後悔
「取り合えず、ここを離れるか。人も集まってきた」
「……そうね、そうしましょう」
黙り続けること数分、周囲が少しずつ騒がしくなってきた。
現在、この島では闘技大会が開かれている。
世界中から多くの強者が集まり、一位を目指して争う。
闘技大会はこの島の名物の一つだ。
「おい、居たぞ! 大ダコだ!!」
「まさか、本当に居るとは……」
そんな中、大ダコ襲来の話を聞いたらどうなるか?
討伐の為、動く者が現れるかもしれない。
現に武器を持った男達が集まり、大ダコに近づいている。
これ以上ここに居ても、良い事は無いだろう。
二人は人混みを避けて、歩き始めた。
「奏慈、一つ聞いてもいい?」
「……なんだ?」
「貴方はどうして、この世界に居るの?」
人混みを抜けて所で、望結は奏慈に聞く。
望結にしてみたら、当然の疑問だろう。
もう会えないと思っていた人と出会えた。
それは驚きよりも、疑問の方が大きい。
「分からない……ずっと、考えてはいるんだけどね」
「……そう」
しかし、奏慈はその疑問に答える事はできない。
起きたら、この世界に来ていた。寧ろ教えて欲しいくらいだ。
「そう言う望結はどうして居るんだ?
君はあの時、屋上から……飛び降りて」
「それは……」
望結は言い淀む。あの出来事は、望結にとっても辛い物だった。
その決断をしたのは間違いなく望結だ。他の誰でもない。
だが、やりたかった訳ではない。できれば、回避したかった。
心無い者達のせいで、望結は選択肢すらも奪われたのだ。
「……奏慈、創造神の話を聞いた事はある?」
「まあ、一応……そうか、異世界人は本来!」
「この世界を訪れる時に創造神と出会う。
……私は会ってるのよ、創造神に」
「ほ、本当に会って!?」
前に藍から聞いた事がある。異世界人は創造神に会って、加護を貰う。
奏慈だけは何故か例外だが、望結は会って貰ったようだ。
「教えてくれ! 創造神はどんな奴だった?
どこに行けば、そいつに会える!?」
今まで謎に包まれていた創造神。望結はその存在と会っている。
藍は前世を思い出す前、創造神と会って世界を変えようとしていた。
その鍵を握るのが奏慈ではなく、まさかの望結だったのだ。
これは聞くしかない。奏慈は周囲を警戒しながらも、望結に聞く。
「……残念だけど、姿も声も分からなかったわ。
頭に直接言いたい事だけ言ってきて、この世界に放り出された。
だから、奏慈が知りたい事は何も教えてあげられない」
「そ、そんな……望結も知らないだなんて」
だが、そう上手い話も無いようだ。奏慈は肩を落とす。
もし知っていれば、合流した際に藍を喜ばせる事ができた。
心配を掛けた分、そういう所で埋め合わせしたかったのだ。
「もし、知っていたら……あっ」
奏慈がそう思った瞬間、ハッとした。藍もこの近くに居る。
藍達は奏慈を探している筈だ。なら、二人が会う可能性は高い。
そうなったら、二人はどうなる? 全く予想できない。
何故、今まで気づかなかったのだろう?
「奏慈? どうかしたの?」
「ああ、いや、その……」
奏慈は迷った。これは言った方がいいのだろうか?
藍はこの世界に居る。それを伝える事が二人にとってプラスになるか?
元はと言えば、二人の関係を壊したのは奏慈だ。
良かれと思ってした事が二人を傷つけ、自殺へと導いた。
「だけど……」
あんな事を繰り返す訳にはいかない。しかし、言わないのもどうなのか?
二人の関係性を考えると、会えば気付く可能性は高い。
そうなった時、二人はお互いにどう思う? 何が最善の手か?
「望結、伝えたい事がある」
「えっ、あ、なに? 告白なら、もう……」
「そうじゃない。藍が……藍もこの世界に居る」
奏慈は迷った末に、言う事にした。これが一番良い選択と思っての行動だ。
「……やっぱり、そうなのね」
だが、望結はそれほど驚いていない。
それどころか知っている風で、どこか遠くを見つめている。
「し、知っているのか!? でも、どうして!」
「……色々と調べたのよ。貴方を見習ってね。
そしたら、異世界人の多くが自殺した者だと分かったの。
他には戦死者や生贄にされた人達とかね。
だから、藍がこの世界に来ても……可笑しくないと思った」
「そ、そうだったのか……」
衝撃の事実に、奏慈は驚く事しかできない。
確かに二人は自殺し、この世界を訪れている。
言われるまで気付かなかったが、偶然ではないのだろう。
創造神はそういった者を集めているのか?
「でも、僕は自殺していない筈だ……そこでも僕は違うのか?」
「……ねえ、藍は元気? 一緒に行動してるんでしょ?」
「あ、ああ、元気だよ。色々あったんだけど、元気にしてる。
うん、あれ? 君はどうして、前世の記憶を持ってるんだ?」
「えっ?」
さも当たり前のように話していたが、よく考えたら可笑しい。
奏慈は改めて望結の姿は見た。雰囲気は前世の望結とよく似ている。
だが、前世の望結は金髪でも無ければ、赤紫色の瞳も持っていない。
ごくごく普通の日本人だった。つまり、藍のように転生している筈。
なのに、前世の事を覚えていた。これはどういう事なのか?
