最適解
「――おかえりなさいませ。こちらも準備は整いました」
奏慈達は闘技場を後にし、早速パンサスの元に向かう。
パンサスの言う準備とは、結局なんだったのだろうか?
疑問に思いながらも奏慈達は走り、屋敷に辿り着いた。
「皆さんにはこれを着て頂きます」
「えっ、それって……」
そんな奏慈達に渡されたのは、制服と思わしき服。
しかし、それは明らかに女子生徒用の物だった。
メイド服を思わせるデザインで、長いスカートが特徴的。
フラン達はともかく、奏慈達が着るような服ではない。
「まさか、女装……ですか?」
「いえ、違います。取り敢えず、着て頂けますか?」
「……着た時点で、それは女装ですわ」
「だな」
奏慈達は嫌々ながら、その制服に袖を通していく。
着慣れていないのもあり、かなり違和感を感じる。
そうして苦戦すること数分、奏慈達は着替え終わった。
「それで次は? これで終わりとは言いませんよね?」
「勿論です。制服はあくまで変装の為の物。
皆さん、目を閉じて下さい……むんっ!!」
次の瞬間、パンサスの両手から眩い光が放たれる。
その光は奏慈達を包み込み、身体の中に入っていった。
「うっ、一体何を……って、ええ!?」
光が治まり、目を開けた奏慈達は自分達の姿を見て驚く。
背は低くなり、全体的に丸みを帯びた身体。
さらに足は太く、胸は大きく膨らんでいた。
この姿は間違いない……女だ! 女の姿になっている!?
「お、おお、女の姿に変わってますわ!?」
「なっ、何が起こったんだ!?」
「ふむふむ、良い感じですね」
その姿を見て、フラン達も声を上げて驚く。
もしかしたら、奏慈達よりも衝撃が大きいかもしれない。
「何が良い感じよ! これは一体なんなの!?」
「ううん? 何を怒っているのですか?
禁呪の森に結界が張られているのは話しましたよね?」
それに対し、変えた当人であるパンサスは落ち着いていた。
「は、話しましたが、これは? 一体、何の為に?」
「単純な話です。男除けの結界を突破できるのは女のみ。
なら、女になるのが一番簡単でしょう」
「た、確かにそうかもしれないが……」
「はあ、予想はしていましたけどね」
パンサスはさも当たり前のようにそう言う。
合理的なパンサスの事だ。この方法が一番良いのだろう。
だが、本当にこの方法しかないのだろうか?
「えっと、破壊はできないのでしょうか?
破壊すれば、わざわざ女にならなくてもいいような」
「破壊はできますよ。ですが、破壊通知が飛びます。
その通知を受け、多くの騎士が押し寄せるでしょう。
そうなれば、数に劣る我々は捕まってしまいます」
「……ウルトルクスもその騒ぎに乗じて逃げるわね。
不本意だけど、この作戦しかないわ」
「ううん、それなら仕方ないか……」
パンサスほどの実力があれば、結界を破壊するのは容易い。
それをしないのは、アールヴ中の騎士に通知が飛ぶからだ。
形式的とはいえ、貴族や王族が儀式に使っている島。
その島の結界を破壊すれば、アールヴ中が敵に回る。
「あれ? 普段は貴族や王族でも入れないんですよね?
女性になっても、これだと入れないんじゃ……」
「安心して下さい。その為の制服です」
「恐怖の館……成程、そういう事ですか」
「えっ、恐怖の館?」
――恐怖の館。正式名称はアンゴル使用人学校。
一流の執事やメイドを輩出する為の学校だ。
奏慈達が今着ている服はその学校の制服になる。
「明日、その学校の女子生徒達が禁呪の森を訪れます。
いずれ、貴族や王族の元で働く身。
森の中での振る舞いを今の内に学ばせるのでしょう」
「つまり、ボク達は生徒になりすまして入る……という事か?」
「そういう事です。この機会を逃せば、次は何か月も先。
ですが、その頃にはウルトルクスは居ないでしょう」
「……チャンスは明日だけか」
やり方はともかく、パンサスの作戦は最適解だ。
フラン達だけで禁呪の森に入るのは危険過ぎる。
どんな罠があるか分からない以上、戦力は多い方がいい。
さらに今を逃せば、次は警備が厳しい儀式を行う日のみ。
現実的な事を考えると、この作戦しかなかった。
「となると、身体を慣らしておいた方がいいな」
作戦を成功させる為、奏慈は改めて自分の姿を見る。
耳にかかっていなかった髪は耳を隠し、腰まで伸びていた。
何度も生えてくる顎髭も綺麗さっぱり無くなっている。
さらに胸や尻は奏慈の頭より大きくなり、かなり柔らかい。
「くっ、負けた……オレの数少ない自慢だったのに」
「じ、自慢でしたのね……それでボーアの方は」
落ち込む藍を余所に、フランはボーアの姿を見る。
ボーアは性格が出たのか、どことなくキツイ印象の顔付きだ。
目付きも鋭く、背は低くなったものの、威圧感は増している。
「で、でも、可愛いですわ! ううっ、アタクシも負けた……」
「勝手に勝負するな」
「そして、イカリは」
「……自分もその流れをするんですか?」
対するイカリは肌が白く、全体的に落ち着いた印象だ。
薄幸の美少女にも見え、透き通った肌はきめ細かく美しい。
十人居たら十人振り返る程で、三人の中で一番美人だ。
「お、可笑しい……肌のケアをしてないイカリに負けるなんて!」
「……カンナギ、君のせいですよ」
「ええ!? 私のせいなんですか!」
思った以上の美人ぶりに、フラン達は膝を突いて落ち込む。
女になった奏慈達に完全に負けた。そのショックは計り知れない。
「もう質問はありませんね? 明日はその姿で向かって下さい。
警備の者に会ったら、遅刻したと言えばいいでしょう」
そんなフラン達に興味を示さず、パンサスは淡々と言う。
美人過ぎるが、今の奏慈達はどこをどう見ても女にしか見えない。
下手な言動をしなければ、バレる事は無いだろう。
「……すみません、最後に一つだけいいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「なんていうか……ある部分だけ男のままです。
これで入ったら、バレるんじゃないですかね?」
しかし、最も大切な部分が男のままだった。
男除けの結界と言う位だ。引っかかる恐れはないのか?
