不安を胸に
「――うっ、私は……確か戦ってて」
決着から数分後、ソフィアは頭を押さえながら目を覚ました。
一体、何が起こったのか? ソフィアは状況を理解できない。
覚えているのは奏慈と戦い、勝ちを確信していた事だけ。
なのに何故、気絶していたのか? 全く分からない。
ソフィアはその答えを知る為、周囲の様子を窺い始める。
「やれやれ、やっと起きたか」
「えっ!? な、何故、貴方が生きて……」
だが、すぐにその選択を後悔した。
顔を上げると、そこには奏慈……自分が倒した筈の奏慈が居た。
周囲を見れば、藍も居る。これは一体?
「何故? お前に勝ったんだから、生きてるのは当たり前だろ?」
「勝った? はっ!?」
奏慈のその言葉でソフィアはやっと状況を理解する。
自分は負けた……呼び出した藍が奏慈の剣を避けたせいで負けたのだ。
「くっ!? こんな屈辱、初めてよ!!」
「そりゃどうも」
ソフィアはそれを理解し、怒りから拳を振り上げる。
しかし、拳は上がらなかった……よく見ると、全身縛られている。
それもそうだ。危険人物を放っておく訳ない。
ソフィアは芋虫のようにもがきながら、奏慈と藍を睨みつける。
「……ムカつくけど、一つ教えて。藍、貴方は何故あの攻撃を避けれたの?
とても一瞬の判断で避けれる攻撃じゃなかったのに……」
「……藍」
「うん」
その状態のままソフィアは聞く。屈辱の極みだが、何故負けたのか知りたかった。
突然呼び出された藍は混乱し、とても真面に動ける状態ではなかった筈。
なのに、何故避けれたのか? こればかりはいくら考えても分からない。
「簡単な話だ。オレも教えて貰ったんだよ……未来を」
「未来を? それは無理な筈よ、だって!」
「空間を歪みに歪めていたから……だろ? だが、奏慈が見たのは戦いの後だ」
「後? 一体、どういう事なの?」
「……ふう、僕からも教えてやる」
歪みに歪んだ空間は時さえも歪ませる……その空間で時を操るのは至難の業だ。
それでも奏慈は未来を見続け、戦った。これは簡単な事ではない。
だが、戦いが始まる前……つまり、昨日の事前で見る事はできなかった。
今の奏慈の力では中に入らないと、見る事はできない。
奏慈がソフィアの未来予知や身代わりを知らなかったのはそのせいだ。
「だから、それがなんだっていうの! 何も見えなかったんでしょ!?」
「ああ。でも、見えた物もあったんだ……それが戦いが終わった後の光景。
そこには僕と藍……そして、倒れているお前の姿があった!」
「なっ!?」
それを見て、奏慈は考えた。まず、これから分かる事は自分達が勝つということ。
そして、空間の歪みが無くなり、歪みの元がソフィアだという事だ。
そうなると、次の問題はどうやってソフィアを倒したかになるが、これが難問。
映像にあるのは周囲の映像と自分達だけ……そこに至るまでの流れは分からない。
全盛期であれば、音も聞く事ができたが、今の奏慈の力では見るだけで精一杯だ。
強いて分かるのは戦ってる場所が大神殿で、一緒に藍が戦っていたという事だけ。
それ以外は何も分からない……違和感はあるが、奏慈は明日に備え寝る事にした。
「そうして横になった瞬間、気付いたんだよ。僕と藍の違いにな」
「違い?」
映像の中に居る奏慈と藍……先入観から一緒に戦っていたものと思っていた。
しかし、藍をよく見てみると、奏慈と比べ疲れ方が違う。
肩で息をしている奏慈に対し、藍は汗を拭ってるだけ。
一緒に戦っていたなら、藍も肩で息をしている筈……疲れ方が全く違った。
これはつまり、一緒に戦っていた訳ではないという事だ。
