挑発
「さあ、始まりだよ~!」
「は、速い!?」
「口だけじゃあ無いようだね」
エルフはそう言うと、剣を振りながら突っ込んで来た。
戦術も何もない行動だが、その動きは目にも止まらない。
あっと言う間に奏慈の前まで辿り着き、剣を振るった。
「カンナギ、行きましたよ!」
「分かってます! 止まれ!!」
奏慈はその攻撃を冷静に回避し、時を止める。
剣の刀身は細いが、長くて鋭いレイピアのような剣だ。
真面に受ければ、ゴビのように貫かれてしまうだろう。
そう分析しながら、奏慈はエルフの背後に回る。
「はっ!」
そして、そのまま手元を狙って剣を振り下ろした。
血は流れなくても、斬られた痛みは残る。
その痛みで剣を落とせば、戦闘は有利になる筈だ。
「あはは、狙いはちゃんと付けないと駄目だよ!」
「なっ!?」
手元に剣が当たる瞬間、止まっていたエルフが口を利いた。
時止めは継続中、本来なら動く事など出来ない。
驚く奏慈だったが、それを超える出来事が起こる。
エルフの姿が歪み、その姿がズルフィの物に変わったのだ。
「くっ、なんで!」
奏慈はすぐに剣を引っ込めると、身を翻して距離を取った。
同時に時止めを解除し、ズルフィに声を掛ける。
「……ズルフィさんですよね?」
「う、うん? 何を言ってるんだい? アタシはアタシだよ。
そういうアンタは大丈夫かい? 回避はできたようだが」
「え、ええ……なんとか大丈夫です」
その受け答えからズルフィは本物のようだ。
奏慈はすぐに周囲を見回し、エルフを探し始める。
すると、何事もなかったかのように正面に立っていた。
「ふふふ、どうしたの? あーしに惚れちゃった?」
「……どういう事だ」
その雰囲気から目の前に居るエルフは本物らしい。
となると、先程の出来事はなんだったのか。
思い悩む奏慈だったが、いくら考えても分からない。
そうする内にカーテンの外から声が聞こえてくる。
「……無理だ、壊れそうにない」
「くっ、ズルフィ様!」
カーテンは全員中には入れず、タールとチルベを外に追いやっていた。
かろうじて声だけは通が、他は何も受け付けない。
二人は完全に戦力外になっていた。
「アタシは大丈夫だ、先にビアラに向かいな!」
「私も平気よ! チルベ、先に行きなさい!!」
「うっ、申し訳ありません!」
「……了解しました」
二人は頭を下げると、出口に向かって一直線に走り出す。
分断されたのは想定外だったが、今はかえって運が良いだろう。
「さあ、アタシ達もタールに続くよ! 付いてきな!!」
「ま、待って下さい!? もう少し様子を見てからでも!」
二人の姿が見えなくなった所で、ズルフィは走り出した。
当然、目指す先はエルフ。一気に勝負を付ける気だ。
しかし、奏慈はどうしても先程の出来事が頭を離れない。
このまま仕掛けるのは、あまりにも危険に思えたからだ。
「何をしてもムダだよ~! さあ、生えてきて!」
「こ、この魔力は!? 全員、注意して下さい!」
向かってくるズルフィに対し、エルフは両手を地面に叩きつけた。
その瞬間、エルフを中心として緑色の絨毯が広がり始める。
間もなく絨毯からは木が生え始め、奏慈達の視界を塞いだ。
「これは樹海魔術!? エルフ族のエルフってこと?」
「言ってる場合かい! この密度じゃ下手に斬れないよ!!」
「その通りですね……リング、どこに居るか探知して下さい。
場所さえ分かれば、自分が魔法で攻撃します」
「……その事なんだけど、さっきから全く見えないのよ。
ツェーンから私の事を聞いたようね」
「くっ、厄介な」
エルフは完全に姿を隠し、魔力さえも隠した。
これではどこから来るか全く分からない。
奏慈達を周囲を警戒しながら、武器を構える。
闇雲に動いても、格好の的になるだけだ。
「ふう、どこから来るんだ……あれ、皆さん?」
そうして様子を見ること数秒、突然周囲から人の気配が消えた。
奏慈は声を出すが、それに応える者は誰も居ない。
「……妙だ、こんなに簡単に逸れる訳がない。
そういえば、さっき攻撃された時もエルフ以外の姿が消えていた。
まさか、夢幻魔法か?」
前のウルトルクスとの戦いで、カリバーが使った臨紫。
その話を奏慈は聞いていた。臨紫は対象に死を体験させる夢幻魔法。
