虚飾
「これで終わりかい?」
「お、おのれ!」
遂に始まった戦いだったが、それは蹂躙で終わる。
ズルフィが紫髪を煌めかせながら、斧を振るう。
その一振りで敵は次々に吹っ飛び、倒れていく。
奏慈達も勿論戦ったが、ズルフィは圧倒的だった。
「こ、こうなれば……」
「無理よ。諦めなさい」
「くっ、聖女まで味方につけるとは!?」
作戦も決まり、逃げ出そうとするゴビを捕まえる。
ゴビは完全に包囲され、タールに手足を縛られた。
「お、お前達、分かっているのか!?
ワシが居なければ、この国は!!」
「しつこいよ、大人しくしな」
それでも抵抗するが、もう味方は居ない。
暴れるゴビを押さえつけ、歩かせる。
あとは処刑すれば、全て解決するだろう。
だが、そんなゴビの前に奏慈が割って入る。
「待って下さい、聞きたい事があります!
武人は不要という言葉……あれはどういう意味ですか?」
「……ほう、話の分かる者も居ったか」
「はあ、聞くだけ無駄ですよ。
こういう輩の言う事は自分本位なだけです」
「いや、良い機会だ……ゴビ、話しな!
もう話す機会はないだろうからね」
「ぐっ、年寄りを労わらんか!」
ズルフィはそう言うと、ゴビを地面に座らせた。
その事にしばらく文句を言うも、ゴビはそのまま話し出す。
「聞け、若者よ! この国は知恵者を殺しておる!!
本来貰うべき恩恵を奪われ、武人に盗られておるのだ!」
「……ズルフィさん、どういう意味ですか?」
「ふう、分かり難い言い方だろ?
要は文官の給料を下げて、武官の給料を上げたのさ。
でも、そんなに大きくは変えてないよ」
そう言いながら、ズルフィは懐から一枚の銀貨を取り出した。
「元々、この大陸には武官という概念が無くてね。
傭兵を雇って、城の警備をさせたりしてたのさ。
でも、給料があまりにも少なかった。
一か月働いても、この銀貨一枚にもならない」
「傭兵というのは実力は勿論、信用も大事です。
金だけで職場を変えれば、いずれ誰にも雇われなくなる」
「そのせいで多くの傭兵が長年苦しんできた。
ただでさえ、砂ばっかりの大陸だ……他に稼ぎも無い。
弱みを握られた傭兵は言う事を聞くしかなかったのさ」
そこまで話した所で、ズルフィは銀貨を仕舞う。
当時、銀貨は一か月遊んで暮らせるくらいの価値があった。
それもサフラー以外の話で、水に掛かる金は入っていない。
つまり、それを貰えない生活は察するに余りあるだろう。
「それが何じゃ! 傭兵なんぞ、平時は何の役に立つ?
平時の時に支え、発展させる文官こそ国の要!
傭兵の給料が低いのは当然じゃろう!!」
「ふん、よく言うな。戦いを長引かせていた張本人が」
「張本人? どういう事ですか?」
「そのままの意味よ。ゴビは商人と繋がっていた。
戦いを長引かせ、お互いに得をするようにしてたの」
「今では有名な話ですよ。戦争が長引いてた理由は」
長く争ってきたキジル、テンギト、カラクムの三国。
ズルフィが来るまで、その三国の勢力は拮抗していた。
しかし、その実態は仕組まれ、操作されていたのだ。
戦争は多くの物が動き、それに比例して金も動く。
いわば稼ぎ時であり、それを求めて外から商人がやって来る。
商人は物を売ると、その稼ぎから賄賂を作り出す。
文官はそれを受け取り、また物を売らせる。
これはゴビだけでなく、三国ともやっていた事だった。
「じゃあ、自分達が美味しい思いする為だけに戦争を!?
戦火で町を追われた人や、戦ってきた傭兵の苦労は……」
「全て、無駄だったのさ……本当にくだらないねえ」
ズルフィは遠い目をしながら、溜め息を吐く。
その顔は暗く、怒りを通り越した悲しみの表情だった。
対する奏慈は肩を落とすも、怒りで拳を震わせ始める。
だが、当のゴビはそんな事を気にせず、続けて言う。
「ワシが金を集めておったのは、国の為よ!!
