理由
視点がコロコロ変わって分かり難いと思うので、なるべく分かり易くしていきたいです。
面白いと思って頂けたらいいな。
「フラン、後で私の部屋に来るように。分かったね」
「……分かりましたわ」
フランはハルベルムに言われ、すごすごと引き下がる。
ハッキリ断ったにも拘らず、フランはしつこく騎士団に入るように言ってきた。
ハルベルムが来なかったら、奏慈は騎士団に入れられていただろう。
一安心する奏慈だが、同時に問答無用で下げられた事を可哀想に思った。
「本当に娘が失礼な事をしました……」
「ああ、いえいえ……」
そのフランの姿が完全に見えなくなると、再びハルベルムは頭を下げる。
大公に頭を下げさせた。他の人が見たらなんて思うか、奏慈は焦る。
「そ、そうだ、いくつか質問しても宜しいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか」
場の流れを変えるのも兼ねて、奏慈はハルベルムに質問する。
フランに色々教えて貰っていたが、全く頭に入ってこなかったのだ。
だが、落ち着いた今なら入るだろう。奏慈はゆっくりと話し出す。
「まず、僕は『日本語』を使っています。僕の居た世界の言葉です。
なのに、明らかに違う世界でも日本語が通じています。何故ですか?」
「それは創造神様のご加護です」
「創造神の加護?」
「どこに住んでいようとも、この世界に入った時点で言語は変換されるのです。
貴方が日本語を書いたり喋っても、私達の言語に変換されます。
そして、私達の言語は貴方が理解できる言語に変換されるのです」
「それは凄いですね、本当に神の加護だ…」
神話の話ではあるが、奏慈の居た世界は元々言語が統一されていたらしい。
しかし、神によって言語は乱されて今の状況になったそうな。
それを考えれば、この世界の神は随分と気が利く存在のようだ。
「二つ目、お二人共どうして私に敬語なのですか?
私はこの世界に身分を証明する物は無く、平民以下の存在です。
なのに、敬語だけでなく頭も下げて頂いて……恐縮しています」
「……それは、あの娘の場合は貴方に取り入るためでしょう」
「私に? 私に力なんてありませんよ」
「いいえ、この世界には昔から多くの異世界人が訪れるのです。
そして、彼らはこの世界に文化や技術を齎してくれました。
あの娘は貴方もそれらを齎してくれると思い、取り入ろうとしたのでしょう」
「成程……」
異世界人が文化や技術を齎す。
それは同時に奏慈以外にも異世界人が居る事を示した。
なら、その人達に会えば元の世界に帰れる情報を得られるかもしれない。
奏慈は望みを掛けて、ハルベルムに聞く。
「私以外の異世界人は今どこに?」
「残念ながらここ数十年、異世界人はこの世界を訪れていません。
だからこそ、あの娘は貴方に執着したのでしょう」
「そうですか……」
だが、そう上手くもいかない。そもそも、会えたとして知ってるとは限らない。
地道に他の方法を探すしかないのだ。
「私が敬語なのは、貴方が客人だからです。
我が家は平民や貴族に関係なく、客人をもてなす決まりがあるのです」
「そうだったのですね、ありがとうございます。
では三つ目、創造神とはなんなのですか? 創造神教も一体なんなのか」
「創造神様は、この世界をお作りになった方です。
そして、創造神教はその創造神様を崇める宗教です」
「成程。ハルベルムさんも創造神教を信じているのですか?」
「信じるもなにも、創造神様は実在します。
実在するからこそ、貴方もご加護を受けられたのです」
「それは…確かにそうですね」
創造神は存在する。信じがたいが、それは奏慈自身が証明していた。
だが、実在するなら奏慈には気になる事があった。
「創造神に名はないのですか? 偉大な存在ならあってもいいと思いますが」
「そうですね……それは長年研究されていますが、詳しい事は分かっていません。
長い時間が経つ内に失われたとも、元々無かったとも言われています」
「そうなんですね……」
顎に手を乗せる奏慈。違和感を覚えたが、今は置いておく他なかった。
頭を振って、最後の質問に移る。
「どうやったら、私は元の世界へ帰れるでしょうか」
「それは、分かりません。元の世界へ戻った話は聞いた事がありませんので……」
「そうですか……」
「恐らく殆どの異世界人がこの世界に骨を埋めたのでしょう。
可能性があるとすれば本です。異世界人の事が記された本は沢山あります。
その本に情報があるかもしれません」
「本ですか……」
奏慈の脳裏に図書館が浮かぶ。紙の匂いとインクの臭いがしてきた。
この世界にあるか分からないが、本がある所といえばそこしかない。
