序幕
今更ながら前の話と一緒に投稿すべきだったと後悔しています
「ふあああ、よく寝た」
温かな日差しが窓から差し込む豪華で綺麗な部屋……そこに男が一人寝ていた。
その男は眠そうにしながら目を開けると、ゆっくり重い身体を起こす。
男は今日も仕事だ。すぐに顔を洗って、服を着替えなければならない。
「えっ、ここは……どこ?」
しかし、男の目の前に広がっていたのは今まで見た事がない景色だった。
まず、目に飛び込んで来たのは豪華な天井。いつもの木の天井ではない。
次に素人でも高い調度品……それも一つや二つでなく、十や二十もある。
最後に男が着ている寝間着だ。着心地もそうだが、良い匂いがする。
「うーん、狐にでもつままれた……という訳でも無さそうだな」
男の記憶では昨日は家に帰って、自分のベッドに寝た筈だ。
だが、今居る場所は男の家でもなければ、知ってる場所でもない。
知らない内に知られない部屋に寝かされていた。男は頭を抱える。
「……とにかく、家に帰ろう。長居は禁物だ」
男は音を立てないようにベッドから出ると、ドアノブに手を掛けた。
無いと思うが、誘拐された可能性もある……人に会うのは危険だ。
「なっ!?」
そう思った次の瞬間、ドアノブが回った。
男はそれに驚き、思わず止まってしまう。
「あっ、起きられましたか」
そんな動きの止まった男に、ドアを開けた女が明るい口調で話しかける。
その女は褐色肌の美少女……そう、フランだった。
しかし、その事を男は知らない。男は警戒したまま、腹から声を出す。
「は、はい! 起きました!!」
「ふむ……元気そうでなによりですわ!」
そんな男の様子を窺いながらも、フランは明るい口調で言葉を続ける。
(……悪い人では無さそうだな。寧ろ、良い人のように思える)
その御蔭で男も少し安心した。少なくとも、誘拐犯ではないと断定する。
「あの、ここはどこですか? いつのまにか寝ていて」
「ああ、そうですわよね。言うのが遅れましたわ。
ここはファルシオン家の屋敷です」
「ファルシオン? 剣の事ですか?」
男は首を傾げた。ファルシオンは中世ヨーロッパで使われたという剣だ。
知識として知っているが、本やゲームくらいでしか見た事が無い。
そんな剣と同じ読みの家が存在して、今そこに居る……一体、どういう事だろう?
「ご存じありませんの?」
「あっ、はい……すみません、勉強不足な物で」
男は内心慌てていた。見知らぬ部屋、見知らぬ家……明らかに普通ではない。
それによく考えたら、目の前に居る少女は外人だ。ここは外国なのか?
様々な考えが男の頭を巡る。
「……いくつか質問をしてもよろしいかしら?」
「えっ、ええ、いいですよ」
「ありがとうございます。では……」
それを察したのか、フランは男に質問した。
男は一息吐く。ここで真摯に答えれば、何か分かるかもしれない。
「一つ目、この指輪……サモンウェポンを知っていますか?」
「サモン……ウェポン? 武器を呼び出すんですかね?」
「二つ目、創造神教を信じていますか?」
「創造神教? うーん、特に何か信じていたりしませんね」
「……三つ目、今は何年かご存じ?」
「えっと、あれ? すみません、何年でしたっけ……」
「……成程」
(あっ、これはマズイ……)
三つ目まで答えた所でフランは黙ってしまった。男は慌てる。
男は自分なりに真剣に答えたつもりだ。だが、フランの反応は思わしくない。
これはミスったか? そう思う男に対し、フランは笑みを浮かべる。
「……ふっ、これは面白い事になってきましたわね」
「えっ?」
「いえ、こっちの話です……自己紹介が遅れました。
アタクシはフラン=フォン=ファルシオンです」
