父と娘と
「ソフィア来たぞ! 早く姿を現せ!!
父親に何か言いたい事があるだろ!?」
奏慈は全速力で走り抜け、遂に大神殿の最奥部まで辿り着く。
ここにソフィアが居る筈だ……姿は見えないものの、魔力を感じる。
奏慈は息を整え、声を張り上げた。だが、剣は出現させない。
戦う前に少し話がしたかった。ソフィアには聞きたい事が山程ある。
「父親? 貴方の口からそんな言葉が出るとは思いませんでしたよ」
「ソフィア……」
ソフィアはそれに応え、柔らかな笑みを浮かべながら現れた。
闘技大会で見た時と同じ青い瞳と黒髪も持って……やはり、少し不気味に見える。
しかし、すんなり出てきてくれたのは感謝しかない。奏慈は早速、話し始める。
「聞くまでもないだろうが、中光達の術者はお前だな?
一応、確認しておきたい……」
「はい、そうですよ。私があの屑達のご主人様」
「……やはり、そうなのか」
中光の口から一度聞いたとはいえ、奏慈はショックを隠し切れない。
ソフィアが全ての元凶……仮にも自分の娘だ。大目に見ていた所はある。
でも、そのせいで皆と世界を危険に晒してしまった。自分の教育不足だ。
ソフィアのしてきた事は許されないが、そう導いたのは自分に他ならない。
「はあ、貴方は相変わらず、ナルシストなんですね」
「なに?」
そんな奏慈に対し、ソフィアは柔らかな笑みを浮かべたままそう言う。
勿論、その笑みは偽物だ……その下にはどす黒い感情がある。ソフィアは続けた。
「貴方はいつもそうです。自分がちゃんとしてれば、全て上手くいくと思ってる。
私達にも意思があるとは思っていない」
「ち、違う!」
「ええ、違いますね。期待してないの間違い。
自分が力を貸さないと、なんにもできないと思ってるんでしょ?」
「それは……そうかもしれない」
奏慈は裁く者だ。その力はあらゆる者の頂点に立ち、敵う者は居ない。
だが、それ故に傲慢な所がある。中光達を殺した時、奏慈は罰を受けなかった。
取り引きしたとはいえ、人間の作った法に自分が裁かれる訳が無い。
何故なら自分は裁く者……裁かれる者ではない。そういう認識が無意識にあった。
藍の日記を見なかったら、今もそれは変わらなかっただろう。
「そんな貴方に代わり、私は今まで頑張ってきた。
世界を維持し続けたの……感謝して貰いたいわ」
「……なら何故、ウルトルクスを作った? それに何故、中光達を利用したんだ?
世界を維持するだけなら、必要ないだろ」
しかし、奏慈は変わった……もう罪から逃げたりしない。
奏慈は気持ちを切り替える。罪を償う為にも、今はソフィアの罪を知らなければ。
「その通り、必要ないわ。でも、新人類を創るには必要があった……」
「……まさか、肉人形も」
「それは違うわ。私はただ、見てただけ。
まあ、肉人形は頂いたけどね」
かつて、創造神の真意を知る為に多くの魔法使いが研究を始めた。
新人類創造もその一つ……今思えば、それはソフィアにとって棚から牡丹餅だ。
何もしなくても勝手に創ってくれる。これ程、都合の良い事は無い。
結果、できたのは肉人形だが……ソフィアはそれで十分だった。
「そうか……お前、肉人形を!」
「そうよ、肉人形を新人類にする……ウルトルクスはそれを実現する為の実験体。
心が無い問題は外付けすればいい。変換細胞も反抗させない為、寧ろ要らない。
あはは、素晴らしいと思わない? 彼らは最高の人類を生み出したのよ!?
それに気付かないのは馬鹿だけど、私にくれたんだから感謝しないとね?」
「ソフィア……」
ソフィアは何も分かっていない……肉人形は何故、失敗という扱いになったのか。
それは一人では生きていけないからだ。誰かにネジを巻いて貰う必要がある。
今の人類も幼い内はそういう面もあるが、一生そうして生きる訳ではない。
時が経つに連れて自我を持ち、親から離れ、新たな家族を作る……それが人類だ。
だが、ソフィアの言う人類は一生ソフィアに操られて生きる。それはただの人形。
同じ『人』という言葉が使われていても対照的な存在。決して、人類ではない。
「……中光達とはいつ出会った? この世界で初めて会った訳じゃないんだろ?」
「勿論、貴方が前居た世界……あの人が創った世界で会ったわ。
実験に丁度良い魂を集める時に偶然会ったの」
ソフィアはそう言うと、黒髪を夜の波のように揺るがす。
それは中光達がイジメを始める前、高校に入学する前まで遡る。
「お、お前は誰だ……なんで、飛んでいる!?」
「……邪悪な魂。素材にはピッタリね。
喜びなさい、貴方は選ばれた……この私の手足として働くのよ」
「うっ、うわあああ!!」
ソフィアは虫を潰して遊んでいた中光に目を付け、力を与えた。
その力こそ、中光がよく使う火炎魔法……中光はソフィアの眷属になった。
中光はその後、仲間達と共にイジメを始め、奏慈にやられる事になる。
「全部、お前のせいじゃないか! お前が力を与えなければ!!」
「与えなければ、何? イジメをしなかったとでも? そんな訳ないわ。
中光の魂は酷く汚れていた……私が力を与えなくてもイジメを始めてたわよ」
「……だとしてもだ。お前のせいで状況が悪化したのは事実だろ!?」
「そうね、私が接触した事で中光達の魂は汚れていった……私の望む魂にね」
「くっ、ソフィア……」
中光達のした事は許せない……だが、人生を狂わされたのも事実だ。
ソフィアさえ居なければ、もっとマシな人生を歩めた者も居ただろう。