「決めました。僕は各地の図書館を巡り、情報を集めます。
この世界にも図書館はありますよね?」
「あります。我が領内にはダハルに大きな図書館が」
「ありがとうございます。では明日以降、図書館に行く事にします」
奏慈のやるべき事は決まった。何年かかるか分からない図書館巡り。
厳しい旅になるのは避けられないが、奏慈の覚悟は決まっていた。
(ああ、そうだ……僕は元の世界に戻るんだ、約束を守るために)
心の中で言い聞かせるように言う奏慈。迷いは何一つ無い。
奏慈は深く息を吐いた。その様子を見て、ハルベルムは聞く。
「質問は以上でしょうか」
「そうですね……まだ気になる事はありますが、それは追々聞きます」
「分かりました。では、私からもお願いします」
「なんでしょうか?」
「帰る方法が見つかるまで、我が家に滞在してくれませんか」
その提案は有難い物だった。この世界の金を奏慈は一切持っていない。
金が無ければ、食うにも寝るにも困る。衣食住を得られるなら損は無い。
しかし、ただで泊めてはくれないだろう。対価が何かある筈だ。
「理由を聞いても?」
「ええ、大丈夫です。一つは貴方が客人だからです。
客人を放り出す訳にはいきません。二つ目は、あの娘のためです」
「フランさんのため?」
「……親馬鹿と思われるでしょうが、私はあの娘に幸福でいて欲しいのです。
そのためにも、今は貴方が近くに居て欲しい」
「……親なら当然の感情だと思います。でも、私が居て幸福とは」
「あの娘は、退屈を嫌うんです」
「退屈を? そうか、そういう事ですか……」
ハルベルムの言葉を聞いて、奏慈は謎が一つ解けた。
フランは異世界人が齎す文化や技術はどうでもいいのだ。
「ああ見ても本を読むのが好きなんです。それ自体は悪い事ではありませんが。
いつしか本で読んだような出来事を求めるようになったんです」
「だから、異世界人である私に興味を持ったと」
「はい……そして、それは日に日に増してきています。
考えたくありませんが、いつか退屈のあまりに暴れ出すのではないか。
そう思えてならないのです」
「成程……」
非日常を求める子供と聞けば可愛いものである。だが、フランは子供ではない。
奏慈に迫ってきた勢いと、断った時の表情にはある種の狂気があった。
今は自制していても、何かの切っ掛けで爆発するかもしれない。
「分かりました。ご厚意に甘えて、滞在させて頂きます」
「……ありがとうございます」
それは絶対に阻止しなければならない。奏慈は心からそう思った。
僕の行動で回避できるなら安い。
ここに世話になる間、道を踏み外さないように見守っていこう。そう思って。
「ふう」
「お疲れですか?」
「ああ、はい。
……今日はもう休ませて貰ってもいいですかね」
「ええ、大丈夫です。すぐに使用人に準備をさせましょう」
「何から何まですみません」
慣れない手合わせのせいか、奏慈は息を切らしていた。額には汗も見える。
奏慈は明日に備えて、もう寝る事にした。
使用人と共に部屋に戻り、あれよあれよという間に床に就く。
気づいた時には横になっていた。この仕事の早さは流石、貴族の使用人だ。
「よろしくお願いします、カンナギ様」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
次の日、奏慈はフランと共にハルベルムに呼ばれた。
図書館巡りの護衛という名目で、フランが共につく事になったのだ。
本当の理由を奏慈は言わない。言ったら反発する事が分かっていた。
こうして奏慈とフランは馬車に乗り、会話を交わしながらダハルへ向かう。
貴族の乗る馬車だけあり、クッションは上等な物でお尻は痛くならない。
その上速く、あっと言う間に目的地に辿り着いた。
「ここがダハルか。馬車から見えてたより綺麗な町ですね」
「ええ、自慢の町です。アタクシもよく来る町で、ご飯も美味しいんですよ」
「へえ、それはいいですね」
まだまだ硬い二人の会話だが、それは時間が解決してくれるだろう。
奏慈は初めて訪れた町を楽しそうに歩き始める。
「あはは、ボーア様ったら」
「冗談ばっかり言って」
「ボクが冗談を言う訳ないだろう、かわいこちゃん達」
「あっ」
「うん?」
そんな風に町を歩いていると、両手に花の少年が前から歩いてきた。
奏慈は気にせず、通り過ぎようと思った。だが、フランは違っていた。
「ボーア!」
「うわっ!?」
「んん?」
この時の出会いを、奏慈は忘れないだろう。
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