる。
その映像には大勢の騎士達が映り、神殿を走る様子が描かれた。
一体、これは何だ? 奏慈は一瞬そう思うも、すぐにそれが何か理解する。
「そ、奏慈、大丈夫か!?」
「……に、逃げましょう」
「えっ?」
「こ、ここに騎士団が向かってきてます! 早く逃げましょう!!」
しばらく続くと思われたルフの話……それは突然終わりを告げた。
奏慈が見たのは未来予知。未来の出来事を描いたものだった。
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