作戦勝ち
「あれ、さっきまでの勢いはどうしたんですか? 動きが鈍くなってますよ!」
「くっ、やはり疲れが出始めているか……」
そうして戦い続けること数分後、戦況は予想通り奏慈の不利になっていた。
創造神の力があるとはいえ、身体はまだ人間のまま……体力に限界がある。
それに対し、ソフィアは限りなく創造神に近い存在だ。その体力は無限。
このまま何もしなければ、ソフィアの勝ちが決まるだろう。
「……ソフィア、お前さっき言ったな。僕はお前達の意思を無視してると」
「ええ、言いましたよ。それがどうかしたんですか?」
「なら、それはお前も同じなんじゃないか?」
「なに?」
だが、そうはさせない。この戦いは今後の世界……いや、宇宙を決める戦いだ。
どんな手を使ってでも勝つ必要がある。それで外道や卑劣と言われても構わない。
藍達が来れば、戦況が変わるのだ。それまでなんとしても持たせる。
「……どういうつもりか知らないけど、乗ってあげる。どういう事なの?」
「そのまんまの意味だ。お前は肉人形を新人類にすると言った。
心は外付けにすればいいと……その心はどこから持ってくるんだ?」
「決まってるでしょう。今の人類から貰う」
「……ふっ、やっぱりな。正真正銘、お前は僕の娘だよ」
「な、なんですって……」
中光達を実験体にした事から薄々察しはしていたが、新人類はハリボテだった。
恐らく、巨人達を使って魂を集めるつもりなのだろう。
新人類と言っておきながら、その中身は今の人類をそのまま使った使い回し。
人の意思を無視しながら、人の意思があれば人類と思っている。なんとお粗末か。
「可笑しな話だ。今のままでも十分支配できているのに、欠陥品を作るとは。
何が不満なんだ? 今のままでも十分だろう?」
「……前にも言ったでしょ。今の人類は力も無く、容姿も優れていない生物!
そんな生物よりも力も容姿も優れてる方が良いに決まってるじゃない!?」
「期待してないんだな、今の人類に」
「なっ!?」
やっぱり、親子だな……奏慈は自嘲気味に続ける。
「お前は結局、僕と同じ事を繰り返そうとしているだけだ。
僕も他の宇宙の人類を見て、今の人類を創ろうした……心優しい人類を。
それは他の宇宙の人類が僕が嫌う醜い生物だったからだ。
今のお前と同じように自分ならもっと良い物が創れる……そう思ったんだよ」
「違う……私は!」
「お前は僕の娘だ。お前がなんと言おうと変わらない。
違うのはお前が孤独という事だ。操り人形ばかりの世界にお前の味方は居ない」
「だ、黙れ!!」
図星だったのだろう。激昂したソフィアは有無を言わさず、戦いを再開させた。
奏慈は次の攻撃に備えて、構える。時間稼ぎはここまでだ。
「死ね!」
ソフィアは無数の火球を投げつけるように奏慈に向かって飛ばした。
その火球はどれも握り拳程度の大きさだが、油断してはいけない。
何故なら、それは当たれば大爆発する爆弾でもあった。
一つだけならともかく、複数当たれば、それだけで勝負が決まるだろう。
「さあ、来い! 全て受け止めてやる!!」
「ど、どういうつもり!?」
奏慈はそんな火球に対し、あえて避けずに佇む事にした。
未来予知に寄ると、火球に直撃した奏慈は爆発で倒れる事になる。
いつもならその未来を回避する為、攻撃を避ける所だが。
奏慈は避ける様子を全く見せない。本当に受け止める気なのか?
「なんてな」
「やっぱり……」
勿論、そんな事は無い。奏慈は自分とソフィアの位置を入れ替えた。
これによって火球は奏慈ではなく、ソフィアに向かう事になる。
「でも、無駄よ! 私には届かない!!」
「くっ!?」
しかし、ソフィアはその未来をしっかり見ており、水の壁を出現させた。
それは火球を消し、爆発さえも飲み込んでみせる。
やはり、藍達が来るまで戦況は変わらないのか?
