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黒柳真妃

「――あれ、ここはどこだ? オレは奏慈と寝て……」


どれくらい眠っていたのだろう。藍は気づくと、見知らぬ空間に立っていた。

奏慈の部屋で寝ていた筈なのに、気づくと全く違う場所に居る。

どうしてここに? 寝てる間に運ばれたのか?

様々な考えが過るが、藍は冷静に周囲を見回し始めた。


周囲には誰も居ない。存在するのは自分と、どこまでも続く黒い空間だけだ。

その黒い空間も暗い訳ではなく、自分の姿をしっかり確認できる。

これは夢だ。それを見て、藍はそう確信する。


「マキは藍と会う事ができました」

「えっ?」


そう思った瞬間、背後から少女の声が響いた。

藍は驚きながらも、すぐに振り向く。


「おま、いや、貴方は一体?」

「問われたマキは答えます。マキは『黒柳真妃』という名前です。

 これからよろしくお願いします」


振り向いた先には、黒い髪を持ったウェーブヘアの少女が居た。

その少女は真妃と名乗り、口だけを動かしてそう答える。

敵意は無さそうだが、無表情で機械的な喋りはどこか不気味だ。

日本人のような名前も気になる。藍は猫を被り、警戒を続けた。


「えっと、ここはどこでしょうか? もしかしなくても、夢ですかね?」

「いいえ、夢ではありません。

 マキが話をする為、藍を自身の空間に呼びました」

「……つまり、貴方のせいなんですね? それで話とは?」

「奏慈の話です」

「奏慈!?」


その言葉に藍は驚く。なんとなくそうなのではないかと思っていた。

思ってはいたが、いざ出されると言葉を失う。

この世界で奏慈を知っているという事は、目の前の少女こそ……


「貴方が……創造神様なんですか?」


奏慈を知ってる者が限られてる以上、そうとしか考えられなかった。

直接会った者かウルトルクス以外だと、招いた創造神で間違いない。


「確かにマキは創造神です。でも、この世界の創造神ではありません」

「なっ、どういう意味ですか!?」

「マキは聞かれたので、藍に説明します」


真妃はそう言うと、説明し始めた。世界……宇宙は一つではない。

数え切れない宇宙が存在し、その一つ一つに創造神が存在する。

世界とは、そんな宇宙に存在する並行世界の一つでしかないのだ。

そして、藍が前まで居た宇宙の創造神は自分だと言う。


「……貴方だったんですね、私達を苦しめていたのは」

「そうです。マキが藍を苦しめていました」

「くっ、この野郎!!」


全ての元凶が目の前に居る。藍は拳を握り締めると、真妃に殴りかかった。

初対面の正体不明の少女だが、聖女としての勘が創造神だと言っている。

コイツが居たから自分は虐められ、望結も虐められた。

その上、自殺にまで追い込まれたのだ。許す訳にはいかない。


「マキは殴られると、地面に倒れました。

 それでも起き上がると、本題を話したくてウズウズします」

「……ふん、さっさと言えよ」


そんな藍の思いを嘲笑うかのように、真妃は顔色を変えずにそう言い放つ。

藍の怒りは収まらないが、これ以上殴っても仕方ない。

大人しく話を聞く事にする。


「奏慈に危険が迫っています。奏慈を助けて下さい。

 その力を藍に与えます」

「力だと?」

「はい、与えます」

「えっ? い、一体何を!?」


真妃はそう言うと、自分の腕を掴んだ。

何をするのか? そう思った次の瞬間、真妃はその腕を引きちぎった。

突然の事に藍は驚く。相手は人間ではないとはいえ、自分と同じ人型の存在だ。

血や肉は出ていないようだが、あまりにも突然すぎる。

それに対し、真妃は先程と同じように顔色を変えず、言い放つ。


「マキは自分の腕を差し出します。この腕を使って下さい」

「つ、使えって、どうやって……」

「自分の腕に近づければ、あとは自然に使えます。

 藍はマキの腕を受け取った」

「……分かった。受け取ってやるよ」


思う所はあるが、藍は真妃の腕を受け取った。

そして、そのまま言われた通り、自身の右腕に近づける。

すると真妃の腕はガントレットに変化し、装着された。


「これでマキの用は済みました。この辺でさよならします」

「ま、待て! お前はどうして奏慈を助けようとする?

 お前は……今までオレ達を苦しめてきた!

