感謝
お気付きの方も居ると思いますが、フランさんの口調を変えました。
前の喋り方が好きな人には申し訳ないです。
新しい口調のフランさんを、どうぞ宜しくお願いします
「はあはあ……」
「おお、フランじゃあないか」
フランは大声を上げて男に向かって突進した。奏慈はその行動に目を丸くする。
そのままフランは男の前に立ち止まり、息を切らしながら怒号を発した。
「ボーア、なにしてますの!」
「何だい? いつも通り、かわいこちゃん達と居るだけじゃあないか」
「それですわ! フォチャード家の次期当主が遊び歩いてるなんて!!」
「相変わらずだな……お喋りしたり、買い物してるだけなのに」
怒るフランに対し、ボーアは全く動じずに応えている。
同様に周りの女性も意に介しておらず、それが増々フランを怒らせた。
奏慈はその様子を遠くから窺い、二人の関係性を考え始める。
「おや、その男はなんだ」
「ぼ、僕ですか?」
「そうだ、お前だ。何故フランと一緒に居る?」
ボーアは苛ついた口調でそう言う。機嫌は一転して悪くなった。
そのまま慌てる奏慈を気にせず、ボーアはゆっくり近づいて来る。
フランはそんなボーアの前に割って入り、呆れた口調で言った。
「自分は棚に上げて、アタクシには文句を言うんですのね」
「勘違いしないでくれ、フランには言ってないよ。
それにボクは一切、邪心を持っていない。それは自分自身の事だから分かる。
でも、この男はどうかな。他人の心なんてシンガン族にしか分からない」
「はあ、この人は客人。アタクシは案内してるだけですわ」
「ふ~ん」
そんなボーアは笑みを浮かべながら応える。機嫌は再び良くなった。
ボーアのその調子にフランは呆れるも、奏慈の方を振り向いて話し出す。
「一応紹介しておきますわ、コイツはボーア=フォン=フォチャード。
アタクシと同じ貴族ですの。ついでに言うと許婚」
「という訳だ。えっと」
「旭凪奏慈です」
「カンナギね、珍しい名前だな。
男と手を握る趣味はないけど、うん」
「ああ、はい」
ボーアはそう言いながら、奏慈に手を差し伸べた。その手を奏慈は握る。
その手は冷たく、前に握ったフランよりも硬い戦士の手だった。
「ふん、これくらいでいいだろ」
「えっ?」
「ごめんね、かわいこちゃん達…今日はここまでみたいだ、また遊ぼう」
だが次の瞬間にボーアは手を離し、女性達の方を振り向いて笑顔を見せる。
その行動に奏慈は啞然とするも、女性達に角や尻尾があるのを発見した。
女性達は俗に言う魔族で、人族と似た部分はあるものの全く違う生命体だ。
「はーい、ボーア様」
「また、お願いしますね~」
そうして笑顔で手を振りながら、女性達はボーアの元から去って行った。
ボーアはその女性達が見えなくなるまで見送り、フランの方に向き直る。
「さあフラン、一緒に遊びに行こう」
「はあ、アタクシはカンナギ様の案内をしてますの。
お遊びに付き合う暇はありませんわ」
「そう言うなよ。ここは物騒じゃない、フランが居なくても平気だよ。
それともボクがかわいこちゃん達と遊びに行ってもいいのかい?」
フランに何を言われても、ボーアは諦める気配が無かった。
その様子にフランは溜め息を吐き、奏慈の方を向きながら言う。
「……分かりましたわ。カンナギ様、申し訳ないのですが」
「大丈夫ですよ。言葉は通じるし、なんとかなります!
ボーアさんと一緒に楽しまれて下さい!」
「申し訳ありません……さあ、行きますわよ」
「ああ!」
浮かない表情をしつつも、フランはボーアと共に去って行った。
残された奏慈はそんな二人の幸せを祈り、ゆっくりと歩き出す。
「本当に綺麗な町だな」
奏慈は異世界と聞いて、全く知らない世界に来たと思っていた。
しかし、西洋風な人々や街並みは奏慈の知る物によく似ている。
実際は似ているだけで全く違うのだが、奏慈には知る由もない。
「それでは皆さん、今日も創造神様へ感謝の気持ちを伝えましょう」
(聞いてる人が一杯居るな、創造神教の布教かな?
