可能性
「全く、お前達はどうして喧嘩するんだ?」
「も、申し訳ありません……」
「むうう……悪いのはオクリなのに」
奏慈はオクリとフィーを見下ろしながら、溜め息混じりに言う。
二人の鬼ごっこは奏慈が間に入った事で終わりを告げた。
二人は渋々手を取り合い、仲直りをする……これで一件落着。
とはいかない。今度は奏慈の説教が始まった。
二人はいたたまれない様子で正座し、静かに説教を受ける。
「なんだか、意外ですわ……オクリさんがあんな風に走り回るなんて」
「だな。真面目でお淑やかな方だと思っていたから、子供みたいで驚いた」
「そうね……あのネーミングの良さが分からないなんて、まだまだ子供だわ」
「望結、そういう事じゃないと思うぞ……」
フラン達はその様子を少し離れた所で見守りながら、雑談を交わす。
オクリに会ったのはつい最近だが、その印象は既に固まっていた。
丁寧な言葉遣いに、夫であるマガミへの態度……いわゆる、貞淑な妻だ。
その印象が今の鬼ごっこで全て吹き飛んだ。人というのは分からない物である。
「まあ、これくらいにしておくか……次からは気を付けるように」
「はい……」
「ふん、オクリが絡んで来なかったら大丈夫ですよ」
「な、なんですって……」
「言った傍から喧嘩するな! はあ、どうして仲良くできないかな……」
奏慈は溜め息を吐く。二人の仲の悪さは今に始まった事ではない。
犬猿の仲という言うべきか、こうして集まる度に喧嘩していた。
仲裁も一度や二度ではない。もはや恒例行事であり、見慣れた物だ。
真面目なオクリに対し、自由なフィー……真逆の性格とはいえ、何故こうも。
流石の奏慈でも毎回毎回喧嘩されてはどうしようもない。
「創造神様、もう放っておきましょう。二人はそういう奴です」
「……そうだな。よし、今から知らせを出す!
僕が復活した事を全世界に知らせるぞ!!」
気を取り直し、奏慈は高らかに言う。今、世界中の人々は混乱している筈だ。
突然の地震……そして、創造神の身体の消失のせいで。
まず、突然の地震。震源地であるここ以外の揺れは小さいものの、揺れはした。
怪我や物が壊れていない事は確認したものの、それでも多くの人々が怯えている。
すぐに地震の原因を知らせ、その不安を取り除く必要があるだろう。
次に創造神の身体の消失。力を取り戻す為に奏慈は一度に全ての身体を吸収した。
知識人であれば、創造神が復活したと察するかもしれないが、全員ではない。
多くの人々は不安に思い、沈んでいるだろう……地震と合わせ、知らせなければ。
「ふうう……この世界に暮らす全ての者よ、我が声を聞け!!
我はこの世界を創った創造神である! 求めに応じ、ここに復活した!!
先の揺れは我の声! 消えた創造神の身体は我の元に集っている!!
安心して、我の復活を喜ぶがいい!」
奏慈は一呼吸置いてから、全世界に向かって喋り始めた。
正直キャラではないが、創造神っぽく威厳を持って話す。
「こ、これは凄いですね……頭の中に直接声が」
「流石、創造神だな。一度に全ての者と繋がるとは」
この世界に存在する全ての生物は魔力を持っている。
そして、その魔力の元はマナ……創造神である奏慈の魔力だ。
奏慈はそのマナに声を含ませ、語りかけている。
ソフィアのようにホログラムを出す必要は無い。
「我が復活したからにはこの世界の平和は約束されたような物だ!
今までのように理不尽に奪われ、傷付く事はもう無い! 世界は救われた!!」
「……正に平和な世界ですわね」
「勿論、信じられぬ者も居るだろう……今、その証拠を見せる!!」
奏慈はそう言うと、勢い良く指を鳴らした。
すると、奏慈の身体から無数の光が飛び出し、世界中に飛び散っていく。
「今我がしたのは人の世界では奇跡と呼ばれる魔法だ!!
周りを見てみるがいい! 見慣れぬ者がそこに居るだろう!!
その者は聖男や聖女……かつて、人や世界の為に命を散らした者達だ!」
「聖女!? という事はイリディ様も!」
「我に不可能は無い! 今日をもって、世界は救われた!!
皆が手を取り合い、笑顔でいられる世界……新世界の誕生を喜ぶがいい!」
「……世界は救われた、か」
奏慈の言葉を聞き、フラン達は想像する。
理不尽な暴力も苦痛も無く、笑顔が溢れる世界……なんて素晴らしい世界だ。
長く苦しい日々は全て、この日の為に。
「……だが、罪を犯した者には罰を与えねばならない」
「な、なに?」
しかし、その想像は奏慈の手によってかき消された……奏慈は続ける。
「罪を犯した者よ……すぐにその罪を告白し、罰を受けるのだ。
さもなくば、我自らが罰を与える。どこにも逃げ場は無いぞ」
「そ、奏慈? 何を言って?」
「……一週間与える。その間に罪を告白し、罰を受けよ。
我からは以上だ。罪を犯さぬよう、考えて暮らすがいい」
奏慈はそこまで言うと、深く息を吐きながら口を閉ざした。
今のはなんだ? フラン達はすぐに奏慈の元に駆けつけ、聞く。
「お、お話は終わったんですの?」
「……ああ」
「なら、今のはなんだ? 何故、不安にさせるような事を言う?
