劣勢
「吹き飛べ!」
「食らいなさい!」
奏慈達が神殿に入った頃、ビアラは襲撃を受けていた。
突如として魔物の軍勢が現れ、二人は虚を突かれる。
だが、すぐに武器を持って立ち上がると、魔物と戦い始めた。
戦いは優勢で、二人はあっと言う間に百匹以上の魔物を倒す。
「くっ、なんて数だ!? 倒しても倒しても湧いて来る!
ここは一度、脱出した方がいいか?」
「いえ、まだ諦めるのは早いですわ! 数は確実に減ってる!
おば様が戻るまで、耐えますわよ!」
しかし、魔物の数は圧倒的で減るどころか増え続けている。
戦いは一転して劣勢になり、二人は苦戦を強いられた。
それでも二人は兵士達と協力し、魔物達を殲滅していく。
「アンタ達、久しぶりだねえ!」
「っ!? この声は!」
「間違いない!」
そんな中、聞き覚えのある声が遠くから響いてきた。
二人はすぐに身構え、聞こえてきた方を見る。
そこには他と同じく魔物しか居ないが、様子が可笑しい。
挙動不審で二人に向かわず、左右に分かれて動き始めている。
そうして出来た道を、鞭を持った女が堂々と歩いてきた。
「ツヴァイ!! やっぱり、この騒ぎは貴方達のせいでしたのね!」
歩いてきたのはウルトルクスの構成員……ツヴァイであった。
ツヴァイは魔物を従え、鞭を振るいながら応える。
「それはこっちの台詞だよ!
そんなにワタシと会いたかったのかい?」
「酷い冗談ですわ! 誰が貴方なんかと!」
「ああ、会いたくなんかない。だから、ここで終わらせる!」
「ええ、今日は逃がしませんわ!」
そう言うと二人は武器を強く握り、フランはツヴァイを睨みつけた。
二人の間には因縁がある。フランは前の戦いでツヴァイと戦ったのだ。
しかし、その戦いは疲れから全力を出せない悔しいものだった。
それを言い訳にするつもりはないが、全力を出せれば勝てた筈だ。
リベンジがしたい。フランはずっとそう思っていた。
そんな矢先にツヴァイが現れたのだ。このチャンスを逃す訳にはいかない。
「へえ、それは面白いねえ……じゃあ、見せて貰うよ!」
その気持ちを知ってか知らずか、ツヴァイは笑いながら鞭を振るう。
すると、周囲に居た魔物達が一斉に動き出した。
「なっ、これはまさか!?」
「予想はしてましたけど、魔物使いは貴方でしたのね!」
そのまま魔物達は近くの兵士を襲い始め、二人の元にも向かう。
飛竜騒ぎから始まった魔物発生の原因はツヴァイだったのだ。
ツヴァイは続けて鞭を振るい、次々に魔物をけしかけていく。
「だとしても、アタシ達のやる事は変わりませんわ!」
「その通りだ! ボク達が雑魚如きにやられると思うなよ!!」
その事実に二人は驚きながらも、向かってくる魔物に立ち向かう。
ツヴァイも現れて劣勢は続いているが、不思議と二人の表情は明るい。
「言うだけあって、やるようだねえ!」
二人は先程よりも早く魔物を倒し始めていた。
その早さは圧倒的で、増えるよりも早く倒している。
この変化はツヴァイが現れた事が切っ掛けだ。
「行け、行くんだ! どんどん攻撃しろ!!」
「……くっ、これはマズイねえ」
ツヴァイさえ倒せば、魔物の軍勢は烏合の衆に成り下がる。
どれだけ居ても、恐れる必要は無くなるのだ。
それが分かった今、二人は最初から全力を出して戦う。
いちいち向かってくる魔物に、丁寧に戦う暇は無い。
「隙あり!」
「あ、危ない!?
