覚悟
展開が早すぎるかなと思いつつ、どう書けばいいか分からない。
やはり書くのは難しい。
「そういえば、カンナギさんは創造神様に会われたんですか」
「えっ、どうしてですか?」
「いえ、異世界人はこの世界を訪れる時に創造神様に会われると聞いたので」
「へえ、そうなんですね」
コートレットを食べ終わった二人。談笑をし始め、その中で創造神の話が出る。
アウィンが言うには異世界人は創造神と会うらしいが、奏慈には覚えが無い。
「会ってないんですか?」
「ええ、無いと思います。いきなり、この世界に来たというか」
(おいおい、嘘だろ。異世界人は創造神に会って、加護を貰うという話なのに。
どうして、カンナギは会ってないんだ?)
「えっと」
「ああ、すみません。私が聞いてた話と違うので、混乱してました」
アウィンはある目的のために、どうしても創造神に会わなければならなかった。
奏慈に話を聞いたのもその一環。しかし、今回も空振り。
異世界人である奏慈も会えていないのなら、今後会える可能性は低くなるだろう。
(まあいいか。説教して回るより、コイツと居る方が楽しそうだ。
…それに、なんか心配だからな)
アウィンは一瞬、奏慈を送り届けたらそこで別れる事を考えた。
創造神と会っていないのなら、これ以上有益な情報を出す事は無いだろう。
だが、そこで奏慈の見ていた夢を思い出す。悲しみに暮れ、怒りに満ちたあの姿。
アウィンの聖女としての勘が告げる。ここで別れるのは得策ではないと。
「ありがとうございました、美味しかったです」
「また来ますね」
「うん、またおいで!」
一頻りの談笑を終え、店を後にする二人。腹ごしらえは済んだ。
あとはファルシオン家に行くだけだ。
「う、うわぁ!!」
「助けてくれー!」
「な、なんだ!?」
「何か起こったようですね……そう簡単に向かわせてくれないか」
そうして村を出ようとした時、数人の村人が悲鳴を上げながら走って来た。
息を切らし、怯えた表情の村人達。二人はすぐに村人達に駆け寄る。
「どうしましたか?」
「ひ、飛竜だ! 飛竜の群れだ!!」
「ひりゅう? 空飛ぶ竜ですか?」
「そうだ、空飛ぶ竜の群れが村に迫ってる!」
「この前の奴が仲間を呼んだんだ!」
アウィンは優しく聞き、村人達を落ち着かせようとする。
だが、狼狽は止まらない。村人達は聞いてもいない事を口々に言い出す。
その様子を見たアウィンは一息吐くと、奏慈の方を振り向いて言う。
「カンナギさん、貴方はすぐに先程のお店に避難して下さい」
「えっ、アウィンさんは」
「私はこの人達を避難させます。そして、飛竜を止めに行こうと思います」
覚悟を決めた表情でそう言うアウィン。今まで見た事がない真剣な表情。
その顔を見て、奏慈は察した。彼女は死ぬ覚悟で向かうのだと。
奏慈は村人達に指示を出し始めたアウィンの横で必死に止める。
「そんな、一人じゃ危険です!」
「分かっています、一人で戦うつもりはありません。駐在の騎士と共に戦います」
「でも群れだと聞きましたよ! この世界の飛竜はどれくらいの強さなんですか」
「飛竜にも個体差はあります……弱いのも居れば、強いのも居る。
ですが、飛竜一匹を仕留めるのに騎士数人は要る。これが通説です」
「じゃあ群れの相手なんて!」
「……だとしても、村を焼かせる訳にはいきません。私は行きます」
「でも!」
「いいから言う事を聞け!!」
「うっ!」
奏慈の声を掻き消す程の怒号。瞬間、周りから全ての音が消える。
奏慈は驚いた。その怒号があのアウィンから出た事に。
「はあはあ」
拳を握り締め、胸を上下させるアウィン。眼は血走り、頬は紅く染まっている。
アウィンのそんな姿を見て、奏慈は息を飲んだ。何も言い返せない。
決死の覚悟で挑むつもりなのだと奏慈は悟った。
「すみません……でも、分かって下さい。飛竜は昨日の暴漢とは違うんです。
彼らの爪は体を引き裂き、吐く息は皮膚をただれさせ…最後に殺す。
私は貴方にそんな思いをさせたくないんです」
「アウィンさん……」
(ここまで言う事を聞かないのはきっと、あの望結という娘のせいだ。
オレもあの娘みたいに死ぬと思って、必死に止めようとしている。
だが、オレも死なせたくないんだよ。アンタみたいな人を……)
「分かりました。アウィンさんも気を付けて下さい」
「ええ……」
奏慈は後ろ髪を引かれながらも、走ってその場を後にする。無事を祈って。
その様子をアウィンは一瞥し、自身も役目を果たすべくその場を後にした。
「すみません! しばらくここに避難させて貰っていいですか?」
「飛竜が出たんだろう? 構わないよ、ゆっくりしてってくれ!」
女将に許可を取り、席に座る奏慈。手を組み、眼を瞑って無事を祈る。
店には続々と避難してきた村人達が集まり、身を寄せ合って嵐が過ぎるのを待つ。
そんな中、奏慈はふと思ってしまった。一転して祈りは苦痛に変わる。
(僕は何をしてるんだ? 子供に戦わせて、大人である僕は震えて。
アウィンさん、ハルベルムさん、フランさん……僕は彼らに何をしてきた?