藍が後から合流して、この映像に繋がった……そう考えれば、納得できる。
「問題はどうやって合流したかだ。ただ、走ってきた訳ではないだろう。
もしそうなら、フラン達も居る筈だ。藍だけを先行させる理由は無い。
なら、他に何があるか……それで思いついたのがお前の呼び出しだ」
「うっ!?」
奏慈はそう言うと、ゆっくりと語り出す。話は昨日の夜まで遡った。
「藍、突然起こしてすまない」
「いや、気にするな。大切な話なんだろ?」
奏慈は眠っていた藍を起こし、真剣な表情で見つめる。
これから話す話は藍の今後の人生を大きく変える物だった。
「ああ、落ち着いて聞いて欲しい……君の身体についてだ」
「身体? オレは健康だぜ?」
「……藍、今の君の身体は人間の物じゃない。肉人形だ」
「えっ?」
突然の事に藍は驚き、言葉を詰まらせる。何を言ってるのか分からなかった。
「創造神としての記憶を取り戻した事で、やっと分かった。
今の君の身体は作られて出来た肉人形。それも限りなく、人間に近い奴だ。
イカリもたぶん気付いていないだろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 肉人形な訳ないだろ!
オレにはこの世界の父親の記憶が!!」
「それは偽物だ。術者が君を人間らしくする為に作った偽物。
過去を読んだが、この世界の君に父親は居ない」
「そ、そんな……」
信じられない……いや、信じたくなかった。自分が肉人形だという事を。
それもただの肉人形ではない……今の今まで人間だと騙し切った肉人形だ。
それはつまり。
「……ずっと、オレはスパイしてたって事か」
「そう……なるな」
この状況で奏慈がわざわざ明かしたという事はそういう事だ。
ウルトルクスを操っていた術者は藍も裏から操っていた。
「くっ!」
「や、止めろ! 早まった事はするんじゃない!!」
「うるさい! 今までオレのせいで皆を苦しめていたんだろ!?
可笑しいとは思ってたんだ……行く先々にウルトルクスが居て。
ここで命を絶って、全てを終わらせる!!」
藍はガントレットを出現させると、そのまま自らの首を絞めにかかる。
自暴自棄になった訳ではない。明日の為、後顧の憂いを断ちたいだけだ。
勿論、ショックではある……自分は皆や奏慈の敵だった。
でも、落ち込んでる暇は無い。術者に何かされる前に動かなければ。
「藍、聞け! 逆にそれを利用するんだよ!!」
「利用? どういう事だ?」
「そのまんまの意味だ。術者がお前を利用するのは逆手に取る!
それこそ僕達がソフィアに勝つ唯一の方法だ!」
「唯一の……分かった! 教えてくれ!!」
「……ありがとう。作戦は!」
奏慈は自分の見た未来や作戦を話し始めた。
これが上手くいけば、絶対にソフィアに勝てる……そう確信して。
「作戦はシンプルだ。僕が突然目の前に現れたら横に避けろ。
分かり易いだろ?」
「そ、そんな作戦で!」
「だが、そんな作戦にお前は負けた……戦う前に結果は決まっていたのさ」
「くっ……」
時は現代に戻り、奏慈は語り終える。作戦は本当にそれだけだ。
他には何も伝えていない。藍も最初それを聞き、目を丸くした。
しかし、すぐに頷いて了承する。奏慈の言う事だ、間違いない……そう信じて。
「とは言っても術者がお前でない可能性もあった。
その場合、この作戦は失敗する……だから、確かめる事にしたんだ」
「……そうか、あの降参はその為の!」
「そうだ。お前はウルトルクスと会う前の僕達の戦いを知っていた!
それはつまり、どこかでその戦いを見ていたという事だ!
じゃあ、どこで? 決まっている……藍の目を通してだ!!
