出発
今回は情報が多いと思います。
なので、ゆっくり読むと理解し易いと思います!
「って、アウィンさん口調口調!」
「うん? ああこれか、実はな」
奏慈は慌てて、アウィンの肩を揺すり始めた。
アウィンは普段、人前では口調を変えて喋っている。
だが今はフランの前にも拘らず、口調を変えていない。
「その事ならもう知ってますわよ!」
「えっ!?」
「……カンナギ、お前のせいだぞ。
お前がぶっ倒れたせいで、猫被るの忘れてたんだからな」
「そ、それはすみませんでした……」
「うふふ、ほんと仲良しですわね」
ムスッとしたアウィンに、奏慈は申し訳なさそうに頭を下げる。
奏慈の心配を余所に、口調の件は知れ渡っていた。
「……あっ、お父さんに呼ばれてるの忘れてましたわ!?」
「ハルベルムさんに?」
「もしかして、出発する日が決まったのか?」
「出発する日?」
そんな二人を見ていたフランだったが、突然間の抜けた声を出す。
アウィンも思い当たる節があるのか、ムスッとした表情を止めた。
「たぶん、そうだと思いますわ。
カンナギさん、貴方も一緒に来て下さる?」
「あっ、はい」
話についていけなかったものの、奏慈は付いて行く事になった。
二人の後ろを歩き、すっかり元通りになった屋敷を進んでいく。
そうして部屋の前まで辿り着くと、フランはその扉を開け放った。
「遅いぞ、何処で油を売っていた!」
「はあ、小言はいいですわ……それよりも見て下さいませ」
部屋に入ると開口一番、待っていたハルベルムはフランを叱る。
フランはそれを呆れた様子で返し、横に居る奏慈は元気よく言う。
「ハルベルムさん、ご迷惑をおかけしました! 無事、目覚めました!」
「おお、カンナギ殿! お目覚めになられたんですね!!
いえいえ、迷惑をかけたのはこちらの方です」
ハルベルムは奏慈を見ると一転して笑みを浮かべ、駆け寄って手を握る。
その手を奏慈はしっかり握り返し、お互いの無事を祝った。
フランはそんな二人を尻目に、咳払いをしながら口を開く。
「お父さん話を、カンナギさんにも良い機会なので一緒に」
「……そうだな、話すべきか。皆さん、出発する日が決まりました。
明日です。明日、サフラー大陸に向かう事になりました」
「サフラー大陸……?」
「大陸についてはアタクシから説明しますわね」
――サフラー大陸。ここから南西の方角にある大陸全土が砂漠の地。
かつては小国が乱立し、数少ない水を巡って争いが絶えなかった。
そんな大陸を今から二十年前に統一し、一つの国に纏めた者が居る。
名をズルフィと言い、斧一つで並みいる強敵を倒していった。
そして、ズルフィはカリバーの娘でファルシオン家の人間でもある。
「凄い人なんですね、ズルフィさんは。
でも、何でその大陸に向かう事に?」
「……ウルトルクスですわ、彼らの目撃情報があったんですの」
「えっ、ウルトルクスが!? でも、何で?
見られたからって向かう事にならないと思うのですが」
奏慈は首を傾げながら聞く。話を聞く限り、サフラー大陸は遠かった。
現に最も速い船でも三十日はかかり、簡単に行く事は出来ない。
にも拘らず、何故行くのか。そんな奏慈の疑問にハルベルムが答える。
「それは王令があったからです」
「王令? という事はこの国の王様が命を?」
「はい、そうです。アルマ王は今回の襲撃の件を重く見ています。
武家であるファルシオン家が襲撃され、さらに敵を逃した。
国の威信に関わりますし、外交的にも良くありません」
「……でも、原因は国にもありますよね?
