矛盾
「アタシも手伝いますわ! 悲劇は終わらせないと!!」
「同意見だ。ボクも手伝う」
藍と望結が沈む中、フランとボーアは元気な声でそう言う。
これは空気を読まず、同調しているのではない。
今、一番苦しいのは奏慈だ……なのに、戦うと決めた。
その思いを無駄にする訳にはいかない。
「フランさん、ボーアさん……ありがとうございます!!」
奏慈はそれに元気よく答える。だが、その心は重く沈んでいた。
かつての恋人が自分達の創造神で、自分はその生贄。
正直信じられない話だが、望結は真剣な表情で言っている。
望結は優しい人間で、誰かを傷つける嘘を言ったりしない。
つまり、本当なのだ……奏慈の心に悲しみと怒りが襲いかかる。
(真妃、待ってろよ)
それでも奏慈は決意した。この世界に残り、真妃と戦うと。
結果、それで生贄になっても構わない。
奏慈は彼氏として責任を取り、因縁をここで終わらせる。
「不本意だけど、私も手伝うわ……真妃に奏慈を渡さない!」
「オレもだ! こうなったら、最後まで付き合うぜ!!」
「藍、望結……ごめん」
その決意の固さに折れ、二人も覚悟を決めた。
バラバラだった二人の心は、奏慈の御蔭で再び一つに纏まる。
「よし! じゃあ、最初にする事は……仲直りだ!!」
「な、仲直り? でも、今は……」
「いいからしろ! ほらほら!!」
「ちょ、ちょっと」
そう思ったのも束の間、奏慈は二人の背を押し、向き合わせた。
このまま帰ったら、二人は仲直りの機会を失ってしまうかもしれない。
そうなったら、お互いにただの仲間として接するようになるだろう。
そうはさせたくない……奏慈はいつもの調子を取り戻し、暴走し始めた。
「はあ、これだから奏慈は困るんだよなあ」
「そうね……こっちの言う事は聞かないのに、従わせて」
「その癖、肝心な時に役に立たないんだもんな」
「おいおい、聞こえてるぞ」
そんな奏慈を余所に、二人は思い出話に花を咲かせる。
こういう事は一度や二度ではなく、よくある事だった。
奏慈がお節介を焼き、それに対して二人は文句を言う。
面倒だったけど、思い返してみると、毎日楽しかった。
これが幸せだったのだ。二人はそれを久しぶりに体験する。
「仕方ねえな……やるか、仲直りって奴を」
「ええ、しましょう……ごめんなさい、藍」
「こっちこそ、ごめん。オレは我儘だった。
また、仲良くしようぜ!」
「うん!!」
二人は誰に言われるでもなく手を差し出し、固い握手をした。
その握手に割って入れる者は誰も居ない。二人は仲直りを果たしたのだ。
「ふう、安心しましたわ……女同士の友情、良い物ですわね!」
「ええ、自分もそう思います」
その様子を見て、フランとイカリは一安心する。
長く続いた喧嘩は、こうして幕を降ろした。
「よしよし! さて、後は……」
「寝る以外あると思うか? 今、何時だと思ってる?
こっちは朝からお前を探して、ずっと歩いてたんだぞ!」
そうして一息吐いた所で、ボーアが怒号を上げる。
朝食の時以外、ボーア達は休まずに奏慈を探し続けた。
そして、見つかったと思ったら、今度は修羅場だ。
それも終われば、次は知らない女の話……憤るのも当然だろう。
「す、すみません……ご迷惑をお掛けしました!」
「気にしないでいいですわ。ボーアが軟弱なだけですもの」
「な、なんだと!? お前も疲れたって、言ってたじゃないか!」
「それはもう昔の話……二人が仲直りして、今はホクホクですわ!」
「ちっ、幸せな事だ」
対するフランは元気一杯で、疲れを全く感じさせない。
疲れは溜まっている筈だが、興奮しているのだろう。
この場に居る誰よりも声が大きく、肌もツヤツヤだ。
「あと、忘れてはいけないのはこの男達です。
縛っているとはいえ、この数……暴れられたら面倒ですよ」
「ああ、コイツら居たな」
「居たわね」
すっかり忘れていたが、リュウ救出の時に倒した男達がまだ居た。
すぐに騎士団の元に連れていく予定だったが、もういい時間だ。
今からどこに居るかも分からない騎士団を探し出し、連れてくる。
さらに寝ていたら、起こすのもセットだ。かなり申し訳ない。
「やれやれ、ボクが騎士団の所に行こう」
「えっ、いいんですか?」
「いいんだよ。どうせ、宿も取ってないんだろ?
ついでにそれも取りに行く。お前はここで見張ってろ」
「わ、分かりました。お願いしますね」
ボーアはそんな汚れ役を買って出た。
本来なら一番やりたがらない筈の役だが、眠気には勝てない。
早くベッドに入る為、ボーアは行く。
「それならアタクシも行きますわ。途中で寝られたら困りますもの」
「……まあいい。フラン、行くぞ!」
「はーい! それじゃあ、行きますわね」
「す、すみません、お願いします……」
それにフランも付いて行き、奏慈達に手を振って歩き出す。
間もなく奏慈達の姿は消え、代わりに町の明かりが見え始めた。
「――っで、何で付いてきた?
