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ガントレット

「この先にウルトルクスが……」


奏慈は呟くようにそう言うと、洞の中を覗き込む。

通常、樹洞とも呼ばれる木の洞は人が入る物ではない。

鳥や昆虫など小さい生き物が寝床や食糧庫に使う物だ。

その為、内部を覗き込むほど本来は広くない。


「間違いない、これは階段だ。

 自然にできる物じゃないぞ」

「差し詰め、ウルトルクスの秘密基地ですわね」


しかし、その洞は違った。地下に階段が続いている。

綺麗に整えられた石段で、人工物である事は一目瞭然だ。

ウルトルクスはこの階段を下り、姿を晦ましたのだろう。


「この魔力……ツェーンが持っていたのと同じです」

「……じゃあ、本当にこの先に居るのか」


皆が覗き込む裏で、イカリは魔力探知をしていた。

その結果、この先にウルトルクスが居る事が確定する。

ツェーンと同じ魔力を持つのは同じ肉人形か術者のみ。

ここから先はいつウルトルクスが出ても、可笑しくない。


「ルフさん、その娘は」

「分かっておる。わらわはこの娘を引率の元まで送ろう。

 送り終えたら、お主達に合流する」

「ありがとうございます……では、行きます!」

「うむ、気を付けるのじゃぞ」


ここで奏慈達とルフは分かれ、別々に行動する事にした。

生徒をここに置いて行く訳にも、付いて行かせる訳にもいかない。

神秘探求院の生徒に起きた神隠し……その犯人はウルトルクスだ。

目的は分からないが、隙を見せる必要も無い。

生徒の安全を徹底しつつ、奏慈達は先に進む。


「暗いな……一寸先は闇だ」

「ボルテック・ライト!! うん、これなら見えるわね」

「……それ、いちいち言う必要ありますの?」


奏慈達は武器を出現させたまま、階段を下っていく。

明かりは望結が出した電気を纏った光だけ。

それで照らせない先は暗闇が支配し、湿った空気が流れていた。


「そういえば、どうしてウルトルクスだと分かったんでしょう?

 見た目だけでは分かりませんよね?」


そんな階段を下りながら、奏慈は改めて思い返す。

世界中で暴れていても、ウルトルクスの姿を知る者は少ない。

なのに、生徒はウルトルクスだと断言し、自信満々だった。

魔力探知で居る事は確定したものの、謎が残る。


「奏慈、気付かなかったの? 彼女はメタイム族よ」

「メタイム族? あっ!」


メタイム族は魔力以外はそっくりに化けれる魔族だ。

それは肉人形が相手でも変わらない。例外は創造神のみ。


「今、この森に入れるのはアンゴル使用人学校の関係者だけ。

 それ以外は無断で入っている侵入者になります。

 あの生徒はそんな侵入者を偶然見かけ、化けてみたのでしょう」

「化ければ、実質そいつの心も知る事ができるからな。

 ウルトルクスだと断言したのも、その御蔭だろう」


メタイム族の変身魔術は見た目だけの物ではない。中身もそっくりにできる。

その為、脳もそっくりにすれば、相手の事を知る事も可能だ。

化けた時点までしか知れないが、正体を知るには十分だろう。


「あれ? という事はシンガン族の上位互換か?