ウルトルクスの侵入を許し、そのまま国外へ逃げられたんですから」
「理由はそれだけじゃない」
「あっ、ボーアさん」
それでも疑問を口にする奏慈に、今度はボーアが応えた。
ボーアはそのまま部屋に入り、ハルベルムに頭を下げると続きを話し出す。
現在、サフラー大陸のオアシスは減少傾向にある。砂漠にとって水は宝だ。
この問題に対し、ズルフィは具体的な解決策を出せないでいる。
結果、水を巡った戦いが再燃。人々はズルフィに対する不信感を持ち始めた。
「確かに危険な状態ですね……そうか、政変が起きそうなんですね」
「その通りだ。国を興したズルフィさんは元々ファルシオン家の人間。
良く思っていない者は多い。そこに襲撃事件に続いて、政変も起これば」
「ファルシオン家やアルマ王国の立場は悪くなる」
「そうだ。だから、ファルシオン家が率先して動かなければならない。
国が動けば、反発を生みかねないからだ」
「……そういう事だったんですね」
奏慈はボーアの話を聞き、全てを理解する。
同時に拳を握り締めながら、逃がした時の事を思い出す。
「すみません、私のせいで……」
「いいえ、カンナギ殿は何も悪くありません。寧ろ謝るべきは私達の方です。
この世界に来たばかりの貴方を守れず、戦わせてしまったのですから」
「そうですわ、カンナギさんが気にする事ではないですの」
「……くっ」
「カンナギ……」
フラン達にそう言われるも、奏慈は拳を握り締めるのを止めない。
その時の感情で動き、その挙句の果てに逃がし、最悪の結果を齎した。
アウィンは優しく触れるも、奏慈の自分への怒りは消えそうにない。
「ハルベルム様、ボクもサフラーへ行きます。
あの時の借りを奴らに返したいんです」
「……駄目です、次期当主である君を行かせる訳にはいかない」
そんな奏慈の横でボーアはサフラー行きを志願する。
しかし、ハルベルムの反応は良くない。首を振って否定した。
それでもボーアは諦めず、そのボーアを見て奏慈は決意する。
「僕も行きます」
「カンナギ殿?」
「僕の力は奴らに効きました。きっと役に立てる筈です」
「それは、ううむ」
ボーアに続いて奏慈も志願し、眉をひそめるハルベルム。
そんな二人を見て、フランも続いて言う。
「二人が行くならアタクシも行きますわ!」
「な、何を言っているんだ!? あれだけ怪我をしただろう!
相手は本気で殺しに来るんだぞ! 本当に分かっているのか!?」
「分かっています。あの場に居た全員、痛みを味わいましたから」
「それを言うなら当主のハルベルムさんが行くのは危険なのでは?」
「むっ、それは……」
サフラー行きは本来、ハルベルムと騎士数人で行く事になっていた。
実際にウルトルクスと戦い、その実力を知った上での判断である。
その為、この土壇場での志願は予想外で、ハルベルムを困惑させた。
「ハルベルム様、オレもサフラーへ行きます」
「せ、聖女様まで……」
さらにアウィンも続き、ハルベルムの困惑は加速する。
だが、諭すような口調でアウィンは説得し始めた。
「ご心配は最もだと思います。ですが、当主が向かうのはもっと危険です。
オレ達は全員ウルトルクスと交戦経験があります。
決して油断して、やられるような事はしません」
「ほら、アウィン様もそう言ってますわ!」
「……折れる気は無いようですね、分かりました。
準備を始めて下さい、すぐにでも港町に向かいましょう」
「……ありがとうございます」
ハルベルムはそう言うと、一足先に部屋を後にする。
真っすぐ自身を見つめる四人の顔を見て、ハルベルムは折れたのだ。
フランは嬉しさの余り、大声でアウィンに礼を言う。
「アウィン様、ありがとうございます! 御蔭で折れてくれましたわ!」
「いいえ、オレもやられっぱなしは嫌でしたから」
「聖女様も負けず嫌いなんですね。さあ、フラン行くぞ!
ここから港町まで馬車でも数時間はかかる」
「そ、そうでしたわね! 急いで準備しないと」
フランとボーアはそう言うと、ハルベルムに次いで部屋を出ていった。
その後ろ姿を奏慈とアウィンは見送り、二人も準備すべく動き出す。
だが、出る直前に奏慈は足を止めた。そして、アウィンに頭を下げて言う。
「アウィンさん、ありがとうございます。気遣ってくれたんですよね?
御蔭で僕も付いて行く事ができそうです」
「……ハルベルムさんも言ってたが、お前は悪くないからな。
悪いのはウルトルクスだ、お前が気に病む必要は無い」
「分かってます、それでも思わずにはいられないんです」
「カンナギ……」
「ごめんなさい、行きましょう!」
奏慈はそう元気良く言うと、アウィンを置いて部屋を出て行った。
残されたアウィンは一人、そんな奏慈の後ろ姿を見つめるのだった……
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