神殿
スローペースですが、確実に行こうと思います!
楽しんで頂けたら幸いです!
「無いですわね」
「無いか……」
一夜明け、再びダハルの図書館を訪れた奏慈。
今度はしっかりフランもついて来ており、共に本を読み始める。
しかし、元の世界へ帰る方法に繋がる本は一つも無かった。
「ここにはお世話になっていますが、その手の本は見た事ありませんわね。
新しく入ってきた本にも載っていませんし」
「ううん」
顎に手を乗せ、本の山に頭をうずめる奏慈。
フランも同様に頭をうずめ、頭を掻き始める。
「カンナギさん、この本を見て下さい」
そんな二人に対し、アウィンは何かを見つけてきた。
それは古い本であり、その本のあるページを二人に見せる。
「これは神殿の絵ですか?」
「はい、それも異世界人が建てた神殿なんですよ」
ページには挿絵があり、その挿絵には立派な神殿が描かれていた。
その神殿の横には異世界人らしい人も描かれている。
「そうでしたわ!
異世界人は皆、晩年になると神殿を建てるんですの!!」
「フランさん、しーっ」
「あっ、いけませんわね」
口先に指を当て注意しながら、奏慈は再び挿絵を見る。
それに気づいたアウィンは小声で聞いた。
「帰る方法に繋がりそうですか?」
「分かりません……ですが繋がるかもしれません、ありがとうございます」
「いいえ、カンナギさんの為ですから」
満面の笑みを浮かべて、アウィンは優し気に言う。
奏慈も湧いてきた希望に頬がほころんだ。
早速立ち上がり、奏慈は元気よく言う。
「よし、その神殿に向かいましょう。どこが一番近いかな」
「近さならファルシオン領内の神殿ですわね」
「えっ、あるんですか!?」
「ありますわ、一時間もすれば着く距離に」
「渡りに船ですね」
「なら尚更、行きましょう。その神殿に!!」
小声で力強く言う奏慈。それに二人も続き、共に神殿へ向かう。
そうして馬車を走らせること一時間、三人は神殿に辿り着いた。
「これが異世界人の建てた神殿か」
奏慈は神殿を見上げる。外装は古びており、苔も所々に生えている。
さらに周りには何も無く、草原が広がる中にポツンと立っていた。
そんな神殿を見上げながら、奏慈はふと思った事を呟く。
「何で異世界人は神殿を建てたんでしょう?
晩年に建てる意味は無いように思いますが」
「それは感謝の気持ちと言われていますわ」
「感謝?」
「この世界に自分を招いてくれた創造神様への感謝の気持ち。
中に入れば分かりますが、創造神様の像もありますのよ」
「へえー」
ある程度内装を見終わると、三人は神殿に入る。
外装に比べ、内装はとても綺麗であり、どこも壊れていない。
奏慈はそんな神殿内をキョロキョロ見ながら、フランの後に続く。
「感謝の気持ちか……私と違って、他の人は感謝してたのか」
「そう考えると不思議ですわね」
「何がですか?」
「他の異世界人が感謝してた事ですわ。
いくら加護を得られても、普通は違う世界に来たら困る筈ですもの」
「確かにそうですね……」
(違う所ばっかりだよな、何でそんなに違うんだ?)
アウィンは奏慈を見つめながら思案する。
だが、間も無く像の元に辿り着き、思案は中断された。
「これが創造神の像?」
「ええ、そうですわ。何度見ても立派な像ですわね」
「……これが?」
奏慈は目の前に立っている像を見つめる。それは人型ではなかった。
触手のような物を服のように身に纏い、中央に眼らしき物がある。
また色も塗られているが、それは黒を中心とした暗い色合い。
あまりにも想像と違う創造神の姿に、奏慈は困惑した。
「どうかしましたか?」
「ああいえ、これが創造神の姿なんですか? 本当に?」
「間違いないです、創造神教のソフィア様が言われた姿なので」
(そうなのか……でも、この姿はまるで邪神だ)
(邪神か……)
奏慈はそう思いながらも、何かに導かれるように像に手を触れた。
像は硬く、氷のように冷たい。奏慈はすぐに像から手を離した。
そして、像の前から立ち去ろうとすると……
「うん? なんか揺れてませんか?」
「そうですか、アタクシはなんとも」
「これは……まずい、飛んで下さい!!」
「えっ? うわっ!!」
突然、三人の立っていた場所に大穴が開いた。
気づいたアウィンとフランは咄嗟に横に飛んで避ける。
だが奏慈は飛ぶ事ができず、真っ逆さまになって落ちていく。
「カンナギ!!」
「ちょ、アウィン様!?
