確認
「くっ、ここは……そうか、僕はまた」
奏慈は見知った天井の下で、目を覚ます。
どれだけ眠っていたのだろう。体が重かった。
すぐに起きようとするも、首しか動かせない。
まるで拘束でもされているかのようだ。
「寝過ぎだな……でも、早く起きないと」
それでも奏慈は起きようと、手足を伸ばす。
確認したい事が山程ある。眠っている暇は無い。
少しずつ身体を解し、徐々に起き上がっていく。
「奏慈、体を拭きに来たぞ……えっ」
「あっ」
その最中にアウィンが扉を開け、入ってきた。
アウィンは奏慈の姿を見て、唖然としている。
「そ、奏慈!」
「あっ、藍、おはよ……うぐっ、苦しい!?」
「奏慈! 奏慈!!」
しかし、奏慈の声を聞いた瞬間、抱き着いた。
何度も奏慈の名前を呼び、眼から大量の涙を流す。
傍から見れば、感動の再会だ。だが、奏慈は違う。
抱き締める手は強く、苦しくて仕方なかった。
「あっ、起きましたわね! イカリの言う通りですわ!」
そこに今度はフランが入ってくる。
フランはお盆を持ち、それには軽食が乗っていた。
「ふ、フランさん、た、助けて下さい……」
「あら、大変な事になってますわね……分かりましたわ」
そんなフランに奏慈は手を伸ばし、助けを求める。
アウィンは強く抱き締め続け、緩める気配が無い。
呼びかけても無視だ。このままでは潰されてしまう。
フランはそれを見て、すぐにアウィンを引っ張った。
「アイ様、力を抜いて下さい。カンナギが苦しいそうですわよ」
「はっ!? す、すまない……嬉し過ぎて、つい」
「ご、ごほごほ、次は程々にしてくれ。
フランさん、ありがとうございます……」
フランに引き離され、アウィンはやっと正気に戻る。
あと一秒でも遅かったら、また夢の世界だったかもしれない。
奏慈は咳き込みながらも、フランに心から感謝した。
「気にしなくていいですわ! 寧ろ、仲の良い姿が見れて……」
「そうだった……フランさん、こういうの好きでしたもんね」
「ええ、大好きですわ!!」
「は、恥ずかしい……」
思いがけず見たい物が見れて、フランは大興奮だ。
アウィンは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に染める。
その様子を見て、フランは増々興奮しながらも話題を切り替えた。
「さて、皆を呼んできますわ!
知りたい事は一杯ある……そうでしょう?」
「は、はい、そうです! よろしくお願いします……」
「ふふ、少しの間ですが、ごゆっくり……」
助け舟だが、同時に自分の為でもある。それでも乗るしかない。
奏慈はフランを行かせ、アウィンと共に部屋に残った。
「はあ、フランさんには困ったな。油断も隙も無い」
「そ、そうだな……」
「……抱き着きたいなら、皆が来るまで抱き着いててもいいぞ」
「い、いいのか!?」
「いいぞ。ただし、優しくな」
「あ、ああ」
それなら見せつけるまでだ。奏慈はアウィンを手招きした。
アウィンは導かれるまま、そのまま奏慈に抱き着く。
先程と違い、優しい抱き着き方だ。温もりも伝わってくる。
奏慈はそれに包まれながら、フランが戻るのを待つ……
「――最初に、お前が気絶してから何日経ったか?
教えてやろう……一か月だ」
「一か月!? そりゃ、藍が抱き着く訳だ……」
数分後、フランが皆を連れて戻ってきた。
当然、抱き着かれている所を見られたが、気にせず話に入る。
その話に寄ると、一か月もの間、ピクリとも動かなかったらしい。
「大変でしたのよ。しばらくの間、アイ様は毎日泣いて……」
「あーあーあー!! その話はもういいだろ!
他の話……そうだ、この一か月の間に復興が進んだんだ!
御蔭で城は勿論、町も元に戻ったんだぞ!!」
「話を逸らしましたわね……まあ、その通りですわ。
アタシ達も手伝って、襲撃前以上に綺麗になりましたの」
「そうだったんですね……お手伝いできず、すみません」
アインスが去った後、ビアラに残ったのは瓦礫と死体だけだった。
魔物達によって街並みは崩され、オアシスは赤く染まる。
かつての争いを想起させる凄惨な光景。生き残った者は絶望した。
だが、ズルフィは違う。そんなビアラを見て、復興を始めたのだ。
「凄いですね、あの状況から復興を……」
その姿を見て、絶望した者達もズルフィを手伝い始めた。
こうして復興は進んでいき、ビアラはあの輝きを取り戻したのだ。
奏慈がその時の光景を想像し、胸を熱くする。
「さて、復興の話はその辺でいいだろう。本題に入る。
アウィン様……いや、アイ様が前世の記憶を取り戻された。
ボク達はその事を後から知ったが、お前はあの時から知っていたな?」
しかし、ボーアが現実に引き戻す。
この一か月で、色々な事が分かった。それを全て話さなければならない。
奏慈に聞きたい事も山程ある。ゆっくりしている暇は無い。
「ええ、知っていました。第三の眼に触れた時から」
「どうして、あの時にそれを言わなかった!」
「……あの場で言って、何か状況が好転するとは思わなかったからです。
それに戻った理由も分からなかった。言うべきではなかったでしょう」
「ううむ」
それに対して、奏慈は冷静に返す。否定するつもりは無い。
ボーアは怒るも、あれが最善の行動だっただろう。
しかし、ボーアの機嫌は治らない。何か思う所があるのか?