 なのに、どうして今になって? お前はなんなんだよ!!」


何も分からない。これは夢なのか現実なのか。

何もかもが唐突で、藍は頭の整理ができていない。

分かっているのは、自分が黒い空間に居るという事だけ。

だから、教えて欲しかった。一体なんなのかを。


「……今のマキは教える事ができません。

 何故なら、もう時間が無いからです」

「時間が無い?」

「マキを探しに来て下さい。また会った時、全てを話します」

「さ、探しに来いだと!? 待て、待つんだ!!」

「……また会いましょう」


真妃はその言葉に答えず、藍を冷たく突き放した。

すぐに藍は聞き返すも、真妃はもう答えない。

間もなく黒い空間に光が差し込み始め、藍は意識を失う……


「ま、待ってくれ!」

「藍? どうかしたのか!?」

「えっ、ゆ、夢か……」


次の瞬間、藍は布団を跳ね退けて起き上がっていた。

隣には奏慈が居て、見慣れた部屋に居る。

元の世界のようだ。藍はホッと一息吐く。

だが、何があったか知らない奏慈は心配そうに聞く。


「悪夢でも見てたのか? 苦しそうだったけど」

「あ、ああ、変な夢を見てた。

 内容はよく覚えてないけど、悪夢だったんだと思う……」

「そうなのか……まあ、覚えてないならいいや。

 もう一眠りでもする?」

「いや、もう起きるよ。続きを見たくない」

「そうか」


嘘だ。本当は覚えている。

しかし、言う気分にならなかった。これ以上、心配させたくない。

それに突拍子もない事が起きるのが夢だ。

そんな夢の内容をわざわざ言う事もないだろう。

現にガントレットは右腕に付いていない。全て夢だったのだ。


「にしても、いてて……腰がまだ痛むな」


それでも奏慈は心配するだろう。それを考え、藍は話を変える。

実際に痛いが、わざとらしく腰を触って言う。

奏慈はそれを見て、ニヤリと笑った。作戦成功だ。


「ふむ、天下の聖女様でも痛める事があるんだね」

「お前が激しくやらなきゃ、痛まなかったんだよ。

 ……この絶倫野郎め」

「うん? 何か言った?」

「いいや、別に」


お互いに軽口を叩きながら、二人は微笑み合う。

藍と奏慈が結ばれてから、三日もの時が流れていた。

その間に二人は愛を深め、夫婦のような関係を実現する。

今では前まで赤面していた事も平気で出来るようになった。


「だけど、五十日か……かなり遠いな」

「しょうがない。アールヴ諸島は岩礁に囲まれてるからな。

 西から回り込む都合上、どうしても時間がかかる」


藍はそう言うと、カーテンを開け、窓の外を見る。快晴だ。

二人は今、サフラーを離れ、アールヴ行きの船に乗っている。

神秘探求院に向かうには、船に乗らなければならない。

それは分かっていたが、着くまでにかかる時間は五十日以上。

時空間魔法で体感時間は五日になっているが、それでも長い。


「さて、そろそろ飯を食いに行くか。腹が減って仕方ない」

「そうだな。フランさん達も起きてるだろうし、行こう」


ひとしきり話をすると、二人は食堂に向かった。

船旅の数少ない楽しみは海を眺める事と、ご飯を食べる事だ。

二人の場合、愛を深める事もできるが、少ない事に変わりない。


「おはようございます。良い朝ですね」

「おはようですわ! 今日も朝までお盛んでしたの?」

「フラン、下世話な話は止めろ……さあ、早く座れ」

「……ありがとうございます」


食堂には既にフラン達が居り、朝ご飯を食べていた。

二人はボーアに勧められるまま、近くの椅子に座る。


「すみません、朝ごはんをお願いします」

「はい、分かりました」


そして、早速注文すると、届くのを待つ。

朝のメニューはオムレツとクロワッサン。

毎日食べているが、飽きの来ない美味しさだ。


「でも、この天気も今日までですね」


こうして待つ間、イカリは窓の外を見ながらそう話し出す。


「えっ、どうしてですか?」

「嵐が来るからです。湿った風を感じませんか?

 今日の夜中には雨と風が酷くなるでしょう」

「そうなんですね……何も無ければいいのですが」


船旅で気を付けなければならない事は沢山ある。

その一つが嵐であり、対策はできても回避はできない。

明日は甲板に出ず、部屋に籠っていた方がいいだろう。


「お待たせしました。揺れに気を付けて、お食べ下さい」

「ありがとうございます! では、頂きます!」


奏慈はその事を頭に入れ、届いた朝ご飯を食べ始める。

今日のクロワッサンもほのかに甘く、オムレツはフワフワだった……


「フランさん!」

「あら、どうしましたの?」


そうして食べ終わり、各々が部屋に戻る頃、奏慈はフランに話しかける。


「ボーアさんの事を聞きたくて……」

「……何が聞きたいんですの?」

「全てです。今、ボーアさんは何を思っているのか」


話しかけた目的はボーアだった。

先程の態度を見るに、ボーアは今まで通りに見える。

しかし、心の底ではどう思っているのだろう? 奏慈はそれを知りたい。


「……あの後、奏慈さんの思いをボーアに伝えましたわ。

 でも、その事をボーアは……知ってましたの」

「知ってましたか……流石、ボーアさんです」

「一応、今まで通り接するとは言ってましたわ。でも、どう思ってるかは」

「……分かりました。教えて頂き、ありがとうございます」

「いいえ……」


フランは頭を下げると、そのまま自分の部屋に戻っていった。

取り敢えず、表面上は今まで通りでいいのだろう。


「……僕も部屋に戻るか」


だが、その本心は分からない。

『きっと、もっと良い方法がある』。あの時のフランの言葉を思い出した。

その方法があると信じ、奏慈も部屋に戻る……これから起こる事を知らずに。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!

感想評価も募集致します、よろしくお願いします!

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