奏慈は地団駄を踏み、ソフィアは余裕の笑みを浮かべて次の攻撃に移ろうとする。
「……ふっ、かかったな!」
「なに? はっ、まさか!?」
だが、そんな事は予想の範囲内。ソフィアはここで背後から迫る熱に気付く。
そう、ソフィアの火球だ。奏慈は自分達だけでなく、火球の位置も変えていた。
「まずは一発! 食らえ!!」
「そ、そんな!!」
気付いた時にはもう遅い。
ソフィアは自らが放った火球に直撃し、爆発にも飲み込まれる。
これには流石のソフィアもただでは済まない。やられはしなくても重症だろう。
「なんてね」
「なっ!?」
そう思われたが、露わになったソフィアの身体には傷一つ付いていなかった。
爆発もあったのにどこも損傷していない。
「げ、外道め……」
「有効活用と言って欲しいわ。屑でも役に立てる……それを証明したんだから」
でも、何より目を引くのはソフィアの背後……そこには中光が居た。
中光は焼け爛れたボロボロの姿で、ソフィアの背後で磔にされている。
ソフィアが無傷な理由……それは中光を身代わりにしたからだった。
「って、あれ? 随分とボロボロね……やられた後だったのかしら?
まあ、もう死んでるからどうでもいいけど」
「ソフィア、お前!」
「ふん、なに怒ってるの? どうせ殺すつもりだったでしょ?
死に方が変わった位でぎゃあぎゃあ喚かないで」
「くっ、ソフィア……」
これが中光の最後……哀れだが、今までしてきた事を考えると同情はできない。
中光は自分も使う火炎魔法によって、その人生を終える。
「さあ、次はどうするの? 同じ手を何度も食らう程、私は馬鹿じゃないわ。
もっと面白い攻撃を期待してる」
「……じゃあ、楽しみに待ってろ」
そうは言うが、今の攻撃が現状の最後の希望だった。
奏慈は情報を整理しながら次の作戦を練る。
未来予知は大きく分けて二つ存在し、一つは俯瞰して見る三人称視点。
もう一つは自分の目線で見る一人称視点だ。
奏慈は時間稼ぎをしながら、ソフィアの未来予知がどっちか探っていた。
やり方は簡単だ。ソフィアの死角で物を動かしたり、浮かせたりするだけ。
もし、ソフィアの未来予知が三人称視点なら奏慈の行動を警戒するだろう。
結果、ソフィアは全く気付かなかった為、一人称視点だと判明する。
(今までの行動からソフィアの未来予知で見えるのは十秒前後と分かっている。
だから、また背後から攻撃すれば、当たるかもしれない。
でも、そんな事はソフィアも分かっている……対策しない訳が無い。
中光が突然現れたのもその一つだろう。無駄に犠牲を増やすだけだ)
それでしたのがさっきの位置変えだが、失敗に終わってしまった。
迂闊な攻撃は止めた方が良さそうだ……さて、どうするか?
「どうしたんですか? こっちは楽しみに待ってるんですよ?
あっ、一応言っておきますが、ここに藍達は来ませんから。
貴方がここにやって来た時点で、空間を閉ざしましたので」
「うるさい、そんなの分かってるよ。僕を誰だと思ってるんだ?
元から来る事は期待してない」
時間稼ぎは建前。奏慈は最初から未来予知を突破する為に動いていた。
だが、それも終わりだ。バレた以上、時間稼ぎはもう言い訳にできない。
戦いを続けながら、突破口を探す……そんな無理難題をするしかない。
「……ソフィア、お前の勝ちだ」
「はっ? 今、なんて?」
「お前の勝ち……そう言ったんだ」
そんな絶対絶命の状況の中、奏慈は突然両手を上げると、剣も仕舞った。
まさか、降参? 思いもしない行動にソフィアの顔は引きつる。
「……何かの作戦のつもり? だったら」
「いや、正真正銘の降参だよ。この戦いは僕の負け。
さっさとトドメを刺してくれ」
奏慈はそう言うと、そのまま横になった……本当に降参するつもりらしい。
「なんなのそれ……ふ、ふざけないで!!」
それに対し、ソフィアは全身を震わせながら怒りを露わにした。
今の奏慈は無防備だ。やろうと思えば、一撃で倒す事ができる。
だが、ソフィアの欲しい勝利はそんな物ではない。ソフィアは続けて言う。
「私は貴方を屈服させて勝ちたいの! なんなの、その余裕な感じ!?
