騙し騙され
「あ、あれ? ここは……」
奏慈は気づくと、真っ白な空間に立っていた。
既視感を覚える何処までも続く白い空間。
すぐに周囲を見回すも、周りには誰も居ない。
物すら置かれておらず、正に無の空間だ。
だが、この空間こそ奏慈が時止めを覚えた場所。
同時に異世界人と出会い、指針を貰った場所だ。
「という事は、あの時みたいに異世界人が」
奏慈はそう思い、改めて周囲を見回し始めた。
すると、視界の端に一つの影が引っかかる。
その影は女性の形を取り、そこに佇んでいた。
「異世界人ですか? いや、この神殿は……」
奏慈はそこまで言った所で言葉を飲み込む。
この空間は神殿から飛ばされ、訪れる場所だ。
そして、今回は砂蠍神殿から飛ばされた。
これが普通の神殿なら問題ないが、今回は違う。
砂蠍神殿は魔王リングが住んでいた場所だ。
そこから飛ばされ、訪れた場所に居る影。
どう考えても怪しく、魔王の可能性もある。
そう思った奏慈は警戒しながら、勇気を出して言う。
「お前は何者だ! 名を名乗れ!!」
「……何故ですか」
「聞こえない!! もっと大きな声で言え!」
「何故、エルフを挑発したのですか?」
「えっ?」
「何故、挑発したんですか?」
奏慈の問いに対し、影はノイズ混じりにそう言う。
男なのか女なのか分からないが、その言葉は疑問だった。
思わず言葉を失うが、奏慈はすぐに応える。
「決まってる……フィーさんを守る為だ」
「……守る? 挑発で守れるんですか?」
「守れます! あの状況、エルフが狙えるのは二人……僕とフィーさんだ。
でも、狙うのはフィーさんだろう。何故なら、奴らの狙いは僕だからだ」
前の戦いでウルトルクスの狙いは奏慈と分かっていた。
創造神と繋がりのある異世界人なら、居場所を知っている。
その為、今回も奏慈が挑発するまで生かそうとしていた。
もし殺せば、本来の目的である創造神抹殺が遠ざかってしまう。
「だから、挑発して狙わせたと?」
「そうです。それに夢幻魔法はいずれ解けると聞きました。
なら時間を稼げば、後はイカリ達がやってくれる。
そう思ったから挑発したんです……まあ結果がアレですが」
奏慈は自嘲気味にそう言いながら、大きく息を吐く。
正直『何故、そんな事を聞く?』と聞きたかっただろう。
それでも聞かれた以上、素直に応える。それが奏慈という人間だ。
「あの時から何も変わりませんね……」
「えっ?」
「残念ながら、私は異世界人ではありません。
ですが、貴方に力を与える事はできます」
「じゃ、じゃあ、貴方はやっぱり魔王?」
「……さあ、受け取って下さい」
影はその言葉に応えず、自身の体から光の玉を取り出した。
あれこそ、奏慈が新たに得る魔法の一つなのだろう。
そのまま影は奏慈に向かって、光の玉を飛ばした。
奏慈は思う所はあるものの、それを受け入れる。
間もなく、玉は吸い込まれるように入っていった。
影はそれを見届け、どこか嬉しそうに語り出す。
「貴方には本当に感謝致します。
いつまでも、その気持ちを大切にして下さい」
「待って下さい! あ、貴方は!?」
「……それでは、さようなら」
「ま! っ!?」
そう言うと影は手を振り、話を無理矢理終わらせた。
奏慈はそれでも話を続けようとするも、声が出せない。
それどころか、遠くから声が聞こえ始めた。
聞き覚えがあるが、まだそんなに聞いていない声。
その声がハッキリ聞こえた時、奏慈は覚醒するのだった……
「あはは、死んじゃったねえ~! なっさけな~い!!」
――時は奏慈の頭が貫かれた所まで遡る。
エルフは死んだ奏慈の前で、両手を広げて笑っていた。
傍らにはフィーも居り、無言で覆い被さっている。
そうして笑い続ける中、エルフはフィーの頭を掴み上げた。
「ねえ、あんたも何か言いなよ?
