切り札
「はっ!」
奏慈は時を止めると、正面から斬りかかった。
時を止めれる以上、奏慈は必ず先手を取れる。
今までそれをしなかったのは仲間との連携の為だったが、もう関係ない。
ここでアインスを殺す。何度でも使う覚悟だ。
「こ、これは!?」
そんな奏慈を嘲笑うように、黄金の障壁が現れた。
見覚えのあるそれは、間違いなくツェーンが使っていた魔法だ。
そのまま奏慈の剣は障壁に吸い込まれ、直撃する。
「い、今のは一体!?」
「流石の君でも、ツェーンを殺した真の理由は分からないか」
奏慈は急いで時止めを解除すると、改めてアインスの方を見た。
既に障壁は消え去っており、そこには何も無い。
今の出来事が無ければ、何も考えずに斬りかかれるレベルだ。
しかし、障壁は現れた。ツェーンが死んでいるのに出現したのだ。
一体、何故? そう思った瞬間、奏慈の脳裏に電流が走った。
「そうか、そういう事なのか……お前の能力は」
「そういう事だ。殺した相手から魔法を吸収できる。
それがツェーンを殺した真の理由だ」
「……そんな事の為に仲間を」
「これも君に勝つ為だ。御蔭で防ぐ事ができた」
予想していたとはいえ、真実を知らされるのは辛い物がある。
アインスは仲間の事など、なんとも思っていない。
賞味期限が切れる前に食べなきゃ、彼にとってその程度の存在なのだ。
許してはおけない。奏慈は怒りの炎を一際大きくする。
「だとしても、今の僕なら叩き割れる! 止まれ!!」
奏慈は再び時を止めると、一切の迷いなく斬りかかった。
全力で振れば、障壁は防ぎ切れない。それをさっき証明したばかりだ。
なら、恐れる必要は全く無い。アインスを障壁ごと斬る。
「ぐぅ、硬い!?」
だが、剣は障壁によって防がれた。ヒビは入ったものの、割るまで至らない。
ツェーンのと違い、術者を完全に守り切る。
「その様子を見るに、割れなかったようだな」
「……くっ、一体どういう事だ」
奏慈は時止めを解除し、再びアインスの方を見た。
明らかにツェーンが使っていた時よりも、障壁が強化されている。
ただ単に使えるようになるだけでなく、昇華して使えるようだ。
つまり、時を止めたとしてもアインスに傷を付けるのは難しい。
何か解決策を考えなければ、疲弊した所を狙われてやられる。
「来ないのなら、こちらから行かせて貰う」
勿論、考える暇を与えてくれない。アインスは杖の先から熱線を放つ。
その熱線は奏慈に向かって真っすぐ飛び、頭に迫った。
「なら、戦いながら考えてやる!」
「無駄な事を」
奏慈はそれを避けると、アインスに向かって突進する。
全力で剣を振れば、障壁は二度目の攻撃で割れるだろう。
だが、その二度目の攻撃で新しい障壁が現れる。
つまり、実質的な耐久力は無限。一度目の攻撃で割れない時点で突破は不可能だ。
「踊り続けろ」
それでも向かってくる奏慈に対し、アインスは続けて熱線を放つ。
かつてのように魔力切れを狙った戦法も、もはや通じないだろう。
なのに奏慈は諦めず、向かって来る。アインスは警戒し、身構えた。
「何をするつもりだ? 突進した所で何も」
そんな奏慈の突進に対し、障壁もアインスを守るように現れる。
奏慈の攻撃はアインスに届かないだろう。
「変わる物は……ある!!」
「なに!?」
しかし、奏慈の狙いはアインスではなく、障壁だった。
奏慈は黒い腕で障壁に触れると、力を込める。
すると、障壁は見る見るうちに黒く染まっていった。
「神聖魔法は僕以外には厳しいらしいな? 使うと、死ぬとか。
さあ、急いで戻せ……身体に回るぞ?」
「っ!?」
アインスは飛び退いて、急いで奏慈の傍から離れる。
間もなく障壁は黒く染まり切り、ボロボロになって崩れ去った。
「……何秒だ」
「うん?」
「何秒で思いついた? まだ十秒も経っていないだろう?
なのに、君は思いついた……ほんの数秒で対策を思いついたんだ」
「お前を殺す為だ、頭くらい回る……さて、次はどうする?