それで勝ってもなんにも嬉しくないわ! 最期まで戦いなさいよ!!」
ソフィアはなんでも自分が一番じゃないと気が済まない性格だ。
それ故に勝ちを譲られて勝つというのは我慢ならない。
勝利とは自分の手で掴み取る物……譲られて得た物は紛い物だ。
相手をボロボロにし、最期の手を出させた時、初めて勝利したと言える。
「嫌だね。どうして、お前の言う事を聞く必要がある?
戦いは終わった。お前の勝ちで良いよ」
「……ほ、本当になんなのよ。諦めないとか、さっき言ってた癖に!」
「それは希望があったからだ。それが潰えた今、諦めるのは当たり前だろ?
さあ、早くトドメを刺せ。グズグズしてると、藍達が来るかもしれないぞ?」
「こ、この……」
しかし、奏慈は寝たままだ。それどころか煽って、トドメを刺すよう言う始末。
このままでは奏慈の言う通り、藍達が来るかもしれない。
閉ざされた空間はいずれ元に戻る……永遠ではないのだ。
さらにその前に術を解除される可能性もある。一転して、戦況は奏慈に傾いた。
「……やっぱり、人間になった事で弱くなったみたいね」
「ほう、それはどういう意味だ?」
作戦も何も無いが、ソフィアは勝負に出る。
これに負ければ、後はプライドを捨てるしかない。
「ふん、私は知ってるのよ……この世界に来たばかりの時。
暴漢や守護者と戦って、貴方あっさりと諦めたでしょ?
その度に助けられて、慰められて……情けないったらありしゃしないわ。
まあそんな創造神様なら、降参しても可笑しくないか」
当初、奏慈は藍と望結を自分のせいで亡くし、完全に自信を無くしていた。
色々あって今はなんとか立ち直ったものの、また折れても可笑しくはない。
ソフィアはその事を突いた。これに乗ってくれなければ、他に策は無い。
「……いいだろう。その挑発、乗ってやる」
「そ、そうこなくっちゃ」
奏慈は勢いよく立ち上がると、流れるように剣を出現させた。
それを受け、ソフィアは笑う。こんなに簡単に乗ってくれるとは思わなかった。
「行くぞ!」
「ええ、来て!」
奏慈は走り出し、ソフィアは待ち構える……恐らく、次の一撃で決まるだろう。
「き、消え!?」
「ふっ、そこだ!」
奏慈は剣を振り被った瞬間、ソフィアの背後に瞬間移動した。
正面対決で決めるつもりは全く無い。奏慈はそのままソフィアの首元を狙う。
「あはは、かかった!!」
「なっ!?」
「こ、ここは!?」
その瞬間だった。突然藍が奏慈の目の前に現れる。
一体、何が!? 奏慈は勿論、藍も何が起きたか分からない。
ソフィアは嗤いながら続ける。
「中光で終わりと思った? 自らの浅はかさを恨みなさい!!」
「くっ!?」
奏慈の剣は止まらない。剣の先には藍が居る。
中光を身代わりにしたように、藍も身代わりにされてしまった。
「勝った!」
ソフィアは勝利を確信する。
「いや、僕達の!」
「勝ちだ!!」
「えっ? うっ、ああああああ!!」
しかし、藍はまるで分かっていたかのように自然に剣を避けた。
結果、剣は予定通りソフィアに命中……その一撃でソフィアは気絶した。
こうして、戦いは意外な形で終わりを告げる。
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