信じて良かった
「聞かせてくれ、お前の計画を……オレと望結を犠牲にした理由を」
「……いいだろう。全て話そう」
ひとしきり泣いた後、藍は涙を拭いながら奏慈に聞く。
奏慈は嘘を吐いていない。それは目や雰囲気からそうだと分かった。
でも、分からない事もある……奏慈は何故、そんな事をしたのだろう?
奏慈は強い……未来予知や運命操作で大抵の事はなんとかなる。
なのに何故、わざとやられたり、犠牲を強いる未来を選んだのか?
藍はショックを受けたが、奏慈の善性を信じていた。何か理由がある筈だと。
「あれは真妃に出会う前……確か罪醜業と戦った後の事だったか」
「戦った後? 罪醜業と戦ったのはソフィアにやられる前じゃないのか?」
「それは百六体目の話だ。僕が言ってるのは百五体目の話。
罪醜業は既に百回以上出現しているんだよ」
「ひゃ、百回以上!?」
「と、とんでもないですわね……」
衝撃の事実に藍達は凍り付く。罪醜業は罪が形を成した怪物だ。
その強さは創造神以上……奏慈を追い詰めるほど強い。
そんな怪物が既に百回以上出現し、奏慈と戦っている……間違いなく異常事態だ。
「何故、そんなに出現している? サボっていた訳ではないのだろう?」
「勿論だ。僕は一秒も休まず、働き続けた」
「それでは何故?」
「並行世界だよ。並行世界の存在が罪醜業の出現を後押ししているんだ」
「並行世界? 一体、どういうこと?」
「分かった。それも説明しておこう」
遥か昔、裁く者である奏慈と共に多くの創造神も誕生した。
創造神達はその後、各々宇宙を創り、自分達の宇宙を運営し始める。
その為、宇宙の数自体は創造神誕生の頃から殆ど増えていない。
だが、並行世界は別だ。一つの宇宙の中で爆発的に増えていく。
並行世界の存在を許さない宇宙もあるが、そういう宇宙は稀だ。
結果、並行世界は増えていき、罪人の数も増えていった。
「だから、どんなに頑張っても罪醜業は出現する……そういう事よね?」
「そういう事だ」
「そ、そんな……」
創造神は星の数ほど居るが、裁く者は一人……奏慈しか居ない。
奏慈一人が頑張った所で限界があるのだ。
それにも拘わらず、並行世界は増え続けている……まるで嫌がらせのように。
このままだと、一度に複数の罪醜業が出現するのも時間の問題だ。
「話を戻そう。僕は百五体目の罪醜業を倒した後、未来を見始めた。
理由は一つ、強くなる為だ。強くなれば、罪醜業が何体出ようと関係ない!
出てきた瞬間、叩き潰す!!」
「の、脳筋ですわね……」
「だが、理には適っている……成程、そういう事か」
それなのに何故、奏慈は他人事のように冷静なのだろう?
並行世界は増え続ける……絶望的な未来しか見えない筈なのに。
「まさか、自分が強くなる為にオレ達を犠牲に?」
「……端的に言えば、そういう事だ」
「奏慈……」
藍は胸を痛めた。奏慈は冷静ではない……ただ、諦めているだけだ。
どんなに頑張っても報われず、たった一人で戦い続ける日々。
人々を監視し、罰を与える関係上、奏慈は嫌われ者でもある。
そんな奏慈に味方は一人も居ない。頼れる者も誰も居なかった。
自分が強くなるしかない……そう思うのは当然だろう。
「その為に僕はまず真妃と出会い、その力を手中に収めた。
この世界を創ったのも僕が強くなる為だ。
君達が強くなれば強くなる程、マナを通じて僕も強くなる」
「……それでも足りないからソフィアにやられたり、アイさん達を犠牲に?」
「そうだ。巨人も僕が強くなる為の踏み台。
藍達を犠牲にしたのはこの世界に新たな風を齎し、強くなる為だ」
「……つまり、全て計画通りという事か」
藍ほどでは無いが、フラン達も真実を知り、ショックを受ける。
今までの戦いや出会いは……あの時感じた思いや感情はなんだったのだろう?
どこまで決められていたのか? 考えれば考える程、分からなくなってくる。
だが、聞く勇気は無い……聞けば、きっと後悔する事になる。
「信じて良かった」
「なに?」
しかし、藍は違った。藍は涙を流しながらも笑みを浮かべる。
一回泣いて、スッキリしたのもあるだろう。奏慈の言葉を受け止められた。
でも、それ以上に真実を知って安心する……奏慈はやっぱり奏慈なのだと。
「演技力をもう少し磨くんだな! 悪役を演じるには下手すぎるぞ!!」
「……僕は君や望結を利用したんだぞ。イジメもあえて見逃した」
「確かにそれは許せない……でも、そうするしかなかったんだろ?」
「えっ、どういう事ですの?」
「考えてもみてくれ、余りにも中途半端とは思わないか?
奏慈のやってること全てが」
「ふむ、聞かせて貰おうか」
「ああ」
藍は思った。もし、本当に強くなりたいんだったらやる事は一つだ。
ハンデッドのような戦闘狂ばかり居る世界を創ればいい。
そうすれば、強い者だけが生き残り、新たに産まれる者も強くなる。
奏慈の力は飛躍的に増す筈だ……なのに、そうしていない。
それは何故か? そうする方が実は強くなれるからか?