って、何処を狙ってんだい? ワタシはここだよ!」
その戦いの中でフランはツヴァイに向かって斧を投げた。
ツヴァイは咄嗟に避けるも、斧は遠くの柱に命中する。
方向は合っているが、避ける必要は無いほど遠くだ。
「……起爆」
「なに? ま、まさか!?」
しかし、次の瞬間に斧が刺さった柱が爆発した。
その爆発は凄まじく、遠くに居たツヴァイも巻き込まれる。
「ご、ごほごほ……こ、これは付与魔法!?」
「ええ、付与魔法ですわ。あの一瞬で避けるなんて、敵ながらあっぱれ。
でも、次はどうしますの?」
「くっ!?」
フランはそう言うと、再びツヴァイに向かって斧を投げた。
その斧もツヴァイは避けるが、その避け方はさっきよりも大袈裟だ。
斧から両手を広げた以上に離れ、魔物を自身の周囲に呼び寄せる。
「起爆」
次の瞬間、今度は斧が爆発した。
その爆発も凄まじく、ツヴァイの周囲に居た魔物は消し跳ぶ。
「ま、前とは比べ物にならない!? なんだい、この強さは!」
「……その様子を見るに、疲れてなければ勝てましたわね。
まあいいですわ、さっさと終わらせましょう」
「くっ、ここは退いた方がいいようだねえ……」
ツヴァイはフランを見据えたまま、ゆっくりと後退し始める。
フランの使う付与魔法の威力は、ツヴァイの想像を超えていた。
――付与魔法。それは身体や武器に概念を付与する魔法。
フランの場合なら爆発だ。爆発という概念を斧に込める。
すると斧は爆弾になり、フランの望む時に爆発するようになる。
だが、それなら普通に爆発魔法を使えばいいのでは?と思うだろう。
実際その通りで、爆発魔法なら効果が出るまで眼に見えない。
付与魔法自体も難易度が高く、並みの者では使えない魔法だ。
それでも付与魔法を使うのは、通常の魔法には無い利点があるから。
その利点とはタイムラグが存在しない点だ。
通常の魔法は対象が遠ければ遠い程、命中するまでタイムラグがある。
また射程の限界もある為、対象が離れすぎると不発してしまう。
それに対して付与魔法は術者が望めば、即座に効果が発動する。
込めた概念の量にも寄るが、国一つ離れていても発動可能だ。
そんな付与魔法が掛けられているのだから敵わない。
ツヴァイが逃げるのも仕方ない事だ。
「おっと、何処に行くんだ?」
「い、いつのまに!?」
「よし、やっちゃいなさい!」
しかし、そんな逃げるツヴァイにボーアは迫っていた。
ボーアは魔物を薙ぎ倒し、その勢いのままツヴァイに突っ込む。
もう邪魔をする者は誰も居ない。ボーアは槍を振り下ろす。
「くくく、危なかったな」
「えっ!?」
「その声は……」
だがツヴァイに当たる寸前で、槍は黄金の障壁に阻まれた。
同時に聞き覚えのある声も響き、二人は声のした方を見る。
「やはり、ツェーンか」
「で、でも、どうやって?」
そこには今も牢に捕まっている筈のツェーンが居た。
二人は混乱するが、ツェーンはそんな事を気にせず大袈裟な身振りをする。
「ツヴァイ、俺に感謝しろよ? 危うく負けてたぜ」
「ふん、余計なお世話だよ」
そのままツェーンはツヴァイを守るように前に立つ。
「そして、さっきぶりだな。調子はどうだ?」
「……いいぞ。そういう貴様はどうやって牢から抜き出した?
あの牢は簡単には破れない筈だ」
「ああ、その通りだ。俺一人ではとても破れない」
「だが、仲間が居れば問題ない」
そんなツェーンの横に、今度は大杖を持った男が現れた。
男の手には鍵の束もあり、これ見よがしに二人に見せつける。
「……貴様はアインス」
「君達とは、あの時以来になるか。
とは言っても、こうして話すのは初めてだな」
そうして数秒見せつけると、アインスはボーアの方を向く。
「お前達のような集団が仲間の為に動くとは驚いた」
「ええ、仲が悪いと聞きますもの」
「ふむ……本来なら、二度の失態を犯したツェーンは処刑。
生かしておく選択肢は無いが、今の我々は人手不足。
なので、今は一人でも失う訳にはいかないんだ」
「成程、それは大変だな」
「大変ですわね」
二人は余裕そうにそう言いながら、目の前に居る敵を見る。
ツェーンに、アインス……どちらも強い力を持った相手だ。
特にアインスはカリバーと戦える程の力を持っている。
ツェーンも前の戦いで苦しめられた強敵だ。二人の額から汗が流れる。
そんな相手に戦えるのか? 戦えとしても、生きて帰れるの?
様々な不安が過るが、二人はそれを表に出さず、不敵に笑う。
「フラン、いけるか?」
「いけますわ! 相手が誰でもアタシ達がやる事は変わらない!
そうでしょう?」
「ああ、そうだな……!」
二人はそう言い切ると、再び目の前に居る敵を見る。
仮面を被っているものの、鋭い視線が向かって来ていた。
二人が向かってくるのを今か今かと待っているのだ。
「行くぞ!」
「ええ!!」
それに応えるように、二人は武器を持って駆け出した。
無事に生きて帰れる事を祈りながら……
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