剣魔
(あの触手は再生する! 構わず、本体に攻撃するんだ!!)
(分かったわ!)
奏慈は大ダコに向かって駆けながら、少女に心話でそう指示する。
突然の心話だったが、少女は驚かず、大ダコに弓を向けた。
そして、そのまま目を閉じると、ぶつぶつと何かを呟き出す。
「紫電の光よ、我が左手に宿り、敵を貫く一閃となれ!
放て、ライトニング・ロアー!!」
少女は全て言い終えると、大ダコに矢を放った。
その矢は爆音を掻き鳴らし、空を切り裂きながら真っすぐ飛ぶ。
「あ、相変わらずだな……だが、良い考えだ!」
少女の言動に呆れながらも、奏慈はその矢を見て嬉しそうに頷く。
本体に攻撃するといっても、本体は触手に守られている。
つまり、本体に攻撃を通すにはその隙間を狙うしかない。
だが、無暗に攻撃しても防がれたり、叩き落されるのがオチだ。
武器はすぐに手元に戻せるとはいえ、隙を晒しては意味が無い。
「ギィィィイイ!?」
(よし、痺れた! 望結、続けて頼む!!)
(了解!)
しかし、それが攻略の糸口になる。
大ダコは飛んできた矢を叩き落そうと、触手を伸ばす。
その瞬間、矢に纏わせていた電気が大ダコに走った。
再生はできても痛覚はある。なら、痛みで動きを止めればいい。
奏慈の一言で少女はそこまで考え、矢に電気を纏わせた。
結果、大ダコの動きは止まり、大きな隙ができる。
「天の万雷、喝采の嵐! 今ここに解き放ち、敵を撃て!
サウザンド・ライトニング!!」
その隙を見逃さず、少女は天から雷を放った。
それは大ダコの右目に直撃し、一瞬にして黒焦げにする。
大ダコもこれには堪らず、のたうち回り、触手を振り回す。
「オマケだ! これも受け取れ!!」
奏慈もそれに続き、大ダコに向かって剣を投げた。
その剣は真っすぐ飛び、大ダコの左目に突き刺さる。
これで大ダコの両目が潰れた……今がチャンスだ!
奏慈は剣を手元に戻すと、再び少女に指示する。
(僕が側面から斬り込む!! 望結は弓で援護してくれ!
でも、気を付けろ! 奴は口から炎を吐ける!!)
(大丈夫よ! 迂闊に焼かれないから安心して!)
(ふっ、それは心強い!)
後ろは少女に任せ、奏慈は大ダコに向かって駆け出した。
大ダコは触手を振り回し、炎を吐き始めるが、奏慈に当たらない。
触手と違い、目の再生には時間がかかるようだ。
「はっ!!」
奏慈は無事に辿り着くと、力を込めて大ダコを斬った。
目が再生する前に仕留めなければ、あの時の二の舞だ。
「紫電の光よ、我が左手に宿り、敵を貫く一閃となれ!
放て、ライトニング・ロアー!!」
「……またか」
少女もここで仕留めるべく、奏慈の後ろから何度も矢を放つ。
だが、放つ度に詠唱が挟まれるのでそのテンポは遅い。
それでも二人は攻撃し続け、大ダコに傷が増えていく。
「あっ、目が!? 望結、避けろ!!」
「っ! もう間に合わ……」
しかし、大ダコもやられっぱなしではない。
目を再生させると、二人に向かって触手を伸ばす。
咄嗟に奏慈は避けたものの、少女は反応が遅れてしまった。
それを大ダコは見逃さず、二本目の触手を背後から迫らせる。
「――血の匂いだ」
「えっ?」
「だ、誰だ!?」
捕まる! 二人がそう思った瞬間、触手が宙を舞った。
何が起こったのか? 突然の事に二人は困惑する。
そんな二人の前に、大剣を担いだ褐色肌の男が現れた。
「楽しそうだな? ワガハイも混ぜて貰おう」
男はそう言うと、二人の答えを聞かずに大ダコの元に向かう。
そして、続けて周囲の触手も斬り始め、勝手に戦い出した。
「ちょ、ちょっと! 無暗に攻撃するのは!!」
状況を考えると、少女を救ったのはこの男らしい。
だが、男は二人を気にせず、好き放題に動いている。
少女を助けたのは偶然で、ただ戦いに来たのだろう。
「……剣魔ハンデッド。今は頼ってもいいか」
「ハンデッド? 有名な奴なのか?」
「まあ、悪い意味でね……詳しくは心話で話すわ。
今は大ダコを倒す事に集中しないと……」
「そ、そうだな! 僕達も続こう!!」
思う所はあるものの、二人は男に続いて本体に攻撃する。
大ダコの注意は男に向いており、本体はがら空きだ。
触手はすぐに再生するも、再生する度に男が斬っていく。
前の戦いで四人が破壊する速度より、男のが何倍も早い。
にも拘らず、男がしている事はただ剣を振る事だけ。
特別な事は何もしておらず、寧ろ手を抜いてるようにも見える。
それもその筈、男は剣魔ハンデッド。イカレタ奴だった。
(ハンデッドは各地を旅し、人を斬ってきた人斬りよ。
サモンウェポンの御蔭で誰も死んではいないけど……)
(心に傷を負った人は居る……そういう事だな?)