なら、相手が見てる物を変える夢幻魔法も存在するかもしれない。
「あはは、鋭いね~! でも、分かっても意味ないよ!!」
「なっ、いつのまに!?」
エルフは突如、奏慈の背後に現れた。
再び剣を振るいながら迫り、奏慈の心臓目がけて攻撃する。
「ちっ、止まれ!!」
それでも奏慈は時を止め、エルフの攻撃を回避した。
奏慈はその隙にエルフの背後に回り、剣を構える。
だが剣を振ろうとした瞬間、エルフの姿は歪んだ。
「……やっぱり、夢幻魔法か」
今度は姿がフィーに変わった。奏慈は周囲を見回し、エルフを探す。
しかし、エルフの姿はどこにも無く、周囲にはフィーしか居ない。
これでハッキリした。エルフは他の物の姿を自由に変える事が出来る。
それを確認した所で奏慈は時止めを解除し、フィーに声をかけた。
「フィーさん、エルフは夢幻魔法を!」
「……そうみたいですね」
「えっ? し、知ってたんですか!?」
慌てる奏慈に対し、フィーは冷静にそう返す。
眼も何処か遠くを見つめ、奏慈の方を見ていない。
「はい。とはいっても、今知ったばかりです」
「じゃあ、もしかして」
「ええ、お二人は『エルフ!』と叫びながら、走って行かれました」
「二人も夢幻魔法に……あれ、フィーさんは平気だったんですか?」
「キュバス族には精神魔法が効かないんですよ。
どんな実力者でも、私には通用しません」
「そうなんですね……」
奏慈はそこまで話すと、フィーと同じように遠くを見つめる。
視界は木々によって完全に塞がれているが、何も見えない訳ではない。
エルフは勿論、逸れた二人も探す為に目を凝らす。
「……アウィンの言った通りね」
「えっ、知り合いなんですか? ああそうか、同じ聖女でしたね」
「そうなんだけど……私とアウィンは友達なの、昨日も会って色々話したわ」
「そ、そうだったんですね……あの、昨日の話を聞いても?」
「いいですよ。話せる限り、話します」
お互いに背を預けた状態で、奏慈はフィーの話を聞く。
運の良い事に話を聞いてる間、エルフは全く仕掛けて来なかった。
「昨日、そういう事が……すみません、ご迷惑をおかけしました」
「気にしないで下さい。寧ろ、友達として放っておけなかったし」
「……でも、どうして私を彼氏だと? 名前は聞いてなかったんですよね?」
「そうですね、聞いてません。だけど、なんとなく分かったんです」
「なんとなく、ですか」
奏慈は神殿に入ってから、一言もアウィンの名を出していない。
さらにフィー達も出しておらず、話にも出していなかった。
にも拘わらず、奏慈を彼氏と思った理由はなんなのだろうか。
「ですが、お話はこれで終わりですね……貴方の死で」
「えっ? がはっ!?」
フィーはそう言ったと同時に、剣で奏慈の胸を貫いた。
突然の出来事に奏慈は対応できず、そのままやられる。
次の瞬間、フィーの姿はエルフの物に変わった。
「あはは、油断したね! あーしを放って、話してた罰だよ~!」
「ぐぅ、い、いつのまに……」
「そ、カンナギさん!? 今すぐ治療を!」
エルフは知らない内に二人の傍に近寄っていたようだ。
奏慈は胸を貫かれ、そのまま力無く地面に倒れた。
それでも顔だけを上げて、奏慈はエルフを睨みつける。
「な~に、その顔? 生意気なんですけど」
「……くくく、あははは!!
こんな雑魚相手にちょろちょろ逃げ回って不意打ちか!
随分と臆病なんだな?」
「はっ? やられておいて、なに言ってんの?」
「や、止めて下さい!! 今そんな事を言ったら……」
その状態で声を振り絞り、奏慈はエルフを挑発する。
エルフはその挑発に乗り、剣を激しく振り始めた。
「いや、言います! いつもいつも突然現れて、卑怯な手を使う。
そんな奴らが強者面しても、なんにも怖くないんだよ!!」
「へえ、言うじゃん……そんなに殺されたいんだね?
アインスに止められてたけど、もういい……ぶっ殺す」
「や、止めろ!?」
エルフは剣を振り上げ、奏慈に向かって振り降ろす。
それを止めるべく、フィーは覆い被さるが、もう遅い。
「あっ、ぐは……」
剣は既に、奏慈の頭を貫いたのだから……
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