肉人形
「――結論を言う前に伝える事があります。
自分の推理が正しければ、ナカミツの正体は肉人形でしょう」
「肉人形?」
イカリは深く息を吐くと、よく通る声でそう言った。
何を伝えられるのかと思いきや、聞き慣れない言葉。
奏慈は思わず首を傾げる。それが何か関係あるのか?
「肉人形……確か人工的に作られた人間の事でしたわね。
本で読んだ事がありますわ」
「成程、ホムンクルスみたいなものか」
「……先に説明した方が良さそうですね」
イカリはそう言うと、静かに語り出す。
かつて、多くの魔法使いが創造神について学んでいた。
創造神は根源。創造神を知る事は、魔法を学ぶ事に繋がる。
しかし、ある魔法使いは疑問に思った。
どうやって創造神は生まれたのか? どうして人間を作ったのか?
今まで疑問に思わなかったが、考え始めると疑問が次々に湧いてくる。
それは魔法を学び続けても全く分からなかった。
遂に魔法使いはその疑問を解決する為、仲間を集めて研究を始める。
その一つが新たな人間の創造。それで創造神の真意を知ろうとした。
「ですが、研究は難航しました。どうしても心を持たなかったんです」
「心を?」
「はい、命令通りには動きました。ですが、それ以上の事はしない。
自分から何かする事が無かったんです。
そして、他にも問題がありました。それが変換細胞の開発です」
「変換細胞?」
マナを自身の魔力に変換するには、ある特殊な細胞が必要になる。
それが変換細胞。マナの毒性を抑え、生物に魔法の力を与える。
その為、肉人形にも持たせる必要があったが、最後まで完成しなかった。
当時の技術的にも既存の生物を真似れば、再現は可能ではある。
しかし、目的は新たな人間の創造。既存では駄目だった。
「結果、マナを受け付けない作りにし、術者の魔力を分け与える。
そういう方式に落ち着きました」
「だけど、それって……」
「ええ、人間ではありません。生まれてきたのは欠陥品でした。
動くのにネジを巻く必要がある人形。だけど、肉も持っている」
「だから、肉人形か……」
イカリの話を聞き、奏慈は想像する。心を持たない肉を持つ存在。
何故だか背筋が凍る。いわゆるロボットと変わらない存在の筈だ。
それなのに、想像していると鳥肌が立つ。奏慈は顔をしかめた。
「その後、研究はどうなったんですの?」
「中止になりました。創造神教の教祖ソフィアによって」
「ああ、そうだったな……」
「藍、何か知ってるのか?」
「まあ、少しはな」
――創造神教。そして、ソフィアは創造神を崇めるように勧めている。
だが、この世界で創造神を崇めていない者など殆ど居ない。
現に創造神の身体は存在する。紙の上だけの存在ではない。
それでも勧めているのは、肉人形の一件が尾を引いている。
「ソフィアは元々、その研究をよく思っていなかった。
人間が創造神の真意を知ろうと思うのは、思い上がりだとしてな。
だから、すぐにでも研究を止めさせたかったそうだ。
でも、中止できなかった。その時の世論に押されたせいで……」
「皆、知りたかったんですよ。創造神がどういう存在なのかを」
「だが、研究は失敗。ソフィアはそれを突いて、止めさせたんだ。
まあ全部、本で読んだ事だがな」
そして、この一件を機にソフィアは勧めるようになった。
もう二度と、人間が創造神に近づく事はないように。
「それで、これがどう吸収できた事と繋がるんだ?」
しかし、本題は肉人形ではない。ボーアは声を上げ、イカリに訊ねる。
そもそも何故、魔法を吸収できた事を疑問に思うのか?
中光の能力はそういう能力だ。それで済む話ではないのか?
その疑問に対し、イカリは再び静かに語り出した。
「魔法の習得には大きく分けて三つの方法があります。
一つ目は産まれながらに習得しているというもの。二つ目は自力で習得。
三つ目は師の元で学んで習得するというものです」
「あれ、私はどれにも該当しないような……」
「例外として、創造神から与えられるという物もあります。
これができるのは創造神だけです。何故なら、創造神の魔力はマナ。
自分達の魔力の元だからこそ、与えられたら使えるようになります」
「逆に言うと、他人の魔力は身体が受け付けない。
だから、人間は他人に魔法を与えられない……そういう事ですわね?」
「はい、そういう事です」
(あれ、でも僕は異世界人から……)
つまり、中光がツェーンの魔法を吸収できる訳がない。
赤の他人であるツェーンは、中光とは違う魔力を持っている。
なのに、中光は吸収できた。疑問に思うのも当然だろう。
「自分も最初、意味が分かりませんでした。
でも、ツェーンの死体を解剖して気づいたんです……彼が肉人形だと」
「ツェーンが肉人形!?」
「はい、ゴブリン族に見せかけていましたが、肉人形の作りでした。
そして、これによって吸収できた事にも説明がつきます」
「……そうか、肉人形は術者の魔力を与えられている!」
「そうです。そして、ツェーンは肉人形だった……なら、ナカミツも」
「その可能性があるという事か」
二人が肉人形なら、同じ術者に魔力を与えられているだろう。
他人に魔法を与えられない。だが、同じ魔力を持つ者なら可能だ。
ここに来て、パズルのピースが次々にハマっていく。
だが、ある疑問も浮かんできた。
「ですが、中光は前世の記憶を持っていました。
それに肉人形は心を持たないんですよね?
