変わらぬもの
「――中光、どうだ! 倒したぞ!!」
「次は貴方の番よ! 覚悟しなさい!!」
「……ふん、巨人も思ったより使えないな」
フラン達がキスカのカラクリに気付いた頃、藍達の戦いも後半戦に入っていた。
苦戦するかと思われた藍達と百を超える巨人達との戦い。
しかし、その結果は藍達の圧勝。それもその筈、こっちにはルフが居る。
巨人との交戦経験の多いルフは対巨人のスペシャリスト。
当然、弱点も知り尽くしていた……藍達は苦戦する事なく巨人達を倒していく。
そうして、十分も経たない内に全ての巨人を倒し切る事に成功した。
これには流石の中光も焦るに違いない……藍達の心に余裕が生まれる。
「ナカミツよ、降参するなら今の内じゃ……わらわ達は手加減せんぞ?」
「……降参? くくく、あははは!!」
「何が可笑しい?」
だが、中光はさして気にした様子を見せず、逆に笑ってみせた。
戦況はどう考えても不利……数で負けてる上、手の内もバレている。
何か奥の手があるにしてもこの戦況を引っ繰り返せるとは思えないが。
「ふっ、可笑しいに決まってるだろ? 君達はもう勝ったつもりなのか?
巨人はただの鉄砲玉。それで君達を倒せるとは思っていない。
本当の戦いはこれから始まる……そちらこそ降参するなら今の内だぞ?」
それにも拘わらず、中光は余裕を崩さなかった……これは何かある。
藍達は警戒を強め、武器を握り直す。今の中光はどこか底知れない。
「言いたい事はそれだけ? やるならさっさとやりなさい」
「なら、お望み通りに……」
中光はそう言うと笑みを湛えたまま、勢いよく指を鳴らした。さあ、何が来る?
「えっ、穴?」
「穴じゃな」
しかし、現れたのは人一人入れそうな穴だった。地面にぽっかり開いている。
それも底が見えない以外、特徴が無い……藍達は拍子抜けし、一瞬気が緩む。
「はっ!? これはまさか!」
「その通り、最高の空間にご招待しよう」
「うっ、うわあああ!!」
しかし、その穴こそ戦いの舞台となる場所。
狙いに気付いた時にはもう遅い。穴は周囲の物をもの凄い勢いで飲み込み始めた。
それに藍達も巻き込まれ、為す術もなく落ちていく。
藍はこれが何か知っている……間もなく藍達は穴を抜け、ある空間に辿り着いた。
「こ、ここは……」
「ようこそ、我が黄金窟へ」
辿り着いた先で藍達を待っていたのは黄金に輝く空間。全てが金色に輝いている。
間違いない、ツェーンの黄金窟だ……藍達は黄金窟に誘い込まれたらしい。
「金メッキの借り物とは良い趣味してるな」
「ツェーンのと一緒にされては困る……これは本物の金だ」
中光の余裕の理由……それは結界魔法『黄金窟』の御蔭だった。
前に使われた時はその凄さを実感できなかったが、黄金窟自体は強力な魔法。
発動すれば、外部からの干渉を受けず、術者を倒さない限り、脱出不可能。
さらに術者を倒そうにも全方位から攻撃が飛んでくる。それも絶え間なくだ。
脱出する事はほぼ不可能……前に勝てたのはツェーンが油断していた御蔭。
そして、フィーが居た御蔭だ。その二つが無い今回は勝てるかどうか。
「さて、お手並み拝見といこうか」
「く、来るわよ!」
不安が募る中、中光は挨拶代わりと言わんばかりに軽く杖を振った。
その瞬間、周囲の壁から無数の針が飛び出す。
それは凄まじい速度で、あっと言う間に藍達の目の前まで接近した。
「皆、避けろ!」
「分かってるわ!」
藍達はそれに対し、すぐに飛んで針を避ける。
避けられた針はそのまま真っすぐ飛んでいった。
「余所見は禁物だぞ?」
「くっ!?」
当然、それで終わる中光ではない。今度は天井と地面から針を発射した。
その針も凄まじい速度で藍達に接近する。
今居るのは空中……自由に動けない中での挟み撃ちは回避しようがない。
このまま当たるしかないのか?