 精神耐性のある相手も読めるし、制限もないよな」


それを知り、奏慈は思わず口にした。

相手の思考……心を読めるのはシンガン族も同じ。

だが、心を閉ざされたり、精神耐性がある者は読む事ができない。

心の声も、相手が心の中で喋っている時のみ限定だ。


「な、なんだと!? それは聞き捨てならないぞ!」

「だって、そうだろ? 最近、活躍してる所を見てないし」

「うっ、むむむ!!」

「……はあ、ちゃんと強みはありますよ」


シンガン族とメタイム族の違いは、現在進行形で読めるか否か。

化け終わるまでタイムログがある以上、必ずワンテンポ遅れる。

その為、心が読めてもメタイム族はシンガン族に及ばない。


「成程、メタイム族はついでに読める程度なのか」

「そういうこと。さあ、くだらない話してないで進みましょ」

「く、くだらなくて悪かったな」


談笑もここまでにし、奏慈達は黙って階段を下り始める。

そうして下ること数分後、遂に終わりが見えてきた。

階段の先にほのかな光が見え、空気の流れを感じる。

それを見た奏慈達の足は早くなり、間もなく最下層に辿り着く。


「つ、着いたけど……本当に地下なのか? これはまるで」

「異世界人の神殿……ですわね」


地下にも拘わらず、その空間は綺麗で澄んだ空気が流れていた。

床と壁は青を基調とし、中央には創造神の像も立てられている。

これは間違いなく、異世界人が建てた神殿だ。


「でも、どうして地下に? これじゃあ、隠されてるみたいだ」


奏慈は首を傾げる。この神殿は今まで見てきた物と違った。

分かり難い階段を下り、人が入れない森の地下にある神殿。

とてもじゃないが、人が訪れるような神殿ではない。

明らかに人を遠ざけようとしている。でも、一体何の為に?


「――そうだよ、だいせいか~い!」

「っ!?」


そんな神殿に耳障りな声が響き渡った。

人を小馬鹿にしたような女の声……奏慈達はすぐに振り返る。


「でも、よくここが分かったね! 花丸あげちゃおうかな?」


そこに居たのは砂蠍神殿で戦ったエルフだった。

あの時と同じ不快な声を響かせ、腹を押さえて笑っている。

嫌な予感はしていたが、また会う事になるとは。


「エルフ、ここで何をしていた! 答えろ!!」

「……ちっ、あーあ、しらけるなあ」


その笑いも奏慈の一言で、嘘のように消え去った。

エルフは剣を振り回し、何度も地面に叩きつける。


「あのさ、貴方達に何かした? してないと思うんだよね。

 だから、消えてくれる? 目障りだからさあ」

「そうはいきません。平和の為、君達を見逃す訳にはいかない」

「あっ、そう……じゃあ、さっさと死んでよ」


エルフはそう言うと、奏慈達に向かって走り始めた。

その速度は前戦った時よりも遥かに速い。

あっと言う間に奏慈の前まで迫り、剣を振り下ろす。

こうして、戦いは始まるのだった。


「くっ!?」

「成程、聞いていた通りだな」


だが、藍はそれよりも速く動き、エルフの剣を受け止める。

藍は奏慈からエルフの戦い方を聞いていた。

エルフは初見殺しこそキツイものの、それ以外は強くない。

種さえ分かれば、以降はどうとでもなる。

そこに心が読め、精神耐性がある藍が居るとどうなるか?


「一撃で終わらせてやる! おらっ!!」

「がはっ!?」


何もできず、やられる。そういう運命だ。

何度も同じ手を食らう程、奏慈達は甘くない。

エルフは藍のモーニングスターを腹に食らい、地面に倒れる。


「こっちは聞きたい事があるんだ! 起きろ!!」

「ぐっ!?」

「……奏慈、程々にしろよ」


そんなエルフの腹に奏慈は蹴りを入れ、叩き起こす。

牢屋に入れられたら何も聞けなくなる。今聞くしかない。


「エルフ、答えて貰うぞ……ここで何をしていた?」

「誰が言う……があぁ!?」

「言わなければ、お前を殺す」


奏慈はエルフの頭を足で押さえつけ、改めて聞く。

この光景だけ見ると、どっちが悪人か分からない。

止めに入るべきだが、今の奏慈は聞く耳を持たないだろう。


「い、言う! だから、殺さないで!!」

「……話せ」


奏慈は油断せず、頭を押さえつけたまま聞く。

周りには藍達も居る。逃げる事はできない。


「ふ、封印を解くには魔力が要る!