「い、いえ、そんな……ぼ、私は旭凪奏慈と申します」
「カンナギ様……ですね。これからよろしくお願い致します」
フランは流れるように頭を下げると、奏慈に手を差し伸べた。
何か引っ掛かる物を覚えるが、奏慈はその手を受け取る。
「よ、よろしくお願いします、フランさん」
「ええ」
そうして握った手は温かく、女とは思えないほど硬かった。
フランは飛竜と戦える程の実力を持つ戦士だ。
戦いに無縁な奏慈より硬いのは当然だろう。
「では、屋敷を案内しますわ。付いてきて下さい」
「は、はい!」
握手を終えると、さあ次と言わんばかりにフランは歩き出した。
早歩きで歩くフランに対し、奏慈はなんとか走りで付いて行く。
そうして走ること数分、奏慈は中庭に辿り着いた。
「これを」
「指輪? サモンウェポンと呼ばれる物ですか?」
「ええ、指にはめてみて下さい」
「はい」
そこで奏慈はフランからサモンウェポンを手渡された。
金色に輝く姿は一見すると、ただの指輪にしか見えない。
奏慈はそんなサモンウェポンを右手の人差し指にはめる。
「次に魔力を込めてみて下さい」
「ま、魔力? そういうスピリチュアルな物なんですか?」
「とにかく、やってみて下さいませ。力を込めるイメージで」
「は、はい」
いまいち話についていけないが、奏慈は言われた通り、力を込めた。
すると、サモンウェポンが突然光り出す。
「おお!」
「け、剣!?」
間も無く、サモンウェポンはその姿を剣へと変えた。
奏慈の手には最初からそうであったかのように剣が握られている。
フランはそれを見て、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「その反応……本当に異世界人ですのね!」
「えっ、い、異世界?」
「そうですわ! 今、貴方が居る世界は異世界……別の世界なんです!!」
「え、ええ、えええ!?」
「それでは説明させて頂きますわ」
ここでやっと、奏慈は今の状況を理解する。
まず、この世界は人族と魔族が暮らす世界。
奏慈が今まで暮らしていた世界とは全く違う世界だ。
この世界には科学は無く、代わりに魔法が存在する。
「そして、アタクシはファルシオン大公家の嫡女。
こう見えて、かなり偉いんですのよ」
「な、成程……」
サモンウェポンも魔法が生み出した物の一つ。
魔力を込める事で、適正にあった武器に変化する。
この世界に住む者なら、誰でも持ってる物だ。
「それにしても剣だなんて……増々、いいですわね」
「はあ、異世界か……見慣れない場所だと思ったけど、異世界だなんて。
夢でも無さそうだし、どうしてこんな事に……」
奏慈は頭を抱える。説明は受けたものの、現実感が全く無い。
本当にこれは現実なのか? 頬をつねり、何度も確かめる。
「……よろしくて」
「す、すみません、気が動転していて……なんでしょうか」
「アタクシと……戦って下さいませ!」
「えっ、ええ!?」
そんな奏慈にフランは勝負を挑む。奏慈の気持ちなど知った事ではないようだ。
でも、それは奏慈も同じ……奏慈は語気を強めて言う。
「フランさん、すみません……私は戦いの経験が全く無いんです。
だから、戦いを挑まれても」
「問題ありませんわ! アタクシも本気で戦うつもりはございません!!
それにこの世界に居る以上、戦いのイロハくらい覚えた方がいいですもの!」
だが、フランは聞くつもりはない。適当な理由を付けて却下した。
この様子だと、何を言っても聞くつもりはないだろう。
奏慈は腹をくくり、不格好ながら剣を構える。
「分かりました……やります」
「ふふ、やる気になってくれたようでなによりですわ!