何か用があって、付いてきたんだろ?」
「流石ですわね。ええ、用があって付いて来ましたの」
「やはりか……それで肝心の用は何だ?」
「決まってますでしょう……ミユが話した事についてですわ」
「ふむ」
フランが付いてきた理由……それは話を整理する為だった。
奏慈が混乱していたように、フランも話を聞いて混乱している。
だが、それを言える空気では無くなり、一人で考える事になった。
そこで渡りに船だ。ボーアが騎士団の元に行くと言い出した。
乗るなら今しかない。これが付いてきた理由だ。
そして、整理したいのはボーアも同じ……ボーアも混乱していた。
「まず、何に引っ掛かった? お前から聞かせてくれ」
「ううん、そうですわね……個人的に復活方法が引っ掛かりましたわ」
「そこか。復活には異世界人の魂が必要……という話だったな」
「ええ、そこがどうも違和感がありますの」
最初に話題に出したのは、真妃が特に力強く言っていた復活方法。
銀の扉で創造神の本体が居る空間に行き、魂を捧げるという話だ。
「最初に疑問に思うのは、今までどうやってそこに行っていたのか?
カンナギが最後の一人なら、前も同じように捧げていた筈ですわ。
つまり、創造神様の本体が居る空間に自力で行けていた」
「なのに、今は銀の扉が使える者に頼らなければならない。
考えてみれば、可笑しな話だ。動きを止めているとは言ったが」
「機会はいくらでもあった筈ですわ。
何故、すぐに異世界人を連れていかなかったのか?」
真妃は少なくとも、十年以上の時を奏慈と共に過ごしている。
この期間、真妃はやろうと思えば、創造神を復活させれた。
望結の口ぶり的に、奏慈がこの世界に来たのも真妃の仕業。
だとすれば、異世界人をどんどん招き、魂を捧げる事もできただろう。
しかし、真妃は奏慈と共に過ごす事を選んだ。これは一体、何故か?
「創造神様の復活にはカンナギが必要……それは本当っぽいですわ。
でも、それは最後の一人だからじゃない」
「カンナギが復活に必要な……特別な存在だからか」
「そうとしか考えられませんわ……だけど、疑問は残りますの。
復活に必要なら、どうして今になって呼び出したんでしょう?」
「分からん。そもそも、カンナギは何者だ?
復活に必要な特別な存在……余りにも曖昧過ぎるだろ」
「ですわね……もしかしたら、復活自体も嘘かもしれませんわ」
「……とにかく、信用ならないという事か」
あの時は身を任せて流れたが、今整理すると矛盾だらけだ。
正直、勢いに任せて言ってるようにも感じる。
どこまでが本当で、どこからが嘘なのか……全く分からない。
「ボーアはどうですの?
振ってきたんだから、ありますわよね?」
「勿論あるぞ。カンナギが戦っていたあの男についてだ」
「ああ、あの男ですわね……ミユの話ではマキの部下と」
次に話題に出たのは、奏慈を追い詰めた謎の男……実力は確かだが、正体不明だ。
その男を見てから望結は動揺し始め、奏慈を帰らせようとした。
いわば、真妃の話を始めた元凶だ。この男も何者なのだろう?
「それがまず可笑しい。あの男はボク達を見て、立ち去った。
部下ならボク達を倒して、カンナギを回収するべきだろう」
「ですわね。立ち去るにしても、少しは迷う筈ですわ」
「そうだ。部下というのは、恐らく嘘だろう。
問題は嘘を吐いた理由と、動揺した訳だが」
「分かりませんわ。本人に直接聞かないと」
「だな」
整理はできたが、これも分からないで終わった。
矛盾を解決するには、あの男にまた会うしかないだろう。
「それにしても、あの馬鹿は素直に飲み込みやがったな。
あっさりと信じ過ぎだろ」
「仕方ないですわよ。カンナギにとって、マキさんは大切な人。
その人が生きていて、創造神で、裏で悪い事をしていた。
一つでも感情がグチャグチャになるのに、それが三つも。
寧ろ、冷静に徹しているその精神力に驚かされますわ」
これだけの矛盾を見つけられたのは、二人が部外者だからだ。
傍から見た悲劇が喜劇に映るように、立場で見え方が変わる。
二人も同じ立場なら、矛盾を見つける事はできなかっただろう。
「だとしても、だ。もう少し考えて欲しい」
しかし、ボーアは厳しい口調だ。当人だからこそ、気付くべきと思っている。
「へえ、随分高く買ってますわね。
気付かなくて当然……そう言うと思ってましたわ」
「……話はこれで終わりか? 終わりなら、切り上げる」
「もう、せっかちですわね……もう一つ、ありますわ」
「ちっ、何だ?」
「二人の……家庭事情ですわ」
「うん? どこが引っ掛かったんだ?」
こうして、最後の話題に入るが、それは意外な物だった。
藍は貧乏で、望結は金持ち……何が引っ掛かるというのか。
「二人が通っていた聖山は有名な進学校の一つ……という話でしたわ。
だから、その話を聞いた時、二人ともそれなりの家庭だと思ってましたの。
でも、ミユさんは金持ちで、アイさんは貧乏だった。
金銭事情が全く違うのに、通えてたのなんだか変じゃない?」
「……そういえば、そうだな。金持ちが通うような学校だ。
何か制度があったとしても、アイさんが通うには負担が大きい筈」
「そうなのよ。でも、嘘を吐いてるようにも見えなかったのよね」
「ううむ、これも謎のままで終わりそうだな」
そこで二人は会話を終える。これ以上、整理する事は何も無かった。
二人は歩を早め、騎士団の元に向かう。
だが、二人は気付くべきだった……この話題が最も重要である事を。
時は待たない……時計の針は四時を示すのだった。
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