そして、闇の玉は僕の存在をお前に知らせる為の物だったんだろ!」
「そ、そこまで見抜いて……」
藍がソフィアに作られた存在なら、持っていた闇の玉も作られた物になる。
四六時中見張る訳にもいかない為、ソフィアが作って持たせたのだろう。
藍の家に伝わる秘宝……という話も万が一にも紛失させない為の安全策。
いずれ戻ってくる奏慈を早々に捕らえる為、ソフィアは準備していたのだ。
「……降参よ。色々考えたけど、良い方法が思いつかない。
私の負け……さっさとトドメを刺しなさい」
「……分かった」
聞きたい事は全て聞いた……ソフィアは大人しく横になる。
奏慈と違い、正真正銘の降参。歯向かう気はもう無かった。
「奏慈、待って!」
「藍?」
にも拘わらず、藍は奏慈の前に立ちはだかる。一体、どういうつもりだ?
「藍、ソフィアはお前に対して……」
「分かってる! でも、ソフィアがこの身体を作ってくれたんだろ?
利用されたのは気に食わないけど、感謝する部分はある!!」
「……甘いわね。流石、聖女に選ばれただけはあるわ」
「言ってろ! 奏慈、お前がソフィアを殺す必要は無い!!
法に裁かせるんだ!」
「……ふん」
ソフィアは嗤う。この期に及んで藍に守られるとは思わなかった。
屈辱だ……憐みとは勝者の余裕。それを寄りにも寄って藍からされるとは。
「藍、一つ言っておく……法とは裁く者である僕を指す言葉だ。
僕が罪あると言えば、罪がある」
「で、でも!」
「安心しろ、殺しはしない。少しの間、眠らせるだけだ。
ソフィア、お前もそれで良いな?」
「……勝手にして」
「分かった」
奏慈は一呼吸置いてから、ソフィアに向かって手をかざす。
すると、ソフィアの身体が淡く光り始めた。
その光はどんどん強くなり、ソフィアの身体を包み始める。
「こ、これは?」
「肉体を消し、魂だけにしてるんだ。大丈夫、痛みは無い。
眠らせるにはこの方法が一番いい」
「そ、そうなのか」
間もなく、光は完全にソフィアの身体を包み込んだ。
ソフィアは光の玉になり、次は光を収縮させていく。
「……最後に一つだけ言っておく」
「なんだ?」
「次は……負けないから」
「ふっ、そうか……楽しみにしてる」
その言葉を最後にソフィアは眠りに就く。
同時に光も完全に収まり、ソフィアは掌サイズの玉になった。
奏慈はその玉を手に取ると、躊躇なく飲み込む。
「……うん。これでもう安心だ」
「そ、そうか。なんか不安だけど、信じるぜ」
藍は一息吐く……色々あったが、これで長く続いた戦いは終わった。
これからは平和な世界で、奏慈と一緒に過ごす事ができる。
「さて、これからだ……」
「奏慈?」
だが、奏慈はどこか遠くを見つめたまま、苦しそうに息を吐く。
敵はもう誰も居ないのに……奏慈の目には何が映っているのか?
「カンナギ!!」
「無事ですの!」
「あっ、皆!!」
そんな事を思っていると、フラン達が走ってやってきた。
全員ボロボロだが、大きな怪我は無い。
見事、それぞれの因縁の相手を倒し、奏慈と藍に合流する。
「奏慈、ソフィアは!?」
「大丈夫! ちゃんと倒した!!」
「おお! 流石、創造神様です!」
「これで一件落着ですね」
「ワガハイは少し物足りんがな」
奏慈を囲み、フラン達は勝利に沸く。この世界は救われた。
皆の顔に笑顔が溢れ、その中には奏慈の顔もある……ハッピーエンドだ。
「奏慈……」
しかし、ただ一人藍だけは不安そうに奏慈を見つめていた。
さっきの奏慈の顔……あれはなんだったのだろう?
藍は拭い切れない不安を胸に笑う……予感が当たらない事を祈りながら。
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