特に改心したエルフ。何かが違えば、藍の友達になれたかもしれない。
ソフィアはその運命すら奪ったのだ……絶対に許す訳にはいかない。
「それで聞きたい事は終わった? なら、そろそろ始めませんか……お父さん?」
「……ああ、始めよう。お前の親として、責任を取る!」
聞こうと思えば、まだまだ聞ける。しかし、その必要はもう無かった。
ソフィアが受ける罰は重くなる事はあっても軽くなる事は無い。
人や世界に害を齎す前に罰を与える……それが今、奏慈にできるただ一つの事だ。
「はあああ!」
「ふん!」
先制したのは奏慈。地面を蹴ると、すぐにソフィアの前まで飛び、斬りかかった。
ソフィアはそれに対し、片手で剣を受け止める……初撃は互角らしい。
「あら、可笑しいですね。あっさりと受け止める事ができましたよ。
もしかして、手加減してくれるんですか?」
「……ふっ、そんな訳ないだろう。本調子じゃないだけだ。
人間の身体では出せる力に制限があるんでね」
「制限……成程、負ける前から言い訳の用意ですか。流石、用意周到ですね」
「ふん、言ってろ」
奏慈はソフィアを押し退けると、そのまま距離を取る。今言った事は本当だ。
今の奏慈の力は全盛期の足元にも及ばない。罪醜業と戦った後より弱かった。
つまり、気を抜いた瞬間やられる……奏慈は走りながら、次の攻撃に移った。
「次はこれだ! 受け止められるか!?」
奏慈は虚空を斬り、無数の斬撃を連続で放つ。
それは周囲の柱を切り裂きながら、ソフィアに迫った。
ソフィアに攻撃のチャンスを与える訳にはいかない。
小技でソフィアの動きを封じ、隙ができた所で一気に攻める。
「……これが本気の攻撃なら、私の勝ちは確実ね」
「なに!?」
ソフィアはそう言うと、両腕を大きく広げ、余裕の表情でそれを受け止めた。
確かに今放った斬撃は本気の攻撃ではない。だが、弱い攻撃でもなかった。
柱を切り裂いた事から分かるように、当たればただでは済まない。
なにせ、『斬る』という概念を込めた斬撃だ。真面に受けれる訳が無かった。
これは何かある……奏慈は驚きながらもそう確信した。
「なら、これはどうだ!」
奏慈は謎を解く為、今度は周囲の柱を乱雑に投げつけ始める。
単に受け止めただけなら、これも受け止める事ができる筈だ。
「当たる訳ないでしょ! こんなもの!!」
「避けたか……」
ソフィアの行動は回避。ソフィアは次々に迫る柱を避けてみせる。
これはつまり、単に受け止めた訳ではないという事か?
いや、分からない……どうもこちらの考えが読まれている気がする。
「次はこっちの番です! 受け止め切れますか?」
反転攻勢。考えてる内に今度はソフィアが仕掛けてきた。
ソフィアは球体状の水を出現させると、そこから濁流を溢れさせる。
「戻れ」
その勢いは凄まじく、すぐに奏慈の目の前まで迫った。
このままでは巻き込まれる……しかし、奏慈は慌てず、濁流に手をかざした。
すると、濁流の動きはピタッと止まり、球体状の水に戻り始める。
言うまでもないが、時を戻したのだ。
「なら、これはどう!」
ソフィアは続けて、球体状の水から大量の水を噴射する。
その勢いはビームと言っても差し支えなく、奏慈に一直線に向かう。
「ふっ」
奏慈はそれを少し横に動き、回避する。これも言うまでもないが、力を使った。
(今の所、未来予知も運命操作も機能している。全く問題ない。
だが、何故だ……嫌な予感する。頼り過ぎてもいけないような)
奏慈は戦いが始まってから密かに未来予知と運命操作を発動していた。
未来予知で的確な攻撃と回避をし、運命操作で戦況を有利する。
ソフィアの運命を直接操作はできないが、戦いは有利になる筈だった。
だが、戦いは一進一退……有利になる気配が無い。一体、何故だ?
(……そういう事か。だとしたら、厄介だぞ)
奏慈は何度も未来を見て、考えを巡らせ、ある一つの結論に至る。
「ソフィア、お前も未来予知を使えるのか?」
「あっ、あはは……はっはっはっはっは!」
その結論とは未来予知。ソフィアも使えるなら、全て繋がる。
しかし、そんな事があり得るのか? 奏慈の記憶では。
「正解! 大正解ですよ、お父さん!!
ソフィアは努力して、未来予知を使えるようになりました!」
「くっ、やはりそうなのか……」
予想は当たってしまった……つまり、この戦いは未来予知同士の戦い。
有利にならないのは当たり前だ。こっちの動きもソフィアは見ている。
これでは戦いは終わらない……いや、疲れる分、こっちが不利だろう。
「それにしてもよく分かりましたね。ヒントなんて無かったのに」
「……最初の攻撃だ。僕はあの一撃でお前を倒すつもりだった。
なのに、あっさり防がれたからな。可笑しいとは思ったんだ」
「成程……それでどうするつもりですか? 勝算を教えて下さい。
私も未来予知が使える以上、勝ち目はありませんよ?」
「……そうだな」
その通りだ。力が衰えている今の奏慈では、未来予知に対抗できない。
方法があるとすれば、藍達を待つ事だが……それまで待つかどうか。
「だが、僕は諦めるつもりはない! ソフィア、お前は僕が倒す!!
裁く者ではなく、一人の親として!」
「……なら、見せて貰いますよ。今の貴方の力を」
それでも奏慈は戦う……希望はまだ潰えてはいない!
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