絶品料理
「想定外」まで書き換えました。
前と変わってる部分あると思うので、合わせて読んでみて下さい。
それでは今回の話もよろしくお願いします。
始まりは誰かが階段を駆け上がる所から。駆け上がっているのは奏慈。
間も無く駆け終わり、目の前のドアを開け放つ。ドアの先は屋上だった。
「望結!」
「奏慈さん…」
視界の先に黒髪の少女が居る。少女は奏慈の方を振り向くが、その表情は暗い。
顔は疲れ切っており、涙の跡がいくつもある。今にも倒れそうだ。
「僕なんかじゃ全然、力になれないと思う…だけど」
「ううん、そんな事なんてない! ない…だけど、私もう疲れちゃった」
「ここで死んでも君を虐めた奴らが喜ぶだけだ!
死ぬくらいなら復讐しよう! 僕も協力するから!!」
奏慈は声が嗄れる程に大きな声を出し、少女を説得する。
そして、ゆっくりと少女に近づいていく。
「ありがとう、奏慈さん…こんなに私を大切に思ってくれて」
「止めろ、死ぬんじゃない!」
「…ばいばい」
少女は進んでいく、奏慈を置いて…走り出す奏慈だったが、間に合わない。
少女の姿が消える。同時に何かが落ちた音と潰れた音が聞こえた。
「…約束したじゃないか。この世界で一緒に生きようって」
場面は切り替わる。何かに向かって、奏慈は語りかけていた。
奏慈は続ける。
「力だ、力が無ければ誰も守れない…救えない」
奏慈は立ち上がり、人混みをかけ分けて歩いていく。
人混みは四角い板を手に持ち、それを何かに向けている。
「ゴミどもめ。殺してやる…命乞いする暇も与えずに」
そこで夢は終わった。アウィンは奏慈の夢から目覚める。
奏慈は未だに魘され続けている。
「眠れ。寝ている時だけは、こんなクソな世界を忘れられるように」
そんな奏慈の頭にアウィンは手を乗せ、魔法を唱えた。
すると、魘されていた奏慈の顔が徐々に穏やかになっていく。
間も無く、奏慈は幸せそうな表情になった。今は何の夢を見ているのだろう。
「オレも休むか」
壁に寄りかかり、眼を瞑るアウィン。疲れてはいなかったが、寝たい気分だった。
誰しも辛い過去の一つや二つは持っている。奏慈も持っていた。
どうして、あんな事が起こったのか? アウィンは考えながら眠りに就いた。
「あの…すみません」
それからどれだけ経ったのか、アウィンに語りかける声が聞こえる。
少し伸びをして、アウィンはその眼を開いた。
「あっ、起きた。おはようございます、アウィンさん」
分かってはいたが、語りかけていたのは奏慈だった。
ちゃんと寝た御蔭か、すっかり元気そうだ。それを見て、アウィンは安心する。
「おはようございます、カンナギさん。ふぅあ」
「ああ、すみません…私がベッドを占拠したせいで」
「いえいえ、気になさらないで下さい。人として当然の行動です」
また猫を被り、奏慈と話すアウィン。だが口調以外は本心その物だ。
聖女として認められているのもあり、心根はとても優しい。
(う~ん、なんだろう。昨日は良い夢を見た気がする…覚えてないけど)
(よし、昨日の事は覚えてねえみたいだな。まあ夢ってそんなもんか)
今も心の中で奏慈の事を心配していた。ほっと一安心し、自然に笑顔になる。
その様子を見た奏慈は首を傾げ、アウィンに聞く。
「どうかしましたか?」
「いいえ、なんでも」
「そうですか…」
奏慈は不思議そうにしているが、本人が無いと言っている以上は聞けなかった。
こうして、アウィンは誤魔化した。これでもう安心…と思いきや。
「あっ、フランさんの事を忘れてた…」
「フランさん?」
「私がお世話になってる方です。昨日は色々あって別行動してて」
「合流するつもりだったけど、あんな事があって出来なかった…ですか」
「そうです」
今の今まで完全に忘れていたフランの存在。現状、奏慈は行方不明だ。
必死に探しているだろうし、仮にも護衛対象だったため怒られもしてるだろう。
(どうしよう、一緒に居てあげて欲しいと言われたのに。
僕が居なくなったのもあって、気を揉ませちゃうよ…
無理を言ってでも、一緒に居れば良かった)
「(なんだ、過失はあっちなのか。なのに、なんで気にしてんだ)
気に病まないで下さい。一緒にそのフランさんに会いに行きましょう」
「えっ、いいんですか?」
「勿論です。私が事情を話せば、きっとなんとかなります」
「ありがとうございます…助かります」
アウィンは心を読み、適切な言葉を使って思い悩む奏慈を落ち着かせた。
聖女である彼女が昨日の出来事を言えば、問題は解決するだろう。
誰も悪くない。悪いとすれば、暴漢くらいだ。
「そうとなれば、すぐにフランさんの元へ行きましょう。
どこに住んでいるんですか?」
「えっと、ファルシオン家のお屋敷ですかね」
「えっ、ファルシオン!?」
唯一アウィンの想定外だったのは、お世話になっていた家。
まさか、貴族のそれも大公家とは夢にも思わなかった。
「そ、それじゃあファルシオン家のお屋敷に行きましょうか」
「は、はい」
だが、胸を張ってなんとかなると言った以上は引けない。
不安が込み上げてきたが、言葉には出さずに奏慈と共に宿を後にする。
屋敷への直通の馬車は無いため、近くのマイン村行きの馬車へ乗り込んだ。
その途中、二人は一切喋らなかった…喋る事はいくつもあった筈なのに。
屋敷に着いたら、何を話すか。そればかり考えていたのだ。
(フランさんにもハルベルムさんにも遺恨の残らない言い方をしなきゃ)
(あーどうする。聖女とはいっても、大公にどこまで通じる?