そんなボーアを横目に見ながら、奏慈は続けて言う。
「でも、精神魔法にかかった理由なら分かります……あくまで想像ですが」
「ふむ、その理由を聞いてもいいですか? カンナギの考えを知りたいです」
「分かりました……皆さんも聞いて下さい」
そうして奏慈は話し出した。
シンガン族は精神魔法が効かない。第三の眼がその手の魔法を弾くのだ。
だが、アウィンは精神魔法によって正気を失った。イカリはこれに困惑する。
奏慈はその様子を見て、通常なら精神魔法が効かない事を察した。
「問題はどうやってかけたのか……私は内側からだと思いました」
「内側だと? シンガン族に精神魔法は効かないぞ」
「ええ、効きません。でも、人族……人間ならどうでしょう?」
「なに?」
「前世の時に仕組んだんですよ」
そこで奏慈は藍の日記を思い出す。藍も突然可笑しくなり、望結を襲った。
あの時はけしかけたのだと思ったが、今思えば魔法だったのかもしれない。
藍の嫉妬心を燃え上がらせ、望結に向かわせる。中光ならやりそうだった。
「その時の魔力がまだ残っていた!! 第三の眼は外からは受け付けない!
でも、内側からならどうだ? もしかしたら、効くんじゃないか!?
その時の私はそう思いました」
「成程、アインスの正体は中光だと確信していた。それゆえの推理ですね」
「その通りです。あとはその魔力を取り除き、解除するだけ」
奏慈はそう言うが、解く方法は分かっても簡単ではない。
相手が暴れ回るなら尚更だ。しかし、それをやり遂げるのだから凄まじい。
「その推理ですが、恐らく合っているでしょう。
皆さんから話を聞いて、自分も同じ考えになりましたから」
「だとすれば、中光はあの時から魔法を使えたのか……だが、どうやって」
「使える理由は聞くしかありませんね。でも、今それは重要じゃありません。
今重要なのは、どうしてアイさんは前世の記憶を取り戻したのか?」
「そうですね、藍はどうして……」
「……自分の考えはこうです」
今度はイカリが話し始めた。記憶というのは、脳が覚えているものだ。
つまり、肉体が変わる転生で記憶が維持される事は通常ではありえない。
なら、どうやれば維持できるのか? その答えは、魂に刻み込むこと。
覚えていたい事を刻み込む事で、古傷が痛むようにある日突然思い出す。
「でも、当時の藍がそんな事を……いや、そうか!」
「お察しの通りです。中光が残した魔力が、その代わりになりました。
魂も確認した所、少し焼けています。これだけあれば、思い出すでしょう」
「そういう事だったのか……中光、あの屑が」
真実を知り、奏慈は拳を握り締める。奏慈は思い出して欲しくなかった。
あの記憶は藍にとって辛い物だ。思い出しても、良い事なんか一つも無い。
この世界で幸せに暮らしているなら、何も知らずに過ごして欲しかった。
「奏慈、オレは大丈夫だ……もう折れたりなんかしない」
「藍……」
そんな奏慈の手を握り、アウィンは微笑む。だが、奏慈は知っていた。
アウィンは無理をしている。今も手が震えていた。
罪悪感で今にも倒れそうなのだ。
「……次はあの空間魔法だ。いつ覚えた?」
「えっ? あっ、えっと、砂蠍神殿で覚えたんです」
その様子を見かねてか、ボーアが話題を切り替える。
奏慈は一瞬驚くも、すぐに意図を察して言葉を続けた。
「その時は、間違ってズルフィさんを止めたりしましたが……」
「それを見て、自分が使い方は教えました」
空間魔法は空間を固定したり、入れ替えたりできる。
だが、その難易度は時止めよりも高い。
イカリは城に着くまでの間に使い方を教えた。
結果、奏慈は最後の最後で中光に対して使ったのだ。
「とは言っても、あの入れ替えは万能じゃありません。
お互いに一歩も動いていない状態でしか発動できない。
正に、あの時しか使えない魔法でした」
「そうでしたのね……まあ、アタシはその場面を見てませんけれど」
「なら、なんで言ったんだ……」
先程と打って変わり、穏やかな雰囲気で話は終わった。
これも全てボーアの計算の内か。そして、ボーアは次の話題を出す。
「じゃあ、これで最後だな。
何故、中光はツェーンの魔法を吸収できたのか?」
しかし、その次の話題で雰囲気は再び暗くなっていくのだった……
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