船出
今回から第二部開始という感じでしょうか?
新たなキャラや展開が出ますので、お楽しみ下さい!
「これが僕達の乗る船ですか?」
「ええ、百人以上乗れる豪華客船ですわ!」
「それはまた豪勢だな」
馬車に揺られて数時間、奏慈達は港町ネイルに辿り着く。
ネイルは活気があり、港には多くの船が止まっていた。
その船はどれも大きく、奏慈達が乗る船も大きかった。
「……おやおや、姉上様じゃないですか」
「そ、その声は」
そんな船を見ていると、割って入るように男の声が響く。
フランは驚きながらも、すぐに声のした方向を見る。
そこにはフランと同じ褐色肌で、紫の髪を持つ男が居た。
「父上が行くと聞いていましたが、姉上が行くんですか?
それは、とても予想外です」
「キスカ……」
キスカと呼ばれた男は、腕で組んだ状態でそう言う。
そのキスカを知らない奏慈は、小声でフランに聞く。
「あのフランさん、この方は?」
「……弟ですわ、今はアルマ総合学院に通ってますの。
でも、今の時間は授業中の筈ですのに」
弟に会ったにも拘らず、フランの顔は暗かった。
それどころか物憂そうにしており、いつもの元気さが無い。
対するキスカの顔は晴れ、フランとは正反対だ。
「それで、何で貴方が居ますの?」
「ふっ、決まっているでしょう。父上の見送りです。
それに父上が行くなら当主代理として、準備も必要でしょう?
だから色々聞こうと思って、わざわざ来たんです」
「ふうん、当主代理ね」
「はて、どうかしましたか?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
口調こそ丁寧なものの、二人の間に流れる空気は重い。
奏慈達はその間に入る事はできず、遠くから見つめる。
そんな中、二人に聞こえないように奏慈は話し出した。
「姉弟仲は良くなさそうですね。
ハルベルムさんとの仲も微妙そうに見えたけど、もっと酷い」
「そうだな……ボーア、乗船手続きを頼めないか?
しばらく、かかりそうだからな」
「……分かりました、行ってきます」
言いたげな様子のボーアだったが、素直に手続きへ向かった。
残された奏慈とアウィンは引き続き、重い空気の中で佇み続ける。
「しかし、大丈夫なのですか?
姉上はウルトルクスとの戦いで真っ先に倒れられたんですよね?」
「……何が言いたいんですの?」
「いえ、心配してるんですよ。姉上の実力で戦えるかどうかを」
「ふ~ん、アタクシも心配ですわ。
武器も真面に握れない弟を置いていくのは」
「……ご心配頂き、ありがとうございます」
空気は増々重くなっていった。それは騒ぎになり、人を集め始める。
あっと言う間に二人を囲む程に集まるが、二人はそれに気づかない。
「そこまでにしなさい」
「ち、父上!?」
「お父さん……」
そこに二人を制止させながら、ハルベルムが割って入った。
ハルベルムはそのまま二人の間に立ち、言葉を続ける。
「貴族たるもの民の模範にならなければならない。
言いたい事が分かるか? こんな所で喧嘩するんじゃない」
「も、申し訳ありません、父上」
「ごめんなさい……」
「……分かったならいい。キスカ、共にフランを見送るぞ。
過酷な旅になる。しっかり、無事を祈るんだ」
「は、はい」
こうしてフランとキスカの言い争いは終わった。
遠くから見ていた奏慈とアウィンも一安心し、胸を撫で下ろす。
そこにボーアも戻り、一息吐いてから話し出す。
「聖女様、手続きが終わりました。
あと、もうすぐ出るそうなので急ぎましょう」
「ああ分かった、カンナギ行くぞ」
「了解です! フランさん、行きますよ!!」
「あっ、はい!」
「キスカ、私達も行くぞ」
「はい、父上」
先程と打って変わり、奏慈達は和気藹々とした雰囲気で駆け出した。
その後をハルベルムとキスカも続き、全員が乗り場へと向かう。
「……カンナギ!? アイツが!」
その為、自分達の背後に居た男に気づけなかった。
男は奏慈を睨みつけると、後を追うように駆け出す。
そうして数分後、奏慈達は無事に船へ乗り込んだ。
「お父さん、行ってきますわ!」
「フランはボクが守りますから!」
「ハルベルムさん、お元気で!」
見送るハルベルムに、奏慈達は次々に声を送る。
間もなく船は港から離れ、大海原へ漕ぎ出した。
「見て下さい、もう港があんなに離れて!