では、いきますわよ!!」
その姿を見て、フランも魔力を込めて斧を出現させた。
斧は日の光で輝き、刃先の鋭さを奏慈に見せつける。
「大丈夫ですわ。サモンウェポンは不殺の武器。
相手に怪我をさせたり、殺す事はありません」
「そ、そうなんですね」
「だから、遠慮は無用ですわ! 来い!!」
「……くっ!」
フランはそう言うと、両手を広げ、仁王立ちで立つ。
その言葉に二言は無いようだ……奏慈は息を飲む。
サモンウェポンにどんな特性があるにせよ、戦いは怖い。
それでもやると決めた以上はやる。奏慈は力込めて斬りかかった。
「ふっ、見え見えですわ」
「ぐっ!?」
予想通りと言うべきか、その剣をフランはあっさりと受け止める。
奏慈とフランの間には、埋めようがない実力差があった。
この戦いは最初から負け戦。どうしようが負ける戦いだ。
「くっ、うぅ」
「ふっ」
それでも奏慈はあらゆる攻撃で攻める。斬るのは勿論、突きも試した。
しかし、その全てが届かない。奏慈だけがどんどん疲れていく。
「さて、こちらからもいきますわ!」
「うっ、うわ!?」
更にここに来て、フランも攻めてきた。斧の一撃を何度もぶつけてくる。
奏慈はそれをなんとか防ぎ続けるが、フランが手加減しているのは明白だ。
完全に遊ばれている。
「守っていても勝てませんわよ!」
「……ちっ」
余裕の笑みを浮かべるフラン。今までの事も重なり、奏慈は癪に障った。
奏慈はフランの隙を窺う。こうなったら、一発でも当ててやる。
「そこだ!」
「ぶっ!?」
奏慈は足に力を入れると、フランの鳩尾に蹴りを入れた。その一撃は強烈だ。
突然の事にフランは対応できず、持っていた斧を手放す。
「……これで終わりです」
奏慈は丸腰のフランに剣を向けて言う。
もう勝ったも同然だ。これ以上の戦いは無意味。
しかし、フランは余裕を崩さなかった。
「……ふっ、カンナギ様は面白い方ですわね」
「なっ!?」
フランはそう言うと、再び手元に斧を出現させる。これが余裕の正体だ。
「これがサモンウェポンの力ですわ。
手元にいつでも、武器を戻す事ができますの」
「くっ、そんな効果が……」
奏慈は膝を突く。これ以上はどうしようもない……疲れで身体も限界だ。
それに勝つ為とはいえ、蹴りも入れた。何を言われてもおかしくはない。
「合格……合格ですわ!!」
「えっ?」
「カンナギ様、合格です! ぜひ、ファルシオン騎士団に入って下さい!!」
「き、騎士団?」
だが、奏慈に降りかかったのは拍手の雨。
フランは自分に蹴りを入れた事など気にしていない。寧ろ、賞賛している。
「ファルシオン家の騎士団です!
荒削りですが、貴方なら優れた剣士になりますわ!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! い、いきなり騎士とか言われても!」
「……カンナギ様、貴方は異世界から来ましたわ。それはお分かり?」
「え、ええ……」
「なら、分かりますわよね? この世界に貴方の家や職はありませんの!
でも、生きていくには働かねばなりません……もう分かりますわよね?」
フランは純粋に奏慈の実力を評価していた。だからこそ、逃しはしない。
なんとしてでも、奏慈を手に入れる。
(……成程、そういう事か)
当の奏慈は冷静にフランの目的を分析し、深く息を吐く。
どうして、貴族の嫡女が奏慈を手に入れようとするのか? その理由を。
「どうですの?」
だが、奏慈の答えは最初から決まっていた。
「入りません」
「えっ、今なんと?」
「……ここまで色々して頂きましたが、仕事なら自分で見つけます。
それに」
「それに?」
「来て早々ですが、帰らせて頂きます。この世界に長居するつもりはないので」
フランの提案を奏慈はバッサリと切り捨てる。これが奏慈の答えだ。
何を言われても変えるつもりはない。
「なっ、なな!?」
この時のフランの表情を奏慈は忘れる事は無いだろう。
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