「守れ!」
いや、そうはさせない! イカリは杖を振り、自分達の身体を氷の壁で覆った。
それは薄い膜のようであったが、相手が針なら問題ない。
向かってきた針を全て受け止める。回避できないなら回避しなければいいのだ。
「ちっ、目障りな……」
畳み掛けるように中光は攻撃を続ける。次は杖の先から熱線を飛ばし始めた。
それはせっかく作った氷の壁を瞬時に溶かし、藍達を丸裸にする。
「これで終わりだ!」
そこに再び中光は針を発射した。今度は全方位からの攻撃……避けようがない。
「しつこいのよ!」
「なに!?」
望結はそれに対し、自分達を守るように銀の扉を展開した。
針と熱線は吸い込まれるように銀の扉に入っていく。
避けられないなら別の場所にやればいい……では、その別の場所というのは。
「さあ、今度はこっちの番よ!!」
望結は中光の背後に銀の扉を出現させた。勿論、ただ出現させたのではない。
銀の扉に入っていった針と熱線……それをそっくりそのままお返しする。
「くそ!」
間もなく針と熱線が飛び出すが、中光はそれを黄金の障壁で受け止めた。
だが、中光が放った針と熱線は一つや二つではない。
その数は尋常ではなく、中光は次から次に向かってくる攻撃を受け止め続ける。
結果、ほんの一瞬だけ藍達から意識が離れてしまった。
「藍、ルフ! 今よ!!」
「おう!」
「任された!」
「し、しま!?」
その隙を見逃す訳も無く、藍とルフは中光に殴りかかる。
銀の扉で瞬時に送り出された二人に中光は反応できない。
中光はそのまま殴られた。
「ぐっ、うぐおおお!!」
中光は二人に殴り飛ばされ、受け身も取れず、壁に激突する。
黄金の障壁は二人の攻撃に対しても発動したが、あっけなく砕け散った。
藍はガントレット。ルフは持ち前の肉体で黄金の障壁を破壊したのだ。
そんな二人の攻撃が直撃した……これで勝負が決まっても可笑しくない。
「こ、この……虫けら共が!」
だが、中光は声を張り上げ、立ち上がった。そして、乱暴に杖を振る。
すると、今度は地面から何本もの木が生えてきた。エルフの樹海魔術だ。
このまま木々の中に身を隠し、隠れながら攻めるつもりなのだろう。
「逃がしはしない! トールハンマー!!」
それに対し、望結はすぐさま雷を放つ。
中光が隠れる前に決着を付ける。
「残念だったな! 君達は勝ちを逃した!!」
「ば、馬鹿な!?」
しかし、藍達が思ってるより木の成長スピードは早かった。
雷が当たるよりも前に木々が中光の身体を覆い尽くす。
これでは中光を倒せない……次のチャンスを待つしかないのか?
「……ふっ、誰が貴方に当てると言ったの?」
「な、なに!? どういう事だ!」
「どういう事も何もそのままよ! 私が狙ったのは……地面!!」
「なっ!?」
雷は器用に木々を避けると、そのまま地面に落ちた。
望結の言う通り、中光に向かって放った訳ではなかったらしい。
「中光、さっき貴方はこう言ってたわよね……本物の金だと。
じゃあ、そんな空間に電気を流したらどうなるのかしら?」
「ま、まさか……」
「金の伝導率は銅に次いで第三位……さあ、存分に痺れなさい!」
「ぐっ、うあああああ!!」
地面に落ちた雷は空間中を駆け巡り、中光にも直撃する。
直接当てるよりも威力は落ちてるものの、その威力は絶大だ。
中光は思わず膝を突き、杖を手放す。
「き、君達も道連れだ!」
それでも中光は最後の気力を振り絞り、無数の火球を作り出した。
その火球は全て、太陽のように大きい……諸共、焼き殺す気だ。
「藍!」
「分かってる! ルフさん、いきますよ!!」
「おう!!」
それを阻止すべく、藍とルフは全速力で走り出す。次の一撃で決める。
「これで!」
「いい加減に……しやがれ!!」
「ぐっ、がは!」
その甲斐あって、藍の拳は火球が放たれる寸前で中光の腹に直撃した。
その一撃で中光は気絶し、火球は消える……なんとか、間に合ったらしい。
「ふうう……もう一発殴りたかったが、終わったようじゃのう」
「ああ、終わった。これで全て……」
少し遅れて、ルフも中光の前に到着する。
消化不良だが、終わり良ければ総て良しだ。
「ふむ……どうやら元の空間に戻りそうです。一応、気を付けて下さい」
中光が気絶したのに伴って、黄金窟もメッキが剥がれるように崩れ始めた。
これで戦いは終わり……どうなる事かと思ったが、無事に勝利できた。
これも全部、皆が力を合わせた御蔭だ。藍達は互いに拳をぶつけ合う。
間もなく、黄金窟は完全に崩れ去り、藍達は元の空間に戻る。
「それでこやつはどうする? 放っておく訳にもいかんじゃろ」
「そうね……取り敢えず、サモンウェポンは取り上げておきましょう」
戻って早々、藍達は中光の処遇を決める事になった。
今回の勝利も中光が油断していた御蔭……次も勝てるかどうか分からない。
ここに放っておくのは余りにも危険だ。さて、どうするべきか。
「えっ!?」
「き、消えた!?」
それを決めようとした瞬間、中光が音もなく消える……完全に消失した。
幸いな事にサモンウェポンは抜いておいたが、一体何が?
「……ソフィアめ、転送したな」
「ソフィア!? ソフィアが中光を消したのか!」
「うむ、恐らくな」
混乱する藍達に対し、ルフは冷静に答えを導き出した。
こんな事ができるのはソフィアしか居ない。
目的は分からないが、回収したのだろう……という事は。
「奏慈が危ない!?」
「くっ、急ぐぞ!」
今、ソフィアの近くには奏慈が居る。その近くに中光は転送された。
今の奏慈が負けるとは思えないが、放っておく訳にもいかない。
「奏慈、無事でいてくれ!!」
藍達は奏慈の元に向かって走り始める。
正直、身体は限界に近いが、そんなこと言ってられない。
藍達は息を切らしながら、先を急ぐのだった。
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