表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/107

殺意

「はあ、はあ……くっ、届かない!

 イカリ、なんとか隙を作れないか?」

「無理ですね。アインスは守りに入っています。

 ここから先程のような隙を作るのは難しいでしょう」

「ちっ、何か切っ掛けが必要か……」


ボーアは息も絶え絶えに舌打ちする。戦いは続いていた。

予想通り、アインスはツェーンを守りながら戦っている。

怪我人を庇いながらの戦いは、隙が生まれる戦い方だ。

その隙を突けば、致命傷を与えられる……そういう算段だった。


しかし、アインスは隙を一切見せない。

それどころか動きを更に洗練させ、ボーアを寄せ付けなかった。

結果、戦いは千日手になり、今に至る。


「もう終わりか? 残念だな」

「くくく、フランが起きてりゃ突破できたのによお!

 全く、情けない奴らだぜ!!」

「……ボーア、分かっているとは思いますが」

「挑発に乗るな、だろ? それくらい分かってる。

 下手に動く訳にはいかないからな」


だが、二人はそれで構わなかった。今、外にはフィーとズルフィが居る。

その二人がここにやってくれば、形勢逆転。アインス達に勝ち目は無くなる。

それはアインス達も分かっている為、挑発して向かわせようとしていた。


でも、それに乗るほどボーアとイカリは馬鹿ではない。

あとは時間を稼ぐだけで勝てる。もう戦う必要は無いのだ。


「――随分と楽しそうだな? 僕も混ぜてくれ」

「そ、その声は!?」

「どうやら、そちらは終わったようですね」


そんな中、わざとらしく足音を鳴らしてやってくる者が居た。

声の主はそのまま四人の間に割って入り、アインスの方へ向き直る。

聞き覚えのある声に、その容姿は四人のよく知っている者だ。


「ソウジか。アウィンを無事、倒したようだな」

「そうだ。そして、次はお前の番だ」


奏慈はそう言うと、剣先をアインスに向ける。やって来たのは奏慈だった。

しかし、その様子は普通ではない。

全身を血で濡らし、剣を握ったその手は黒く染まっていた。

放たれる殺気も鋭く、怒りで満ち満ちている。


「ま、まさか、殺したのか? あ、アウィン様を……」

「ボーアさん、後は私がやります。手出しはしないで下さい」

「なっ、何を言って!?」

「本気のようですよ? ここは下がりましょう」

「くっ、分かった」


その殺気に押され、ボーアとイカリは後ろに下がった。

もう戦う必要は無い。今の奏慈にそう言う勇気は無かった。

それでもツェーンだけは奏慈を指差し、声を荒げる。


「おいおい、たった一人で戦う気か?

 種が分かれば、時止めなんぞ怖くねえ。

 それを分かって来てるんだろうな?」

「……それがどうした? 命乞いのつもりか?」

「な、なに!?」


奏慈はそれに対し、深く息を吐きながら歩き始めた。

その歩みは遅く、一歩ずつツェーンに近づいて行く。


ツェーンは焦った。奏慈が自分に近付く度に、全身が震える。

寒いのではない……恐怖だ。今の奏慈を見てると、恐怖を覚える。

ツェーンは今までただの一度も、恐怖を覚えた事は無かった。


「さて、どう殺されたい? 言ってみろ」

「く、来るな!」


にも拘わらず、今の奏慈を見てると言いようのない恐怖を覚える。

ツェーンは恐怖から後退りを始め、自身の周囲に黄金の柱を展開した。


「な、舐めるのも好い加減にしやがれ!

 オレ達をあのとち狂った女と同じだと思ってんのか!?」

「……同じ? 今、なんて言った?」

「あ、ああ? 同じだ! それがどうかしたのか!?」

「同じ、か……酷い冗談だな」


しかし、その奏慈の足が突然止まる。

どこか遠くを見つめ始め、一歩も動かなくなった。

ツェーンはそれを見て、ニヤリと笑う。


「そうか、お前とあの女は恋人同士だったそうだな!

 お前は恋人を殺した! さぞ辛かろう!!」


ここぞとばかりにツェーンは奏慈を責め始めた。

今ならただのサンドバッグ。なんでも言い放題だ。


「言葉も出ないか? そりゃそうだろう!

 自分をあれだけ愛してくれた女を殺したんだ!

 自分の無力さが嫌になるよな?」

「ちっ、言わせておけば!!」


だが、その様子を見ていたボーアは黙っていられなかった。

誰が好き好んで恋人を殺せるものか。頭に血が上る。

ボーアはそのまま槍を出現させ、強く握り締めた。


「待って下さい。もう少し様子を見ましょう」

「止めるな! カンナギに代わり、ボクが奴を!!」

「よく見て下さい! カンナギの様子を!!」

「様子だと? 一体、何が……」


イカリに言われ、ボーアは奏慈の方を見る。

すると、奏慈はツェーンに向かって走り始めていた。


「い、いつのまに!? それになんだあの速さは!!

 あれなら、もしかすると……」

「ええ、加勢する必要はないでしょう。

 ボーアさん、後ろに下がりますよ」

「……ああ、そうしよう」


その奏慈を見て、ボーアは納得した様子で頷く。


「な、なんなんだ!? い、言いたい事があるなら言いやがれ!