他のウルトルクスを見ても、人間にしか見えませんが」
「……それに関しては、よく分かりません。
ツェーンを解剖しても、心を持っている理由までは探れませんでした」
「そうですか……」
謎が解ければ、また新たな謎が生まれる。結局、彼らは何者なのか?
一同の顔に暗い影が降り始めた。イカリはそれを見て、話を続ける。
「でも、予想はできます。恐らく、転生でしょう」
「転生? 藍のようにですか?」
「はい。でも、順序が逆です……アイさんは先に魂があり、身体を作られた。
ナカミツ達は先に身体を作られ、それに魂を入れられた」
「成程、強制的な転生……そういう事か」
「そんな……」
奏慈は絶句した。人為的な転生……それが心を持っている理由。
転生がどういう物か、奏慈はよく知らない。
藍の転生も未だに信じられないくらいだ。だが、一つだけ分かる事がある。
人の魂を弄ぶ……それは誰にも許されない。
「だとしたら、術者はとんでもない魔法使いですわね。
異世界から魂を取り寄せ、あの性能の肉人形を作るなんて」
「それに魔術と思わせる程の魔法も使えるようにしてやがる。
術者は一体、何者なんだ?」
「だが、これで合点がいく。ウルトルクスの目的である創造神の抹殺。
それは過去に研究を中止させられた事への復讐。
つまり、術者はかつて研究に参加していた魔法使いの誰かという事だ」
奏慈が怒りに震える中、フラン達は術者の正体に迫る。
中光達が肉人形なら、倒したとしてもそれで終わりではない。
術者を倒さない限り、同じような集団が何度も現れるだろう。
「それを防ぐ為には、術者を見つけて倒すしかありません。
魔力は覚えたので、会いさえすれば、自分は術者だと分かります。
とは言っても、何の情報も無しに探すのは不可能でしょう」
「じゃあ、どうするんだ?」
「……神秘探求院に向かいましょう」
「神秘探求院……アールヴ諸島にある魔法学校でしたわね?
魔法使いを目指す者なら、誰でも入学したいという」
「そうです。あそこなら術者の情報も見つかる筈です」
一つの列島といくつかの小島からなるアールヴ諸島。
サフラー大陸の北東に存在し、オーク族とエルフ族が暮らしている。
その島の一つにあるのが神秘探求院。長い歴史を持つ魔法学校だ。
件の研究もその学校で行われ、肉人形も作られた。
「なので、術者の情報が無くても無駄足にはならない筈です」
「……次の目的地は決まったな。ボクからは以上だ。
他に話しておかないといけない事はあるか?」
ボーアはそう言うと、全員の顔を見る。その表情は暗かった。
目的は決まり、あとはそれに向かっていくだけ。
しかし、敵は中光達を操る謎の魔法使い。勝てるのだろうか?
そう思いながらも、首を横に振って話を終わらせた。
「……無いなら解散だ。部屋を出るぞ」
「では、自分達はこれで」
「カンナギ、ゆっくり休みますのよ!」
「は、はい! ありがとうございます……」
それぞれ一言だけ言って、フラン達は次々に立ち上がる。
何か言いたげな様子だったが、ボーアは一足先に部屋を出ていく。
その後にイカリとフランも続き、部屋には奏慈と藍だけが残された。
「あっ、オレも出ていくよ……無理させる訳にはいかないし」
「大丈夫だよ、藍が望むまで部屋に居ればいい」
「……ごめん、そんな気分じゃないんだ」
「藍……」
そんな藍も奏慈を残して出ていく。正直、仕方ないだろう。
ただでさえ罪悪感に苦しんでいるのに、中光達は人間じゃなかった。
裏に居るという魔法使いの事も考えると、頭が混乱する筈だ。
今は休ませた方がいい。奏慈はそう思い直し、ゆっくり横になった。
「残りのウルトルクスも奴らの魂が入っているのか?
だとしたら、この先の戦いは……」
奏慈は呟きながら、天井を見つめる。藍をこれ以上、戦わせたくない。
だが、この先の戦いで藍の力は必要になるだろう。
奏慈は拳を握り締める。藍はいつまで、苦しまなければならないのか。
「……今は休むか。藍を絶対に守る為に」
奏慈はそう言うと、全身から力を抜いて眼を閉じる。
間もなく奏慈は眠りに就き、藍を守っていくと誓うのだった……
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!
感想評価も募集致します、よろしくお願いします!