(そういう事よ。ここには闘技大会目的で来たようね)
(……なるほど)
奏慈はその話を聞いた後、改めてハンデッドを見る。
大ダコ相手にハンデッドは全く押されていない。
楽しそうに笑いながら、斬っては生える触手を甚振っている。
その姿は玩具で遊ぶ子供その物で、狂気すら感じた。
ハンデッドにとって、戦いとは遊びの一つでしかないのだろう。
「今は戦いに集中だ……話を聞くのは、後でいい」
奏慈は気持ちを切り替え、本体に斬りかかる。
今は何よりも大ダコを倒す事が先決だ。
「むっ、もう終わりか」
「望結!」
「うん、分かってる!」
三人は攻撃を重ねていき、遂に大ダコが地面に伏した。
それを見て、ハンデッドは剣を仕舞うも、二人は駆け出す。
このチャンスを逃したら、もう倒せない。
「これで決める!!」
「神の産声轟き叫び、地へ落ち全てを結ばせる!
解放せよ、トールハンマー!!」
二人はほぼ同時に大ダコに攻撃を叩き込んだ。
その一撃は重く、大ダコは身体を震わせながら地面に倒れる。
「ギイイイィィ……」
そして、そのまま目を閉じると、完全に動かなくなった。
「はあはあ……や、やったのか?」
「そ、そうみたいね」
二人は肩で息をしながらも、動かなくなった大ダコを警戒する。
だが、いつまで経っても動かない。目も濁り始めていた。
どうやら完全に死んだようだ。二人はホッと一息吐く。
ハンデッドが加勢しなければ、勝てなかったかもしれない。
それくらい強敵だった。思う所はあるが、ハンデッドには感謝だ。
「ハンデッドさん、ありがとうござい」
「ふん、つまらん」
「えっ?」
そう思った瞬間、ハンデッドは大ダコを見ながらそう言う。
思えば、大ダコが地面に伏した時点でハンデッドは剣を仕舞った。
まだ大ダコに息があり、すぐにでも再生するかもしれない状況で。
これはハンデッドが戦う為だけにここに来た事を暗に示している。
あの後、大ダコが復活し、再び戦う事になっても構わなかったのだ。
そうなった時に出る被害の事など、何一つとして考えていない。
「だが、お前達は面白い……ワガハイが斬るに値する」
そんなハンデッドは二人の方を向くと、剣を出現させた。
二人が疲れている事を知っていながら、戦いを挑むつもりだ。
「くっ、予想はしてたけど……」
先の戦いで少女はかなりの魔力を使ってしまった。
大ダコとの戦いぶりを見るに、弓矢だけでは対抗できない。
このまま、いいようにやられるしかないのか?
「……僕がやる」
「えっ?」
しかし、奏慈は違った。
奏慈は少女を守るように立つと、剣を構える。
やられる気は更々ないようだ。
それを見て、ハンデッドは満面の笑みを浮かべる。
「一人でワガハイとやるつもりか? 面白い……ならば!!」
「……勘違いするな。遊ぶ気は無い」
「むう? どういうこと……があ!?」
次の瞬間、ハンデッドの右腕から大量の血が噴き出した。
それは地面に血の池を作り、どんどん広がっていく。
ハンデッドは急いで傷口を押さえるも、それは斬られた傷だった。
それも斬られたら、すぐに気づくレベルの深い傷だ。
一体、何が起こった? そう思った時、奏慈は口にする。
「これで利き手は使えまい。さっさと去れ」
「……成程、時止めか。増々、面白い」
「そ、奏慈がやったの?」
奏慈は剣に付いた血を払う。その傷は奏慈が付けた物だった。
時止めを発動し、そのまま神聖魔法で狂わせた剣で斬りかかる。
戦う気など最初から無く、ハンデッドを油断させる為にそう言った。
「素直に負けを認めよう。言われた通り、去る事にする。
だが、去る前に聞かせてくれ……なんという名前だ?」
「……旭凪奏慈」
「カンナギか……また会う日を楽しみにしているぞ」
ハンデッドはそう言うと、二人に背を向けて歩き出す。
不意打ちした事も、血が出た事も気にしていないようだ。
自分が弱いからやられた。そういうスタンスなのだろう。
いずれにしろ、脅威は去った。奏慈は息を吐き、振り返る。
「望結、大丈夫か?」
「う、うん。私なら大丈夫」
幸いな事に二人とも怪我はしていない。ただ、疲れただけだ。
奏慈はそれを確認すると、胸を撫で下ろす。
「でも、やり過ぎよ! いきなり斬りかかるなんて!!
いくら私を助ける為でも、あんな……」
そんな奏慈に少女は詰め寄り、強い口調で言う。
どんな理由があるにせよ、この世界で故意に怪我させる行為は大罪だ。
今回の場合なら、極刑も有り得るくらいには重い罪になる。
少女を守る為とはいえ、やり過ぎなのだ。
「……分かってる。でも、望結に傷ついて欲しくなかったんだ。
あんな事、もう二度と繰り返させない」
「奏慈……」
少女の目から涙が落ちる。奏慈の気持ちは受け取った。
それでも自分を助ける為に罪を犯して欲しくない。
傷ついて欲しくないのは、少女も同じだった。
「ごめん……さっきからずっと呼んでるけど、君の名は」
「大丈夫……私は野山望結。貴方の目の前で自殺した女」
「……やっぱり、そうなのか」
そして、そう思うのは少女が奏慈を知る故だった。
場に沈黙が流れる……予期せぬ再会に、二人は黙るしかない。
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