 この意気地なしが……」

「お前達が藍と同じだと? ふざけるな!

 お前達のような屑が藍を語るな!!」

「ひ、ひぃいい!」


対照的に、ツェーンは恐怖を覚えた。

もう奏慈を止められない。このままでは殺される。

そう確信したのだ。


「あ、アインス! オレを助けろ!!

 このままじゃあ、殺されちまう!」


ツェーンはアインスにしがみつくと、身体を揺さ振り始めた。

この間も奏慈は迫り、ツェーンの首を狙おうとしている。

その事実がツェーンを焦らせ、恥も外聞も捨てて頼み込ませた。

だが、アインスはそんなツェーンを見て、心底残念そうに言う。


「はあ、君にはガッカリしたよ。さっきまでの勢いはどうした?

 まさか、何の作戦も立てずに煽っていたのか?」

「な、何を言っているんだ? オレ達は仲間だろ?

 アイツが来るまで、オレを守ってくれてたじゃないか!」

「それは君の実力を評価していたからだ。仲間とか関係ない。

 だが、もう守る必要は無いな。自分の身は自分で守れ」

「そ、そんな……」


ツェーンは完全に見放された。

しかし、落ち込む暇は無い。奏慈が目の前まで迫っている。


「と、止まれ!」


ツェーンはツルハシを振り、周囲の柱から無数の針を飛ばした。

針は一本一本太く、それでいて人ほどの長さを持っている。

そんな針が奏慈に向かって真っすぐ飛んでいく。


「遅い!」

「な、なに!?」


奏慈はその針を全て弾き返した。

そして、その勢いのままツェーンに向かって剣を振り下ろす。

ツェーンはすぐに黄金の障壁を出し、その剣を受け止めに入った。


「脆いな」

「ば、馬鹿な!? くくく、あはは!」


だが、奏慈はその黄金の障壁をたった一振りで叩き割る。

黄金の障壁は今まで一度も、正面から破られた事がなかった。

それを剣の一振りで叩き割る。こんな事は有り得ない。

ツェーンはもはや笑うしかなく、向かってくる剣を受け入れた。


「がはっ!? えっ、これは血か?

 な、なんで? なんでオレから血が!?」


それに驚いたのも束の間、ツェーンの身体から血が噴き出る。

斬られたら血が出るのは当たり前だ。でも、この世界では違う。

サモンウェポンで怪我をしたり、まして血が出る事など無い。

しかし、確実に血は出ている。ツェーンは咄嗟に身を翻した。


「ツェーン、まだ分からないのか?」

「えっ、な、なんだ? お前は分かるのか?」


そんなツェーンを哀れんだのか、アインスは静かに語り出す。


「あの血塗れの姿を見て、疑問に思わなかったのか?

 ソウジのあの血はアウィンの血だ。なら、それをどう出したのか?

 決まっている……ソウジ自らがアウィンから流させたんだ」

「そ、そんな事ができる訳が!?」


サモンウェポンは長い歴史を持つ魔装具の一つだ。

その性質上、後から性能を変える事はできない。

ウルトルクスの使っている物も、そういう目的で作られた物だ。

その為、今の奏慈のように突然性能を変える事はできない。


「成程、そういう事ですか」

「イカリ? お前も何か分かったのか?」

「ええ、分かりました。あの黒い腕は神聖魔法で間違いありません」

「し、神聖魔法だと!? あ、あれは聖女にしか」

「はい、それは疑問ですが、今触れるべきはそこではありません。

 カンナギは神聖魔法を使い、サモンウェポンを狂わせたんです。

 人を傷つけられる凶器になるように」

「う、嘘だろ……」


ボーアは言葉を失う。神聖魔法は聖女だけが使う事を許された魔法だ。

その神聖魔法を使い、サモンウェポンで人を殺そうとしている。

そんな事が許されていいのか? ボーアは頭を抱える。


「あ、アインス、助けてくれ! 今の奴は化け物だ!

 神聖魔法をあんなに使って、平気なのは狂ってる!」


真実を知り、ツェーンは完全な逃げ腰になった。

もう戦う気力は残されていない。


「……はあ、君には本当にガッカリだ。もう必要ない。

 死ね」

「えっ、がは!? ど、どうして……」


アインスはそんなツェーンを見捨てた。熱線を放ち、その頭を貫く。

今のツェーンにそれを防ぐ力は無く、そのまま絶命した。


「いいのか、仲間を殺して? 貴重な戦力だったんだろ?」


奏慈は剣に付いた血を払いながら聞く。

ツェーンが死んだ事に対し、特に何も思っていない。

単純に何故戦力を減らしたのか疑問に思って聞いた。

それに対し、アインスは溜め息混じりに応える。


「構わない。あんなのが居ても、こちらが不利になるだけだ」

「そうか……なら、始めよう」

「ああ、来い」


こうして、戦いは奏慈とアインスの対決に移る。

もう邪魔は入らない。二人だけの世界だ。

残された二人は、その戦いを静かに見つめる……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!

感想評価も募集致します、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