表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/107

命を懸けて

「――朝……いや、もう昼か」


次の日、奏慈は窓から差し込む日差しで目を覚ます。

疲れが残っていたらしく、太陽が真上に昇るまで眠っていた。

その御蔭で身体は軽いが、太陽はこれから降ろうとしている。


「起きよう」


これ以上、眠る訳にはいかない。奏慈は飛び起きた。

神秘探求院に行くのなら、準備と相談が必要になる。

聞く限り、また船旅だ。それに聞きたい事は他にもある。

それを聞く為にも、奏慈はフラン達を探しに向かう。


「ズルフィさん、おはようございます!」

「おっ、おはよう! 聞いてはいたが、起きたんだね!」


そうして部屋を出て、最初に会ったのがズルフィだった。

ズルフィは作業着を着て、兵士達に指示を出している。

その様子を見て、奏慈は一歩引いて頭を下げた。


「すみません、お仕事中でしたね」

「いや、構わないよ! お前達、指示通りやってくれ!」

「はっ!」

「……さて、何の用だい?」


ズルフィは人払いして、奏慈にそう言う。

逆に気を遣われてしまった。奏慈はその厚意に感謝し、聞く。


「フランさん達を知りませんか?

 色々と相談がしたいので、探しているのですが……」

「ふむ、フラン達なら町に行ってるよ」

「町に?」

「ああ、アールヴ諸島行きの船が明日には出るからね。

 『最後に思いっきり遊びな!』って、昨日言ったんだよ」

「成程、だから町に……」


思い返せば、ビアラに来てから心が休まる時はなかった。

早々に藍とはぐれ、そのままウルトルクスとの戦い。

政変を防ぐ為に来たとはいえ、辛い出来事の連続だ。

ズルフィはそれを見て、遊ぶように勧めたのだろう。


「ズルフィさん、私達の為にありがとうございます!」

「いいんだよ……今のあたしはそれくらいしかできないからね」

「えっ?」


ズルフィはそう言うと、溜め息を吐きながら椅子に座る。

いつも元気で自信満々な女性。それがズルフィのイメージだった。

しかし、今のズルフィは違う。疲れ切って、自信を喪失していた。

奏慈は今まで見た事のないその姿を見て、思わず戸惑う。

そんな奏慈を横目に見ながら、ズルフィはゆっくりと喋り始める。


「町はすっかり元通りだ。だが、あの時の光景は忘れられない。

 血に濡れた砂、死んだ兵士……あたしが来た時と同じ。

 いや、それ以上の光景だったよ。もう見たくなかったのにね」

「ズルフィさん……でも、彼らは本望だったと思います。

 他人の為に命を懸けた。それは自分の意思でないとできません」

「そうだね……だけど、あたしがそう仕向けたんだよ」

「仕向けた?」


かつて、兵士は一か月働いても給料が銀貨一枚にもならなかった。

それはズルフィによって改善されたが、これがゴビの不満を買う。

結果、政変が起こってしまい、ビアラは再び血と死に覆われた。


「あたしは自分のやった事を正しいと信じてる。

 だが、給料を上げたから最後まで戦ったんじゃないか?

 そもそも上げたから、こんな事が起きたんじゃないか?

 あれ以来、その考えがどうしても頭を離れないんだ」

「そうだったんですね……でも、私は違うと思います。

 命と金。普通の人間なら最終的に自分の命を取るでしょう。

 それは本能であり、自殺しようと思っても躊躇わせる程です」

「じゃあ、なんで彼らは命を懸けたんだい?」

「……自分の命よりも大切な、失いたくない命があったからです」


人間には生きたいという本能がある。それは生物としての物だ。

なら、それを捨て去ってまで死にに向かうのは最大の理性と言える。

厳密に言うと、違うのかもしれない。でも、向かう時に思うだろう。

死にたくない、と。その恐怖に打ち克つのは容易な事ではない。


「でも、彼らは打ち克った。大切な人を守る為に向かえたんです。

 だから、ズルフィさんは何も悪くありません。

 寧ろ褒めてやって下さい。よくやってくれたと」

「……そうだね、その通りだ。あたしは勘違いしてたよ」


奏慈のその言葉を聞き、ズルフィは噛み締めるようにそう言う。

本当は分かっていた。だが、それに納得すると甘えに繋がる。

人の犠牲をなんとも思わなくなると思ったのだ。でも、違った。

犠牲ではない。彼らが懸けた命は今に繋がり、未来へと続く。

それを忘れない為に、今を生きる人は前を向かなければならない。


「すまないね、情けない所を見せちまった」

「いえ、お気になさらず……こちらこそ、出過ぎた事を言いました」

「ううん、気にするな。さあて、元気を出すよ!

 アンタも行ってきな!!」

「はいっ!」


こうしてズルフィは元気を取り戻し、奏慈の尻を叩いて送り出した。

奏慈もそれに応え、町に向かって全力で走り出す。


「なんでだろうね、思わず愚痴を言っちまったよ。

 アンタになら、話してもいいと思ったんだ」


そんな奏慈を見送りながら、ズルフィはひとりごちるのだった……


「フランさん!」

「えっ、カンナギ!? 起きたんですの!」


町に飛び出して数分後、奏慈はフランの姿を見つける。

傍にはボーアも居り、二人で食べ歩きをしていたようだ。


「……どうしたんだ、そんなに慌てて」

「はあはあ、神秘探求院に行く話です。色々、相談しようと思って」

「それなら大丈夫ですわ! 全て決めましたもの!

