正体
「カンナギ、やったな!」
「ええ、やりましたね!」
「……すみません、ありがとうございます」
奏慈が勝ったのを確認すると、二人は駆け寄って健闘を称える。
黙って見守っていた二人だったが、加勢を考えるほど心配していた。
特に最後の攻撃に関しては、今にも割って入ろうと思っていた程だ。
それでも二人は奏慈の意思を尊重した。奏慈を信じる事にしたのだ。
奏慈もそんな二人に感謝し、見事アインスを打ち破る。
戦いに参加しなかったものの、二人も共に戦ってくれた。
三人で掴んだ勝利。奏慈はそれを嚙み締め、深く頭を下げた。
「でも、まだ終わっていません……早くトドメを刺さないと」
「そうだな、ここで殺しておかないとマズイ……やってくれ」
「一応、警戒しておきますね」
しかし、戦いの終わりは新たな戦いの始まりでもある。
あれだけ焼かれたのに、アインスはまだ生きていた。
最後の攻撃は奏慈を殺すべく、全力を出していた筈。
にも拘らず、生きていた。今回は勝利できたが、次はどうなるか分からない。
「だが、これで終わりだ!
アインス……いや、中光!!」
なら、やるべき事は一つだ。奏慈は剣を振り降ろす。
ここでアインスにトドメを刺し、後顧の憂いを断つ。
「――かかったな」
「なに!? ぐああ!」
その瞬間だった。アインスは眼を開け、杖を振るう。
すると、三人を囲むように炎の壁が現れた。
その炎は一瞬にして三人の身体を包み込む。
突然の出来事に、三人は何が起こったか分からない。
「こ、この炎は一体!?」
「油断しましたね……奴は焼かれながら、罠を仕掛けていたんです。
自分達が近づいたら、発動するように」
「その通りだ。しかし、気づくのが遅かったな……そのまま焼かれろ」
「ぐっ、な、中光!!」
炎の勢いは増していき、三人は為す術なく焼かれる。
せめてもの抵抗で奏慈は黒い腕を振るが、それで炎が消える様子も無い。
奏慈は眼の前の炎を見つめた。もはや万事休すか。
「炸裂なさい!」
「なっ、炎が!? 誰だ!」
そう思った矢先、炎は爆発と共に消し飛んだ。
同時に三人は炎から解放され、地面に倒れる。
アインスはすぐに声のした方を振り向いた。
そこには一人の少女が居り、三人の怪我の具合を見ている。
「ふう、アタシを忘れて火遊び? 困ったものですわね」
「ふ、フランか……助かったぞ」
「ええ、助かりました……」
その少女の正体はフランだった。
今まで気絶していたが、三人の危機に駆けつける。
「さあ、次はどうしますの? 見せて下さいまし!」
「おのれ……」
フランは挑発気味にそう言うと、アインスに斧を向けた。
だが、ただ挑発した訳ではない。状況を分析した上での挑発だ。
この場で一番重症なのはアインスであり、次点で奏慈。
つまり、ここで仕留めきれなかった時点でアインスの負けだ。
数の優位でも負けており、無暗に戦えば、今度こそ死ぬだろう。
「……君達は、死ぬべきなんだ!!」
「なっ、攻撃!?」
「ふ、フランさん、危ない!?」
しかし、予想に反し、アインスはフランに向かって熱線を放った。
それは今までのどの熱線よりも速く、圧倒的な速さでフランに迫る。
すぐにフランは身構えるが、構え切る前に身体を貫くだろう。
「うおおお! おらっ!!」
「っ!?」
だが、その熱線とフランの前に、割って入る者が居た。
その人物は熱線をモーニングスターで受け止めると、弾き返す。
「あ、アウィン様!?」
「生きてたんですか!」
「ああ、生きてたぜ」
「……正に、怒涛の展開ですね」
その人物の正体はアウィンだった。
死んだと思われていたが、生きて立っている。
まさかの登場に、アインスも言葉が見つからない。
「奏慈、大丈夫か!? すぐに回復する!」
「少し日焼けした程度だ、皆の治療を優先してくれ」
そんな中、奏慈だけは冷静にアウィンと話している。
生きている事を知っていたかのようだ。
思い返せば、奏慈は死んだとは一言も言っていない。
奏慈の姿や表情を見て、そう勘違いしていただけだ。
「ど、どういう事だ……どうやって、あの魔法を」
その様子を見て、アインスはやっと口を開いた。
しかし、生きていた事よりも正気に戻った事に驚いているようだ。
アウィンは正気を失っていた。それをどう取り戻したのか?
