正反対
「おら!!」
「はっ!!」
遂に始まってしまった二人の戦いは、熾烈を極めていた。
藍はモーニングスターを持って走り、望結は矢を放つ。
自分の得意な距離に持ち込むべく、戦場を駆け巡った。
だが、間合いに入っても、お互いに一撃を入れられない。
武器をぶつかり合わせ、火花を散らせるのが関の山だった。
「や、止めろ! 二人が戦う理由は!!」
その光景を黙って見ている奏慈ではない。
剣を出現させ、二人の間に入ろうとする。
「カンナギ、待って下さい」
「なっ!?」
イカリはそんな奏慈を制止した。その表情は真剣その物だ。
「あ、貴方は心配じゃないんですか!?
この戦いは二人にとって辛い物でしかない!
なのに、それを止めずに待っていろって!!」
「……辛い物だからこそ、二人にとって必要なんです。
お互いのわだかまりを解くには、戦うしかない。
戦いは、戦いで終わらせるしかないんです」
「くっ、藍、望結……」
奏慈は肩を落とし、剣を仕舞った。イカリの言う事は最もだ。
今を逃せば、お互いに気持ちをぶつけ合う事は無くなるだろう。
二人はもう大人だ……自分の気持ちを整理し、表に出さない。
「だから、今しかないんですのね……」
「うむ。ここで何もしなかったら、二人は赤の他人になる。
親友に戻る為には、今戦うしかない」
それを理解した奏慈達は黙って見守る事にした。
どちらが勝ってもいい……元の関係に戻るのをただ祈る。
「――はあはあ、や、やるなあ」
「女帝を舐め過ぎよ。経験値だけで言えば、貴方より上なんだから」
「へへ、その割にはオレに押されてるじゃねえか!
身体が変わったせいで、経験値がリセットされたんじゃねえの?」
「ふっ、それならそれでまた稼げばいいわ」
その戦いの中、二人はお互いに声を荒げる。
先の罵り合いの延長だが、雰囲気はまるで違った。
心なしか明るくなってきており、空気も重くない。
わだかまりが少しずつ、解けてきているのだろう。
「さあ、話は終わりよ! ライトニング・ロアー!!」
それでも戦いが終わる訳ではない。
望結は藍に向かって、電気を纏った矢を放つ。
それは爆音を掻き鳴らし、一直線に飛んでいく。
「オレを舐めてるのか? こんなの当たるかよ!」
藍はその矢を避け、モーニングスターを持って走り出す。
弾き返す事もできたが、触れたら痺れる事を瞬時に見抜いた。
「舐めてるのは貴方の方よ! ライトニング・ロアー!!」
しかし、藍は素早く矢をつがえると、二の矢を放つ。
その矢も電気を纏いながら、藍に向かって飛んでいった。
一撃必殺の藍に対し、望結は手数で攻めるタイプのようだ。
「何度来ようと同じだ!」
だが、たった一本の矢に当たる藍ではない。再び軽く避ける。
「まあ、普通はそうでしょうね……だけど」
「えっ、これは!?」
「私は普通じゃないから」
望結がそう言ったと同時に、藍の真横に突然矢が現れた。
矢の接近は音で分かる。軽口を叩いても、慢心はしていない。
なのに、何故? 藍は疑問に思うも、その答えはすぐに出た。
「ぎ、銀の扉か!?」
「その通りよ。当たらないなら、当たるまで飛ばすまで。
いつまで避けられるかしら? ライトニング・ロアー!!」
望結は密かに藍の避けた矢を、銀の扉の先に送っていたのだ。
その矢は飛び続け、望結の気が向いた時に呼び戻される。
つまり、避ければ避ける程、矢は無尽蔵に増えていくのだ。
「なら、本体を叩くまでだ! 食らえ!!」
だが、藍のやる事は変わらない。接近して、殴るだけだ。
藍はしゃがんで矢を躱すと、望結に向かって走り出した。
同時にモーニングスターも投げ、矢が正面から来るのを防ぐ。
「まだ分からないの? 全部、無意味だって」
「なに!?」
しかし、そんな藍を嘲笑うように望結は銀の扉を出現させた。
矢や奏慈が入れるなら、当然、望結も入れる。
接近されたら、入って距離を取り直せばいい。
互角に見えた戦いだったが、その実態は望結有利の物だった。
「に、逃がすか!」
「遅いわ」
藍はその扉に手を伸ばすも、一歩届かない。
望結は扉の中に入り、その姿を消し去った。
「くっ、い、一体どこから!?」
すぐに藍は周囲の警戒を始め、全身の筋肉を強張らせる。
シンガン族は心を読めるだけでなく、鋼のような身体を持つ。
半魔族である藍もそれを受け継いでおり、多少は強い身体だ。
不意打ちを食らったとしても、それで倒れる事は無い。
寧ろそれを受け止めて、反撃の一撃を食らわせる事ができる。
「見通しが甘いのは変わらないわね」
「う、上か!?」
「トールハンマー!!」
だが、それは相手が地面の上に現れる事が前提だ。
望結は空中に扉を出現させると、そこから雷を放つ。
雷は藍に向かって真っすぐ落ち、そのまま直撃した。
「ぐあああああ!!」
「……安心して、手加減はしてる。少し痺れる程度よ」
その様子を望結は上空から静かに見つめる。
正々堂々だとか、良い勝負にしようとか、全く思っていない。
敵を叩き潰す為の容赦ない一撃……それを親友に放っている。
サモンウェポンが無ければ、殺している勢いだ。
「退かないからこうなるのよ……ほんと馬鹿なんだから」
数分後、藍が動かなくなったのを確認してから望結は降りてきた。
しかし、油断はしていない。距離をしっかり取っている。
さらに藍の背後に扉を出現させ、攻撃の準備もバッチリだ。
「ば、馬鹿ってなんだよ、馬鹿って」
「……まだ、意識があったのね」
あの一撃を受けて尚、藍は気絶していなかった。
望結は急いで弓を構え、藍の頭を狙う。
「オレ達は正反対だったよな、何もかも」
「……思い出話なら後にして」
「いいから聞けよ。正反対だったろ?」
「……そうね」
藍の言葉を受け、望結は弓を降ろす。同時に昔の事を思い出した。
親友だった二人だが、共通点は全くといって無い。
藍の性格は荒っぽく、望結は冷静で考え込みがち。
料理が得意な望結に対し、藍は殆ど作れなかった。
「そして、オレの家は貧乏で、望結の家は金持ち」
「……でも、私の両親は毒親で、藍のお父さんは優しい」
「そんなオレ達が出会って、親友になれたの奇跡だよな」
「……ええ、そうね」
正直いつ出会って、親友になったのか、覚えていない。
気付いたら、親友になっていた。それが二人の関係だ。
でも、だからこそ、二人はその関係を大事にしてきた。
親友で居られる今を喜ぶ。ずっと、そうしてきたのだ。
「だけど、オレはずっと羨ましかった!