「……理由、言わなきゃ駄目かな?」
「ううん、無理強いはしない。でも、できれば教えて欲しいな」
「そう……分かったわ」
望結は胸に手を当て、ゆっくりと息を吐く。
そうして心を落ち着かせると、少しずつ話し出した。
「……今の私の名前は『ゼフィラ=ゼラ=スターチス』。
でもね、その名を名乗る前は『野山望結』として行動してた」
「ど、どういう事だ? 今の君はゼフィラなんだろ?」
「ええ、ゼフィラよ。だけど、そうじゃない時があった。
私は……二度、この世界で生を受けたの」
「なに!?」
奏慈は驚く。望結も転生してこの世界を訪れたと思っていた。
しかし、違ったようだ。望結は望結として、この世界を訪れた。
そして、今はゼフィラとして、この世界で過ごしている。
どうやら、そういう事らしい。奏慈は混乱しながらも飲み込んだ。
「で、でも、記憶はどうやって?」
「藍も覚えてたら、察しは付くでしょ? 案外、簡単なものよ」
「成程、そういう事か……魂に刻み込んだんだな」
「そういう事よ。絶対に覚えておきたかったから……」
「……そうか」
望結はそこまで言うと、口を閉ざす。
結局、何が理由で言いたくなかったのか分からなかった。
この件は後日、改めて聞いてもいいかもしれない。
「さあ、今度は私の番よ。貴方は今まで、何をしてたの?」
そんな事を思っていると、今度は望結が聞いてきた。
単純に気になるのもあるが、話を変える目的もあるのだろう。
「まあ聞くよな……勿論、言うよ。聞くだけ聞いたりしない。
でも、ちょっと待ってくれ。ここの人達に礼を言いたいんだ」
「ここの人?」
「うん、ここ」
奏慈はそう言うと、上を指差した。そこには店の看板がある。
水底の夢『ワンナイト』。いつの間にか、スタート地点に戻っていたようだ。
それを見て、望結は白い目で奏慈を見る。
「……どういうこと?」
「おいおい、誤解するなよ。ここの人達に助けられたんだ。
さっきの大ダコに襲われて、僕は船から落ちた。
そこを、ここの人達に助けられたんだよ」
「へええ、相変わらず女運はあるんですね」
「ふん、言ってろ。ほら、入るぞ」
「ちょ、待って下さい!」
不機嫌な望結を置いて、奏慈は店の中に入った。
店にはメタイム族の四人が変わらず居り、忙しそうに準備をしている。
「おっ、カンナギじゃないか! どうしたんだい?」
それを確認していると、チャロが奏慈に気付いた。
チャロはそのまま奏慈に近付き、送り出した時と同じ笑顔を見せる。
「えっと、実は」
「わっ、わわ!? 歌手の『イベリス』さん!!
なんでここに居るの!?」
「……もう、だから嫌だったのに」
「歌手? そうか、君は夢を叶えて……」
それに答えようとする奏慈の前に、アッケが割って入った。
歌手の『イベリス』。今の望結は歌手の仕事をしているらしい。
そして、この騒ぎで他の二人も奏慈の存在に気付いた。
「……カンナギさん、リュウは? どうして、リュウは居ないんですか?」
「あ、あれ? 戻ってないんですか?
大ダコの騒ぎがあったから、もう戻ってるかと」
「ううん、知らないわ。その騒ぎなら知ってるけど」
「……奏慈、どういうこと?」
「あ、ああ、説明する」
想定外だ。奏慈の想定では、リュウは店に戻っている予定だった。
ここに戻ってきたのは、置いて行った事に対する謝罪の為でもある。
だが、リュウは戻っていない……奏慈と望結は一抹の不安を覚えた。
その時だ。店の扉が勢いよく開け放たれる。
「た、大変だ!!」
「て、店長!? どうしたの、そんなに慌てて!」
入ってきたのは、緑色の体色を持つメタイム族の少年だった。
少年は息を切らしており、紙を片手に持って急いで走ってきたようだ。
「リュウが……リュウが誘拐された!!」
「誘拐!?」
そう言うと、少年は持っていた紙を皆に見せる。それにはこう書かれていた。
『例の物を渦の洞窟まで持って来い。来なければ、リュウの命は無いぞ』。
これは間違いなく誘拐事件だ。例の物というのは、店の権利書の事だろうか?
「ちっ、やりやがったね! まさか、ここまでしてくるなんて!!」
「……くっ、僕のせいだ。僕が置いていったばかりに」
「奏慈……」
嫌な予感は的中した。あの騒ぎに乗じて、リュウは攫われたのだ。
大ダコが出たとはいえ、置いていくべきでは無かった……奏慈は深く後悔する。
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