絶交
寒くなってきましたが、皆さん大丈夫でしょうか?
体調を崩し易い時期だと思うので、お気を付けて下さい!
それでは今回も楽しく読んで頂けると嬉しいです!
「嫌な場所ね、どうして藍はこんな所に」
藍に呼び出され、望結は人気の無い廃屋に来ていた。
そこはカビの臭いが充満し、虫の死体が散らばっている。
一秒も居たくない場所だが、望結は静かに藍を待つ。
「やっと来た! それで何の用なの?
わざわざ、こんな所に呼び出すなんて?」
それから待つこと数分、バットを持った藍が入ってきた。
望結は急いで駆け寄るが、なにやら様子が可笑しい。
「ああ、それはな……はあっ!」
「え、うっ!? い、いきなり何するの!!」
藍はバットを振り上げると、そのまま望結に振り下ろした。
すぐに望結は避けるも、突然の事で頭が混乱する。
望結には殴られる理由が無い。あってもイジメくらいだ。
そのイジメも収まってきており、増々理由が分からない。
「分からないか? 分からないんだろうな!」
「くっ、一体なんで……」
眉間にしわを寄せ、藍は力任せにバットを振り始める。
望結はそれを避け続けるが、どれも当たる寸前。
ただ時間を稼ぐ事しかできず、逃げる事もできない。
「ふっ、ようやく追い詰めたぞ」
そうして遂に、望結は壁際まで追い詰められた。
藍は嬉しそうに笑みを浮かべ、バットを振り上げる。
「な、なんで……」
「うん?」
「藍、本当にどうしたの!! なんで、こんな……」
一縷の望みを掛けて、望結は腹の底から声を出した。
あの優しかった藍がこんな事する訳ない。
したとしても、指示役に脅されたに違いないと思った。
「お前が憎いからに決まってるだろ」
しかし、希望は潰える。藍は本心から殺しに来ていた。
望結はそれを知り、深い絶望と共に顔を伏せる。
それでも勇気を出し、望結は語りかけるように言う。
「私、藍に嫌な事をしちゃったかな?
うん、一杯してきたと思う……でも、どうして今なの?
言って欲しかった、そしたら直していけたのに!!」
「……オレ自身も最近まで気づいていなかったよ。
お前が告白されたと言うまではな!」
「えっ!?」
今から数日前、望結は奏慈から告白された。
それは事実だ。だが、それは恋愛感情に因る物ではない。
望結を救う為に行った奏慈の行動の一つだ……
「そんなに車が好きか?」
「奏慈さん……」
いつもの歩道橋の上、望結はそこから車を見つめていた。
あの時と違い、身を乗り出していないが、表情は暗い。
「自殺は止めない。したければ、勝手にするといい。
でも、ここでするのは迷惑だぞ」
「……分かってます、何度も言わないで下さい」
「ふむ……悩みがあるなら聞くぞ、聞いて欲しいんだろ?
じゃなければ、ここで待ったりしない筈だ」
「ふうう……ええ、聞いて下さい」
図星を突かれ、望結は深く息を吐いた。正にその通りだ。
バレた事にムカつきながら、望結はゆっくりと話し出す。
望結は裕福な家の生まれで、金に困った事は一度も無かった。
さらに両親は有名企業に勤め、その年収は億を超える。
そんな家に生まれた望結は、徹底した教育と躾を受けてきた。
「でも、私はその期待を裏切ってしまった。
学業も日常生活も、両親の求めるレベルにできなかったんです。
それからでした……私が生きる希望を失ったのは」
両親はそんな望結を見捨て、顔も見せなくなる。
メッセージの遣り取りも無くなった。
でも、それだけならまだいい。愛が無い位なら。
しかし、両親はそこから聖山高校に入学させる。
表向きは隠されていたとはいえ、両親もイジメの事は知っていた。
そんな学校に入学させたのは、自殺を煽るため。
自分達の手を汚さず、必要なくなった娘を切り捨てる作戦なのだ。
「とんだ毒親だな。居るのを信じたくないレベルだよ」
「でも、実際に居ます。父は言っていました……『お前は欠陥品だ』。
母も『産んで損したわ』と」
「……なんとも胸糞悪い話だ」
運の良い事に藍が居た為、そこから自殺する事はなかった。
それでも心の傷は深く、あの時のように自殺を考える事もある。
「なんなんでしょうね、この世界は……作った人に聞いてみたいです」
望結はそこまで話すと、地面に座り込んで項垂れた。
その望結の横に奏慈も座り、静かに空を見上げる。
空はどこまでも紅く、まるで血を流しているようだ。
その空を望結も一瞥し、熱を込めて再び話し出す。
「傷つける者は得して、一生懸命に生きてる人は損する世界。
生まれながらに家や能力に差があって、抜け出せない世界。
挙句の果てには努力してないと言われ、馬鹿にされる世界」
「……そうだな、くだらない世界だ。
執政者は自分の事しか考えず、宗教が人を殺して回る世界。
善意は金と権力で売買され、悪意が当たり前と化した世界」
「ええ、そんな世界です! そんな世界に生きる意味はありますか?
