二回戦開始
「――くっ、ここは? あれからどうなった?」
奏慈は強い倦怠感を覚えながら、目を覚ました。
これで何度目だろう? 見上げた天井は知らない物だった。
直前の記憶は大ダコに体当たりを食らわせて、海に落ちる。
それだけだ。それ以降の記憶は全く残っていない。
なのに、今はどこかの部屋に居る。奏慈は周囲を見回し始めた。
部屋は紫色の明かりで照らされ、妖しい雰囲気を漂わせている。
香も焚かれており、独特の匂いも相まって現実感が無い。
「あっ、起きてる! おはよー!!」
「お、おはようございます……」
そんな空間に、一人の少女が飛び込んできた。
先程までの雰囲気はどこへやら、一転して部屋は明るくなる。
「あ、あの、貴方が助けてくれたんですか?」
「うん、リュウが助けたんだよ! 感謝してね!」
「あ、ありがとうございます……」
リュウという名の少女は胸を張ってそう言う。
どうやって助けたのか気になるが、命の恩人で間違いない。
奏慈は深く感謝すると共に、気になった事を聞く事にする。
「えっと、一つ聞いてもいいでしょうか?」
「うん、いいよ!」
「感謝致します……貴方はなんていう魔族なんですか?」
リュウの身体は人型ではあるが、半透明の液状だった。
白い体色でプルプルとしたスライムのような質感。
大きさも奏慈の腰上くらいしかなく、その見た目は子供だ。
人族でない事は明らかだが、何の魔族か分からない。
「えっ、知らないの? リュウはね、メタイム族だよ!」
「メタイム族?」
メタイム族は魔族の一種で、液状の身体を持つ希少な種族だ。
色は個体によって違い、固有魔法は変身魔術。
一度見た相手なら、魔力以外はそっくりに化ける事ができる。
だが、変身を維持する事はできず、長くても一時間が限界。
さらに熱や寒さに弱く、電気にも弱いなど弱点が多い。
「……そういう魔族も居るのか」
「あっ、起きたら知らせてって言われてたんだった!」
「知らせる? 他にも人が居るんですか?」
「うん、居るよ! リュウについて来て!」
リュウはそう言うと、勢いよく扉を開けて出て行った。
何が何だか分からないが、今は付いていくしかないだろう。
奏慈は起き上がり、手を振っているリュウの元に行く。
「こっちだよ、ついて来て!」
奏慈が部屋の外に出ると、リュウは楽しそうに歩き始めた。
外は廊下になっており、部屋と同じ紫色の明かりで照らされている。
ここは一体なんなのだろう? どう見ても、普通の建物ではない。
リュウは悪い人間では無さそうだが、少し不安だ。奏慈は覚悟を決め、聞いた。
「ここはどういう建物なんですか? あの部屋といい、どうも雰囲気が」
「ここはね、『ワンナイト』っていうの! 大人のお店なんだよ!!」
「……成程、そういう事か」
薄々察していたが、ここはそういう場所のようだ。
奏慈は見回りで、何度かそういった店に寄った事がある。
その御蔭で、そういった店の匂いと雰囲気を覚えていた。
「階段、暗いから気をつけてね! 手すりも使っていいから!」
「分かりました! ありがたく使わせて頂きます!」
しばらく歩いていると、階下に続く階段が現れる。
ここでもリュウが先行し、奏慈はその後に続く。
「着いたよ!」
「わあ、良い雰囲気ですね!」
降りた先は上の階と違い、広々とした空間だった。
酒の匂いがする。この階は酒場として使われているらしい。
その酒場には何人も人が居り、忙しそうに働いている。
「あっ、やっと来た!」
その中の一人がこちらに気づく。
そして、そのまま早足でリュウに近づき、声を上げた。
「リュウ、今何時だと思ってるの!!」
「うーん、何時?」
「四時よ!! もう準備始まってるんだから!」
とぼけるリュウに対し、ガミガミと言い続ける。
奏慈が居る事に、どうやら気づいていないようだ。
その人もまた、半透明で液状の身体を持っている。
リュウとは対照的に、朱色で大人の身体付きだ。
いわゆる先輩なのだろう。奏慈は黙って見守る。
「って、お客様が起きてるじゃない!?
リュウ、なんで早く言わないの!」
「むう、リュウは言おうと思ってたもん!! アッケが!」
「みんな、こっちに来て! お客様が起きたわ!!」
だが、そんな先輩も遂に奏慈の存在に気づいた。
リュウの言葉を無視し、先輩は周りの人を呼ぶ。
「あらあら、どうしたの? って、お客様?」
「……起きられたようですね」
「そうみたいだね! 今の今まで気づかなかったよ!」
そうして集まってきた人達も、半透明で液状の身体を持っていた。
この店はメタイム族で回しているようだ。
それが分かった奏慈はその人達の方を見ながら、リュウに聞く。
「すみません、一人ずつお名前を教えて貰ってもいいですか?」
「うん、いいよ! 朱色はおっちょこちょいなアッケ!
水色は姉御肌のチャロ! 黄緑はクールなタンぺで!