「大丈夫です。皆さんが行ってる間に調整は済ませました。
それに残しておかないと、魔法が解けてしまいます」
「えっ、なんでですか?」
「はあ、魔力だよ……ボク達の魔力が魔法を解くんだ」
奏慈達の身体に流れる魔力。それは免疫の役割も持つ。
これは単に毒や細菌から身体を守るだけではない。
外部から受けた魔法……つまり、今回なら女体化魔法。
それからも身体を守ろうとし、元に戻そうとする。
「なので、一生女性の姿で過ごす事はできません」
「な、成程……なら、一部分だけ残したのは?」
「抵抗を減らす為です。全身を女にするのは簡単。
でも、それをすると魔力が全力で抵抗します。
結果、女の姿で居られる時間が大幅に減ってしまうのです」
「そして、残したのは男として最も大切な部分。
これがそのままなら、抵抗は緩やかになる……という事か」
「む、難しい……」
いまいち理解し切れないが、そういう事なのだろう。
奏慈は言葉を飲み込む。大丈夫なら問題ない。
「では、今日はこの辺にしておきましょう。
その魔法はあと一分で解けるので安心を。
明日また掛けますので、ゆっくりと休んで下さい」
「分かりました! おやすみなさい!!」
パンサスのその言葉で、奏慈達は解散する事にした。
明日は何があるか分からない。疲れは無い方がいいだろう。
こうして奏慈達は眠りに就き、明日を迎えるのだった。
「――思ったよりも簡単に入れましたわね」
「ああ、ザルだった」
「女装の必要なかったんじゃない?」
次の日、奏慈達は朝食を済ませてから禁呪の森に向かう。
入口には警備の騎士が居たが、あっさりと入る事ができた。
勿論、男除けの結界にも引っかからず、女性認定される。
拍子抜けにも程があるが、問題は無いに越した事はない。
奏慈達は森の中を進んでいき、その途中で魔法が解ける。
「……そういえば、帰りどうするんだろ?
行きの事ばかり考えて、全く考えてなかった……」
男除けの結界は男を通さない為の結界だ。
当然、内側に居る男も通さず、外に出させない。
魔法が解け、奏慈達は外に出れなくなった。
「奏慈、もう忘れたの? 私の魔法を」
「あっ、銀の扉! そうか、それで出ればいいのか!!」
でも、心配は要らない。一度行った場所なら、銀の扉で行く事ができる。
望結が居れば、どんな所からでも脱出可能なのだ。
「さあ、他に話は無いわね? 着替えて着替えて!」
「ええ、見るに堪えませんわ!」
「早く着替えろ!!」
そうして話が終わった途端、フラン達は急かし始めた。
確かに男の姿で女子生徒用の制服を着てるのは可笑しい。
だが、それ以上にその迫り方は鬼気迫る物があった。
「なんか機嫌悪いな……一体、どうしたんだ?」
「昨日の事ですよ。あれを根に持っているんです」
「はあ、面倒臭い」
奏慈達は呆れながらも、急いで着替える。
よっぽど、昨日の事がショックだったらしい。
「それにしても、三人共あっさり受け入れたよな。
もしかして、女装の経験があるのか?」
「ある訳ないだろ。文化祭でカツラを付けた位だ」
「でも、凄い落ち着いていましたわ!」
「ここ最近の出来事に比べれば、大した事ないだろ」
「自分の場合、予想もしていましたので」
「……冷静過ぎて、ムカつく」
奏慈達は雑談しながら、ひたすら前に進む。
ウルトルクスが居る以上、本来こういうのは良くない。
しかし、今居るのは禁呪の森……不気味な場所だ。
木々が太陽の光を遮り、地面は湿った苔塗れ。
緊張感も大事だが、こういう空間では明るさも必要だ。
だからと言って、警戒していない訳ではない。
現に話しながらも、全員が違う方向を見張っていた。
これなら何かあっても、すぐに対応できる。
「ほう、これは面白い集団じゃのう」
「っ!?」
そう思ったのも束の間、甲高い女の声が奏慈達の耳に届く。
その声はあちこちから聞こえ、方向が分からない。
「ここじゃよ。わらわはここにおる」
それを見かねてか、奏慈達の前に声の主が現れる。
その声の主はメイド服を着た古風な少女だった。
灰色の髪を持ち、髪型はウェーブ、瞳は燃えるような紅だ。
「な、何者だ!? まさか、ウルトルクスなのか!」
「ウルトルクス? 残念じゃが、違うぞ。
それにその台詞はこっちの台詞じゃ」
「こっちの台詞だと? まさか!?」
「そうじゃ! わらわはアンゴル使用人学校の校長!!
『ルフ=アンゴル=モア』じゃ!」
まさかの遭遇に奏慈達は言葉を失う。
だが、この出会いすらもパンサスの計算通りだった。
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