ううん、もう!」
その後を追って、アウィンも穴に落ちていった。
フランは思い悩むも、意を決して穴に落ちる。
「全く無茶をし過ぎですわ」
「すみません、体が勝手に動いてしまって」
「はあ、やれやれですわ」
アウィンは落ちる途中で奏慈を捕まえ、無事に着地した。
そこに続いてフランも着地し、お互いの無事を確かめる。
「気絶してますわね」
「そうですね、いきなりの事で驚いたんだと思います」
慈しむような表情を奏慈に向けるアウィン。
それを見て、フランは疑問をぶつける。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
「カンナギさんのどこに惹かれたんですの?」
「そ、それは……」
思いもしなかった質問にアウィンは顔を真っ赤にする。
それでも胸に手を当て、落ち着きながら話し出した。
「最初は一目惚れだったと思います。
でも、そこから放っておけなくなっていって」
「母性本能をくすぐられたんですね」
「はい、たぶん……フランさんはそういう事はなかったんですか?」
「アタクシはありませんでしたわ。頑固な人だなとは思いましたけど」
「頑固?」
「ええ、頑なに元の世界に帰ると言うんですもの。
アタクシの知る異世界人は皆、この世界に暮らしましたのに」
(そういえば聞いてなかったな、元の世界に帰る理由)
フランの言葉で中断されていたアウィンの思案が再開される。
だが、当然そんな事を知らないフランは気にせず続けた。
「では、アタクシは探検してきますわ」
「探検ですか?」
「ええ、絶対に何かありますもの。それに危険がないか確かめないと。
アウィン様はカンナギさんをお願いします」
「任せて下さい」
フランは奏慈をアウィンに預けると、暗闇の中を歩き出した。
アウィンはその様子を見ながら、奏慈が起きるまで待つ事にする。
「うっ、こ、ここは?」
――奏慈は暗闇の中で目を覚ました。
暗さで何も見えないが、冷たい空気と埃っぽい臭いを感じる。
奏慈は暫く様子を見た後、状況を知る為に体を起こす。
「あっ、起きましたか?」
「アウィンさん!? い、いつのまに?」
「ずっと居ましたよ、御蔭で膝枕できました」
アウィンは笑いながらそう言う。
奏慈は気づいていなかったが、ずっとアウィンの膝枕で眠っていた。
その事に気づいた奏慈は慌てて立ち上がる。
「あ、ありがとうございます! もう十分です!!」
「そうですか……」
「と、ところでフランさんは?」
「フランさんなら奥に行きました、危険がないか確かめる為に」
「そうなんですね」
奏慈は再び暗闇に目を向ける。
眼が慣れてきた御蔭でアウィンの顔も、通路がある事も分かった。
しかし、通路の先まで見る事はできず、暗闇が先を支配している。
「お待たせしましたわ!!」
その暗闇の先からフランが戻って来た。
満面の笑みを浮かべ、ウキウキしている。
「何かありましたか?」
「あっ、奏慈さん起きられたんですね!
ええ、ありましたわ……お宝が!!」
「宝?」
「さあ行きますわよ、お宝がアタクシ達を待ってます!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
(宝ねえ)
フランは興奮気味に言い、二人の手を取って走り出した。
奏慈とアウィンは困惑するが、為す術なく引き摺られる。
そうして暫く引き摺られていると、三人は広い空間に辿り着いた。
「綺麗だ」
「ですね」
空間は通路と違って明るく、空気も澄んでいた。
神殿の内装と同じく綺麗であり、何処も壊れた様子は無い。
奏慈はそれを確かめると、フランに聞いた。
「えっと、ここは?」
「分かりませんわ!」
「ええ……」
「だって、こんな空間があるなんて知らなかったんですもの」
「えっ、知らなかったんですか?」
「知りませんわ。アタクシはよく本を読みますが、こんな空間は初耳です」
「つまり、隠されていた空間ですか。それで宝というのは?」
「あそこにありますわ!」
変わらず興奮気味に、フランはある一点を指差して言う。
そこにはいかにもな宝箱が置かれており、存在感を放っていた。
「隠された空間に宝箱! 興奮しますわね!!」
「あはは、でも開けなかったんですね」
「当たり前ですわ、考古資料を傷つける訳にはいきませんもの」
(そこはしっかりしてるんだな)
「じゃあ、この後どうします?」
「そうですわね、一旦お父さんに報告しないといけませんわ。
この空間がどうして今まで見つからなかったのか、それも調査しないと」
「では、帰りましょうか。なんだか疲れちゃいました」
「また膝枕しましょうか?」
「それは勘弁です」
そうして奏慈とアウィンは軽口を叩きながら歩き出す。
フランは名残惜しそうに宝箱を見るも、同様に歩き出した。
ところが、そこで三人の頭上からパラパラと砂が落ちて来た。
「ま、待って下さい。何かが?」
「二人とも構えて下さい、何か来ますわ!」
すると、行く手を遮るように三人の前に巨像が現れた。
上から突然降って来たそれは眼を光らせ、首を左右に動かす。
「な、なんですかアレは!?」
「……守護者ですわ、こういう神殿には付き物の存在ですの」
「あの感じはもしかしなくても」
守護者は首を動かし、三人の姿を確認した。
すると咆哮を上げ、さらに上から複数の守護者が落ちて来る。
「マズイですわ……アタクシ達を侵入者と見做して、襲って来ますわよ」
「フランさん、どうします!?」
守護者達はじりじりと三人に近づいて来る。
奏慈とアウィンは既に武器を出現させ、フランの指示を待つ。
「決まってますわ、この場を切り抜けますわよ!!」
「はいっ!」
(守護者か、お手並み拝見だな)
フランはそう言うと斧を出現させ、守護者達と相対する。
奏慈は息は飲み、アウィンは奏慈を守るように前に立つ。
そうして陣形を整え、三人は戦いを始めるのだった……
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