国難の時には金が要る……集めて何が悪い!」
「はあ、ここまで自分に甘いと寧ろ感心しちゃうわね」
「分かったでしょう? 聞くだけ無駄なんですよ」
「……そうですね、その通りです」
奏慈は改めてゴビの方を見る。裕福そうな身なりに、飛び出た腹。
国の為に溜めているとは、とても思えない見た目だ。
「騙されるな、若者よ! ワシは……うっ!?」
それでも言葉を続けるが、奏慈はそんなゴビに剣を突きつける。
「黙れ、お前の言葉は虚飾に塗れている。何の価値も無い。
行動が伴っていない言葉など、聞くだけ時間の無駄だ」
「ぐっ、若造が……」
「すみません、もう連れてって下さい……聞く事はもう無いので」
「分かった。ほら、立ちな!」
ズルフィはゴビを無理矢理立たせ、再び歩かせ始めた。
その様子を奏慈は黙って見送り、出現させていた剣を仕舞う。
「あーあ、情けないな~」
「っ、この声は!?」
――そんな中、可愛らしい声が突如聞こえてきた。
突然の事に奏慈達は驚くが、すぐに声の持ち主が現れる。
黄色の仮面を被った細身の少女が奏慈達の前に降り立ったのだ。
「おお、来てくれたか! エルフよ、助けてくれ!!
「エルフ!? まさか、ウルトルクスか!」
ゴビはタールを押し退けると、少女の元に走っていく。
追いかけるべきだが、奏慈達は警戒し、様子を見る。
「遅かったが、よく来てくれた! さあ、やるんじゃ!!
あの馬鹿者どもを殺せ!」
そうして辿り着くと、奏慈達を指差して命令した。
それに対し、エルフは腹を押さえながら、ゴビに触れる。
「ふふふ、ばーか」
「えっ、がは!?」
そして、次の瞬間にはゴビの頭を剣で貫いた。
一瞬声を出すも、ゴビはその一撃で絶命し倒れる。
エルフはその様子を見つめながら、剣に付いた血を払った。
「どういうつもりだ!?
ゴビはアンタらの協力者だろ! 何故、殺した!!」
仲間割れにしても突然すぎる出来事に、ズルフィは声を上げる。
エルフはそれに対し、楽しそうに剣を振りながら言う。
「あはは、なにそれ? コイツはね、ただの人形よ!
あーし達じゃあ、殺戮はできても人は集めらんない。
だから、代わりに集めて貰ったの! なので、もう用済み」
「……ゴビは政変を起こす為に利用されたって訳か」
「そういう事よ! 処刑の手間も省いたし、感謝してよね!
ふふふ、あはは!!」
心底嬉しそうにそう言いながら、エルフはゴビの上に飛び乗る。
そのままエルフは跳び始め、何度も何度も踏みつけ始めた。
ゴビの死体はその度に歪み、嫌な音と共に血を噴き出す。
その光景に奏慈達は息を飲むが、エルフは構わず踏み続ける。
「……ウルトルクスで間違いなさそうですね」
「はい、あの狂いっぷりは間違いないでしょう」
しかし、見続ける訳にもいかない。
奏慈達は武器を構えながら、ゆっくり後退し始める。
今は戦うよりも、退いて態勢を整えるべきだ。
「ふふふ、逃がさないよ……次はあーしが遊んで貰う番!!」
だが、それをエルフは見逃さず、剣を高く振り上げた。
すると、奏慈達を囲むように何本もの赤い剣が降り注ぐ。
剣からは赤いカーテンのような物が展開され、奏慈達を包囲した。
「……この感じはエルフを倒すまで逃げられないかも。
あまり良くないわね」
「でも、なんで今になってここに?
もっと早く来る事も……まさか!?」
そこまで言った所で、イカリはエルフを見る。
エルフは跳び続けていたが、いきなり拍手し始めた。
「あったり~! そこのオーク族は賢いわね!!
貴方達が神殿に入ってすぐに、ビアラを攻めちゃいました~!
あーしはその帰りに、ここに寄ったって訳よ!」
「……そうか、ツェーンのあの態度は」
エルフはそこまで言うと、また腹を押さえながら笑い始める。
今思うと、ツェーンは捕まっているのに余裕を全く崩さなかった。
それは楽観的だったからではなく、攻める事を知っていたのだ。
だから、居場所もあっさり明かし、戦力を分散させたのだろう。
「だとすれば、フラン様達は……」
「ちっ、みんな構えな! さっさと倒すよ!!」
「は、はい!」
なら、これ以上の時間は掛けられない。
ズルフィの言葉と共に、奏慈達は武器を構える。
「ふふふ、楽しみ! あーし、ぜんぜん戦えなかっただよねえ~!
だからさあ……すぐに死なないでよ?」
一転してエルフの声色は重く、低くなった。
同時に剣を地面に突き立て、奏慈達を待ち構える。
ここで怖気付く訳にはいかない……こうしてエルフとの戦いは始まった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正します!
感想評価も募集致します、よろしくお願いします!