でも、フランさんの話聞くに皆信じてるらしいから違うか)
そうして歩いていると、奏慈は広場に辿り着いた。
広場には少女が居り、その少女を囲むように人集りができている。
そんな少女を奏慈は人集りの外から見つめ始めた。
「うん?」
(あっ、気づかれた……捕まったら時間かかっちゃう。
早く図書館に行こうっと)
「……今の奴」
そんな事もありながら、奏慈は図書館に辿り着いた。
図書館は広く、中に入れば何台もの本棚が立ち並ぶ。
その圧巻の景色に思わず声を出しながら奏慈は進む。
「すみません、異世界人に関する本を探しているのですが」
「それでしたら」
そんな広い図書館で目的の本を一人で探すのは不可能だ。
その為、奏慈は真っ先に司書の元に向かった。
司書は快く奏慈を案内し、目的の本のある所へ案内する。
「こちらになります、それでは」
「……えっ、ここにある本全てが異世界人に関する本?」
間もなく奏慈は目的地に辿り着いた。そして、同時に驚愕する。
そこには一生かかっても読み切れない数の本が溢れていたのだ。
「いや、寧ろこんなに一杯ある事に感謝しよう……よし、読むぞ」
その数に軽く絶望する奏慈だったが、覚悟を決めて読み始める。
フランの言う通り、奏慈は加護で何が書かれているか分かった。
それでも読み切れない数の本は減らず、時間だけが過ぎていく。
「はあ、疲れた……」
いくつも本の山を作り、溜め息混じりに奏慈は言う。
気づけば日も暮れており、奏慈は急いで本を戻すと図書館を後にする。
「はあ、全く読めなかった……全て読むのに何年かかるんだろう。
この世界と元居た世界の時間に、どれだけ差があるかは分からない。
でも、戻れるなら早い方がいいよな。無断欠勤は許されないし。
こうなったら、フランさんにお願いして一緒に読んで貰おうかな?」
奏慈は顎に手を当てながら、薄暗い道を早足で歩く。
次々に独り言が出るが、それを聞く者は誰も居ない。
そのまま事前に教えられていた馬車乗り場に近づく。
「きゃあああ!」
「えっ、今のは!? こ、こっちからか!」
そんな時に悲鳴が聞こえてきた。奏慈は驚くが、すぐに聞こえた方へ向かう。
間もなく奏慈は辿り着き、その路地裏にナイフを持った男と女を見つけた。
「そこで何をしている!」
「ああん?」
奏慈は素早くサモンウェポンに魔力を込めると、剣を出現させる。
不機嫌そうに振り向いた男は、奏慈を上から下まで見て様子を窺う。
そうして一通り見終わったのか、男は鼻で笑いながら口を開いた。
「なんだ、騎士団かと思ったら一人じゃねえか。驚かせやがって」
「何をしていた! 言え!」
「ふん、見て分からねえか。投資を頼んでんだよ」
「投資だと? 脅しの間違いじゃないのか!」
「お願いしてただけだ、こうやってナイフを見せてな」
「うっ」
男はそう言うと、奏慈にナイフを突きつけて睨みつける。
その行動に思わず尻込みするが、奏慈はすぐに睨み返す。
そして、その勢いのまま男と女の間に入ると剣を構える。
「早く逃げて下さい! この男は僕が引き受けます!!」
「は、はい!」
女は一礼し、足をもつれさせながらも全速力で駆け出した。
男は後を追うも、その前に奏慈が立ちはだかって剣を振る。
「行かせはしない!」
「ちっ、痛い目に遭わねえと分からねえみたいだな。
じゃあ、望み通りにしてやるぜ!」
男は面倒臭そうにしながら、奏慈に向かって突進してきた。
当然手にはナイフが握られており、奏慈は剣で受け止める。
「くっ、なんて力だ!? このままだと……」
奏慈はその突進をなんとか防げたが、男の力は強かった。
このまま受け止め続けるのは不可能だろうと確信する。
結果、少しずつ後退して路地裏から抜けようとし始めた。
「させねえよ!」
しかし、それは突如出現した炎の壁によって阻まれる。
男は空いた手を振るうと、奏慈の背後に出現させたのだ。
これでは抜けられない。奏慈は覚悟して剣を握り締める。
「はあっ!」
「おせえよ!」
「ぐあ!?」
その状態から奏慈は男を押し退けると、素早く剣を振るった。
だが、その剣はあっさり躱され、カウンターの一撃を食らう。
サモンウェポンだった御蔭で怪我は無いが、鋭い痛みが走る。
「本物だったら今頃死んでるぜ。いや、その方が幸せかもな。
こうやって、気絶するまで受けずに済むからよ!」
「うぐっ!」
さらに男は奏慈の首や足にナイフを突き刺した。
これも血は流れず、鋭い痛みだけが走る。
その後も奏慈は為す術なく、男に刺され続けた。
「タフだな、お前。向かって来ただけはある」
「うっ、うぅ」
「それもこれで終わりだ!」
刺され続け、遂に奏慈は地面に倒れる。
それでも立とうとするも、そこにナイフが振り下ろされた。
奏慈に止める術は無く、静かに目を閉じる。
「おらっ!」
「ぐおおおぉぉ!?」
だが次の瞬間、男は叫び声を上げながら吹っ飛んでいった。
奏慈は急いで目を開ける。そこには青髪の少女が居た。
少女は堂々と立ち、手にはモーニングスターを持っている。
「おま、ううん……大丈夫ですか、お怪我はありませんか?」
そんな頼もしい助っ人の参上に一安心し、同時に感謝した。
この時の感謝を、奏慈は忘れる事は無いだろう。
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