金持ちであるお前が……金に不自由しないお前が!!」
「……私もよ。ずっと、羨ましかった!!
父親に愛される貴方の事をズルいズルいと思ってた!」
「へへ、同じだな」
「そうね、そこだけは同じだわ」
望結はそう言うと、弓を構える。二人にも共通点があった。
それを喜び合う前に、望結は無慈悲にも矢を放つ。
これ以上話していたら絆される。冷静にそう思ったのだ。
「だから、ここで終わる訳にはいかないんだ!」
「……無駄な事を」
それでも藍は最後の力を振り絞り、立ち上がった。
奏慈と共に居たいと思うくらいに、望結と親友で居たい。
その思いが最後の力を与えてくれたのだ。
だが、矢は向かってきている。このまま当たるしかない。
「……オレに力を貸せ!!」
「な、なに!?」
そう思われた瞬間、藍の右腕が輝き始め、矢を弾いた。
その輝きは凄まじく、望結は思わず目を閉じてしまう。
「し、しま!」
「……遅いぜ」
藍はその隙を見逃さず、望結の顎を下から殴り抜ける。
「ぐうう!?」
その一撃は重く、望結の身体は風船のように空に浮かんだ。
勿論、すぐに落下し始め、藍はそこに追撃の蹴りを入れる。
「おらっ!!」
「ぶっ!?」
望結は為す術なく、その蹴りも受け入れ、吹っ飛んだ。
一瞬の油断が戦況を変える一撃になる。それを身をもって証明した。
「はあはあ、無駄じゃなかっただろ?」
息切れしながらも、藍は嬉しそうにそう言う。
そのまま地面に倒れた望結は、ピクリとも動かなかった。
藍の全力を受け、ただで済む者は殆ど居ない。
意識はあっても、指一本動かす事もできない筈だ。
「それが本物ならね」
なのに、藍の真横に望結が当たり前のように居た。
それも傷一つ付いていない元気な様子で。
「くっ、変わり身か……」
「そうよ。貴方がシンガン族なら、私はエルフ族。
自分の能力を活かすのは当然でしょ?」
藍は望結の吹っ飛んだ方向を見る。そこには木像があった。
オーク族とエルフ族のみが使える樹海魔術。
それで作った変わり身だ。藍が殴った望結は偽物だった。
もう藍の身体は動かない……万事休すか。
「……でも、私の負けね」
「なに? どういう事だ!」
そんな絶対勝ちの状況にも拘わらず、望結は弓を仕舞う。
あと一本の矢を放つだけで、藍が気絶する状況なのにだ。
どんな理由があるにせよ、降参する必要は無いように思える。
「魔力の使い過ぎよ。銀の扉は魔力消費が多いの。
最初から使わなかったのはそれが理由」
「それでも弓くらい射れるだろ! オレを馬鹿にしてるのか!?」
「馬鹿にはしてないわ……もう勝っても意味が無いの。
今は勝ち負けより、貴方に聞かないといけない。
その右腕について」
「右腕? なっ、これは!?」
望結に言われ、藍はやっと気付いた。
いつの間にかガントレットを装着している。
余りにも自然だった為、今の今まで気付かなかった。
装着した覚えは無い。でも、それには見覚えがある。
「そうよ……何故、それを持ってるの」
「は、話は長くなるんだが、貰ったんだ。
黒柳真妃という女に」
そのガントレットは真妃から貰った物にそっくりだった。
ただの夢だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「ま、真妃だって!?」
「えっ、奏慈?」
そんな二人の会話に、今まで黙って見ていた奏慈が割り込む。
突然、どうしたのか? そのまま血相を変えて、二人に駆け寄る。
「そういえば、奏慈の名を出していたな……知り合いなのか?」
そうして駆け寄った奏慈に藍は聞く。これが終わりの始まりだった。
「……知り合いもなにも親しい人物だよ」
「えと、それはつまり?」
「……昔の彼女だ」
その言葉で再び周囲の空気が凍り付く。
月明かりが照らす夜の世界は、まだまだ続くようだ。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!
感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願いします!!