何もしてない。何もできていない……ずっと、誰かに助けられてばっかりだ)
自分の力無さを呪い、苛立ちが募っていく。
周りからは祈りに見える呪いは徐々に奏慈を傷つけていった。
(あのアウィンさんが死を覚悟していた。暴漢をボコボコにしたあの人が。
それだけ危険で怖い筈なのに、皆を守るために向かっていった。
対して僕は安全な場所で無事を祈るだけ…情けない。
お願いだ、創造神とかいう奴…僕に祈る以外の力をくれ!!
代わりに僕の命も魂も、持っていっても構わないから!)
心の中で懇願する奏慈。叶う訳ない、馬鹿げた事だと分かっている。
それでも願わずにはいられなかった。無力な自分はもう要らない。
失うばかりの人生にけりをつけるために……全てを捧げる。
「援軍はまだか!」
「それが街道に魔物の大群が現れたらしく、エスト様の部隊はそっちに」
「ううむ、なんという事だ」
視点は駐在の騎士達に移る。兵舎に集まった彼らは迫る飛竜に頭を悩ませていた。
その場に居る騎士はたったの四人。腕は決して悪くないが、力不足は否めない。
「失礼します!」
「き、君は?」
「私はアウィン=ビタリサ。通りすがりの聖女です」
「せ、聖女様!?」
「この戦い、私も手伝わせて下さい」
そこにアウィンが現れた。場を一瞬にして、彼女に支配される。
騎士達は驚くも、聖女然とした立ち振る舞いから本物だと理解した。
すぐに隊長と思われる男がアウィンに近づき、頭を下げて言う。
「聖女様、ありがとうございます。聖女様のご助力があれば、百人力です」
「それは私も同じです。共に村を守りましょう」
「はっ!」
「それでは早速向かいましょう。飛竜の元に」
アウィンの元に騎士達は団結した。彼女の指示の下、騎士達は動き出す。
村人からの情報によれば、飛竜は北から迫っているという。
北門に集まるアウィン達。戦闘態勢を整え、飛竜を待つ。
(オレを入れても五人か。迫ってる飛竜は三匹と聞く、群れという程ではない。
それでも五人で三匹の飛竜を倒せるとは思えねえ。
武器は全員、近接武器。空飛ぶ飛竜にはとても届かない)
「き、来ました!」
「ほんとに、三匹も居る!?」
「狼狽えるな! 剣を構えろ!!」
「は、はい!」
遂に飛竜がやって来た。雄々しく翼を羽ばたかせ、口から炎を漏らしながら。
アウィン達の遥か上空に位置し、まるで見下すようにこちらを見つめている。
絶望的な戦いが始まろうとしていた……だが、アウィンの心は晴れやかだった。
(高く飛んでんなあ。あれじゃあ弓でも当たらねえぜ。
やる気も満々みたいだし、ここでオレは死ぬんだろうな。
でも、聖女として良い死に方じゃねえの。人を守って死ねるんだ。
たった十八年の人生……短いようで長い人生だったが、まあ楽しかった。
後悔があるとすれば、目的を達成できなかった事と……)
「アウィンさん…」
(やれやれ、惚れでもしたか。昨日会ったばかりの男じゃねえか。
なのに、何でだ…どうしてこんなにも、アイツの事を思い出す。
そうか、これが一目惚れって奴か。最後の最後で女らしくなるじゃねえの。
ふふ……もうちょっと早く、会ってみたかったな)
最後に芽生えた恋心。だが、それが花開く事は無いだろう。
飛竜の口に赤い炎が見える。その炎はアウィン達の体を一瞬で包み込む筈だ。
それに焼かれて、一人また一人と膝を突いて倒れていく。そういう流れだ。
「……さよならだ」
アウィンは静かにそう言い、その炎を待つのだった。
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