桃色はお姉さんなカンコ! 最後は可愛いリュウだよ!」
リュウは一人一人指差しながら、奏慈に紹介する。
そういった店とはいえ、四人共かなりの美少女だ。
それに先程の働き方を見るに、ベテラン揃い。
そんな四人が回してる店だ……格式の高い店なのだろう。
「助けて頂き、ありがとうございます!! 私は旭凪奏慈!
神秘探求院を目指して、旅をしている途中です!」
奏慈は名前を頭に叩き込むと、元気よくそう言う。
相手はプロだ。失礼があってはいけない。
「おっ、それは良かったね! ここがアールヴだよ!」
「ええ!?」
そう思った矢先、奏慈は驚いた。神秘探求院は学校だ。
その学校の近くに、そういった店があるとは夢にも思わなかった。
だが、ここは奏慈が前まで居た世界とは全く違う世界だ。
自分の常識で考えてはいけない。奏慈はすぐに頭を下げる。
「す、すみません、驚いてしまって」
「気にすんな! 知らない人はみんな驚くからね!」
「……正確に言うと、ここはカムイ島。
アールヴ諸島を構成する小島の一つです」
「そして、カムイ島は大人の遊び場が多いんですよ」
「闘技場や賭博場もあります!」
チャロ達は笑って、奏慈にそう教えてくれた。
こういう事にも慣れっこなのだろう。
奏慈は申し訳なさと共に、尊敬の念を抱き始める。
「あっ、もう一ついいでしょうか? 私はどうしてここに?」
でも、聞きたい事はまだあった。チャロ達は店で働いている。
どういう経緯で奏慈を助けたのだろう?
それに藍達の事もある。嵐を無事に抜けられただろうか?
悩みの種は尽きなかった。
「リュウが見つけたんだよ!」
「リュウさんが?」
「うん! リュウが浜辺をお散歩してる時に見つけたの!
でも、リュウだけじゃ無理だったから、みんなを呼んで」
「……担いで、ここまで運んできたんです」
「ごめんなさいね、こんな店に運んじゃって」
「い、いえいえ! 助けて頂き、本当に感謝致します!!」
リュウ達の話を聞くに、奏慈は漂着していたようだ。
あの嵐の中、海底に沈まず、アールヴまで辿り着いたらしい。
下手をすれば、死んでいただろう。かなり運が良い。
「それで? これからどうするんだい?」
「……どうしましょうか。船とか出てますかね?」
なら、次の問題は合流だ。目指す先は神秘探求院。
そこに行ければ、なんとかなるだろう。
「出てますよ。ここを出たら、少し先に港があります」
「……リュウ、案内しろ」
「はーい! カンナギ、リュウについて来て!」
「あっ、はい! 皆さん、ありがとうございました!」
「気をつけろよー!」
チャロ達に見送られ、奏慈は港へ向かって歩き始めた。
少しの間だったが、別れるのがおしい。
今から出る船は無くても、ワンナイトはそういう店だ。
これ以上、迷惑をかける訳にはいかない。
しかし、もっと話したいという思いもある。
チャロ達は仕事に誇りを持った人達だ。
そんな人達ともっと話したい……そう思うのは自然な事だろう。
「船が見えてきましたね!」
「うん、もうすぐ着くよ!」
そんな事を考えていると、港に近づいて来た。大きな船がいくつも見える。
「あれ、あれれ、何の騒ぎだろう?」
「……妙ですね。急ぎましょう!」
「う、うん!」
だが、港の方がなんだか騒がしい。
叫び声が聞こえ、息を切らしながら走る人も居る。
「すみません、何があったんですか?」
「お、おお、大ダコだ! 大ダコがやって来た!!」
「大ダコが!? くっ!!」
「えっ、カンナギ!?」
奏慈はすぐに走り出し、剣を出現させた。
あの大ダコが奏慈を追ってやってきたのだ。それに港の人達が巻き込まれた。
犠牲者を出す訳にはいかない。責任を持って、大ダコを退治する。
「イベリスさん、貴方も!」
「私なら大丈夫! 早く逃げて!!」
「わ、分かりました……気をつけて下さい!」
視点は変わり、港では一人の少女が人々を避難させていた。
その少女は矢を放ち、大ダコの気を引いている。
「はあはあ、ここか!!」
「なっ、だ、誰!? 早く逃げ!!」
そこに奏慈が割って入った。それを見て、少女は咄嗟に言う。
「えっ、奏慈!? どうして、ここに!!」
「……僕の事を知っている? まさか」
しかし、少女は奏慈の顔を見るなり、声を上げて驚いた。
その反応は明らかに奏慈の事を知っている風だ。
この世界で奏慈を知っている者は少ない……ウルトルクスか?
だが、そういう風に見えない……なら、残る可能性は一つだ。
「いや、今はそんな事はどうでもいい!
望結、後ろを頼むぞ!!」
「わ、分かったわ! 一緒に大ダコを倒しましょう!!」
こうして、奏慈は望結と呼んだ少女と共に戦う事になった。
相手は大ダコ……不戦勝に持ち込んで、なんとか退けた相手だ。
でも、不思議と不安は無かった……今なら勝てそうな気がする。
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