そんな世界の為に、生きてやる必要がありますか!?」
望結は熱くなり、奏慈に詰め寄って聞く。
自分と同じ考えの奏慈なら、答えてくれると思ったようだ。
当の奏慈はそれに対し、優しい口調で言う。
「無いな……でも、作る事はできる」
「えっ、作る? 生きる意味をですか?」
「そうだ、この世界は腐っている。どうしようもない汚物だ。
それでも一生懸命に生きてる人は居る。その人の為に作るんだ」
「……そんな事してどうなるんですか、世界が変わる事なんて」
「ああ、変わらないだろう。それでも作っていくんだ。
いつか、その人が報われる為に」
「……報われる為に」
思ってもみなかった奏慈の言葉に、望結は黙り込む。
そんな様子を見かねてか、奏慈は続けて言う。
「もし、自分で作れないと思うのなら……なってみるか?」
「……何にですか?」
「僕の恋人」
「……えっ、ええ、どういう事ですか!?」
「そのまま意味だ、それ以上の意味は無い」
「い、いきなり過ぎよ! それが作る事と何の関係があるの!?」
「僕に付き合っていく、という事だよ。
正直な話、僕一人では作っていくのは大変なんだ。
だから、僕に付き合って作ってくれる人が居ると助かる」
「……はあ、そういう事ですか」
突然の告白に混乱する望結だったが、要は仲間の募集だった。
思えば奏慈は常に一人であり、イジメ問題も一人で動いている。
協力関係はあっても、信頼する仲間が誰一人として居ないのだ。
奏慈は望結に手を差し出す。これは望結の為に考えた言い方だ。
「分かりました、受けます……これから、よろしくお願いします」
「ありがとう! 一緒に、この世界を生きよう!!」
「本当に変な人……そこは同士か友達でしょうに」
「ふっ、恋人って言った方が耳を貸すだろう?」
「そうですね、そっちの方が衝撃が大きいです」
「だろ?」
二人は一斉に笑い出す。望結の心に微かだが、希望が芽生えた。
こうして二人は恋人関係もとい仲間になったのだ……
「だから、私と奏慈は藍の思うような関係じゃない!
あの時もそう言ったじゃない!!」
「お前がそうでも、奏慈はどうなんだ! 心でも読んだのか?
恋愛感情が一切ないと、確かめているのか!?」
「それは……でも、感情があったのなら言ってくれた筈よ!
藍は知らないかもしれないけど、イジメ問題が表に出てるの。
告白した後にそれよ! 私に何の説明もしてくれない!!」
「ふん、単にお前を巻き込みたくなかっただけだろ!
……さあ、覚悟はいいか」
「くっ、藍……」
今の藍に、望結の言葉はなに一つとして届かない。
頭に血が上り、自分だけが正しいと思い込んでいる。
もう藍とは友達で居られない。お互いに敵になった。
望結は唇を噛みながら、ポケットに手を伸ばす。
「ごめん、藍」
「なに? ぐあああ!?
す、スタンガンだと?」
藍の腹に、望結は高電圧のスタンガンを当てる。
その威力で藍は気絶し、地面に倒れた。
「信じたくなかったけど、持ってきたよ。
でも、使いたくなかった……藍にこんな物を」
倒れた藍を見下ろしながら、望結はスタンガンを投げ捨てる。
スタンガンはそのまま地面に叩きつけられ、ボロボロに砕けた。
そうして飛び散った破片の中に、名前が書かれているのがある。
だが、そこにあったのは望結でも藍の名でもない。
二人を虐めてきた男の名が書かれていた……
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