傍から見れば、オレは宿に連れ去った女だぞ。それも同じ部屋だったし)
そうして考えを巡らせている内に二人はマイン村に着いた。
少し前に飛竜騒ぎがあった村だが、今は落ち着いた雰囲気に戻っている。
村人達は畑を耕し、家に居る者は家事に励む。のどかな村だ。
――グゥー
「あっ」
「お腹、鳴りましたね」
「はい…そういえば昨日から何も食べなかったな」
唐突に鳴った奏慈の腹の音。フランと別れてから一切、飲食をしていなかった。
宿を出る時も、お互いに頭が一杯だったせいで朝食を取らずに出発。
結果、お腹が鳴った。別に悪い事ではないのだが、気恥ずかしさを感じる。
「ご飯にしましょうか。お屋敷はまだ遠いですし」
「あ、あのお金が」
「私が出しますよ」
「えっ、悪いですよ」
「大丈夫です、一人分くらい余裕にあります。
それに後でファルシオン家に請求すればいいですから」
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。
(オレも腹空いてたし丁度いいしな)」
こうして二人は食事のできる所を探した。思いの外早く見つかり、その店に入る。
町にあるような高級店ではないが、親しみのある居心地の良さそうな店だ。
客も数人居り、美味しそうに食べている。味も確からしい。
二人は空いていた席に座り、メニュー表を見る。料理の数もそこそこだ。
間も無く恰幅の良い女将が奥から出てきて、元気よく話しかけてきた。
「いらっしゃい! 何にするんだい」
「そうですね…私はこのコートレットをお願いします。
カンナギさんはどれにしますか?」
「えっと、じゃあ私もアウィンさんのと同じのを」
「コートレットが二つね! しばらく待っておくれ」
食べたい物を伝え終わると、女将は奥へと戻っていった。
後は待つだけ。奏慈は時間を潰すのも兼ねてメニュー表を改めて見る。
「今更ですが、聞いてもいいですか」
「なんですか?」
そんな隙間時間にアウィンが奏慈に話しかけてきた。
奏慈はメニュー表から眼だけを出して反応する。
「カンナギさんって、異世界人なんですか?」
「えっ、まあはい」
「やっぱり、そうなんですね…」
アウィンからの質問に目を丸くする奏慈。何故、バレたのか分からなかった。
メニュー表を降ろし、困惑する奏慈は疑問を口にする。
「なんで分かったんですか? 無知を晒してなかったと思うのですが」
「そうですね、まず一つ。この辺りで見かけない容姿なのに、伝統的な服装。
二つ目は見かけない容姿なのに、旅慣れた雰囲気がしない。
最後は料理を選ぶ時に目が泳いでいた。見慣れた料理なら、そうはなりません」
「凄い推理力ですね、まるで探偵だ」
「人間観察も聖女の嗜みなんです。
(正しくはオレのだがな。にしても、本当に異世界人だったのか)
「はい、お待ち! コートレットだよ」
そうこうしている内に二人の頼んだ料理が運ばれて来た。
コートレットとは仔牛肉にパン粉を付けて焼いた料理の事だ。
カツレツの原型になった料理でもあり、図らずも奏慈に馴染み深い料理だった。
「ありがとうございます! おお、美味しそうだ」
「ですね、それでは頂きましょうか」
二人はナイフとフォークを持ち、コートレットを切って食べていく。
肉は思った以上に柔らかく、且つパン粉がしっかり付いててサクサクだ。
それを口に運ぶとバターの香ばしさが広がっていき、肉の旨味も伝わっていく。
「お腹が空いてるのもあって凄く美味しいなあ」
「それもあると思いますが、ここのコートレットが美味しいのもありそうです」
奏慈は勿論、アウィンも美味しいと感じたコートレット。
小さな村の店名すらない店の料理とは、とても思えない美味しさ。
二人はそれに感動しながら、ナイフとフォークを進めていくのだった。
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