いや、そうじゃない……奏慈はあえて、そういう世界にしなかった。
「何故なら、奏慈の望む世界はそういう世界じゃないからだ!」
「うっ!?」
「カンナギの望む世界……皆が手を取り合い、笑顔でいられる世界ですわね?」
「そうだ。奏慈は強さを求めながらも理想も捨てられなかった。
だから、戦闘狂ばかりの……強くなるのに都合の良い世界にしなかったんだ!」
「成程、そういう事か……」
奏慈は理想家だ。諦めの境地に居ても、理想を捨てきれない。
できるなら、皆が平和に暮らせる世界を実現したいと思っている。
だけど、できない……罪醜業という現実が奏慈の理想を邪魔する。
それでも抗った結果がこの世界であり、中途半端なのはそれが理由だ。
「奏慈、お前は何度も未来を見て考えたんじゃないのか?
犠牲を最小限にする方法を」
「それは……」
「未来を見始めたのも最近じゃない。本当はずっと考えていた筈だ!
最も良い未来に繋がる可能性を……ずっと、ずっと!!」
「そうよ、奏慈はずっと考え続けた……理想と現実の違いに苦しみながら!
奏慈がなんと言おうと、その事実……いえ、その現実は変わらないわ!!」
「藍、望結……くっ」
二人の言葉を受け、奏慈は思わず目を逸らす。それはもう認めたような物だった。
二人はそれを見て、畳み掛けるように言う。
「大体、言う必要が無いんだよ。オレ達を犠牲にしたなんていう事を。
奏慈しか知らない事をばらしても何の得にもならないだろ?」
「確かに……そうですわね」
「つまり、わざわざ言った時点で悪役を演じようとしているのはバレバレなわけ。
ほんと下手過ぎよ」
「……カンナギ、次はどうする?」
「くっ……」
奏慈は頭を押さえる。作戦は失敗だ……どうしてこうも藍と望結は優しいのか。
「もう諦めろ! 謝罪したいなら素直に言え!!
悪ぶろうとするな!」
「同意見よ。貴方に悪役は似合わない!」
「……全く、この分からず屋め」
奏慈はわざとらしく大きく息を吐く。
こうなってしまったら、藍の言う通りもう素直に言うしかないだろう。
奏慈は逸らしていた目を戻し、言う。
「藍、頼むから飲み込んでくれ……僕は裁く者として働く必要がある。
いくら君が嫌でも、僕は人の命を奪わなければならないんだ」
「……気付いてたのか」
「当然だ。寧ろ、気付いていないとでも思ったのか?
御蔭で僕は……悪役を演じるしかなくなったんだぞ!?」
「えっ? それってどういう……」
突然の告白に藍は勿論、フラン達も目を丸くする。一体、どういう事だ?
「……僕を嫌いになれば、我儘を言う必要は無くなるだろ?
だから、悪役を演じた」
「はあ?」
「そ、それが理由なんですの?」
悪役を演じようとした理由……それはなんとも子供っぽい理由だった。
好きな子に意地悪をするガキ大将と同じレベルかそれ以下。
罪悪感も勿論あったのかもしれないが、本命の理由はそれ。
フラン達は二人の惚気に付き合わされた……という事だ。
「……それでオレが本気でお前を嫌うとでも思ったのか?」
「いや、全然……」
「なら、言うな! この……馬鹿野郎が」
「……なんなんですの、これ?」
「さあな」
フラン達は溜め息を吐く。なんか、どっと疲れた。
自分達が受けたショックを返して欲しい……心からそう思う。
「創造神様、複数の魔力を感じます。そろそろ、ここを離れた方がよろしいかと」
そんなフラン達の思いも露知らず、惚気続ける二人にウトが耳打ちする。
そういえば、創造神復活は伝えたが、自分達が無実である事は伝えていなかった。
つまり、奏慈達はまだ指名手配犯。追われる立場だ。
これはマズイ……複数の魔力は捕らえにやってきた騎士団だろう。
今はまだ大々的に姿を晒す訳にはいかない……早く逃げなければ。
「そうだな、すぐにここを離れよう。藍、話は後だ」
「わ、分かった。でも、一体どこに?」
「それは……」
「勿論、創造神様の居城よ! 今日の為に皆でお金を出し合って!!」
「その話も後にしろ! 行くぞ!!」
「あっ、待って下さい!」
騒ぎ暴れるフィーを無視して、奏慈達はすぐに銀の扉に入る。
魔力はすぐ近くまで迫っていた……グズグズしていられない。
こうして、奏慈達は無事に脱出し、大神殿を離れるのだった。
「はあはあ……皆、無事か!?」
「な、なんとか、無事ですわ……」
「ぼ、ボクもだ」
「はあ、勘弁してくれよ……」
「ほんとよ……離れるんだったら、早く言って」
「同意です」
「ご、ごめん……」
会話から一転、急いで脱出……奏慈達は息も切れ切れだった。
奏慈は点呼を取るもフラン達は口々に文句を言う。
「ま、まあまあ、うっかりする事は誰でもある」
「そうです。創造神様をあまり責めないで下さい」
「うん。拙者達もノンビリしていた」
「責めるなら創造神様ではなく、俺様達にしてくれ」
「そういうこと!」
「はい、マキもそう思います」
それに対し、ルフ達は優しい言葉を奏慈にかける。
上司のミスは自分達のミス……そう思っているのだろう。
だが、ただ一人そう思っていない者も居た。
「ふん、親父を甘やかすな」
マティだ。マティは腕を組み、鬱陶しそうにルフ達を見つめる。
「親父? まさか、お前は!」
「……そうだ。某はそこに居る馬鹿親父と真妃との間に産まれた子供。
ソフィアは姉に当たる」
「姉!? もう一人子供が居たのか!?」
「やれやれ、馬鹿親父か……」
これで一安心……長かった一日はもう終わり。
そう思っていたが、それは間違いだった。
突如明かされる事実にフラン達は驚き、奏慈は静かに肩を落とす。
長い長い一日はまだ終わりそうにない。
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