飛躍の時
「――そ、そんな! たった三人で!?」
同時刻、フラン達とキスカ軍の戦いは佳境を迎えていた。
数だけを見れば、キスカ軍の圧勝で終わる戦い。
キスカは完全に油断し、後ろの方でテキトーに指示する。
「た、耐えられ!?」
「ぐっ、うわあああ!!」
しかし、蓋を開けてみれば、戦いはフラン達の優勢で進んでいた。
ボーアとハンデッドが薙ぎ払い、フランが爆発魔法で吹き飛ばす。
強力な範囲攻撃を持つフラン達に騎士達は為す術も無い。
フラン達の実力はキスカの想像を遥かに超えていた。
「き、キスカ様、何か策を! このままでは全員やられてしまいます!?」
「ちっ、どうすれば……」
それでも的確な指示があれば、なんとかできる。騎士達はキスカに助けを求めた。
だが、キスカにそんな力は無い。
どういう風に動かせば勝てるか? 当主になったばかりでは分からなかったのだ。
結果、キスカの目の前で騎士達は次々にやられていく。
残ったのは自分とエストとゴーシュのみ……数は三人まで減ってしまった。
「キスカ、追い詰めましたわよ! 降参するなら今の内ですわ!!」
「……どこまで人の上に立てば、気が済むんですか」
フランは息切れしながらも余裕を持って、斧をキスカに突きつける。
これで三対三……数の有利が無くなった今、キスカ達に勝ち目は無くなった。
キスカは憎々しげにフランを睨みつける……いつもこうだ。
どんなに頑張ってもその先にはフランが居る。勝てた事は一度も無い。
臨紫と剣心が使えるようになってもそれは変わらなかった。
今も次期当主だから二人は従ってくれるだけ……実力の御陰ではない。
「降参するつもりがないなら、このまま続けるぞ」
「まあ、ワガハイはそれで構わんぞ。もっと斬らせろ」
フランに続き、ボーアとハンデッドもキスカに武器を突きつける。
また侮られて負けるのか? キスカは悔しさのあまり拳を握り締める。
しかし、どうしようもない……キスカは負けを認め、剣を仕舞う事にした。
「キスカ様、よろしいのですか? 諦めてしまって」
そんなキスカにエストは背中を向けた状態で聞く。一体、どういう事だ?
「エスト、何を言っている? もう勝ち目は……」
「私達はまだまだやれます。数は同じでも体力や魔力では負けていません。
策次第でいくらでも逆転可能と思われます」
「それに今の攻防でフラン様達の動きは完全に頭に入りました。
隙を突いて、戦う事もできますよ」
「……本当に何を言っている?」
キスカは困惑した。何故か、一番戦う事に抵抗があった二人が戦う気満々。
二人はできる事ならフラン側に付きたい筈だ……なのに、諦めるなと言う。
一瞬、冗談かと思ったが、二人の顔は真剣その物で冗談とは思えない。
本気で勝つ為にそう言っているのだ。本当に意味が分からない。
「キスカ様、確かに私達は今の貴方を当主とは認めていません……しかし」
「貴方ならいつか、立派な当主になると確信しています」
「……何を根拠にそんな事を」
「根拠ならあります。私は貴方の師でもあるのですよ」
「あっ」
エストはフランの師であると同時にキスカの師でもあった。
だから、キスカの事もよく知っている……内に秘めた思いも。
二人は続けて言う。
「キスカ様、貴方はフラン様に勝つ為に努力を惜しまなかった。
日が暮れても訓練を続けたこと……今でも覚えておりますぞ」
「……エスト」
「臨紫と剣心を習得できたのも努力の賜物です。才能だけではない」
「そんな貴方なら、いつかハルベルム様を超える当主になれます。
私達はそう確信しているのです」
「……ゴーシュ」
二人の言葉が心に染み渡っていく。そんな事を二人は思っていたのか。
キスカは剣を出現させる。ここまで言われたら、黙ってはいられない。
「今から指示を出します! それに従って、動いて下さい!!」
「了解しました!」
「キスカ様の指示なら!」
「ありがとう! まずは……」
キスカは思いついた策を言っていく。二人の思いを無駄にはしない。
「どうやら、元気を取り戻したようだな」
「どうする? ああなっては簡単には勝てんぞ」
「……ふっ、望む所ですわ! アタクシ達も行きますわよ!!」
フランはそれに押される事なく、ボーアとハンデッドと共に走り出した。
何をしてくるか分からないが、じっと様子を見る訳にもいかない。
キスカの策を確かめる為にも速攻を仕掛ける。
「勇敢なる二人の騎士を守れ! 剣心!!」
それに対抗するようにエストとゴーシュも走り出す。
同時にキスカも剣心を発動し、二人の周囲に無数の剣を出現させた。
「剣心……早速、使ってきましたわね」
「ああ、これは厄介な事になったぞ」
キスカの剣心で出現する剣は一つ一つが針のように小さい。
さらに先端が丸く、殺傷能力も低かった。
しかし、その代わりに出現数は多く、その数は千を超える。
その為、守りにおいては最強……剣の盾が全ての攻撃を受け止める。
現に今もエストとゴーシュの姿を完全に隠した。これでは攻撃が当たらない。
「それがどうした! 一気に叩き潰してくれる!!」
ハンデッドはそれに対し、剣に力を込めた。
すると、剣に眩い光が集まり出し、その刀身を太く長くしていく。
強敵のみに使う剣を巨大化させる魔法だ。
攻撃が当たらないなら諸共粉砕する……シンプルだが、良い方法だ。
「うおおおおお!!」
そのままハンデッドは思いっきり剣を振り、剣心ごと二人を斬った。
これでエストとゴーシュも撃破。あとはキスカを残すのみだ。
「なに!?」
「ど、どういう事なの!?」
だが、手応えが無い。ハンデッドは急いでその場を確認する。
そこには誰も居なかった……あるのは叩き潰れた剣だけ。
エストとゴーシュの姿はどこにも無く、完全にその姿を消す。
一体、どこに? フラン達は混乱しながらも、周囲を確認する。
「そこです!」
「うっ、な、なんだと!?」
その瞬間だった。突如現れたエストがハンデッドの腕を斬る。
三人で周囲を見回し、キスカ以外居ない事を確認したのに。
エストはまるで幽霊のように現れた……一体、何が?