弱い癖に、口だけ達者の男にさ!」
エルフはフィーの頭を掴んだまま囁くように言う。
二人の視線の先には、奏慈の頭を貫いた剣が立っていた。
剣はまるで墓標のように立ち、今も奏慈を貫いている。
「……本当に弱いのはどちらですか?」
そんな中、フィーは静かに言葉を絞り出し始めた。
エルフはそれに対し、頭を揺らしながら聞き返す。
「えっ? な~に、聞こえなーい?
もっと大きな声で言って!」
「本当に弱いのはどちらですか?」
「はあ? いきなり何?
わざわざ言いたかったのって、そんなこ……」
「聞いているのよ……弱いのはどちらかと!!」
「うっ!?」
フィーは目隠しを突如破り捨てると、怒号を放った。
その行動にエルフは恐怖し、思わず掴んでいた頭を放す。
だがフィーはエルフの右手首を掴み返し、言葉を続ける。
「目には見えない強さが、本当の強さ。
それがありますか、貴女には?」
「い、一体、何を言ってるのよ!?」
「あるのかと聞いているのよ! さっきから!!」
「うう!?」
フィーの突然の行動に、エルフはすっかり逃げ腰になっていた。
余裕も無くなり、手を振り解こうと必死になり始める。
それでもフィーは放さず、力を増々強めた。
「創造神様には敵わないんです、どれだけの力があっても。
競い合っても、どんぐりの背比べなんですよ。
つまり、本当に必要なのは……」
「……さ、さっきから意味の分からない事を言って!
あ、あーしを馬鹿にするな!!」
しかし、遂にエルフは手を振り放し、剣を手元に戻す。
「死んじゃえ!!」
「ぐっ!?」
そして、そのままフィーに向かって剣を振り降ろした。
その速度は目にも止まらず、一瞬でフィーの頭を貫く。
フィーはその一撃で絶命し、膝を突いて地面に倒れた。
「あ、あははは!! わ、訳分からないこと言って、終わり?
こんなに簡単なら早くやっちゃえば良かった!
さ、さて、後は……イカリとズルフィだったっけ?
その二人もあっさり倒して、さっさと帰っちゃおっと」
その勢いのまま、エルフはフィーに背を向けて歩き出す。
一転してエルフの表情に余裕が戻り、元気良く剣を振り出す。
「えっ!?」
だが、そんなエルフを嘲笑うように周囲の景色が歪み始めた。
視界を塞いでいた木々は消えていき、元の神殿に戻っていく。
さらには倒れていた奏慈とフィーの姿も消え、綺麗に無くなった。
「ま、まさか、夢幻魔法!? なら、今まで見てたのは……」
「そういう事だよ。掛けるのは得意でも、掛けられるのは得意じゃないようだね」
そこに髪を発光させながら、ズルフィが割って入る。
エルフはそれを見て、全てを察した。
「じゃ、じゃあ、二人は!?」
「ええ、生きてますよ」
「僕もね」
そこに奏慈とフィーも割って入った。
今までエルフが見ていたのは、全て臨紫による幻だったのだ。
そして、見ている間に木々は斬られ、奏慈の傷も治された。
状況は一気にエルフの不利になる。だが、まだ諦めない。
「で、でも、あーしの前に出たのが運の尽き!
また、夢幻魔法で……!!」
「……自分の姿をよく見てみな」
「え、えっ!? こ、これは!」
そう言われ見た瞬間、エルフの全身に痛みと寒さが走る。
気づかない内に、エルフは凍らされていた。
氷の彫像と化し、まるで見世物のようになっている。
「やっと、臨紫が解けましたか。随分と遅かったですね。
まあ、御蔭で上手く凍らせる事ができましたが」
そんな彫像の横には、凍らせた本人であるイカリも立っていた。
イカリが居ない事に気づかなかった時点で、エルフの勝ちは無かったのだ。
「お、おまえ!!」
「お眠りなさい」
「っ!?」
最後の抵抗も空しく、エルフは完全に凍り付く。
こうしてエルフとの戦いは、終わりを告げるのだった……
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