 本当はカンナギが起きてから、話し合いたかったのですけれど……」

「そんな時間は無いからな。決めさせて貰った」

「まあ、そうですよね」

「だから、心配いりませんわ! 一緒に遊びましょ!!」

「そうですね……うん、そうしましょうか!」


予想はしていたが、奏慈が寝ている間に全て決まったらしい。

思う所はあるものの、返って良かっただろう。

奏慈は言葉を飲み込み、フラン達と一緒に遊ぶ事にした。


「待て、ボク達はボク達で楽しむ。お前はアイ様と楽しめ」

「ちょっと、何を言ってますの! 一緒に楽しんでもいいでしょう?

 そう言うんだったら、アイさんを見つけて四人で……」

「それも駄目だ。分かれて楽しめばいい」


しかし、ボーアは虫を追い払うように邪険に扱う。

奏慈と一緒に行動したくないようだ。


「昨日からそうでしたが、どうでしたんですか?

 様子が可笑しいですよ」

「そうですわ! 前は男嫌いでも、仲良くしてましたでしょう!」

「なら、前までが可笑しかったんだ。ほら、さっさと行け」


ボーアはそう言うと、手を振る。どうしても嫌らしい。

このまま離れるしかないか。


「……過去に、聖女の事で何かあったんですか?」

「なに?」

「えっ、なんですの?」


それでも奏慈には聞きたい事があった。その言葉がボーアの心を動かす。

奏慈はそれを察し、続けて口にする。


「ボーアさんは今まで、藍に対して優しい視線を向けていました。

 最初は女性だからと思っていましたが、少し違う。そう、庇護欲。

 ボーアさんが藍に向ける思いは、守りたいという気持ちでした」

「庇護欲……でも、アイさんは守られるほど弱くは」

「そうです、弱くない。なのに、そういう視線を向けていた。

 でも、それは昨日から無くなりました。

 ううん、もっと前からか……藍が暴走した時から変わった」

「……結局、何が言いたい」

「失望したんですよね? 藍を」

「……なんだと」


そこまで言うと、ボーアは憎々しげに奏慈を睨みつけ始めた。

先程までとは違う強い殺意……それを奏慈に向け始めたのだ。

フランは驚く。いくらボーアでも、ここまでの物を向けるのは珍しい。


「ど、どうしたんですの? カンナギも何か言って下さいまし!」

「ふむ、なら言いましょう……フランさん、ごめんなさい。

 幼少期に攫われた時、聖女に助けられたんですね?」

「なっ!?」

「どうして、それを……」


奏慈は確信を持って、そう言った。そして、それは当たりだったようだ。


「そうか……フラン、お前か! お前が言ったのか!!」

「あ、アタシは……」

「フランさんは何も悪くありません。責めるなら私にして下さい」

「ちっ」

「教えてくれませんか? 過去に何があったのかを」

「……言わなきゃ、去らないつもりか?」

「はい」

「ふん……いいだろう、話してやる」


ボーアは変わらず、奏慈を憎々しげに睨みつけている。

本当は話したくないのだろう。だが、ボーアは話し始めた。

自分の気持ちを整理する為にも……


「君、大丈夫!?」

「あん、なんだあ?」


話はボーアが人質に取られ、立たされた所から始まる。

薄暗い空き地に、声を上げて一人の女性が割り込んだ。

その女性は赤茶色の肌を持ち、筋骨隆々な肉体を持っている。

また、その服装は藍やフィーの着ている聖女服だった。


「ありゃあ、オーガ族だぜ。なんで、ここに居んだ?」

「それも聖女か……まさか、フォチャード家から連絡を?

 まあいい、もう少し様子を見るぞ」


突然現れた聖女の存在に男達は驚くも、隠れて様子を見る。

手には弓矢があった。何かあれば、これで撃ち殺せる。


「ぷはぁ! あ、あなたは?」

「わたくしは聖女イリディ! 君を助けに来たのよ!」

「えっ、でも、ボクは助けなんて」

「ふふふ、わたしはね、心の声が聞けるの!

 シンガン族には及ばないけど、君の声はしっかり届いたよ!

 さあ、早く行きましょう! また捕まったら大変よ!」

「あ、うん」


そんなイリディに手を引かれ、ボーアは歩き出す。

これがボーアにとっての、初恋だったのかもしれない。

しかし、そう簡単に通す程、男達も甘くない。


「待ちな! そのガキは大切な商品なんだ、勝手に持っていくな」

「……貴方達ね、この子に酷い事をしたの。

 誰が言う事を聞くもんですか!」

「へへ、返す気がねえなら……力尽くでやらせて貰うぜ!」

「君、わたしの後ろに隠れて!!」

「は、はい!」


こうして、イリディと男達の戦いが始まった。

数は圧倒的不利で、ボーアを庇いながらの戦い。

逃げる気だった二人も、これには勝ちの目があると踏む。

しかし、その予想はあっけなく覆される。


「ふう、これで終わり?」

「ば、馬鹿な……」


イリディは雇った盗賊を全滅させた。

凄まじい腕力と魔法の前に、男達は次々に倒れる。

対してイリディは無傷。終わってみれば、圧勝だ。


「ちきしょう! 食らえ!!」

「えっ、しま!?」


だが、その一瞬の油断が命取り。男の一人が弓矢を放った。

弓矢は真っすぐ、ボーアの元へと飛んでいく。


「うっ!?」


そして、それはボーアの頭を貫き、見事命中するのだった……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!

感想評価も募集致します、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