「次はこっちだ!」
「ぐっ!?」
状況を整理する間も無く、今度はゴーシュが現れてボーアを斬る。
ゴーシュも現れる直前まで居なかった……本当に何が起きている?
「二人共、続けて下さい! これで仕留めますよ!!」
「カラクリ……それさえ分かれば!」
それから数分間、エストとゴーシュによる一方的な攻撃が続いた。
フラン達はそれに耐え続けるも一向にカラクリを見抜けない。
何かある筈だ……それを見抜く事ができれば、形勢逆転できる。
「まさか、ここまでやられるとはな……」
「うっ、キスカを甘く見過ぎた」
「おじ様、ボーア! もう喋らないで!!」
数分間の攻撃で二人の身体はボロボロになった。もう立つ事もできない。
このまま為す術もなく、やられるしかないのか?
「姉上、これで終わりです! 二人共、やれ!!」
「く、来る!?」
今立っているのはフランだけ。次の攻撃を受けたら終わりだ……どうする!?
「……そこだ! 槍戯!!」
「えっ、槍戯!?」
そこでボーアは動いた。ボーアは全ての魔力を消費すると、槍戯を発動する。
そして、そのまま虚空に向かって思いっきり槍を投げた。
槍戯はフォチャード家に伝わる一撃必殺の呪文……当たれば、必ず敵を倒せる。
だが、投げた先には誰も居ない。投げ槍になったのだろうか?
「なっ!? ぐわああああ!!」
「ど、どういう事ですの……」
しかし、次の瞬間、槍は何かにぶつかった。見ると、槍の先にゴーシュが居る。
これは一体、どういう事だ? 何故、突然ゴーシュが現れたのだろう?
フランは何も分からず、呆然とする。
「キスカ、説明しても問題ないな?」
「……ええ、いいですよ。エストもいいですね?」
「はい」
「すまない……要はこういう事だ」
ボーアは攻撃を受けながら考えていた。一気に仕留めない理由はなんなのかと。
もし、身体を透明にする魔法を使っていたのなら時間をかける必要は無い。
一撃で終わりだ。つまり、他の方法で透明になっていると考えた方が自然。
問題はその方法……ハンデッドが攻撃を外した理由もそこに繋がる筈だ。
「そこでボクは風の流れを作り、周囲を観察する事にした。
何か動きがあれば、流れに乱れが生じる。それで何か分かると思った」
「それでどうだったんですの?」
「見事、分かったぞ……攻撃を外した理由も透明化のカラクリもな」
まず、攻撃を外した理由……それは単純にそこに二人が居なかったからだ。
二人は隙を見て剣心から抜けだし、キスカはさも二人が入ってるように動かす。
こうする事でハンデッドはそこに二人が居ると思い込み、攻撃を外してしまった。
「じゃあ、透明化の理由は?」
「それも単純だ……剣の色を周囲の景色と同じ色にしてたんだよ」
「えっ、色!?」
俗に言う迷彩。キスカはその技術でフラン達の目を欺いた。
通常の状態なら、きっとすぐに見破られていただろう。
しかし、今は緊急時……攻撃を外した直後で心も乱れている。
キスカはそこを突き、エストとゴーシュに迷彩を施した。
辺り一面草原で、使う色が少なく済んだのも追い風だったのかもしれない。
そして、一気に仕留めず、ちまちま攻撃していたのはバレるのを防ぐ為だ。
「結果、ボク達は翻弄され続けた。でも、一度気付けば、分かるもんだ。
途中からその姿ハッキリ見えたぞ」
「……流石ですね。姉上だけなら、騙せたかもしれないのに」
「そうだな。だが、そんな状況は起こり得ない。
何故なら、ボクが常に……傍に居るからな」
「ふっ、本当に流石です……」
キスカは満足げに微笑むと、剣を仕舞った。この戦いはフラン達の勝ちだ。
次の策も無く、カラクリがバレた今、これ以上続けても意味は無い。
大人しく負けを認め、去る事にする。キスカはゴーシュに肩を貸した。
「キスカ」
「……なんですか、姉上」
そうして去り始めたキスカにフランは声をかける。その声色は優しかった。
「見事でしたわ。初めて負けた……と思いましたもの。
だから……これからも励みなさい」
「……はい、姉上」
その言葉を聞き、キスカは再び歩き始める。ずっと、聞きたかった言葉だ。
例え、勝負に勝ったとしてもその言葉が無ければ、前に進めない。
キスカはやっと、姉という大きな壁を一つ乗り越えた。
「キスカ様、貴方の人生はこれからです……もっと高く高く飛んで下さい」
「ええ、させて貰います……」
しかし、人生はまだまだ続く。これからも壁は立ちはだかるだろう。
それでも問題ないと今のキスカなら言えた……何故なら。
「姉上、ありがとうございます」
これからは姉も居る。こうして、長く続いた姉弟喧嘩は終わりを告げるのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!
感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!