「さっきも言ったが、教えてやる義理は無い」
だが、奏慈は冷たく突き放した。
その表情は氷のようで、アインスを見下す。
「ふっ、教えてやれよ。オレはアイツの悔しがる顔が見たい」
「自分も聞きたいですね。あれをどう解除したのか」
「分かりました。そこまで言うなら教えます……中光、感謝しろよ」
それでもアウィンに肘で突かれると、皆に話し始める。
奏慈はアウィンの様子を見て、すぐに精神魔法が原因だと気づいた。
しかし、どう解除したものか分からない。戦いながら、考え始める。
そうして思い出したのが、アウィンの第三の眼だった。
「シンガン族は第三の眼を使って、相手の心を読む。
つまり、そこが自分と相手の心を繋ぐ場所という事だ。
なら、そこを介せば解除できる……そう思った」
「だ、だが、どうやって……まさか!」
「そうだ、この黒い腕を使った」
奏慈は神聖魔法を腕に集めると、アウィンの胸に手を伸ばした。
神聖魔法なら解除できる。直感だったが、そう思ったのだ。
そのまま奏慈は第三の眼に触れて、解除するように念じる。
「結果、藍は正気に戻ったという訳さ」
「まあ御蔭で、胸に穴を開けられたけどな……痛かったんだぞ!」
「ご、ごめん、思ったよりも力が入って」
それでアウィンは正気に戻ったものの、痛みから気絶した。
今の今まで来なかったのも、それが原因だ。
「何から何まで奇跡に近いですね。普通では有り得ません」
「そうだな、神聖魔法は聖女しか使えない……そういう魔法だった筈だ」
「そうですわ! なんでカンナギが使えますの!?」
「奏慈」
「分かった、それも言うよ」
厳密に言うと、使えるようになった訳ではない。
アウィンが前に使い、吸収したのを吐き出してるだけだ。
その為、量には限りがある。長時間、使う事はできない。
片腕だけ黒くしてるのも、使い切るのを防ぐ為だ。
「えっ、どういう事ですの? 理由を聞いても分かりませんわ……」
「オレもだ。前の時といい、奏慈の体質は理解できない」
だとしても、納得できる物ではない。
吸収した上で使えるようになる。そんなの聞いた事が無い。
奏慈のイレギュラーさに、四人は困惑する。
「――さて、話すのはここまでにしましょう。
アインスの処遇を考えなければ」
「そ、そうでしたわ! 覚悟はいいですわね?」
奏慈の言葉でハッとし、四人はアインスの方を見た。
仲良く話を聞いていたが、アインスは元気に立っている。
攻撃されていたら、纏めてやられていたかもしれない。
しかし、先程と打って変わってアインスは攻撃しなかった。
それどころか沈黙を貫き、フランの言葉も無視する。
「ふう、せっかく話してやったのに礼も無しか?
好い加減、その仮面を外して見せろよ……中光」
そんなアインスに剣を向け、奏慈は呆れた様子で言う。
アインスはその言葉を受けて、身体を少し震わせる。
「ナカミツ……そういえば、さっきから言ってたな。その名前は確か」
「イジメを始めた首謀者ですわね……という事は、まさか!?」
「ええ、アインスの正体は中光です。
そうだよな?」
「……一体、いつから」
アインスは恐る恐る自身の顔に手を伸ばし、その仮面を外した。
四人は注目し、ようやく露わになったその顔を見る。
その顔は幼げで、まるで子供のようだ。また顔の造形を見るに、人族らしい。
「少し雰囲気が変わったか? 前よりも子供っぽく見えるぞ。
でも、その醜悪な性格は変わらないな。顔にまで滲み出てる」
その顔を見て、奏慈は笑みを零しながら言う。
だが、それがアインスの逆鱗に触れた。
「いつからと聞いている!!」
「はあ、お前とツェーンの喋り方を聞いた時からだよ。
とは言っても、藍が正気を失うまで確信は無かったがな。
これで満足か?」
「くっ、ゆ、許さない!」
「許さないはこっちの台詞だ」
しかし、奏慈は態度を変えたりしない。
相手の正体が分かった以上、もう遠慮する気は無かった。
心行くまで煽り、掌の上で躍らせる。
「今回は君達の勝ちにしてやろう……次は覚えておけ」
「なっ、逃げる気か!?」
でも、それに付き合うアインスでは無かった。
杖を振り、自身の身体を炎に包む。
そして、次の瞬間、炎と共にその姿を消した。
「逃げられましたわね……」
「くそ!」
すぐにその場に駆け寄ったが、そこにはもう誰も居ない。
完全に逃げられてしまった。奏慈は悔しさから拳を握り締める。
「うっ、はあはあ!」
だが、同時に凄まじい倦怠感に襲われた。
呼吸も荒くなり、全身から汗が噴き出し始める。
「そ、奏慈!? ま、まさか、神聖魔法で……」
「無理をするな! 早く横になれ!!
「だ、大丈夫です、このくらい……ぐっ!」
「奏慈!? 起きて!!」
そうこう言ってるうちに奏慈は膝を突き、地面に倒れた。
意識も完全に失い、アウィンに揺すられても起きない。
「ああ言わんこっちゃない! すぐに寝台まで運ぶぞ!」
「え、ええ!」
「自分も手伝います!」
奏慈を抱え、四人はすぐに動き出した。
聞きたい事は山ほどある。それを聞く為に死なせる訳にはいかない。
こうして、長く続いた一日は終わりを告げるのだった……
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