人々の不安を晴らす為、会見したんじゃないのか?」
「勿論だ。僕は無用な不安を晴らす為、人々に語りかけた……」
「じゃあ、なんで!?」
「それは……僕が創造神ではなく、裁く者だからだ」
「……裁く者、だから」
裁く者である奏慈の仕事は世界を平和に導く事ではない。罪人に罰を与える事だ。
それは人間として生き、復活した今も変わらない。寧ろ、責任感は増大している。
長く仕事ができなかった間に、一体何人の罪人が野放しになったのか。
それで何人の人が苦しんだか……仕事に対する思いは前の比ではない。
例え、人々に不安を与える事になったとしても罰を与える必要がある。
「だが、更生できない者に関しては罰を与えても仕方ない。
別の方法を取る必要がある」
「別の方法? それは何だ?」
「……存在の消滅。分かり易く言えば、死刑だ」
「死刑!?」
罪の化身たる罪醜業の出現はあらゆる宇宙に破滅を齎す。
しかし、奏慈一人が頑張った所で出現を遅らせるので精一杯だ。
出現を阻止するには罪人が更生し、罪の総数を減らすしかない。
だが、世の中にはどうしても更生できない者も居る……罪を生み出し続ける者が。
そういった者は生かしておいても仕方ない。結果、死刑にするしかないのだ。
「そ、そんなの駄目だ! そんな簡単に死刑にするなんて!!」
「……どうして? 僕は裁く者だぞ、僕の判断に間違いはない」
「ま、間違いはないって……奏慈がそう思っても、更生する可能性はあるだろ!?
死刑にしたら、その可能性も無くなるんだ! そんなの許せない!!」
「許せない……ね」
藍は死刑という罰に関しては肯定的であり、その重要性を理解していた。
世の中には口に出すのもはばかられる程のおぞましい罪を犯す者が居る。
そんな罪人には普通の罰では足りない……それ相応の罰が必要だ。
それが死刑。死を与える事で永遠の暗闇に罪人を堕とす。
しかし、奏慈の与える死刑は奏慈の判断のみで下される物だ。
死刑は人の命を奪うという重い罰。例え奏慈でも気軽に下していい物ではない。
「藍、僕がテキトーに罰を与えているとでも思っているのか?」
「えっ? で、でも、更生する可能性も……」
「無い。僕が死刑宣告するのは絶対に更生しない者だけだ」
「うん? どうしてそんな事が分かるんですの?」
「決まっているだろう……未来を見るからさ」
だが、奏慈には未来予知という力がある。それをもってすれば、更生するか否か。
死刑後の世間に与える影響までも知る事ができる。
どんなに精査しても人間なら冤罪は起こるが、奏慈は絶対に冤罪など起こさない。
未来予知は絶対……同時に奏慈の判断も絶対なのだ。
「だ、だとしても未来が変わるとかあるだろ!? 何かの影響を受けたりして!」
それでも藍は反論し続けた。裁く者である奏慈でも間違いを犯すかもしれないと。
でも、本音は違う……本音は奏慈にそんな事させたくないだ。
いくら仕事でも人の命を奪って欲しくない……藍はそれを隠し、必死に反論する。
「……未来予知とは言っているが、僕の持つ力はあらゆる可能性を見る力だ。
二股の道で左に行った可能性。右に行った可能性。進まず、引き返した可能性。
未来というのはいくつもある可能性の中から一つを選んで決めた物に過ぎない。
僕はそんないくつもある可能性を全て見て、更生できないと判断するんだよ」
「うっ、そ、それでも……」
しかし、藍が反論する度に奏慈は無慈悲にも答えていった。
恐らく、全て本当の事なのだろう……奏慈の言葉に嘘は無い。でも、だからこそ。
「ソフィアにやられて、今まで力を失っていたじゃないか!!
本当に全ての可能性を見れるのなら、そんなこと起こる訳ない! そうだろ?」
矛盾が生まれる……未来予知があるなら何故やられたのか? それが分からない。
「確かにそうですわね……未来が見れるなら、不意打ちなんて受けませんわ」
「これから起こる全ての悲劇も見れる訳だからな。
カンナギの性格を考えると、見れるなら全て回避する筈……」
「つまり、嘘。もしくは今は見えるが、昔は見れなかった……という事か」
「み、皆……奏慈、答えろ! 未来予知はそんなに万能な物じゃないんだろ!?」
フラン達を味方に付け、藍は決定的な矛盾を奏慈に突きつける。
もう誤魔化す事はできない……藍は奏慈の次の言葉を待つ。
「藍……」
「大丈夫じゃ。きっと、乗り越えてくれる……」
「ええ、藍なら……」
「……そうだと良いですね」
だから、気付けなかった……望結達が心配そうに自分を見つめているのを。
「……ふっ、あははは! まさか、本当にそう思っていたのか?
僕が不意打ちを受けて、やられたって? あははははは!」
「な、なんだよ急に」
「だとしたらお笑いだ! 僕は唯一、他者を裁く権利を持つ存在なんだぞ?
そんな奴が簡単に負けるとでも? 君達の想像力の低さにはガッカリだ!」
「え、えっ?」
そうして、奏慈の口から溢れたのは言葉ではなく、嘲笑だった。
一体、何を言っている? 藍はその意味を理解できない。
「……成程、そういう事か。お前はわざとソフィアにやられたんだな?
自分の計画を進める為に」
「えっ? どういうこと?」
だが、フラン達は理解できた……嫌な言い方をした理由も。
「その通りだ。僕はわざとソフィアにやられた……自分や世界の為に」
「……そ、それじゃあ」
「そうだ……僕は君と望結が虐められる未来をわざわざ選んだんだよ」
「あ、ああ……うわあああ!!」
藍の絶叫が部屋中に響く……嘘だ嘘だと、心の中で何度も叫びながら。
それでも真実は変わらない。藍は血涙を流し、床に拳を叩きつけるのだった。
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