 その為にあーし達は生徒を誘拐したの!」

「封印? 何の封印だ?」

「い、異世界人の封印よ! 決まってるでしょ!」

「なんだと?」


ここに来て、初めて聞く話だ。エルフは続ける。


「創造神から与えられる加護!

 それはどれも世界を変えられる程の物よ!!

 あーし達はそれを手に入れる為、やって来た!」

「何故ここなんだ? 他にも神殿はあるだろう?」

「わ、分かんないの? ここには一番強い加護がある!

 だから、来たのよ! それを手に入れる為にね!!」


創造神の加護。それを異世界人なら誰でも貰える物だ。

異世界人はその加護を使い、時に変化を齎し、世界を平和に導いた。

そして、死後は貰った加護を神殿に封じ、眠りに就く。


「でも、計画は大失敗……一度も誘拐できなかった。

 他の方法も試したけど、封印は解けそうにない。

 ほんと、大失敗……貴方達が来るまではね」

「なに? ぐあああ!?」


エルフがそう言った瞬間、奏慈達の身体に衝撃が走った。

その衝撃は波打つように全身を駆け抜け、力を奪っていく。

一体、何が起きた? 疑問に思いながらも、奏慈達は次々に倒れる。


「あははは、一度負けた相手に対策してないと思った?

 それはいくらなんでも舐め過ぎ! 舐め舐めよ!!」


反転攻勢。今度はエルフが奏慈の頭を押さえつける。

抵抗しようにも、指一本動かせない……万事休すか?


「くっ、一体なにをしたんだ?」

「ふふふ、教えて欲しい? 教えて欲しい?

 教えなーい! そのまま無様に……」

「恐らく、神殿の仕掛けを作動させたのでしょう」

「仕掛け?」

「ちっ……」


この神殿にも他の神殿と同じ所があったようだ。

それは侵入者を阻む仕掛け。

アルマ王国の神殿なら守護者。砂蠍神殿なら迷路がそれに当たる。

エルフはその仕掛けを作動させ、奏慈達を倒したのだろう。


「力の抜け具合を見るに、魔力を吸われていますね。

 このままでは、数分後には死亡するでしょう」

「数分!? な、なんとかできませんの?」

「イカリ、なんとかしなさい!」

「……現状、厳しいですね。どうしたものか」

「くっ、油断し過ぎたか」


先に居た以上、地の利はエルフにあった。

仕掛けの件も神殿だと分かった時点で警戒しておくべきである。

完全に油断していた……でも、問題はここからだ。

どうすれば、この状況を乗り越えられる? 考えなければならない。


(この状況を変えるには力が要る……その力は)


その方法を藍だけは既に知っていた。

いや、正確に言うと予想だ。その方法でいけるかは分からない。

でも、やるしかなかった。選り好みしている暇は無い。


「うっ、うおおおおお!!」

「な、なんなの!?」

「藍、何をする気だ!?」


藍は残った魔力を全て、右腕に集める。

すると、右腕が輝き出し、ガントレットが装着された。

真妃から受け取った謎のガントレット。

この状況を変えるには、それしか方法は無い。


「はあはあ……」

「お、驚かせないでよ! なによ、そのガラクタ!!」


だが、何も起きなかった。藍は変わらず、倒れたまま。


「ああ、ムカつく! お望み通り、殺してやるわ!」

「あ、藍、避けるんだ!」


激昂したエルフは藍に向かって剣を振り下ろした。

藍が死んでしまう……奏慈は思わず、目を閉じる。


「えっ?」


しかし、その剣は藍に当たらなかった。

藍が避けた訳ではない。エルフが外したのだ。


「なんで? なんで!」


エルフは剣を振り続ける。だが、一度も藍に当たらない。

避けてる訳でも、剣が身体をすり抜けてる訳でもないのに。

エルフは攻撃を外し続け、遂に疲れて膝を突く。


「まさか、これがガントレットの力……なのか?」


藍自身も何が起きたのか分からなかった。

しかし、逆転の芽が出たのも事実……反撃開始だ。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!

感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!

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