もう一度、行くぞ。障壁でもなんでも、出せばいい」
「うっ、おのれ!」
奏慈は挑発気味にそう言うと、再び腕を伸ばして突進し始める。
もう障壁は役に立たない。術者に対するあらゆる行動に対し、障壁は出現する。
それはつまり、術者と障壁は繋がっているという事だ。奏慈はそれを利用した。
奏慈はどういう訳か神聖魔法を完全に制御している。
その為、今まで存在しなかった使い方も思いついていた。それが注入だ。
対象に触れると、そこから広がっていき、まるで毒のように対象を蝕む。
それを障壁に対して使った。結果、障壁を通してアインスに神聖魔法が伝わる。
アインスはすぐに引っ込めたが、その左手は黒く染まっていた。
「もう近づけさせない」
その手を押さえながら、アインスは焦った様子で自身の周囲に柱を出現させる。
柱はアインスを守るように立ち、一部の隙間もなく密集していた。
奏慈に触れられた時点で死が確定する。それは絶対に防がなければならない。
その為に柱を立てた。この柱はアインスと繋がっておらず、独立している。
だから、柱に触れても侵食できない。耐久力も当然あり、壊す事も難しい。
「念には念だ」
アインスはその内側でさらに杖を振る。すると、無数の火球が柱の前に出現した。
そのまま火球は柱を守るように周囲を漂い始める。火球と柱の二重の守りだ。
「成程、考えたな」
近づけば炎が、近づいても柱に阻まれる。突破するには遠距離攻撃が必要だろう。
しかし、奏慈は遠距離攻撃を持っていない。近づいて斬りかかるのが最大火力だ。
これには黙って見守っていた奏慈も感嘆する。同時にどう攻略するか考え始めた。
「それだけではない。さあ、行け」
当然、ゆっくり考える暇をアインスは与えない。
先程の攻防で奏慈の強さを実感していた。今の奏慈に一秒も与えてはならない。
アインスは杖を素早く振る。すると、周囲を漂っていた火球に変化が起こった。
オレンジ色だった炎の色は青く変わり、どんどん膨張していく。
「これはマズイか? 止まれ!」
奏慈はそれに対し、時を止めて対抗した。
このままでは膨張し続け、さらに近づけなくなる。
そうなる前に、無駄でも柱に傷を入れなければならない。
「……それを待っていた」
「なっ!?」
そうして止めた瞬間、周囲の火球から青い熱線が放たれた。
突然の事に奏慈は対応できず、熱線の一つが足を貫く。
「ぐっ、これは……時は動き出す」
それでも尚、熱線は奏慈に向かってくる。足をやられたら、もう避けられない。
奏慈は一縷の望みを掛けて、時止めを解除する。
その瞬間、熱線は消えて無くなった。奏慈はそれを見て、仕掛けを理解する。
「な、成程、時を止めたら反応する火球か……随分と用意周到だな」
「……今の一回で理解したか。そうだ、これは君を倒す為に編み出した。
ツェーンから話は聞いている。対策するのは当然だろう」
「確かにその通りだな。種が分かれば、時止めなんぞ怖くねえ……か」
ツェーンの言葉を思い出し、奏慈は自嘲した。あれは虚勢では無かったのだ。
あの戦いの後、しっかり情報共有していた。もう時止めで無双する事はできない。
時止めは強力だが、それだけでは殺せない。いつでも不意打ちとセットになる。
しかし、不意打ちは何度も通用しない。相手が油断しているからこそ効く。
その油断も無ければ、対策もしているアインスにはどう戦えばいいのだろう。
奏慈は膝を突き、苦虫を噛み潰したような顔で火球を見つめる。
「終わりだ。これで沈め」
「くっ!?」
そんな奏慈にトドメを刺すべく、アインスは巨大な火球を新たに出現させた。
部屋一杯に広がるそれは、もはや壁と言ってもいい。回避不能の攻撃だ。
それを避けるには時を止めるしかないが、止めたら青い熱線が放たれる。
今の奏慈に熱線を避ける力は残されていない。八方塞がりで絶体絶命だ。
「行け」
アインスは勝ちを確信し、奏慈に向かって火球を飛ばす。
奏慈は膝を突いたまま、火球を真っすぐ見据えた。もう当たるしかない。
「――だが、最後の最後で油断したな」
「なに? はっ!?」
その瞬間だった。アインスの視界が歪み、炎が広がる空間に放り出される。
一瞬何が起こったか分からなかったが、周囲を見て気づいた。
自身と奏慈の位置が入れ替わっている。現に奏慈の姿は何処にもない。
目の前の炎も自身が飛ばした火球だ。奏慈はここに来て、新魔法を使った。
「ま、まさか、これは空間魔法!? いつ身に着けて!」
「教える義理は無い……でも、一つ教えてやろう。
切り札は最後まで取っておく物だ」
「ぐっ、うああああ!!」
アインスは為す術なく火球に焼かれる。自らが放った回避不能の炎の壁。
それはアインスも例外ではない。避ける事など出来ず、全身を焼かれていく。
アインスの絶叫は何分も続き、奏慈はその間、柱の内側で待ち続けた。
「終わったな。僕の勝ち、でいいか?」
数十分後、アインスが出現させていた柱と火球が消え、奏慈の姿が現れる。
そして、その目の前には黒焦げになったアインスが倒れていた。
アインスは奏慈の言葉に応えない。完全に気絶していた。
奏慈とアインスの対決、それは奏慈の勝ちで終わる……
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!
感想評価も募集致します、よろしくお願いします!