凄い速いですね、この船!」
「おい、はしゃぎ過ぎだ」
「まあ気持ちは分かりますわ、船旅なんて初めてですもの」
「オレも初めてだ。内心ワクワクしてる」
大海原へ漕ぎ出した船は、見る見る内に港から離れていく。
その速さに奏慈は興奮し、甲板中を駆け回って楽しむ。
だが、不意に奏慈は立ち止まると、慌てた様子で口にする。
「そういえば、三十日も船の上なんですよね!?
三十日もどう過ごしたら……遊技場とかありますか?」
ネイルに向かう道すがら奏慈はフランに聞いていた。
その内容はサフラー大陸に着くまでの最短の日にち。
奏慈はそれを思い出し、一転して気分が沈み始めた。
「そういえば、そうでしたわね。
でも、問題ありませんわ! 三日で着きますもの」
「えっ、どういう事ですか? 三十日かかるんですよね?」
「かかるぞ、この船以外はな」
「ううん? それはどういう……」
「自分が説明しましょうか?」
思ってもいない返答に驚きながら、奏慈は疑問を口にする。
しかし、それに応えたのは聞き覚えのない男の声だった。
奏慈は既視感を覚えるも、すぐに声のした方向を見て言う。
「あ、貴方は?」
「失礼しました、偶然話し声が聞こえたもので。
自分はイカリと申します。以後お見知りおきを」
「ど、どうも」
そこには片手に杖を持ち、緑の肌を持った巨体の男が居た。
イカリを名乗るその男は丁寧な口調で、雰囲気も悪くない。
「それで、説明して下さるんですか?」
「はい、自分で良ければ」
「そ、それではお願いします」
「分かりました…では、まずは基本的な所から」
船旅は陸地での旅と異なり、船を使って広大な海を進む。
その為、予期せぬ事が頻発する。それは例えば、食べ物。
長い船旅では食べ物が尽きるのは珍しい事ではなかった。
「それを解決したのが時空間魔法です」
「時空間魔法? 時を止める魔法ですか?」
「止める? いいえ、時空間魔法はそれだけではありません」
――時空間魔法。それは名の通り、時と空間に作用する魔法。
属するのは時止めは勿論、加速や減速といった物も含まれる。
そして、それは人々の生活を支える為に幅広く使われていた。
一例として、この船の場合だと減速の魔法が使われている。
これによって時間は遅くなり、先の問題は無事に解決した。
「そうか、船が速く感じたのはその魔法のせいなんですね。
船に乗ってる私達の時間は遅くなってるけど、外は普通。
結果、乗っている私達から見れば、船が速いように見えると」
「その通りです、飲み込みが早いですね」
「いや、寧ろ私は遅い方で……イカリさんの教え方の御蔭です」
「それは良かったです、教えた甲斐がありました。
っと、自分はこれで……そろそろ部屋に戻らないと」
「分かりました! 教えて頂き、ありがとうございます!」
奏慈は頭を下げて礼を言い、そのままイカリを見送り始める。
そうしてイカリは笑みを浮かべ、その場から立ち去り出した。
「待て!」
「えっ、ボーアさん?」
だが、そんな奏慈の横をボーアが抜けて走っていく。
間もなくボーアはイカリの腕を掴むと、制止させる。
「偶然を装っていたが、様子を見て接触してきたな!
貴様の目的は何だ!」
「……さあ、何の事やら」
イカリの表情も一転し、無表情で冷たい物になった。
そんなイカリを見て、フラン達も奏慈の横を抜ける。
「しらっばくれるのはお止めなさい。分かってますのよ」
「ああ、オレに嘘は通じない」
「……その感じ、そうか」
ボーアに続き、フランとアウィンもイカリの腕を掴んだ。
そして、逃げられないように背後も取る。
絶体絶命の状況に観念したか、イカリは遂に本心を言う。
「一人の所を狙おうと思いましたが、そうはいきませんか」
「い、イカリさん?」
「カンナギ……ソウジ!! 君に勝負を挑む!」
真っすぐ奏慈を指差して、イカリはそう言い切った。
その行動に奏慈は唖然とし、何の言葉も出ない。
この時の驚きを、奏慈は忘れる事は無いだろう……
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